和声についての雑感。

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最近はぼちぼち色々な曲の分析をしているのですが、
ふと思うのはクラシック和声の変遷において作曲家が明確に
ハーモニックマイナーやメロディックマイナー、あるいはもっと発展的な
ハーモニックメジャーやそれが以外の音階と
その出身キーを意識しだしたのはいつ頃なのか?、
そして誰がどうやって発見したのか?と疑問に思うことがよくあります。


多くの方がご存じの通り、和声学にはポピュラー理論のような
コードスケールは存在せずに、すべて転位と変位で考えます。


メロディックマイナーの上行と下行で音が異なるのはその典型で、
古典和声の作品を見ていると、
確実に単純に転位と変位で解釈している、
というよりはそれ以外に解釈の仕方が無い和声がたくさん見受けられます。


Ⅴの和音の上方変位などはポピュラー理論だと
適合するコードスケールは存在しませんが、
古典以降、時代が下るに連れて、
段々と作曲家たちは転位と変位という発想だけでなく、
後期ロマン派の作曲たちは音階とその出身キーを明確に意識して
音を使うようになっていっていると感じることが多々あります。



ドビュッシー ペレ
スとメリザンド スコアマーク⑩の部分



例えばドビュッシーのペレスとメリザンドですが、
ドミナントsus4におけるオルタードテンションコードが登場します。
(上の画像参照)


○7sus4(♭9,♭13)というシンボルですので、
使用コードスケールはポピュラーでいうところの
フリジアンになります。


今の日本で音楽を勉強している方の多くは、
こういう音使いをジャズ・ポピュラー理論で最初に触れることが多いと思うのですが、
ジャズ誕生以前の今から100年以上前の作品に既にこういう音使いが存在し、
(これ以外の部分もたくさん見た上で思うのですが)
明らかに「その和音が何のキーの何番目の和音なのか?」を明確に
理解した上で音を使っているとしか思えない箇所がたくさん存在します。


私が知りうる限りジャズでこういった音使いをするようになったのは
ビバップ期か、それ以降(1940年以降あたり?~)であり、
ペレアスとメリザンドの作曲は(1893年~1901年)です。



ラヴェル クープランの墓 フォルラーヌ冒頭

こちらはラヴェルのクープランの墓のフォルラーヌですが、
やはり同じくドミナントsus4でフリジアンスケールを使用しています。
(複雑な和声ではありますが…)

ホ短調におけるⅤ7の半終止で
ドミナントsus4コードなのに、♭9th(vn1)と#9th(Cor.A)が出てきていますが、
これはフリジアン以外の解釈方法がありません。


スパ8とも解釈出来なくもないですが、
第3音は意図的に避けられて、
sus4専用のコードスケール、つまりフリジアンスケールになっています。


別の箇所では○7sus4(♭9,13)でドリアン♭2スケールを使っている箇所もあり、
明確にコードスケールが意識されています。



彼らはそれをコードスケールとは呼ばずに、
単純に出身キーを明確にした上で音を使っているのでしょうが、
考え方としてはポピュラー理論と全く同じになります。


もちろんすべての和音は独立だろうが、偶成だろうが、
和音である以上出身キーを必ず持っているはずであり、
(持っていないものもありますが)
ロマン初期の頃はその調域は狭いものの、
明らかに調性を意識した音は既に見られます。


もっと後の時代の作曲家たちが
ドミナントsus4でフリジアンやドリアン♭2を使ったり、
ドリアン#4やリディアン#2、あるいはハーモニックメジャーを使うに当たって
一体どのようにしてこういった和声の発想に至ったのかはとても興味があります。


リストには既にハーモニックメジャーを使った音使いがありますし、
もっと前の時代の作曲家の作品にも見いだすことが出来ますが、
転位と変位で考えるのが和声の基本でありながら、
その実、かなり明確に出身キーを作曲家は意識してきたようです。


転位と変位で考えるとは言いますが、
たしかに出身キーが存在しない音階もあるにはありますが、
ロマンの初期辺りから既にこの考え方はあり、
和声ありきで、転位と変位によって新しい音階が生まれつつ、
逆に音階ありきで、新しい和声が生まれてきたようにも感じます。


古典時代の終わり辺り以降の作曲家たちに、
具体的には偶成和音や借用和音が発達した時代の作曲家たちにとって
両者は不可分だったのだと思います。


音楽理論が一通り出そろった現代において、
古典、ロマン、近代、現代とあらゆる曲に触れることで
音楽がどのように進歩してきたかに私たちは客観的に触れることが出来ますが、
最初にこういう音使いをした作曲家は「勇気があるなぁ」とか
「当時は叩かれたんだろうなぁ」と思ったりしつつ、
その発展的な発想に驚きます。


現代人である私たちはこういった音使いに関して何の疑問もなく
受け入れることが出来ますし、
また応用することも容易で、
実際にポップスやアニソンにもこういう音使いは出てきます。


譜例で出したドミナントsus4のフリジアンスケールの用法も
誰からも何も教わらずによくこれを使おうと思ったなぁと感心します。
何処でこういう着想を得て、
どういう理屈でこういう音使いをしようと思ったのでしょうか。


もちろん「ひらめき」の一言で済ませてしまうことも出来ますが、
その背景には明確で、的確で、堅固な理論的土台があり、
「適当にやったら上手く行った」とはとても言えない、
入念な使われ方をしているわけで、
最初にやった人(多分ドビュッシー?)の独創性に驚くと共に、
どういう歴史的な背景でこのように至ったのかに興味が湧きます。
過去を知ることで未来もまた知ることが出来るからです。


少なくともそのヒントはたくさん隠されています。

人間たちの進歩の歴史を知ることで、
これからの歴史がどうなっていくのかを考えるヒントにもなってきます。


最後までお読み頂き有り難う御座いました。


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