「こうのとりのゆりかご」~「赤ちゃんポスト」の6年間と救われた92の命の未来 | 日々のダダ漏れ

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「こうのとりのゆりかご」
~「赤ちゃんポスト」の6年間と救われた92の命の未来




皆さんは覚えていらっしゃるでしょうか?赤ちゃんポスト
のことを。6年前、熊本の一病院が始めた、自分で赤ち
ゃんを育てることができない親から、たとえ名前を名乗
らなくても、匿名で赤ちゃんを預かる、日本で唯一の試
み、「こうのとりのゆりかご」。当時はニュースでも盛ん
に取り上げられました。子供を捨ててしまったり、虐待
して死なせてしまう事件が相次ぎ、それに心を痛めた、
ある病院が、赤ちゃんの命を守るために始めた取り組
みですが、一方では、安易な子捨てにつながるとの批
判も受け、世論を二分する出来事でもありました。

しかし、その後についてはあまり知られてはいません。
それには、理由がありました。匿名でも預かる。秘密
は守。それゆえに、赤ちゃんを預けた人たちと、預け
られた子供たちのプライバシーは、徹底して守られな
ければなりません。そこには、報道やドキュメンタリー
といったノンフィクションでは伝えることが難しい、大き
な壁がありました。私たちは、6年の間に、この病院で
起こったことを取材し、伝えるべき大切なことがたくさ
んあることを知りました。そして、ドラマというフィクショ
ンの力を借りれば、プライバシーを守ることができる
と気づきました。これからご覧いただくドラマは、実話
をもとにしていますが、登場する赤ちゃんを預けた人
々と、預けられた赤ちゃんが誰なのかは、決して、特
定できないように、構成されています。

**********

2007年5月10日、正午。世間では、「赤ちゃんポスト」
と呼ばれて話題になった、「こうのとりのゆりかご」が
スタートしました。

この瞬間のことを、今でも忘れられません。6年間、
ただただ小さな命を救いたくて取り組んできたことが、
この日、始まったのです。

**********

みんな、ある程度、覚悟はしていました。でも、できる
精一杯のことから始めよう。そう思って、準備だけは
進めることにしました。ゆりかごを開設するためには、
病院の施設を改修する変更届を市に提出し、許可を
もらわなければいけません。

純) 赤ちゃんが
  預けられたらどうしたらいいんですか?
裕美子) 一人はすぐにゆりかごに行って、赤ちゃん
     の写真を撮る。警察の人から言われたんだ
     けど、ケガはないか、虐待の痕はないか、事
     件性はないか、あとで提出してほしいって。
     それから、医師に連絡。もう一人は、建物の
     外へ出て、預けた人の様子を見る。決して、
     病院の敷地の外にまで出て捜したりしないこ
     と。匿名でも預かることが前提だから、無理
     に名前を聞いたり、説得したりもしない。赤ち
     ゃんは私達が、ちゃんと預かることを伝えて、
     気持ちが落ち着いたら、一緒に、赤ちゃんの
     幸せを考える相談をしましょうって。


**********

お母さんへ。
今日、赤ちゃんを預けられるまで、きっと、たくさん悩
んで、辛い思いをされたことでしょう。赤ちゃんは、無
事にお預かりしますので、どうか、安心して下さいね。
そして、いつでもいいですから、どうか私達に、連絡
してきてください。あなたと赤ちゃんが、一番幸せに
なれるように、一緒に、考えさせて下さい。

**********

里奈) 看護部長が来ますから、思ってること何でも
    話してみてください。結さんの意思を尊重した
    いんです。
結) 親が・・・言ったとおりです。
里奈) ホントにそれが、結さんの気持ちですか?
結) 悪いのは私なんです。私のせいで・・・。
里奈) 結さんの赤ちゃん、一生懸命私の顔、見よう
    としてくれるんですよ? 私、まだ駆け出しの助
    産師なんですけど、赤ちゃんってすごいなって
    思うんですよね。こんなしかめっ面も、滅茶苦
    茶機嫌悪そうな人も、赤ちゃんを見ると、み~
    んな笑顔になっちゃうんですから。


その晩、結さんはいなくなりました。

里奈) ホントにすいません。
    私が余計なこと言ったから・・・。
裕美子) 大丈夫よ。
里奈) 私、初めて実習でお産に立ち会ったときに思
    ったんです。妊婦さんだけじゃなくて、手を握っ
    てる旦那さん、声をかけてるお母さん、家族み
    んなで出産して、こうやって家族が出来ていく
    んだなって。でも結さんの家族は、赤ちゃんが
    生まれた事で、バラバラになっていくみたいで。
裕美子) まだ、わからんとじゃないかな? 赤ちゃん
     てね、み~んな生まれてきた意味があるの。
     結さんの赤ちゃんもそう。結さんにも、ご家
     族にも、いつかきっと伝わる。

赤ちゃんが預けられてからの2、3日は、いつお母さ
んが戻ってきてくれるかと、緊張しています。

結さんの赤ちゃんは2週間後、乳児院に引き取られ
ていきました。

最初の1年間に、ゆりかごに預けられた赤ちゃんは
17人。そのうち、親御さんの出身地がわかった例は
9件。すべて、熊本県外の方でした。


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裕美子) お父さん? お願いがあるんだけど、飾り棚
     の下に、
黄色い箱があるでしょう?
正雄) おお。あったあった。
裕美子) 急がんけど、送ってほしいと。
     私のお守りかな。
正雄) 裕美子。
裕美子) はい。
正雄) 昔を思い出すと、
    うまくいかんかった時のことも思い出すもんだ。
裕美子) お父さん、よかったとかなあ、私。
正雄) よかったんだよ。そう思える日が来る! だって
    そうじゃないか。なんでも初めてのことは一緒
さ。
    子供達のことだって、家族のことだって、仕事だ
    って一緒さ。出来る、精一杯のことで、
今が幸せ
    なんだから。だから頑張れるんだ。みんなでな。
裕美子) お父さん、ありがとう。
正雄) 明日も早いんだろ? 早く寝ろ。
裕美子) フフ。おやすみ。

**********

ゆりかごに預けられた後、親が名乗りでない赤ちゃん
や、親がわかっても、その人が自ら育てられない赤ち
ゃんは、
乳児院に引き取られることになります。

純) たくさん抱っこしてもらえるとよかね。
里奈) どうして、すぐには養子縁組できないんですか?
    病院には、赤ちゃんを育てたいっていう人、たくさ
    ん来てるんですよね? 
私、保君には一日も早く
    温かい家庭に引き取られて、
幸せになってほしい
    んです。
裕美子) ええ。実の親の希望があれば、すぐに養子に
     出すこともできるけど、保君の場合は、お母さん
     の意思も確認できないから。
みどり) うまくいかんですね。
純) 私最初、赤ちゃんの命が助かればそれでいいって
  思ってたけど、赤ちゃんってすぐ大きくなるんですね。
裕美子) そうよ、そうなのよ。その先の未来まで、
     ちゃんと考えてあげんといかんとよ。

**********

2010年12月

それから2年して、ゆりかごを、今まで以上にプライバ
シーが守られるように、新しい場所へ移しました。場所
だけでなく、もう一つ、変わったことがあります。

扉を二重にしました。最初の扉を開けると、親御さん宛
の手紙が置いてあります。それを取って初めて、奥の
扉が開く仕組みです。より確実に、相談に繋げる為に。
そして、その手紙を持っていることが、親子の証明にな
ります。ゆりかご運営開始から4年目。赤ちゃんとお母
さんの相談室には、年間600件近くの相談がありました。

**********

こんなことは、6年たった今だから言えるのかもしれま
せんが、子供たちが今、本当に幸せなら、どこで、ど
う生まれたかは、大きな問題にはならないのではない
でしょうか。子供たちには、出自を知る権利がある。で
も、まず命がなければ、権利も存在しない。命を生み、
その命を、必死で運んできてくれたお母さん達がいた
から、子供たちには、今があるんです。それは、赤ち
ゃんと別れたお母さん達のできる、精一杯の愛だった
んです。赤ちゃんの命を守りたくて、ここまでやってき
ました。これからも、子供たちの未来を見届けていき
ます。重い責任だと思います。でも、理事長や、病院
の仲間、熊本市の皆さんと一緒に、どこまでも、正解
のない問いと向き合いながら・・・。
生まれてきてくれて、本当に、ありがとう。

**********

そういえば、こうのとりのゆりかご、赤ちゃんポストの
話題は、いつのまにか聞かなくなっていたことに今回
気づかされたわけですが・・・。事情が事情なだけに、
関係者のプライバシーや、子供の未来を思えば、安
易な報道はできないですよね。伝えたいけれど、伝え
られない、大きなジレンマがあったと、想像できます。
こういう場合は、確かに、ドキュメンタリー、ノンフィク
ションよりも、ドラマの形をとったフィクションのほうが、
ある意味、伝えたい精神を、伝えられるのかもしれま
せん。いろいろなケースを淡々と見せていくことで、子
供を育てられない事情は人それぞれ、様々な理由が
あるのだと気づかせるし、知識はいつか、身近で悩む
人の苦しみに気づく手助けになるかもしれないし・・・。

私は、「こうのとりのゆりかご」については、最初から
肯定的、好意的に見ていたのだけれど、今回のドラ
マを観て、一人でも多くの赤ちゃんを救いたいと言う
思いから、多くの非難を覚悟しながらも、救いたい気
持ちその気持ちを貫いた人たちの勇気と愛情を、心
から称えたい、応援したいと思いました。気軽に子供
を捨ててしまうようになるのではないかと言われてき
た懸念。でも、そうなるようなら、それはそのまま、こ
の場所がなければ、子供の命は簡単に死につなが
っているだろうと思う。子供が死に至る事件を見る度
に、殺すぐらいなら、こうのとりのゆりかごに連れて
いってやってほしいと思ってしまう。そして、そう思え
る場所があることは、どれだけ救いになることかと思
う。世の中には、「知らない」ことで損をしている人が、
不必要に辛い思いをしている人がたくさんいると思う
から、まずは、どうすればいいのかを聞ける場所が
あることを、たくさんの人に知ってほしいと思います。

年間600件近くの相談があるということは、それだけ
誰にも相談できずに悩んでいるお母さんがいるとい
うこと。本当に、何もかも、すべて「命があってこそ」
なんですよね。生きてこそ、生きられてこそ、出自を
知りたいと思うことも、文句を言うことも、幸せになる
こともできると・・・当たり前のことに気づかされます。

ドラマとしての感想は、薬師丸ひろ子さんの存在が
大きいということ。仕事に真面目に取り組みながら、
人として、親として、妻として、魅力的で、何ともいえ
ない可愛らしさがあるキャラになっていて、おかげ
で、重いテーマのドラマでも、安心して観ていられた
気がします。若・春子の有村架純、若・夏の徳永え
りの、あまちゃんファミリー、そして、安藤サクラさん
と江口のりこさんとで「野田ともうします。」コンビと。
大好きなドラマに出ていた人が多かったのも花丸。

たくさんの命が未来に生きられることを、願います。


●「こうのとりのゆりかご」HP


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揺れるいのち―赤ちゃんポストからのメッセージ/旬報社