特定の曲に焦点を当てて分析するのもありだとは思うのですが、
少し視点を変えての総括的な和声について
学生さんの参考になるような内容を考えてみたいと思います。


また日本では和声~理論と実習という本(いわゆる赤、黄、青本)で
学ばれる方が多いと思うのですが、
この辺も絡めて独断と偏見に基づき
とても基本的なことから取り扱ってみます。


まともにやっていくと膨大な量になりますので、
回を分けて、不定期でやっていく予定です。


○バロックと古典の書法について

よく古典和声という用語を本で見ますが、
古典和声とは具体的にはなんでしょう。


古典という言葉が入っていますので、
ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンなどの古典時代の作曲家の
使っている和声法というのが真っ先に連想されますが、
和声~理論と実習の冒頭では
「われわれはバッハ、モーツァルト、ベートーヴェン等によって代表される
古典的な西洋音楽の和声を学び~」

と述べられており、バッハも古典和声の中に入っているような印象を受けます。


事実古典和声の範疇でバッハの和声法は理解出来ますが、
言うまでも無く、バッハとモーツァルト、ベートーヴェンでは
全く書法が違い、同じ古典派のモーツァルトとベートーヴェンでも
全然違ったりします。


古典和声とはとてもあやふやな用語だと思いますが、
多くの場合バロック期から古典期において用いられる和声法を
総括していう用語として用いられることが多いと思います。


しかしバロックと古典では決定的な違いがいくつもあり、
和声~理論と実習では規則や禁則を淡々と述べているだけで
細かいことを一切省略しています。


何よりも決定的な違いはその書法です。


バロック時代と言ってもたくさんの作曲家がいますが、
とりわけバッハ(1685年~1750年)は声部書法において驚異的な対位法能力を
発揮しており、フーガやカノンなどはほとんど神業と言って良いくらい
あまりにも良く出来た作品がたくさんあります。







平均率1巻のEbメジャーキーのフーガ

ここで注目したい最大の特徴は声部書法がかなり明確で
一つ一つの声部の独立性が強い点です。


1声、1声が明確な仕事を持っており、
どれか一つがいなくなると音楽が破綻するという特性を持っています。


こういった音楽では連続音程などによって
声部の独立性が損なわれるのは良くないと言えます。


次に古典初期の代表格ともいうべきハイドンの初期の弦楽四重奏を見てみましょう。



弦楽四重奏曲第1番 変ロ長調『狩』


ハイドンの弦楽四重奏第1番というマイナーな作品ですが
バロック時代と古典時代の明確な作風の違いを感じ取ることが出来ます。


バッハのような緻密な声部書法は放棄されて、
楽譜を見るともっと単純な書法になっているのがわかります。


同じくハイドンです。声部書法がかなり弱い


声部書法はかなり軽んじられて、
特に内声は単にハーモニーの補強という感じで、とても貧弱です。


上の譜面の2小節目のヴィオラはチェロの3度上で
ハモっていますが、
テノール声部であるヴィオラがなくなっても別に音楽として破綻はしませんし、
ハイドンがバッハのような声部書法を軽んじているのがわかります。


第2ヴァイオリンはコードのアルペジオという感じで単純であり、
独立したアルト声部というよりは単なるアルペジオのようにも見えます。


どちらかというとコードを半小節ごとに変化させ、
カデンツによって音楽の進行力を得ようとしているように感じます。

こういった声部書法が軽んじられる様式では
連続音程などが出てきても、
そもそも独立した声部という概念が希薄なため、
バッハの作品のような声部書法の作品とでは
全然意味が異なってきます。


バッハのような対位法を前面に押し出した緻密な声部書法を
良しとする人からみれば
この弦楽四重奏は未熟な習作に見えるでしょう。



逆に当時流行だったこういった単純なホモフォニー的な音楽を
良しとするならばバッハのような作品は時代遅れの古い作風に見えると思います。



技術的にはバッハのほうが高度ですが、
ハイドンが未熟というよりは
時代の流行が移り変わっていったことに注目すべきです。


現代のメロディー1つ+和音のポップスなどがそうであるように
聴衆がより単純なわかりやすい音楽を求めるようになった結果でしょうか。



この曲が書かれたのはバッハが死んだ1750年の
12年後の1762年ですが、
当時の様式を理解するのに適切な曲だと思います。


モーツァルトもベートーヴェンも晩年は対位法に大きな関心を持ちますが、
若い時はこんな感じの曲をたくさん書いているのは
言うまでもありません。


よく伝記などで「バッハは存命当時、晩年は既に時代遅れな作曲家と見做されていた」
云々という文章を見ますが、
これは時代の流行が複雑な声部書法から
もっとわかりやすい単純なものへ時代が移り変わっていったということを意味しています。



またハーモニーに関しても
複雑精妙・微妙なものから単純なものへと変わってきます。

バッハ 平均率第1巻1番のフーガ


上のバッハのフーガではレソ#ラドが同時に鳴っています。
コードを付けるならE7ですが、ラはアボイドであり
経過音ということになるものの瞬間的にソ#とぶつかっています。


こういう例は枚挙に暇がなく非和声音で処理も出来ますが、
もっと複雑な和音の例を見てみましょう。


平均率18番のフーガ


18番のフーガでは下から異名同音でドレレ#シという和音が登場します。
もちろん旋律の動きの中で生まれるもので、
フーガの主唱、対唱などの声部書法の関係でこうなることが多いですが
和音がかなり複雑です。

上にコードネームを付けて分析してみましょう。



対してハイドンの弦楽四重奏はどうでしょうか?


和音が極めて単純であり、バッハに見られるような
複雑精妙・微妙な響きは少なくともこの部分には見られません。


声部書法を捨てて、和声も単純になり、わかりやすい音楽になっています。


このハイドンの弦楽四重奏は声部書法というにはあまりにも貧弱であり、
一応ソプラノ、アルト、テノール、バスと分類は可能ですが、
各自が独立した声部で、その声部だけしか出来ない仕事を受け持っている
という風に考えることは出来ません。


ハーモニーの単純さと合わせて
ここだけ見ても、バロック時代と古典時代で
まるきり音楽の様式が違うことがわかります。


しかし複雑な声部書法を捨てた代わりに、
古典派の音楽は単純さを旨にした
高速なテンポでの演奏が可能になり、
加えて演奏人数規模の拡大も出来るようになりました。


ほかにもバッハの時代には見られなかった和音が
古典に見られるようになったり、
カデンツの進行に違いがあったり、
色々な差違があります。



受験を除けば和声とは教科書で学ぶものではなく、
作曲で必要になる和声は
実際の作品から学ぶものであると思うので、
この辺りのことを考えつつ、
続きはまた次回以降に書かせて頂きます。



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ハーモニックメジャースケールすなわち和声的長音階は
近年ジャズ・ポピュラーによって命名されたスケールではありますが、
ほかにも山ほど例があるように
やはりクラシック音楽に前例が存在します。


例えばオルタードドミナントsus4における
ドリアン♭2スケールやフリジアンの用法は
命名そのものはおそらくジャズのバップ期以降ですが、
ドビュッシーやラヴェル(あるいは後期ロマン派)に既に用法があります。


ただ彼らはそれを○○という風に命名せずに使っていただけであって、
マイルス・デイビスがそうであったように、
バップ期の現行の高度なジャズ・ポピュラー理論の構築に
寄与したミュージシャンたちはクラシック音楽を研究しています。
(モードジャズ時代にマイルス・デイビスはラヴェルを研究していました



本題のハーモニックメジャースケールですが、
私自身もBGMのお仕事でちょくちょく使っているのですが、
すぐに出てくる例としてはドビュッシーに登場します。



ドビュッシー : スティリー風タランテッラ




楽譜の箇所は01:34あたりから


初版では「スティリー風タランテッラ」、
再版では「ダンス」というタイトルで発表された曲ですが、
思い切りハーモニックメジャー出身の和音を使っています。


コードスケール名としてはリディアン♭3になりますが、
これはクロマティックオルタレーションとかそういう言い逃れが出来ない
完全なハーモニックメジャーの用法です。


楽譜に書き込んでありますが、
コードネームがAbm6、あるいはAbmM7(#11)で
スケール構成は「R・ 9・ 3・ #11・ 5・ 6・ M7」となり、
完全なリディアン♭3スケールとなります。


ドビュッシーは調性を脱するために、
全音音階、旋法、ハーモニックマイナー、メロディックマイナー、平行和音など
様々な技法を駆使していますが、
ハーモニックメジャーも使っています。


ドビュッシーがハーモニックメジャーを考案したとは資料もなく考えにくくもあり、
コンディミのように「19世紀頃のヨーロッパでは
なんとなく作曲家たちの間で知られていた音階」
みたいな
感じなのではないかと推測しています。


ハーモニックメジャースケールに関する詳細な説明は
前に書いた作曲本でも説明していますし、
市販の理論書などでも解説されていることが多いので、
詳しく知りたい方は検索を掛けたり、
ATN系の理論本などを漁ってみて下さい。



リストの有名な愛の夢にも見つけることが出来ました。

愛の夢3番


リストのほうはドビュッシーほど露骨ではなく、
準固有和音のⅣとしての要素が強いです。
(ポピュラーの用語ではサブドミナントマイナーです)


但し準固有和音のⅣ(Ⅳm)ならコードスケールは
ドリアン、あるいはメロディックマイナーなのですが、
リストは#11th(ソ)を使っているので、
やはりリディアン♭3スケールとなり、
ハーモニックメジャー出身のコードということになります。


リストは歴史上最初に無調の曲を書いた作曲家であり、
実際にやってみるとわかるのですが、
かなり発展的な技法を駆使しています。


ドビュッシーやラヴェルとはまた違ったタイプですが、
ほかにもかなり高度な部分がたくさんあるので、
どう考えてもわかってやっているとしか思えません。


リストのほかの曲を探せばきっと見つけることが出来ると思いますし、
同時代の作曲家の楽譜を見ても
もしかしたら見つけることが出来るかもしれません。
(探すのが面倒くさかったので2つだけの紹介ですが…)



リストは1811年生まれで、愛の夢は1845年作曲なので、
大体150年くらい前には一部の進んだ作曲家たちの中では
知られていたスケールなのではないでしょうか?


ロマン中期くらいまでなら探せばひょっとしたら
見つかるかも??くらいに思っています。



主にジャズ系アーティストやBGM系の作曲で有名なスケールですが、
一通りの音楽理論を見渡して考えてみると
調性という枠組みの9割くらいは既に100年以上前の
後期ロマン派、あるいは近代フランス楽派の時点で
作曲の理屈は完成してしまっているようです。


12音技法などの無調楽曲は難解であり、
またその破壊的な部分があまり多くの人に好まれないようで、
ポップスやロックなどが今は大人気の現代ですが、
やはり人間は調性音楽が大好きなのかもしれません。


ハーモニックメジャーは厳密には調性とは言い難いですが、
BGMではもちろんボカロ曲やボーカル曲でも使っていいわけで
いわゆる音楽理論と呼ばれるものを一通り習得しておくと
色んなところで役に立ったりします。


最後までお読み頂き有り難う御座いました。

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音楽教師で有名なナディア・ブーランジェの妹であるリリ・ブーランジェの
作品が前々からちょっと気になっており、
昔少し手を付けたことがあったのですが、
つまみ食いくらいで終わってしまったので、
改めて最近見直しています。


ガチンコでやろうというよりは、
ちょっと見てみようかな、くらいな感じではありますが…。


ナディア・ブーランジェリリ・ブーランジェがどんな人かを知りたい方は
リンクからwikiをどうぞ。


歴史上、作曲家と言われる職業に就いていた人間のほとんどは男性で、
現代でも女性作曲家で活躍している人はいますが、
割合で見るとどうも圧倒的に男性の方が多いようです。


男性のほうが脳髄に優れ、女性のほうが美に優れているというのが
世の中の一般的な見解のように思えますが、
リリ・ブーランジェは女性で初めてローマ大賞を受賞した画期的な人物であり、
バッハ、ベートーヴェン、ブラームスのような
大作曲家とまでは言えず、強烈な個性を獲得しているとも
私には言えませんが、それでも進歩的な部分もあり、
学ぶべきものがあるように感じる作曲家です。



ドビュッシー、ラヴェル、あるいはフォーレの影響を明確に感じますが、
そのレベルは非常に高く、進歩している部分もあり、
女性らしい透明感のある和声も、
男の私にはない感性なので勉強になる部分があります。




youtubeでリリの動画を調べていたら、
リリのオーケストレーションのレッスン動画(英語)があったのですが、
見ているとなるほどと思うような画像があったのでスクショしてみました。
英語はほとんどわかりませんが…


ドビュッシーとラヴェルのリリへの影響相関図

英語なので白文字で日本語訳を入れてみました。

画像の通りではありますが、
ドビュッシーにも一見複雑に見える隠された単純性は大いにありますし、
(ドビュッシーは超絶古典的な作風と感じています)
ラヴェルにも調性の曖昧さはあるので、
あくまで一例だとは思いますが、
ラヴェルとドビュッシーの合体した技法に
女性らしさを加味したのがリリの売りように思えます。



3 Morceaux (3つの小品)

リリの3 Morceaux (3つの小品)というピアノ曲の第1曲目に
ちょっとコードを振ってみました。



楽譜は動画の25秒から。


ピアノで弾いたり、分析してみたりしていますが、
変化和音や借用旋律音が多く、
転調も多彩で、こんなのばかりではありませんが、
パラパラと見ているだけでも面白いです。

ヘンテコリンな始まりですが、
コードスケールからペアレント(出身キー)をとっていくと
解釈が可能です。


ポップスでもロックでもゲームのBGMでもそうですが、、
出来るなら大雑把にでもその技法や特徴を理解して再現出来るようにしつつ、
色々な作品を聞いて自分のレパートリーを広げていくと
いつか何処かで役に立ったりします。


まだまだ未熟者なので
進歩による個性の獲得と言えるようになるくらいまでは
もっと勉強して作曲しなければなりません。



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和声についての雑感。

テーマ:
最近はぼちぼち色々な曲の分析をしているのですが、
ふと思うのはクラシック和声の変遷において作曲家が明確に
ハーモニックマイナーやメロディックマイナー、あるいはもっと発展的な
ハーモニックメジャーやそれが以外の音階と
その出身キーを意識しだしたのはいつ頃なのか?、
そして誰がどうやって発見したのか?と疑問に思うことがよくあります。


多くの方がご存じの通り、和声学にはポピュラー理論のような
コードスケールは存在せずに、すべて転位と変位で考えます。


メロディックマイナーの上行と下行で音が異なるのはその典型で、
古典和声の作品を見ていると、
確実に単純に転位と変位で解釈している、
というよりはそれ以外に解釈の仕方が無い和声がたくさん見受けられます。


Ⅴの和音の上方変位などはポピュラー理論だと
適合するコードスケールは存在しませんが、
古典以降、時代が下るに連れて、
段々と作曲家たちは転位と変位という発想だけでなく、
後期ロマン派の作曲たちは音階とその出身キーを明確に意識して
音を使うようになっていっていると感じることが多々あります。



ドビュッシー ペレ
スとメリザンド スコアマーク⑩の部分



例えばドビュッシーのペレスとメリザンドですが、
ドミナントsus4におけるオルタードテンションコードが登場します。
(上の画像参照)


○7sus4(♭9,♭13)というシンボルですので、
使用コードスケールはポピュラーでいうところの
フリジアンになります。


今の日本で音楽を勉強している方の多くは、
こういう音使いをジャズ・ポピュラー理論で最初に触れることが多いと思うのですが、
ジャズ誕生以前の今から100年以上前の作品に既にこういう音使いが存在し、
(これ以外の部分もたくさん見た上で思うのですが)
明らかに「その和音が何のキーの何番目の和音なのか?」を明確に
理解した上で音を使っているとしか思えない箇所がたくさん存在します。


私が知りうる限りジャズでこういった音使いをするようになったのは
ビバップ期か、それ以降(1940年以降あたり?~)であり、
ペレアスとメリザンドの作曲は(1893年~1901年)です。



ラヴェル クープランの墓 フォルラーヌ冒頭

こちらはラヴェルのクープランの墓のフォルラーヌですが、
やはり同じくドミナントsus4でフリジアンスケールを使用しています。
(複雑な和声ではありますが…)

ホ短調におけるⅤ7の半終止で
ドミナントsus4コードなのに、♭9th(vn1)と#9th(Cor.A)が出てきていますが、
これはフリジアン以外の解釈方法がありません。


スパ8とも解釈出来なくもないですが、
第3音は意図的に避けられて、
sus4専用のコードスケール、つまりフリジアンスケールになっています。


別の箇所では○7sus4(♭9,13)でドリアン♭2スケールを使っている箇所もあり、
明確にコードスケールが意識されています。



彼らはそれをコードスケールとは呼ばずに、
単純に出身キーを明確にした上で音を使っているのでしょうが、
考え方としてはポピュラー理論と全く同じになります。


もちろんすべての和音は独立だろうが、偶成だろうが、
和音である以上出身キーを必ず持っているはずであり、
(持っていないものもありますが)
ロマン初期の頃はその調域は狭いものの、
明らかに調性を意識した音は既に見られます。


もっと後の時代の作曲家たちが
ドミナントsus4でフリジアンやドリアン♭2を使ったり、
ドリアン#4やリディアン#2、あるいはハーモニックメジャーを使うに当たって
一体どのようにしてこういった和声の発想に至ったのかはとても興味があります。


リストには既にハーモニックメジャーを使った音使いがありますし、
もっと前の時代の作曲家の作品にも見いだすことが出来ますが、
転位と変位で考えるのが和声の基本でありながら、
その実、かなり明確に出身キーを作曲家は意識してきたようです。


転位と変位で考えるとは言いますが、
たしかに出身キーが存在しない音階もあるにはありますが、
ロマンの初期辺りから既にこの考え方はあり、
和声ありきで、転位と変位によって新しい音階が生まれつつ、
逆に音階ありきで、新しい和声が生まれてきたようにも感じます。


古典時代の終わり辺り以降の作曲家たちに、
具体的には偶成和音や借用和音が発達した時代の作曲家たちにとって
両者は不可分だったのだと思います。


音楽理論が一通り出そろった現代において、
古典、ロマン、近代、現代とあらゆる曲に触れることで
音楽がどのように進歩してきたかに私たちは客観的に触れることが出来ますが、
最初にこういう音使いをした作曲家は「勇気があるなぁ」とか
「当時は叩かれたんだろうなぁ」と思ったりしつつ、
その発展的な発想に驚きます。


現代人である私たちはこういった音使いに関して何の疑問もなく
受け入れることが出来ますし、
また応用することも容易で、
実際にポップスやアニソンにもこういう音使いは出てきます。


譜例で出したドミナントsus4のフリジアンスケールの用法も
誰からも何も教わらずによくこれを使おうと思ったなぁと感心します。
何処でこういう着想を得て、
どういう理屈でこういう音使いをしようと思ったのでしょうか。


もちろん「ひらめき」の一言で済ませてしまうことも出来ますが、
その背景には明確で、的確で、堅固な理論的土台があり、
「適当にやったら上手く行った」とはとても言えない、
入念な使われ方をしているわけで、
最初にやった人(多分ドビュッシー?)の独創性に驚くと共に、
どういう歴史的な背景でこのように至ったのかに興味が湧きます。
過去を知ることで未来もまた知ることが出来るからです。


少なくともそのヒントはたくさん隠されています。

人間たちの進歩の歴史を知ることで、
これからの歴史がどうなっていくのかを考えるヒントにもなってきます。


最後までお読み頂き有り難う御座いました。


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音楽の美しさはどこまで音を綺麗に外せるかが
一つの大きなポイントですが、
ラヴェルを例にとってこの部分に着目してみたいと思います。


アボイドをどう使うか?が作曲家の腕の見せ所であり
多分に個性に繋がる部分ではありますが、
ラヴェルのスコアを見ていると
「うーん、これありか…?」と思える部分がたまに出てきます。



ピアノ組曲「鏡」より蛾(Noctuelles)の冒頭

ラヴェル30歳のときの作品で、
後の作品群と比べるとあんまりラヴェルらしくない部分があるというか、
実験的にも感じられる作品であり、
蛾とか夜蛾と訳されるピアノ曲ですが、
「??」と思う部分があります。




問題の部分(楽譜の部分)は冒頭です。

速いパッセージであり、
即興的且つ、古典的な調構造でもないのですが、
アナリーゼを行うと3拍目のBb7の部分の右手の音がぶつかっています。


旋律音の分析を書いてみました。(クリックで拡大)

それぞれのドミナントコードで9thテンションに向かう♭9thの
倚音が使われており、ショパンっぽい音使いですが、
問題は3拍目のB♭7の赤い□で囲った音です。

Bb7の時にミ♭はアボイドであり、
左手のレと僅かにタイミングはずれていますが、
短9度を作っています。

和声的にもポピュラー理論でも「う~ん」となってしまう部分ですが、
以前書いたsus4に関する根強い誤解の記事のような使い方ならまだしも
普通に調性で考えるならばこれは完全にアウトです。


蛾が飛んでいるような不思議な感じを演出するために
わざとぶつけているとか、
そういう効果をラヴェルは狙っているのだと思いますが、
どう考えてもアウトな音を織り交ぜてくるのはなかなか大胆です。


アウトかセーフかギリギリな音使いは
ジャズにおけるアウトサイドやクラシックにも結構ギリギリなのが
結構ありますが、
どちらにしろ近現代に入ってからであり、
1905年作曲のこの曲では結構斬新に思えます。


十二音技法みたいな無調性を狙うならともかく、
ポピュラー理論では100%アウトな音使いですが、
ラヴェルの作品を見ているとほかにも似たような音使いが出てきます。


ラヴェル 弦楽四重奏18小節目

弦楽四重奏の18小節目ではⅤ7であるC7で下でミが鳴っているのに
上でアボイドであるファにジャンプして入り、
ジャンプしてドに去っていきます。


2度音程の旋律ではないので非和声音の原理は適応されず、
アボイドにジャンプして入り、ジャンプして出て行くという
これもポピュラー理論や和声学だと「え~?」という感じですが、
蛾で使われている手法と似ています。


ここだけ切り取って見ると「うーん」という感じですが、
音楽は前後の流れで感じるものですので
この弦楽四重奏は明確な調構造を持っていないこと、
旋法的であること、
ホールトーンやコンビネーデョンオブディミニッシュなどが出てくること、
全曲通してテンション満載のフレーズだらけなことなどが
この不協和を和らげる一因になっていると思います。


そういった観点から考えると綺麗な曲であり、
私個人としてはそんなに気にはならなかったりするのですが、
どうでしょうか。

難しい部分であり、水際ギリギリ、いやむしろアウトかも?
でも流れで見ればセーフなのか…?どうなのこれ…?という迷う部分です。



同じ考えに基づくフレーズ


同じ考えに基づくフレーズを作ったのが上の画像です。


G7の時にドはアボイドですが、
左手のシと右手のドが短9度でアボイドになっています。


ジャンプしてアボイドに入り、ジャンプして出て行くので
経過音や刺繍音などの非和声音として処理も出来ず、
無調楽曲という感じでもなければ
あまり褒められた動きではありません。


速いテンポで淡々と流れていき、
音の強弱や弾き方によって目立たなくのはよくあることですが、
純粋に楽譜だけを見たときには、
少なくとも積極的にやろうとという音使いではないように思えます。


特殊な意図が無い限り
これを積極的に使う作曲家はいないと思いますし、
普通のポップスやロックのボーカル曲ならまず避けるべき音使いです。


ほかにも似たような部分はありますが、
これが中学生や高校生が作った素人の曲ならともかく、
あの大作曲家ラヴェルがやっていることなので、
ミストーンであるはずもありません。


何か明確な意図があるに決まっていると思いますし、
事実、蛾は曲の雰囲気に合っていますし、
弦楽四重奏は主題を維持するために仕方なくという風に解釈することも出来ますが、
当時と今で不協和に関する認識のズレがあることを鑑みても、
ラヴェルの和声に対する柔軟な考えは参考になります。



何処まで上手に外せるか?がまさに音楽の美しさの真骨頂なわけですが、
その点においてギリギリのギリギリまで行っているラヴェルのセンスは
面白いというか、現代人も大いに参考にしてもいいかもしれません。


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ReCycle2.2を購入しました。

テーマ:
前回の記事でReCycleを買うかどうか云々という記事を
書きましたが、結局ReCycleを購入しました。


理由はやはりテンポ検出とスライス数のコントロール、
そしてREX化の際の微調整の問題です。


どうせならこの際手持ちのループに出来そうなものを
Stylusで使えるように数百個単位でREX化しようと思い、
それをやる上でいちいち1小節分のテンポ検出の手作業が面倒だったのと、
スライス部分の微妙なズレを補正するのは
ReCycleなしではやっていく中でかなり面倒くさいということに気づきました。


ReasonでチマチマREX化していたのですが、
やっているうちに上の画像のように微妙にスライス位置が合わなかったり、
小数点以下が微妙に違ってテンポの合わないもの があることに気づき、
端的にまとめると細かい微調整が出来ない点に
「これは面倒くさい…」と思ったわけです。


テンポは小数点第3位まで検出。

どうせ死ぬまで音楽をやるのだし、
テクノ、ハウス、ミニマル、トランス、ブレイクビーツ、
ヒップホップ、ダブステップやEDMなどエレクトロミュージック全般を
作る上で強力なツールなので、
100ドルの割引が生きていたこともあって購入しました。



REX化に際してスライスポイントの増減や微調整、
エンベロープ、トランジェント、4バンドの簡易EQがあり、
Reasonで行うよりも出来ることは多いです。

たくさん行うときに一番便利なのは
ループの正確なテンポがわからないときに
「Bar」の部分に小節数を入れると一発でテンポが出てくるのと
スライス位置の微調整が大きな画面で行えることです。


これで音楽製作の幅がまた一つ広がりました。
オリジナルのループ素材をStylusで使うことでかなり楽しめそうです。

ReasonだけでもREX化は可能ですが、
あくまで簡易的に出来るだけなので、
微調整がしたいならやはりRecycleがあったほうがずっと便利です。


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Propellerheadから「ReCycle」の100ドル引きのメールが来たので、
前々から欲しかったReCycleを買おうかと思い
色々とネットで検索を掛けていたら、
いつの間にか「ReasonでREXファイルが作れる」ようになっていたらしく、
買う前に試してみようと思いやってみました。


しばらくReasonはご無沙汰だったので
全然知らなかった・・・・・。


ReCycle


ReCycleはREXファイルを作ることが出来るソフトで
SpectrasonicsのStylusPropellerheadのReason
あるいは昨今ではDAWに直接ドラッグ&ドロップしても使えるものもあります。

Spectrasonics Stylus


StylusReasonも両方持っているけれど、
あくまでインストール時に入っているループを使うだけだったので、
前々から自分でもREXファイルを作ってみたいと思ってはいました。


オーディオデータをスライスして、
好きな部分をMIDI管理して鳴らすことが出来るようになるので、
(オーディオをMIDI管理してブレイクビーツが簡単にできる)
テクノやダンス系音楽では重宝されてきたソフトです。



自分でドラムパターンやシンセ音などを録音して、
ループ素材として使えるので、
簡単に手順を解説してみたいと思います。


①素材選び

素材は何でもいいのですが、
ずっと「これ何の役に立つの?」と思っていた
JV-2080の拡張ボードに入っているループ音色にしました。

JV-2080

SR-JV80のループ音色

SR-JV80のループ音色はテンポ同期も出来ず、
本当にただ鳴らすだけで、
そのまま使うならループと同じテンポの曲でそのまま使うだけしか
用法がありませんでした。

音は良いのですが、これはハッキリ言って役立たずだったものの
ついにこのループパッチが役立つときが来ました。


②録音と波形編集

まずは普通に録音します。

普通に録音したWAVEデータ


次にちゃんと前後の無音部分をカットし、
耳でループが綺麗に繋がるかどうかチェックして保存します。

無音部分やループが上手く繋がるように波形編集します

ReCycleがあればReCycle上で簡単にできます。
ない場合はこの部分を丁寧に行う必要があります。


③WAVEをREXファイルに変換

やり方はとても簡単でWAVEデータを
Reasonにドラッグ&ドロップし、
波形をダブルクリックするだけです。

波形の上の▼マークがスライスポイント


ダブルクリックすると自動でスライスマークが表示されます。

ReCycleとの違いはこのスライスの細かさを
自分では決められない部分が一番大きいです。
(横にはずらせます)

試してみたのですが、Reason上では変更出来ないようで、
あくまでREXファイルを作る簡易的なソフトという扱いになり、
スライスポイントを任意で決めたいなら
やはりReCycleを買う必要があるみたいです。

もう一つ面倒なのが、
テンポ同期を自分でとらなければいけない点です。


素材のテンポが正確に分かっている場合は
Reasonのテンポと合わせればいいだけですが、
わからない場合は自分で計るか、
テンポ検出ソフトを使う必要があります。

おそらくこの部分もReCycleだと簡単にできるのではないかと思います。

次に波形を右クリックして、
「バウンス」→「クリップをREXループへバウンス」を選択します。

このままReasonのDr.Octo Rexで使うことも出来ますし、
REXファイルとして別途保存して、
Reason以外のソフトで使用することも出来ます。

Dr.Octo Rex

REXファイルとして保存することが出来ました。



②Stylusで使うには

私の場合はStylusを使うことが多いので
一度REXファイルをStylusで使えるように
コンバードする必要があります。

SAGE Converterで変換する

WINDOWSの場合は
「Cドライブ」→「Program File」→「Spectrasonics」→
「SAGE Converter」→「SAGE Converter.exe」で起動します。

出来上がったREXファイルをそのままドラッグ&ドロップするか、
ある程度まとめてフォルダごと変換することも出来ます。

変換後は「User Libraries」の「Converted REX Files」の中に
変換したデータがあります。


ここまで来たらあとは普通のStylusの使い方と同じで、
MIDI管理出来ますので、
テンポがいくつにでも変更出来ますし、
特定の拍にエフェクトを掛けたりも出来ます。


Reason内のDr.Octo RexとStylusは似たようなソフトで、
それぞれに独自の機能がありますが、
個人的にはエフェクトをたくさん使ったり、
ヘンテコな音を作るならReason内のエフェクトデバイスを自由に
ルーティング出来るという点で
Dr.Octo Rexのほうがちょっと有利かなと思っています。
(StylusもChaos DESIGNERやTIME DESIGNERがあるので、一長一短ですが)


私が使っているABILITYまたはSSW8.0の場合は
ABILITYはRewireがなんだかバグ?のような感じで
上手く機能せず(REWIREモードにすると起動に滅茶苦茶時間が掛る、
部分再生が上手くいかないなど)、
SSW8.0の場合はそもそもRewireが未対応なので、
必然的にStylusになりますが、
Rewireが気分良く使えるならReason内で使うのが一番楽かもしれません。

DAWでMIDI管理して使えます。


テクノ、ハウス、ミニマル、トランス、ブレイクビーツ、ヒップホップ、
ダブステップやEDMなど格好いいループがあれば、
これで加工し放題のオリジナルサウンドを作れますのでかなりお勧めです。


ループ素材をそのまま使うとどうしても他者との差違が出にくいですので、
StylusのようにMIDI管理して、オリジナルのビートの組み直すのが
いかにも「オレ音楽製作してるぞ」という感じがして面白いです。



結局のところReCycleを買うメリットはReason7以降を持っているなら
「テンポを自分で検出しなければならないのが面倒」
「スライスポイントを自分で決められない」
の2点以外はDAWと組み合わせて補えるので、
単体で2万円くらい出して
ReCycleを買うかどうかは悩ましいところです。


テンポ検出は「それくらい自分でやるよ」という方も多いと思うので、
どうにもならないのは「スライスポイントを自分で決められない」点だけになります。

どうしても細かい(大きな)スライスポイントで使いたい部分は
面倒ですが、その部分だけ波形を切り出して、
kontaktなどのサンプルプレイヤーで鳴らせばいいので
面倒を厭わなければメリットはなくなります。


私自身もやり方そのものは10年以上前から知っていましたが、
昨今のソフトはループ素材集がよりどりみどりで
「わざわざ自分で作らなくても別に困らない」くらい
恵まれている時代になりましたので、
自分でループ素材を作成するという方は減って来ているかもしれません。


よほど音作りに自信があるか、この手の手法に興味があるかでも無い限り、
他人が作った市販品で十分満足出来るはずです。


しかし「音色」も自分で作ると愛着やそれに関する興味が深く湧いてきますし、
アイデアも広がっていきます。

音源のプリセットに飽きてきた方は
時には自分で作ってみるというのも面白いかもしれません。

スーパーで総菜を買ってくることを「料理」とは呼ばないように
市販のループをただ使うだけでは味気ないというかつまらないというか
少なくとも「音楽製作」ではないような気がするという方は是非挑戦してみて下さい。


悩んでいる間にセール期間が終わってしまいましたが、
とりあえずReCycleを買わなくても使えるということがわかったので、
当面はこれで行こうと思います。


【後日】
その後、ReasonだけでしっかりとREXファイルを作るのは
結構面倒くさいということに気づき、
結局Recycleを購入しました。


後日記事はこちら

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最近図書館で「作曲家別名曲解説ライブラリー 」を借りてきて、
ボチボチ読んでいます。

目的は色々な作曲家の作品をなるべく漏れなく多く知りたいというのと
あとは趣味です。


昔はよく図書館で借りて、色々な曲の足がかりにしてきましたが、
ドビュッシーは大好きなので、
ドビュッシーだけはもう買ってもいいかな?と思うようになりました。
(ドビュッシーは全曲制覇してみたいです)


読んでいて多くの作曲家に共通する点として、
最初からではなく、ある時期から対位法の重要性に気づいて
勉強をするようになった作曲家が比較的多いことです。
(バッハの評価が遅かったというのも関係ありますが…)


例えばベートーヴェンは若い頃はホモホニックな作風で頑張ってきましたが、
だんだんと行き詰まってきて、とうとうスランプに陥り、
これでは駄目だと40代になってから、バッハの対位法を本格的に研究するようになって、
後期になればなるほどベートヴェン作品は対位法趣味になり高度化していきます。


そして対位法によってスランプを抜けて、
弦楽四重奏大フーガや第9あたりは完全に自分の血肉レベルで
使いこなしているように見えます。


モーツァルトも同じく後期になればなるほど対位法的になっていき、
ホモフォニックな曲の多いモーツァルトの音楽も
後期のピアノソナタK.576はかなり対位法的だし、
交響曲41番のジュピターではフーガが出てきます。


ロマン期になると対位法の大切さが理解されたせいなのか、
ブラームスは割と若いうちに対位法の大切さに気づいて
20代から既に勉強を初めており、
ブラームスの作品のあらゆる部分で対位法が見られます、
というよりは対位法なしではブラームスの作品を語ることが難しいくらいです。



もっと後のフランクやブルックナーもかなりきっちり厳格対位法を
学んでいますし、そういった努力はしっかりと作品にフィードバックされています。


かくいう私ですら、100曲から200曲くらいまでは
ポピュラーのメロディー+コード1つという方法や
ホモフォニックな書き方でなんとかやってきましたが、
やはり限界を感じてスランプになり、
ベートーヴェンと同じく、かなり一生懸命対位法を勉強しました。


厳格対位法のみならず学習フーガも一生懸命やりましたが、
過去の大家がそうであったように
対位法をしっかり勉強して良かったと今でも心の底から思います。


思うに多くの作曲を志す人間が通る道なのかなぁと
いろいろな作曲と対位法の関係を見ていくうちに思いました。



つまり最初から対位法の重要性に気がついて真面目に取り組む人は
実は結構少なく、
ある程度成長してから対位法の重要性に気がついて、
やむにやまれぬ必要性から対位法を一生懸命学ぶということです。


色々な方がいるので一概には言えないのはもちろんですが、
私の場合はまさにそうでした。
ベートーヴェンも同じだと思います。


なぜ大事なのかはこのブログでも何度も書いたことがありますが、
他人に言われてやるのではなく、
空腹に耐えかねて食べ物を食べるように、
さらなる自分の成長のためにどうしても必要に駆られて対位法を学ぶという
状態にならないと本当の対位法の大切さや応用法は
ひょっとしたらわからないのかもしれません。



ネットや書籍で対位法に関する情報は簡単に手に入る時代ですが、
空腹を感じたことのない人間に食べ物の大切がわからないように
大金持ちに貧乏のつらさがわからないように、
対位法の大切さも、対位法の技術を持っていないが故の
自分の限界や未熟さに自覚がないうちは
勉強の必要があるのかわからないのかもと思いました。
(私自身がそうでした)


レッスンをしていて今のところ対位法を学習フーガまでやった方はゼロであり、
なかなか本当の意味での対位法の大切を伝えるのは
言葉を尽くしてみるものの、難しいなぁとよく感じます。
(人によっては必要な方もたくさんいらっしゃいますが)


(音楽的な意味で)自分が貧乏だと気づかずに、苦労もしたことない人に、
貧乏の大変さを説いてもなかなか伝わらず、
本当の意味でそれがわかるのは実は自分が(音楽的な意味で)貧乏だと気づいてから、
あるいは苦労するようになってから、
というのが私自身の経験なので、
ある意味において、「別に対位法なんて勉強する必要ないんじゃないの?」
と現時点で感じている方はやる必要がないかも?とも思います。


親の苦労は自分が親にならないとわからないという感じです。



つまり空腹で例えるならばお腹が空いてから物を食べればいいので、
お腹が空くまでは対位法の勉強をせずに
たくさんオリジナル曲を作って経験を積んでいくことの方が
その人にとっては重要なのかもしれません。


その人の音楽性によりますが、
時が来れば否が応でもやりたくなり、
お腹が空いて食べ物を探すように、
対位法を学びたくなるはずです。



そうは言っても「対位法って大事なんでしょ?」と
その大切になんとなく気づいて
勉強なさっている方もたくさんいらっしゃると思います。


それは素晴らしいことですし、無駄にはならないでしょう。
いつか本当に対位法の重要性やそれをもっと高いレベルで身につけないと
自分の壁を破れないときに、若いうちにある程度学んでおけば、
年を取ってからゼロスタートよりもずっと有利なはずです。


私も最近ますます対位法的な趣味になり、
和声法と対位法を上手く組み合わせて作ることに興味が傾いてきました。
人間死ぬまで勉強なので、
もっと勉強したいと思います。


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作曲において大切なようで、
意外と軽んじられたり、人それぞれの考えがある
異名同音についてちょっと考えてみたいと思います。


異名同音は転調などの特別な意図や問題がなければ
「正しく書くべき」というのが私の基本的な姿勢ですが、
それだけでは割り切れない種々の複雑な問題が
過去の大家の作品にたくさん見られます。


現代において作曲をなさる方はみなさんは
それぞれ考え方をお持ちだと思いますが、
私なりのこの問題に関して考察してみたいと思います。


異名同音についてある程度の理解が持てれば
アナリーゼの役にも立ちます。


ここでは過去の大家のいくつか譜面を挙げて考察していきます。


①フレーズの流れを重視

ブルックナー 弦楽五重奏第一楽章 21小節目

上の譜例はブルックナーの弦楽五重奏の抜粋です。

ポピュラーでいうところのAdimコードですが、
(第二ヴィオラのA音が最低音なので)
和声では常に何かのキーのⅤ9の根省と考えます。


チェロの2番目の音が「ソ♭」で
残りは下から上に向かって「
ラ・ド・ド・ファ#」なので
全部で「ソ♭・ラ・ド・ド・ファ#」という音名で、和音を取れます。

鍵盤で押さえればD7(♭9)F
7(♭9)A♭7(♭9)C7(♭9)のどれかの
根省になりますが、
D7(♭9)と取ればチェロのソ♭がおかしくなります。
D7ならファ#と書かなければいけませんし、
実際第一ヴァイオリンはファ#で書かれているのに、
なぜかチェロではソ♭です。

F7(♭9)だとチェロのソ♭が♭9thになりますが、
今度は
第一ヴァイオリンのファ#がおかしくなります。

ほか
C7(♭9)でもA♭7(♭9)でも
正しく異名同音を書くという観点からは間違っており、
ブルックナー的にはチェロのフレーズを「
ファ#→ファ」だと
下行半音階として適切ではないので
「ソ♭→ファ」と書き換えたのか?と推測します。


和音の異名同音を無視して良いなら、
弦楽器の習わしに即した書き方だと感じます。


第一ヴァイオリンはファ#の後にソが続くので、
一般的には上行フレーズとしては「♭ソ→ソ」と書くより、
「ファ#→ソ」と書くのが習わしですし、
弦楽器ならファ#とソ♭は違う音ですから、
なおさらそうするべきです。



つまり減七の和音(dimコード)であれば、
本当ならⅤ9の根省だけれど、ブルックナーは
異名同音はフレーズによって臨機応変に書いて良いと
思っていると考えているように感じます。


少なくとも
Ⅴ9の根省における正しい異名同音表記はしておらず、
「フレーズの流れを意識した表記」のほうが
「異名同音を正しく書くこと」よりも重要視されています。


つまり
減七の和音など状況によっては
必ずしも異名同音を正しく書く必要はないと
ブルックナーは考えていたように感じます。



②保留などどうしようもない場合

ドビュッシー 牧神の午後への前奏曲


ドビュッシーの牧神の午後への前奏曲に出てくる異名同音ですが、
同じ音を保留するときには
本来は正しく書くべきだけれども、
異名同音で書かないとフレーズが続かないという場合があります。


A#7のコードはラ#・ド*ミ#・ソ#で、
E7のコードはミ・ソ#・シ・レですが、
牧神の例ではレとド*が異名同音になるため、
A#7の部分でバスがレの♮になっています。

A#7としての和音の書き方はおかしいですが、
後ろの偶成和音のことを考えるとこれしかないわけで、
こういう場合は異名同音は仕方ないと考えることが出来ます。



③奏者が見やすいように配慮


リスト リゴレット パラフレーズ


一番多い異名同音を正しく書かない理由は
「単純に見にくいから」です。


リストのリゴレットパラフレーズの最後のほうで
ナポリの和音→主音上のⅤという和声進行が出てきますが、
KEY-DbなのでナポリはEbbM7/Dbになりますが、
ダブルフラットが読みにくいからという理由で
EbbM7をDM7に変えています。


こういった異名同音の正しくない表記はあらゆる曲に散見されます。
誰だってダブルシャープやダブルフラットは見にくいでしょうし、
特に子供向けの曲には非常に多いです。



このあたりは作曲家によって考えが異なり、
ブラームスはダブルフラットだろうが厳密に書く例が見られますし、
フランクなどはかなり適当です。


前述のようにちゃんと理由があれば、異名同音は正しくなくても良いと思いますが、
逆に言えば明確な理由がなければ正しく書くべきという風に私は思います。


個人的にはブラームス同様にかなり厳密に書く方ですが、
色々見ているうちに別に正しくなくてもいいのかな?と思うようになったので
記事を書いてみました。


勉強中の方の異名同音の表記の参考になれば幸いです。


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ドビュッシーの夢はなんとなく旋法っぽいです。

ドビュッシー=旋法を使うというイメージも強いので
よく夢も旋法かと間違う方もいらっしゃる。
(実際にはラヴェルの方がずっと旋法的ではありますが…)



楽譜はこちらです。


コード付けをするなら(取りにくいですが)、
KEY-Fで
Gm C7 Gm Fというスタートの仕方なので、
Ⅱm7 Ⅴ7 Ⅱm7 Ⅰ
Gドリアンスタートだからドリアンモードと感じる方もいらっしゃり、
Gmの部分も長いのでその気持ちもわかります。



ディグリーとしては
ⅡmⅤ7Ⅱm
なのでⅡm-Ⅴの後にⅡmが出てきてⅠに進み、
冒頭部分は完全にFメジャーキーと私としては解釈したいです。


ⅡーⅤーⅠというカデンツも見られますし、
必ずしもそのKEYのⅠ度から和音がスタートするとは限らないからです。


ただ全体的には結構曖昧で、
そもそもにして最初の左手のアルペジオが
右手の旋律の音次第で別のコードに取れるような音になっているため、
解釈が分かれそうな感じではあります。


ローマ留学の後の作品なので、
既に旋法を復活させるというテクニックを
使い始めている時期ですし、
わざと曖昧に書いているのかもしれません。



夢のようなロマンチックな曲ですが、
どうも作曲者本人的には不満だったらしく、
「駆け出しの頃に、経済的な苦境から必要に迫られて書いた曲」といい、
なかなか出版はしようとしなかったようです。


ドビュッシーらしさを十分に表した曲というには
ちょっと単純なので、本人もその部分が気になっていたのかもしれません。



彼は1918年(55歳)に直腸癌で亡くなっていますが、
死ぬ3年前に冬の薪代に困った彼は
「もう家のない子供たちのクリスマス」を書くなど
ドビュッシーは生前、お金に困って自筆譜を欲しがるファンのために
曲を二束三文で書くことがよくあり、
生活費欲しさに書いた曲がいくつか残っています。
(だからといって作品の価値が損なわれるわけではありませんが…)


本人の自己評価に反して、
ドビュッシーの作品の中では人気作品であり、
演奏されることも多く、
そのままBGMで使えそうな世界観なので私も好きです。







作品の高度さという意味では牧神や海や夜想曲の方が
何倍も何十倍も高度ですが、
芸術は趣味嗜好の問題を別とすれば
すべからく受け取る側の知性の発達度合いによって
評価されるという良い例であり、
音楽的に高度だからといって人気が出るかどうかというと
それがまた別問題であり、
そのことにどう取り組みべきか?ということを考えさせられます。



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