「重版出来!」第7話~天才VS凡人・・・マンガの神様に愛されたい! | 日々のダダ漏れ

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「重版出来!」



第7話
天才VS凡人・・・
マンガの神様に愛されたい!



漫画を作るときには、まず、
おおまかなストーリーを考える。
そして、キャラクター。
これが最も大事だ。
例えば、ある男。
独身で、築20年のアパート暮らし。
趣味は、落語を聞くこと。
落語には、ハウツーが詰まっている。
導入から本文。振りに落ち。
多種多様の物語は、
男の創作意欲を、刺激する。
日頃から、人間観察を心がける。
あの人は誰を待っているのか。
あの人は、どんな気持ちでいるのか。
物語の種は、どこにでも落ちている。
人間観察していると、
よく、暇な人に間違えられる。

先月から、レギュラーアシとして
働き始めた、中田伯。
あり得ないほど絵が下手で、
正直言って、使えない。


沼田) これで一点透視で考えれば…。
中田) 一点透視って何ですか?
棚橋) またそこからかい!
    こないだ教えたばっかりだよ。
沼田) まあまあまあ。中田君は、大物だから。
    中田君が、連載をとってヒット作を飛ば
    した暁には俺も、アシスタントとして雇っ
    てもらおうかな、とか言って。
中田) いいですよ。
沼田) えっ?
中田) 雇っても。
棚橋) 中田! 今のは、沼さんの冗談。
中田) そうなんですか?
沼田) まあ…。
中田) 冗談でも、思ってないことは口にしない
    方がいいですよ。言葉の力は、強いん
    です。うちのじいちゃん、ずーっと寝たき
    りで、僕が一人で面倒見てたんですけ
    ど
。ある日、絞り出すような声で、「もう、
    いい。もう終わりだ」って。そう言った時
    何か、見たこともないようなものが湧き
    出てきて…言霊のようなもので。それを
    吐き出した翌朝、じいちゃんは、布団の
    中で冷たくなってました。悪い念を口に
    出すと、そのとおりになっちゃうんです。
    自分の発した言葉に呪われるみたいに。
    教えて下さい。一点透視。


「バイブス」に掲載された
彼の読み切りデビュー作も、
その、下手くそさで、物議をかもした。
だが、三蔵山先生は、
彼に一目置いている。


**********

沼田) おい! お世話になってるのに、
    あの態度は何だ。失礼だろ。
    お前の母ちゃんだって、
    奥さんと同い年ぐらいだろ。
    もっと、感謝と礼節をもって…。
中田) 親の年なんか知りませんよ。
    ずっと、祖父の家にいたんで。
沼田) 悪い。
中田) 母親と、暮らしてた頃は、
    よく、つながれてました。
沼田) つなが…?
中田) 犬の首輪で…。笑うところです。
沼田) 笑えないよ!
中田) まあ、1日1食はもらえてたんで、
    それほど最悪でもなかったですよ。
沼田) お前、よくこれまで…。
中田) 漫画がありましたから。


**********

和田) うちのWEBで展開する名作アーカイブ
    だよ。絶版コミックスを電子書籍で公開。
    担当黒沢。頑張れよ!
心) 私!?
和田) おい、五百旗頭。
    何で言ってないんだよ!
五百旗頭) 自分で言うって
      言ってたじゃないですか。
和田) ああ、そうだった。第一弾は
    牛露田獏の「タイムマシンにお願い」。
心) ……?
和田) 一世を風靡したんだよ。
心) すいません。知りません。
和田) ああ、この企画の重要性を
    ひしひしと感じるな。
五百旗頭) ほら、読んどけ。全26巻。タイム
      スリップもののギャグ漫画の傑作。
心) この、牛露田先生って方は、今、どこで
  描いていらっしゃるんですか?
五百旗頭) 描いてない。
和田) 言いたかないが
    消えた漫画家ってやつだ。
心) 消えた?
和田) 牛露田獏は天才だった。
    天才ゆえのバランスの悪さ、
    そういう作家もいる。


**********

和田) ご無沙汰してます。
    「バイブス」編集部の、和田です。
牛露田) 和田?
     赤坂の家に、原稿取りに来てた。
和田) ええ。
牛露田) 今も阪神ファンか?
和田) この身が滅びても、ファンです。
牛露田) ハハハハハ…。
     いいセリフだな。今度使うよ。
和田) 今日は、先生の御著作、「タイムマシン
    にお願い」の、電子書籍化を許可して頂
    きたく、まいりました。名作アーカイブと
    して、うちのWEBで展開するため…。
牛露田) 漫画は紙で読むもんだ。小せえ画面
     で1コマ1コマ、見るもんじゃねえ。
和田) 今、画面全体で見れますので。
    以前とは違いまして…。
心) こちらをご覧になってくだされば…。
牛露田) 1億! 持って来たら考えてやるよ。
     魂込めて、描いた漫画だ。
和田) 1億とはまいりませんが、許可を頂け
    れば、使用料と印税が入ります。失礼
    ながら、暮らし向きも、少しは楽に…。
牛露田) 
てめえらに、俺の魂売るかあ!
アユ) この人、いまだに自分の事、
    有名な漫画家だと思ってんの。
    みじめだね。

**********

三蔵山) どこにあるの? 中田君のネームノ
     ート。いつもの君じゃない気がしてね。
     返せるなら返しなさい。
沼田) 先生、何をおっしゃって…僕、何も…。
三蔵山) 嘘をつくほど君は子供だったか?
     私の方から、何か理由をつけて返し
     ておきます。
沼田) 自分でも何でこんなことしたのか
    分からないです。
三蔵山) 一つ言っておく。作品を作るという事
     は、自分の心の中をのぞき続けるとい
     う事だ。どんなに醜くても、情けなくても、
     向き合わなくてはならない。


**********

三蔵山) すまないね。ちょっと見せてもらおう
      と思ったら、インク瓶を倒して汚して
      しまった。
中田) 本当に、ホントにホントに先生ですか?
三蔵山) そうだよ。他に誰が?
中田) 先生ならいいです。
三蔵山) ホントごめんなさい。
中田) いいえ。ありがとうございます。


**********

心) 中田さん、アシさんの間で
  イジメられてる、なんてことは…。
壬生) イジメ!?
五百旗頭) それはないだろう。
      三蔵山先生のとこに限って。
安井) 甘いね、君たち。お魚の世界だって、
    狭い所に何匹も閉じ込められたら、
    イジメが起きるんだよ。
壬生) それ、さかなクンも言ってた。
安井) 「さん」をつけろ!
壬生) さかなクンさん。
五百旗頭) クンさん?
安井) お魚の世界でも起こることが人間世界
    で起こらないと考えるなんて、私に言わ
    せりゃ想像力の欠如だね。
心) 私、行ってきます!
安井) 嫌な世の中だよ、まったく。
    天使がいなきゃやってられないよ。
壬生) 天使?

(SNSに載せている娘の写真を見ている安井)
五百旗頭) 「いいね」しときます。
安井) ありがとう。100回は押せるよね。


**********

沼田) 中田は、自分の親と確執があって、
    母親みたいに接してくる、奥さんに
    うまく対応できないみたいで。
心) 中田さんのおうちが複雑なのは、
  ご本人から少しだけ聞きましたけど。


**********

アイツには俺が、見えてすらいない。

**********

栗山) いいな~大塚シュート。
棚橋) デビューして、あっと言う間に単行本
    出して、連載ゲットだもんな~。
中田) ちっともすごくないですよ。そんな
    クソゆるい漫画。設定は平凡。
    主人公も平凡。何がいいんだか。
棚橋) 普通の設定で面白くできるってことは
    力があるってことだろ。
中田) そいつ、きっと挫折したことないですよ。
    いい家で、いい親でいい大学行って。
    漫画描かなくたって生きていけるような
    やつですよ。
棚橋) それの何が不満?
中田) 別に。ただ、漫画でうまくいかなくても
    帰れるところがあって、
    いいですねって話です。
棚橋) お前、帰るとこないの?
中田) ないです。せいせいします。


**********

小さい頃から、漫画が好きだった。
描いた漫画を友達にほめられて、
大学の漫研でも、一番うまかった。
二十歳で賞だってとった。
でも、それからずっと、ネームはボツで。
何年たっても、ボツばかりで…。
いつまでもアシスタントで。
みんなどんどんプロになって、
売れっ子になって。
冗談言って悔しさをごまかして。
まだやれる。まだ諦めない。
俺は漫画を描く。まだ描ける。
まだ、描ける。

圧倒的な才能。
小さな、小さな自分。
アイツは、自分に正直で、
他のことなとお構いなしで。
自由で、残酷で。
漫画の神様に愛されるのは、
きっと、ああいう男だ。


**********

沼田) 何で人の勝手に…。
棚橋) 俺らも、読んだことあるやつですよ。
沼田) いいよ、読まなくて!
    たいしたネームじゃない。
    お前に読ませられるような…。
    読むな!
中田) すごいです、これ。すごい…。
栗山) 泣くような話だっけ?
棚橋) アンドロイドの恋愛ものだよな。
    自己犠牲で終わる。
中田) 違います。これは、自分自身の
    存在を、問う、物語です。
栗山) なかっちょ、すげえ。
棚橋) 分らんかったわ。
    てか分かんないよ、普通。
中田) なら、どうやって分からせたんですか?
棚橋) 分からせられなかった。
    だからボツなんだよ。


(回想)
この編集者さんは、感性が鈍いのかもしれない。
一人一人好みも違えば、
持ってる教養だって違う。
自分の描きたいものと、
この人の興味が一致しないのなら仕方ない。

(回想)
三蔵山) 困りましたね。思い切って
     コミカルに振ってはどうでしょう?

ありだとは思う。
でも、俺の作風とは違う。
いつか、自分の自由に描ける
ときが来たら、世に出そう。
いつか、いつか、いつか。
いつか、いつか…。
いつか、いつか、いつか、いつか…。

**********

心) 写真、優しそうな人だった。
アユ) 優しかったよ。
    クズ親父の分まで働いて。
    働き過ぎて、体壊して、死んじゃった。
    お母さんは殺されたの。漫画なんて
    いうしょうもないもんのために。
心) アユちゃん。
  お父さんの漫画、読んだことある?
アユ) ないよ。うちにだってないし。
心) お父さんは、漫画でね、 
  たくさんの人を楽しませてたんだよ。
  それって、すごいことなんだよ。
アユ) 知らない。そんなこと。
    私は普通がよかった。
    普通の家がよかった。


**********

心) 天才は、みんなに夢を見せることが
  できる。だからこそ、近くに、陰を作っ
  てしまうのかもしれません…。

**********

三蔵山) う~ん。すっきりうまい。
沼田) 精米歩合、30%。原料の米を削って
    削って、30%まで削って、いいところ
    だけで造るんです。
三蔵山) 贅沢だね。
沼田) うちの酒屋で、一番いい酒です。
    両親が、誕生祝いに、贈ってくれました。
    40になりました。二十歳から、倍も、たっ
    てしまいました。倍もの時間、戦わずに、
    きてしまいました。いつか理解してもらえ
    る。いつか、いい編集者に巡り合える。
    いつか認めてもらえる。いつか。そうや
    って、本気で戦わないまま、ここまで。
    そのくせ、同級生のサラリーマンには言
    ってたんですよ、偉そうに。ものづくりは
    こうじゃなきゃいけない。クリエーターた
    るもの、こうであらねば! 夢を追いかけ
    てる自分は、他の人とは違う。そう思い
    たかったんです。漫画家を目指してる間
    は、特別でいられた。特別な人間で、い
    たかったんです。
三蔵山) 自分に向き合ったんだね。
沼田) 時間がかかりましたが。
三蔵山) もう決めたのかい?
沼田) はい。


**********

三蔵山) みんなちょっといいかい?
     沼田君が今日で辞める事になりました。
沼田) 実家に帰って、家業を手伝う事にしまし
    た。両親も年で、人手が足りないようで。
    お世話になりました。
三蔵山) お疲れさまでした。
(拍手)


**********

沼田) これ。やるよ。落語が数百入ってる。
    勉強になるぞ、落語は。
    あと、これももらってくれるか?
    新人賞とったときの原稿。
    これだけは、自分じゃ、
    捨てられなかったわ。
中田) 何で帰るんですか? あのネーム、
    原稿にしないんですか?
沼田) 描くなら、とっくに描いてた。
    ああ、いや、描くべきだった、か。
中田) やめるんですか? 漫画。
沼田) お前が泣いてくれたからもういいや。
    お前のネーム、インクぶちまけたの…
    俺だよ。何でか分かるか? 
中田) 絵が…下手でムカついた?
沼田) ハハハハハ…ハハハハ…!
    お前は、すごいな。ホントにすごい。
    頑張ってくれ。俺の分も。
中田) 無理です。僕は僕で、
    他人にはなれませんから。
沼田) そうだな。そのとおりだ。元気で。


ずっと、漫画のことだけ考えていた。
子供の頃から。365日。24時間。

幸せだった。
現実なんて、いらなかった。
ただ、漫画の中だけで、
生きていたかった。


心) 中田さん! 五百旗頭さんに聞いて。
中田) 行っちゃいました。
    ネームノートのインク、沼田さんでした。
    何にムカついたんだろう?
心) 羨ましかったんだと思います。
  中田さんの人生がどんなだったとしても、
  沼田さんは…中田さんになりたかったん
  です。

**********

心) うまくいく人といかない人の分かれ目って、
  何なんでしょう? 沼田さんが、今まで出会
  った、どの編集者とも合わなかったのだとし
  たら、悲しすぎます。
五百旗頭) たとえ合わない相手だとしても、
      作家が自分で乗り越えなきゃいけ
      ない壁がある。
心) そこが、分かれ目?
五百旗頭) まあ、編集者が手を出せない部分
      だ。俺たちができることは、手助けす
      ることだけ。あんまり、過保護にしても、
      伸びしろなくすしな。
心) 子育てみたいですね。
  育てたことないですけど。
五百旗頭) 俺もだ。
心) 五百旗頭さんは、担当した新人さんに、
  どんな作家になってほしいですか?
五百旗頭) 担当が変わっても、雑誌を移って
      も、1人で、どこまでも、泳いでいける、
      作家。
心) 1人で、泳いでいける…。


**********

天才VS凡人。いや…沼田さんは、天才ではな
いかもしれないけど、凡才でもない。才能がな
いわけじゃない。二十歳で賞をとって、スタート
ラインに立つ事ができたのだから…。うまくいく
人と、いかない人の分かれ目が何なのかは私
にも分からない。売れる漫画と、面白い漫画が
イコールじゃない事も知っている。正直言って、
どうしてこの絵が、ストーリーがウケるの?って
思うものもあるし、文句なく納得するものもある。

才能も、絵を描く才能だったり、ストーリーを考
える才能だったり、面白いものを見つける才能
だったり、いろいろあるわけで…。こうありたい、
なりたいと思う自分と、それに見合う能力を自
分が持っているかはまた別問題で。努力だけ
ではどうにもならない、運とか、出会いとか、そ
ういう、例えるならば「漫画の神様」みたいなも
のに愛される人、愛されない人がいるのかもし
れない。でも、何となく、ただ待っているだけの
人は、神様が近くにいても気付かないような…
愛されても気が付けないような…。分かるヤツ
だけ分かればいいと我が道を行くのか。分か
らない人に、どうすれば分かってもらえるのか、
根気強く、あきらめずに考え続けるのか。ほん
のちょっとアプローチを変えただけで、劇的に、
人に伝わりやすくなることは、漫画に限らずよ
くあることだから。「どうやって、分からせたん
ですか?」と素直な疑問をぶつけてきた中田。
分からないヤツの感性のせいにしてきた自分。
そう…他人は、変えられない。変えられるのは、
自分だけ。壁を越えてきてくれる人を待つより、
自分が壁を越えようと試行錯誤した方がきっと
早い。いや、もしかしたら、越えようとしなくても、
地面を掘ってくぐるのもアリかもしれないし、穴
を開けてしまえと思ってもいいのかもしれない。
きっと、答えは無限にあって、諦めずに試行錯
誤を続けていける才能こそが、必要なのかも。

普通の人は普通じゃないことに憧れ、普通じゃ
ない人は、普通のことに憧れ…。中田は、沼田
になれないし、沼田は中田にはなれない。なっ
たとして、同じものが見えるとも限らない。それ
ぞれ、自分にしか描けないものがあるはずで。

きっと、全部持ってる人間なんていないんだろ
うなって…。人間は欲張りだから、必ず足りな
いものを見つけ出してしまう。物欲というよりも、
持って生まれた環境、能力のような、努力して
もどうにもならないもの。絶対に手に入らない、
そんなものに憧れ続けてしまうのかもしれない。

自分は自分にしかなれないのだけれど…。分
かっていることなのだけれど…切ないね。苦し
いね。ずっと特別な世界の住人でいたかった。
その世界から出て行く決断をするのは勇気が
いること。日本酒のPOPに描かれたイラストが、
生き生きした、いい絵だったのが、救いだった。
沼田の中の人、ムロくんの人生が、実は結構
ハードだったりする事を思うと、また泣けて…。
「ゆとりですがなにか」とはまた違う方向から、
毎回、心をゆっさゆっさ揺さぶられてしまう…。


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●「重版出来!」HP


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