「最後から二番目の恋」第７話～恋ってどうすれば良いんだ？

「最後から二番目の恋」



第７話（再放送）
恋ってどうすれば良いんだ？

広行）　そういう、そういうさ、間違ってるとかさ、正しい
　　　　とか、そういうのはもうやめてくれよな。間違っ
　　　　てるなんて事は分かってんだからさ。
　　　　でもさ、あるだろ？ あるでしょ？
　　　　人間にはさ、間違ってる事だってあるでしょ？

　　　　和平君にだって、あるでしょ？

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

広行）　悪い事がさ、したいんだよ。悪い事がしたくて
　　　　したくて、たまらないんだ。こんな小さな枠の中
　　　　でさ、終わりたくないんだよ。男として終わりた
　　　　くないんだよ。破滅してでもいい。悪い事がした
　　　　いんだ。止めらねえんだ。その気持ち。気持ち
　　　　が、無理に、無理に止めたらさ、頭がおかしく
　　　　なりそうなんだよ。わかんない？ ねえ。君には、
　　　　わかんないか？ 男か、それでも。うん？

和平）　触るな。触るな、アホ！
広行）　小さえ。つまんない奴だなあ。もう～ホントに。
和平）　何なんだよ。みんなして人のことを。つまん
　　　　ないつまんないつまんないつまんないつまん
　　　　ないって。悪かったね、つまらない男で。でも
　　　　ね、日本中みんなね、面白おかしく生きてたら
　　　　ね、この世の中どうなります？ 社会全体どう
　　　　なります？ 俺はね、こういう風に生きてくるし
　　　　か仕方がなかったんだよ。もし俺がちゃらんぽ
　　　　らんに生きてたら、あのうちどうなってました？
　　　　ねっ？ 弟や妹達は、どうなってたと思います？

広行）　分かる。
和平）　俺だってね、意外にね、面白おかしく生きてい
　　　　きたかったですよ。そりゃ男ですよ、俺だって。
　　　　だから、頭ん中ではこう、いろんな事考えます
　　　　よ。あんな事とか、こんな事とか、いろんな事、
　　　　考えちゃいますよ。
広行）　何？
和平）　でもね、でもね。それをあんたみたいに実行し
　　　　ないのはね、私にはね、理性と、知性があるか
　　　　らだ。分かったか！ このじじい！
広行）　分かった！よし。いざキャバクラ行こう～！
和平）　つまんね。何でそんな。
　　　　行けませんよ、そんなとこ。

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

千明）　だって。何ていうの。優柔不断っていうか、う
　　　　ん。男らしくない。全然男らしくないんですよ。
和平）　ちょっといいです？ ちょっといいですかね？
千明）　何ですか？
和平）　何なんですかね？
　　　　その男らしくないっていうのは。
千明）　はあ？
和平）　私はね、その、男らしいという言葉に、はなは
　　　　だ疑問があるわけですよ。
千明）　はあ。
和平）　女らしいという言葉と、男らしいという言葉。こ
　　　　のね、２つにはね、これかなり、かなりの不公
　　　　平さがあるんですよ。いいですか？ 何つった
　　　　らいいのかな。あのね、子供の頃から、男の方
　　　　が、重いものを背負わされてるっていうかな。
千明）　はあ～！？
和平）　いやいや、考えてくださいよ。子供の頃。
千明）　はい。
和平）　ねっ。
千明）　はい。
和平）　例えば、母親がですよ。娘を連れて来て、周
　　　　りの人に、「いやもうね、この子困っちゃうんで
　　　　すよ、女らしくなくて」って言ったとするじゃない
　　　　ですか。そうすると周りの人間はね、「いいじゃ
　　　　ないですか。活発なお子さんで」とか、「いいじ
　　　　ゃないですか。おてんばさんで」っていう。肯定
　　　　するフォローの言葉が、どんどんどんどん出
　　　　てくるわけですよ。ところがね、あんまり言わな
　　　　いですけど、母親が自分の息子を連れて来て、
　　　　「この子ね、あの、男らしくなくて」って言ったと
　　　　するじゃないですか。そうすると、周りの人間は、
　　　　一瞬ね。…って考えちゃうんですよ。そのう、な
　　　　かなか肯定する言葉というか、フォローする言
　　　　葉が見つからない。出てこないんですよ。ねっ。
　　　　今の時代だったら、下手すりゃ、「ちょっと、こっ
　　　　ち系ですか」みたいな事まで言われちゃうわけ
　　　　ですよ。子供だってね。子供だって災難ですよ。
　　　　そんなのは。大人になってからだって、そうで
　　　　すよ。女らしくなくたって素敵な女性ってたくさ
　　　　んいる。
千明）　まあね。
和平）　でもね、男らしくないって言われたら、これ、
　　　　完全に否定。もう完璧に否定ですよ。男らしく
　　　　なくて素敵な男性って見た事あります？
　　　　います？ 見た事あります？ いないでしょ？
　　　　私はそう言われてるんですよ。男らしくないっ
　　　　て。そう言われたらね、こっちだってね、「悪か
　　　　ったですね。男らしくなくて」って、開き直るしか、
　　　　他に手段がないんですよ。そう言われる、男の
　　　　気持ちなんてあなたに分からないでしょう。全く
　　　　分からないはずだよ、あなたに。
千明）　すっきりしました？
和平）　はい？
千明）　すっきりしましたか？
和平）　ええ、まあ。何となく。
千明）　ならよかったです。フフッ。
和平）　すいません。何かちょっと。
　　　　ムキになっちゃって。
千明）　大丈夫です。ハハハ。ああ。
和平）　何ですか。
千明）　いやいや、いやいや。今ね、その、せっかく向
　　　　こうに好意を持ってもらってるんだから、頑張
　　　　ればいいじゃないですか、って言おうと思った
　　　　んですけど。でもまあ、恋愛って、頑張ってす
　　　　るもんじゃないですよね。
和平）　そうですね。
千明）　うん。しかも、私たちみたいにこう、何ていうん
　　　　ですかね。恋愛抜きの、暮らしを、結構長く、し
　　　　てきてしまったわけじゃないですか。そこにね、
　　　　その、恋愛を持ち込むっていうのは、もの凄い
　　　　こう、エネルギーとかパワーが必要な訳ですよ。
和平）　そうです。
千明）　うん。で…。でも私は、ちょっとだけ、頑張って
　　　　みようかな…。頑張るっていうか、私ね、真平
　　　　君のこと、ちゃんと見てなかったような気がす
　　　　るんですよ、今まで。鎌倉で、カフェなんかや
　　　　ってる、カッコイイけどちょっと、不思議な男の
　　　　子、みたいな。年下のね。分かります？

和平）　分かります。分かります。
千明）　うん。でも、ちゃんとこう真平君のことを、知っ
　　　　てみようかと思うんですよ。本物の、恋になる
　　　　かどうかっていうのは、その、後に考えること、
　　　　なのかなっていうか。うん。まあ、もちろんね、
　　　　私のことも相手に知ってもらいたいわけなん
　　　　ですけど。

和平）　なるほどね。
千明）　うん。その、お見合い母と、お見合い娘の事、
　　　　ちゃんと知ってます？
和平）　その言い方ちょっとあれですけど。そう言われ
　　　　れば、よく知らない、ですよね。
千明）　うん。ちゃんと知ってからでいいんじゃないん
　　　　ですか？ 結論を出すのは。

和平）　うん。その、大橋さんのね、娘さんからもおん
　　　　なじようなこと言われたんですよ。もっと私に、
　　　　興味を持ってくださいって。

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

典子）　ちょっと、何がおかしいのよ？

千明）　笑うんだよ。
　　　　こういう時は笑うの。笑い話にすんの。
典子）　えっ？
千明）　そうしないと、心に傷が残るでしょ。
　　　　だって、よく考えてみ。その状況。
　　　　かなりおかしいですけど。
典子）　確かに。
千明）　でしょう。父親出てきて８０２って。だって。
典子）　ハハハ！ やだもう。
千明）　あんたいそいそお洒落して行ったんでしょう？
　　　　だって。
典子）　やだ、もう！

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

和平）　俺は、50だ。
真平）　うん。
和平）　しんどいぞ～50は。いろいろと。
真平）　うん。
和平）　お前もそれを味わえ。50になって。
　　　　そのしんどさを、味わわないなんて、
　　　　俺は絶対に許さねえぞ。
真平）　うん。分かった。
和平）　よろしい。

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

典子の夫・広行さんが「悪いことがしたいんだ！」と思
う気持ちは、教師だっていうこともあるし、年齢的には、

いわゆる、「ミッドライフ・クライシス（midlife crisis）」の
ような…。その意味は「人生なかばの危機」、つまりは
「中年の危機」（いろんな解釈があるので、興味のある
方はググってみてください）。私的解釈では、２度めの
思春期、いや思秋期（大体40～60歳だそうです）のよ
うなものじゃないかと。男女ともに、自分の性ホルモン
が減少し始めて、イヤでも老いを感じ始める頃といい
ますか…。残りの人生で出来ることを考えてみたり…。
女性として、男性として、もう一度輝きたい、認められ
たいと思う気持ち？ まだまだイケるんだって、確かめ
たいというか、それがまだ出来るうちにっていう焦りの
ようなものが、ふつふつと沸き起こる年頃っていうか。
それはちょっとわかる。女性なら40代、男性なら50代
ぐらいが、何とかまだ、女として男として一花咲かせら
れる気がするんですよね。 そう思いたいだけかもしれ
ないけど。ただ足掻きたいだけなのかもしれないけど。

中年の危機は置いといて、恋の基本は相手を知る事、
知りたいと思う事。知美ちゃんの言い分はよ～くわか
る。ちゃんと興味を持ってほしいよね、自分に。ちゃん
と人となりを知ってから決めてほしい。その上で、合う
合わないがあるのはしょうがない。こんな私でもよけ
ればっていう、私っていうのは一体どんな私なのか？
そういうのをちゃ～んと知りたい、知ってほしいと思わ
なきゃ、その恋が本物なのかも…わからないかもね。

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第７話～悪いことがしたいんだ！

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