バッハの「チェンバロ組曲第1番」を軽くアナリーゼしてみたいと思います。



チェンバロ協奏曲 第1番 ニ短調 BWV.1052


IMSLPはこちら


バッハの作品の中で知名度の高い作品の一つであり、
バロック期の短調の和声法、協奏曲のスタイルや形式などを
知るための一つのサンプルとして見てみましょう。


今回もいつ作られたとか、エピソード云々は横に置いておき、
純粋に音楽だけを考えてみます。


焦点はバロック期の短調の和声法への理解、
バッハの和声的対位法ともいうべき技法、
現代のBGM制作でバロック期の室内楽を作れるようになるための
ヒントなどを得ることです。


ブログ内の僅かな記事のみでそれらを習得するのは
到底無理ですが、どなたかの一助になれば幸いです。


1~4小節目


冒頭は全員ユニゾンで開始されます。
バッハの旋律は単旋律であっても和声を連想させる形になっている場合が多く、
一応コードネームを付けてみました。

もっと細かく取ることも可能ですが、単旋律なので大雑把に
ⅠーⅤという風に解釈しています。


5~8小節目

毎度のことですが、
上にコードネームを下にディグリー(あるいは和声の記号など)を書いていきます。


6小節目にカデンツっぽい動きがあり、
単旋律ではありますが、
明らかにDGmADmEADm
という副属7を伴うカデンツの動きがあります。


もしこの単旋律に和音付けるとしたら、
バロックの流儀ではこれ以外はないでしょう。


5小節目の2拍目まではドミナントコードで
メロディックマイナーの動きをしていますが、
3拍目から「ラシ♭ドードレミ♭ー」という風に
ドがナチュラルになり、ミが♭しています。


これは次のDに対するⅡーⅤのⅡであり、
ⅣmであるGmコードを仮のⅠと見立てた、
ⅡーⅤです。

単旋律ですが、もしコードネームを付けるならAm7-5で、
コードスケールはロクリアンになります。

KEY-GmのⅡm7-5→Ⅴ7→Ⅰmである
Am7-5D7Gmですね。


単旋律なのでD7の7thは楽譜にはありませんが、
バッハの頭の中ではこういう和声の動きです。

そのあとGmADm(Ⅳm→Ⅴ→Ⅰm)、
EADm(Ⅱ→Ⅴ→Ⅰm)と2回S→D→Tの動きを繰り返して、
チェンバロが主役の部分が始まります。


6小節目からは主音の上でⅠm→Ⅴを繰り返す
典型的なバロック、古典に見られる様式です。


9~12小節目


9~12小節目も主音のペダル上でのⅠmとⅤの繰り返しで
特筆すべき点はありません。


あえて言うのであれば、
ナチュラルマイナー、ハーモニックマイナー、メロディックマイナーの
3種類のマイナースケールをバッハがどう使い分けているかです。

よく教科書などには上行はメロディックマイナー、
下行はナチュラルマイナーなどと書かれていますが、
バッハはケースバイケースで
下行ではナチュラルマイナーとメロディックマイナーを使い分けています。


下行のメロディックマイナーは
あくまでⅤ7という大きな和声の中での
スケールの動きでそうする
という意味であって、
1音ずつコードが変わっていく時に
メロディックマイナーの下行を使うのは極めて例外的です。


バッハのCD全集は155枚組もあり、
バッハの曲をすべて聞いて分析したわけではないので、
もしかしたら例外があるかもしれませんが、
これはバロック期における一つの慣例として考えましょう。


下行のメロディックマイナースケールに
一つ一つ別の和声付けを行った多彩な技法が一般的になるには
後期ロマン派まで待たねばなりません。


逆に上行では2度上行するならばナチュラルマイナーが使われることは
極めて稀であり、ほとんどの場合導音を伴ったメロディックマイナー、
あるいはワザと増2度を出したハーモニックマイナーなどになります。


それでも探せば上行でナチュラルマイナーが用いられている例が
極々稀にありますが、これは本当に例外中の例外と考えるべきでしょう。


和声付けは主にⅠmかⅤ7においてですが、
バッハのどのスコアを見ても上行では導音を伴っており、
これはバッハのみに言えることではなくて、
同時代の作曲家全員の共通と言えます。



ここまで僅か12小節しか見ていませんが、
このようにバッハの時代の和声法は
単純にコードネームを付けてディグリーで解釈するだけなら
甚だ簡単であり、ポピュラーや和声の勉強を
ある程度行った現代人から見れば
コードネームやディグリーを付けるまでもなく、
ほとんど見ただけでわかるほど簡単なものが多いです。


基本的に和声の基本はドミナントモーション、並びに4度進行であり、
正規の解決をしないドミナントモーションはほとんど登場しません。


単純に「和声だけ」を見るのであれば極めて簡単なのが
バッハの時代の和声法の特徴です。


むしろバッハの分析において大切なのは
「バッハ個人の技法」と「バロック時代の様々な様式」、
そして「対位法の技術」への理解です。


例えばバロック時代のメロディーについて考えてみますと
現代人がこのチェンバロソナタのメロディーを聞いて
おそらく多くの人が単純な作られ方だと感じると思いますが、
バッハ、ヘンデル、ヴィヴァルディーなどバロック期の大家たちの
短調における旋律の使い方は全くその通りで
どれも似たり寄ったりの主題ばかりです。


和声付けやスケールの使用法が限定されていた時代だったため
仕方のないことではありますが、
これは当時旋律の独創性がまだ求められていない時代であった
ということを意味しており、
バッハの様式を学ぶには旋律の作られ方も同様に分析する必要があります。


長調と短調それぞれの和声進行、
旋律の作られ方、形式、リズム、
対位法的な要素、主題展開の技法、転調の領域と方法、etc…
それらを見ていくことによって徐々にバロック時代の
特徴が掴めてきます。


アナリーゼが出来たら自分で真似て作ってみるのもとても大切です。

正しく特徴を掴めているのであれば、
物真似と同じで、真似が出来るはずですので、
作曲志望の方は挑戦してみると良いかもしれません。


その過程で疑問がたくさん出てくると思いますので、
それらのケースバイケースの疑問の答えを、
再度バッハらの譜面に求めることによって、
より当時のやり方が見えてきます。

そういった練習を繰りかえているうちに段々と掴めるようになってくるはずです。

また機会があれば続きか、別の曲を取り上げてみたいと思います。

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