前回の記事はこちらです。
IMSLPの楽譜や動画へのリンクは第1回です。
まとめリストはこちらです。
///////////////////////////////
18小節目から見ていきましょう。
まず18、19小節目は前の小節のB♭7が
Ⅴ7の裏である♭Ⅱ7となり、
Am7にドミナントモーションしてきます。
オーボエ→クラリネット→再びオーボエを受け継がれてきた旋律は
少し上に移旋されてフルートが最後に受け継ぎます。
「ミーードーミドラーシラファ#ーラー」とフレーズを奏でて、
バソンやホルンが冒頭の動機のリズムで伴奏をしています。
フルートの旋律はどんどん音程が下がっていくものの、
全く同じリズムですね。
典型的なドビュッシーの作法です。
コード部分にAm6(D/A)とも取れると書いてありますが、
最初の2拍はバスがラ、
2ndヴァイオリンとヴィオラはラドミ、
ホルンがミーファ#-、
フルートがミーードーミドと動いており、
これだけを全部鑑みればAm6ですが、
チェロのレラという動きはレを11thと取るか、
あるいはDを根音と取ってD/Aと取るか悩ましい部分です。
D/Aと取るならば正確なコードネームは
D7(9)/Aとなります。
(どっちとっても理屈の上では正しいです)
ポピュラーやジャズではテンションは上の方にくるという風に
初心者向けの本には書いてあることが多いので、
11thがチェロの低い部分で出てくるとD/Aのように見えるかもしれませんが、
昨今のバークリーの教授が出版するようなATN系の書籍では
テンションは内部に埋まっている例はたくさんあり、
最新のジャズ音楽でも中に埋まっているテンションボイシングはたくさんあります。
ドビュッシーは既に牧神の時代から
かなり和声の内部の下にテンションを持ってくるボイシングを好んでおり、
「11thがこんなに下にあるのにAm6と取るのは苦しくないか?」
と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、
それは「テンションが和声の上部にあるはず」という
考えから来るものだと思いますので、
私としてはほかのドビュッシーの作品群と見比べても
Am6(11)と取りたいです。
もちろんD7(9)/Aでも正解です。
3拍目からもあやふやな感じではありますが、
フルートの旋律の動きや1stヴァイオリンのレの音などを考えると
ここから完全にD7(9)/Aのように聞こえます。
ひょっとしたらドビュッシーはわざとボヤかしているのかもしれませんが、
疑義を挟むあやふやな音使いであり、
それがドビュッシーらしさ、つまり古典和声の機能・解決などを
ガン無視した和声法なので、
無理に古典和声に当てはめずにドビュッシーなりの和声法として受け入れるべきです。
楽譜にはコードスケールをメロディックマイナーと書きましたが、
18、19小節目で実際に使われている音は
「ラシドレミファ#」の6音のみであり、
ド#が出てこないため、
むしろドリアンスケールっぽく私の耳には聞こえてきます。
ソならドリアンスケール、ソ#ならメロディックマイナーですが、
敢えてこの音を避けることで
旋法(ドリアン)っぽい響きをドビュッシーが狙っているのは明白です。
20小節目からはカデンツっぽい動きになり、
トゥッティーっぽい(トゥッティーではないですが)感じで
やや盛り上がります。
コード表記はスラッシュ表記と正体表記と2つ書きました。
Am7→Dm/G→Em/F→F/E→Dm→Em/A→C→Dm→Em/A→Cという
スラッシュ表記は全体が弾いている音を
和音とバスを分離して表記したもので、
ポピュラーでよく見られる表記です。
いわゆる並行和音であり、
連続5度の連続となります。
ドビュッシーの分析でいまさら古典和声云々を述べるのは
やや的外れな気もしますが、
いわゆる古典和声の安定(トニック)、不安定(ドミナント)の原則が
無視されているのがドビュッシーのハーモニーの世界であり、
そもそも古典和声の音世界が無視されているので、
当然古典和声の規則も無視されています。
こういった並行和音やそのスラッシュコードの使い方は
現代の歌もののヒットソングで登場するような
そのままの使い方です。
スラッシュ表記を書いた理由は実際にドビュッシーがこういう風に
オーケストレーションしているからですが、
分析としては正体を書くべきですので、
Am7→G7sus4(9)→FM7(9)→E7sus4(♭9)→Dm→Am7(9)→C→Dm→Am7(9)→C
と書くべきでしょう。
元のコードがなんだかわからないスラッシュは
演奏者さんには親切ですが、
分析するときには不適切です。
例えばE/Fというコードがあった場合、
これは鍵盤奏者にはとても親切な表記で、
右手でミソ#シ、左手でファを弾けばOKです。
ではFルートで見るとなんというコード表記になり、
自分で応用するときに
コードスケールはどうなるでしょうか?
ミがありますのでFM7なのは確定となり、
シは#11thですが、
ソ#は何でしょうか?
音程だけを見るなら#9thとなり、
E/FというコードはFM7(#9,#11)という表記になります。
普通、作曲家の頭にあるのは
E/FではなくFM7(#9,#11)であり、
コードスケールはリディアン#2と考えて使うのが一般的です。
ディグリーもちゃんと根音を明確にしたほうが
分析のときに把握しやすいです。
このように分析時は正体の方を常に書いたほうが
自分にとって楽が出来るのでお勧めです。
このような手法はドビュッシーにも多く見られる音使いですが、
常に正体を見破れるようになりましょう。
肝心のスコアですが、テンションが複雑であるものの、
Ⅰm7→♭Ⅶ→♭Ⅵ→Ⅴ→Ⅳm→Ⅰm7→♭Ⅲ→Ⅳm→Ⅰm7→♭Ⅲと
ディグリーに直すととてもシンプルで、
Ⅰm7→♭Ⅶ→♭Ⅵ→Ⅴ→Ⅳm→Ⅰm7→みたいな進行は
普通に現代の歌ものにもたくさん存在しますね。
オケスコアだと上手く音が把握出来ないという方も
いらっしゃると思うのでピアノに直してみました。
20~22小節目のピアノリダクション
オクターブ重複などを除いて、極限までシンプルに
骨格だけを抜き出しています。
是非ピアノで弾いてみて下さい。
そして出来るならこのピアノリダクションされた和声の骨格と
オーケストラスコアを見比べて、
どのように拡大配分され、
どの声部がどの楽器に割り当てられているのかを見てみましょう。
右手だけを見るならば(左手を無視して)、
C→Dm→C→Dm→Em→F→Dm/F→Em→Cという基本形
の並行を主体とした和声付けです。
リズムは冒頭の主題のリズムなのである種の展開・変奏とも取れますね。
右手だけで見ないで左手のバスありきで見ると、
コードはほとんどポップスのスラッシュコードのようになります。
Am7→Cという進行が平行調であるKEY-Cの解決のようにも聞こえます。
これは古典的なドミナントモーションを意図的に避けている
近代フランスに多い終止のバリエーションの一つです。
KEY-Cで見れば一応第7音である(導音ではない)シが登場していますが、
Am→Cという進行はトニックの代理和音から真正のトニックへ向かう進行であり、
ふんわりした終止感が得られています。
こういった古典的なドミナント→トニックというありきたりな終止を避けるために
近代フランスの作曲家がどういった努力をしてきたのかは
フォーレあたりから下って見てみると色々なバリエーションがあって面白いです。
フォーレの作品はその時代の色々な技法の折衷案をとっているように
私には聞こえますが、ある意味、フォーレは玉虫色でありつつも、
それまでのロマン的な音楽とドビュッシーやラヴェルなどへの
過渡期と言える響きがたくさんあるので、
ドビュッシーやラヴェルとその前の世代であるフォーレの関係を見てみるのも
勉強になります。
IMSLPの楽譜や動画へのリンクは第1回です。
まとめリストはこちらです。
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18小節目から見ていきましょう。
まず18、19小節目は前の小節のB♭7が
Ⅴ7の裏である♭Ⅱ7となり、
Am7にドミナントモーションしてきます。
オーボエ→クラリネット→再びオーボエを受け継がれてきた旋律は
少し上に移旋されてフルートが最後に受け継ぎます。
「ミーードーミドラーシラファ#ーラー」とフレーズを奏でて、
バソンやホルンが冒頭の動機のリズムで伴奏をしています。
フルートの旋律はどんどん音程が下がっていくものの、
全く同じリズムですね。
典型的なドビュッシーの作法です。
コード部分にAm6(D/A)とも取れると書いてありますが、
最初の2拍はバスがラ、
2ndヴァイオリンとヴィオラはラドミ、
ホルンがミーファ#-、
フルートがミーードーミドと動いており、
これだけを全部鑑みればAm6ですが、
チェロのレラという動きはレを11thと取るか、
あるいはDを根音と取ってD/Aと取るか悩ましい部分です。
D/Aと取るならば正確なコードネームは
D7(9)/Aとなります。
(どっちとっても理屈の上では正しいです)
ポピュラーやジャズではテンションは上の方にくるという風に
初心者向けの本には書いてあることが多いので、
11thがチェロの低い部分で出てくるとD/Aのように見えるかもしれませんが、
昨今のバークリーの教授が出版するようなATN系の書籍では
テンションは内部に埋まっている例はたくさんあり、
最新のジャズ音楽でも中に埋まっているテンションボイシングはたくさんあります。
ドビュッシーは既に牧神の時代から
かなり和声の内部の下にテンションを持ってくるボイシングを好んでおり、
「11thがこんなに下にあるのにAm6と取るのは苦しくないか?」
と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、
それは「テンションが和声の上部にあるはず」という
考えから来るものだと思いますので、
私としてはほかのドビュッシーの作品群と見比べても
Am6(11)と取りたいです。
もちろんD7(9)/Aでも正解です。
3拍目からもあやふやな感じではありますが、
フルートの旋律の動きや1stヴァイオリンのレの音などを考えると
ここから完全にD7(9)/Aのように聞こえます。
ひょっとしたらドビュッシーはわざとボヤかしているのかもしれませんが、
疑義を挟むあやふやな音使いであり、
それがドビュッシーらしさ、つまり古典和声の機能・解決などを
ガン無視した和声法なので、
無理に古典和声に当てはめずにドビュッシーなりの和声法として受け入れるべきです。
楽譜にはコードスケールをメロディックマイナーと書きましたが、
18、19小節目で実際に使われている音は
「ラシドレミファ#」の6音のみであり、
ド#が出てこないため、
むしろドリアンスケールっぽく私の耳には聞こえてきます。
ソならドリアンスケール、ソ#ならメロディックマイナーですが、
敢えてこの音を避けることで
旋法(ドリアン)っぽい響きをドビュッシーが狙っているのは明白です。
20小節目からはカデンツっぽい動きになり、
トゥッティーっぽい(トゥッティーではないですが)感じで
やや盛り上がります。
コード表記はスラッシュ表記と正体表記と2つ書きました。
Am7→Dm/G→Em/F→F/E→Dm→Em/A→C→Dm→Em/A→Cという
スラッシュ表記は全体が弾いている音を
和音とバスを分離して表記したもので、
ポピュラーでよく見られる表記です。
いわゆる並行和音であり、
連続5度の連続となります。
ドビュッシーの分析でいまさら古典和声云々を述べるのは
やや的外れな気もしますが、
いわゆる古典和声の安定(トニック)、不安定(ドミナント)の原則が
無視されているのがドビュッシーのハーモニーの世界であり、
そもそも古典和声の音世界が無視されているので、
当然古典和声の規則も無視されています。
こういった並行和音やそのスラッシュコードの使い方は
現代の歌もののヒットソングで登場するような
そのままの使い方です。
スラッシュ表記を書いた理由は実際にドビュッシーがこういう風に
オーケストレーションしているからですが、
分析としては正体を書くべきですので、
Am7→G7sus4(9)→FM7(9)→E7sus4(♭9)→Dm→Am7(9)→C→Dm→Am7(9)→C
と書くべきでしょう。
元のコードがなんだかわからないスラッシュは
演奏者さんには親切ですが、
分析するときには不適切です。
例えばE/Fというコードがあった場合、
これは鍵盤奏者にはとても親切な表記で、
右手でミソ#シ、左手でファを弾けばOKです。
ではFルートで見るとなんというコード表記になり、
自分で応用するときに
コードスケールはどうなるでしょうか?
ミがありますのでFM7なのは確定となり、
シは#11thですが、
ソ#は何でしょうか?
音程だけを見るなら#9thとなり、
E/FというコードはFM7(#9,#11)という表記になります。
普通、作曲家の頭にあるのは
E/FではなくFM7(#9,#11)であり、
コードスケールはリディアン#2と考えて使うのが一般的です。
ディグリーもちゃんと根音を明確にしたほうが
分析のときに把握しやすいです。
このように分析時は正体の方を常に書いたほうが
自分にとって楽が出来るのでお勧めです。
このような手法はドビュッシーにも多く見られる音使いですが、
常に正体を見破れるようになりましょう。
肝心のスコアですが、テンションが複雑であるものの、
Ⅰm7→♭Ⅶ→♭Ⅵ→Ⅴ→Ⅳm→Ⅰm7→♭Ⅲ→Ⅳm→Ⅰm7→♭Ⅲと
ディグリーに直すととてもシンプルで、
Ⅰm7→♭Ⅶ→♭Ⅵ→Ⅴ→Ⅳm→Ⅰm7→みたいな進行は
普通に現代の歌ものにもたくさん存在しますね。
オケスコアだと上手く音が把握出来ないという方も
いらっしゃると思うのでピアノに直してみました。
20~22小節目のピアノリダクション
オクターブ重複などを除いて、極限までシンプルに
骨格だけを抜き出しています。
是非ピアノで弾いてみて下さい。
そして出来るならこのピアノリダクションされた和声の骨格と
オーケストラスコアを見比べて、
どのように拡大配分され、
どの声部がどの楽器に割り当てられているのかを見てみましょう。
右手だけを見るならば(左手を無視して)、
C→Dm→C→Dm→Em→F→Dm/F→Em→Cという基本形
の並行を主体とした和声付けです。
リズムは冒頭の主題のリズムなのである種の展開・変奏とも取れますね。
右手だけで見ないで左手のバスありきで見ると、
コードはほとんどポップスのスラッシュコードのようになります。
Am7→Cという進行が平行調であるKEY-Cの解決のようにも聞こえます。
これは古典的なドミナントモーションを意図的に避けている
近代フランスに多い終止のバリエーションの一つです。
KEY-Cで見れば一応第7音である(導音ではない)シが登場していますが、
Am→Cという進行はトニックの代理和音から真正のトニックへ向かう進行であり、
ふんわりした終止感が得られています。
こういった古典的なドミナント→トニックというありきたりな終止を避けるために
近代フランスの作曲家がどういった努力をしてきたのかは
フォーレあたりから下って見てみると色々なバリエーションがあって面白いです。
フォーレの作品はその時代の色々な技法の折衷案をとっているように
私には聞こえますが、ある意味、フォーレは玉虫色でありつつも、
それまでのロマン的な音楽とドビュッシーやラヴェルなどへの
過渡期と言える響きがたくさんあるので、
ドビュッシーやラヴェルとその前の世代であるフォーレの関係を見てみるのも
勉強になります。
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作曲・DTMの個人レッスンの生徒を募集しています。
このブログの書き主の自宅&skypeでマンツーマンレッスンをしています。
(専門学校での講師経験があります)
詳しくは公式サイトをどうぞ。
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