音楽の美しさはどこまで音を綺麗に外せるかが
一つの大きなポイントですが、
ラヴェルを例にとってこの部分に着目してみたいと思います。


アボイドをどう使うか?が作曲家の腕の見せ所であり
多分に個性に繋がる部分ではありますが、
ラヴェルのスコアを見ていると
「うーん、これありか…?」と思える部分がたまに出てきます。



ピアノ組曲「鏡」より蛾(Noctuelles)の冒頭

ラヴェル30歳のときの作品で、
後の作品群と比べるとあんまりラヴェルらしくない部分があるというか、
実験的にも感じられる作品であり、
蛾とか夜蛾と訳されるピアノ曲ですが、
「??」と思う部分があります。




問題の部分(楽譜の部分)は冒頭です。

速いパッセージであり、
即興的且つ、古典的な調構造でもないのですが、
アナリーゼを行うと3拍目のBb7の部分の右手の音がぶつかっています。


旋律音の分析を書いてみました。(クリックで拡大)

それぞれのドミナントコードで9thテンションに向かう♭9thの
倚音が使われており、ショパンっぽい音使いですが、
問題は3拍目のB♭7の赤い□で囲った音です。

Bb7の時にミ♭はアボイドであり、
左手のレと僅かにタイミングはずれていますが、
短9度を作っています。

和声的にもポピュラー理論でも「う~ん」となってしまう部分ですが、
以前書いたsus4に関する根強い誤解の記事のような使い方ならまだしも
普通に調性で考えるならばこれは完全にアウトです。


蛾が飛んでいるような不思議な感じを演出するために
わざとぶつけているとか、
そういう効果をラヴェルは狙っているのだと思いますが、
どう考えてもアウトな音を織り交ぜてくるのはなかなか大胆です。


アウトかセーフかギリギリな音使いは
ジャズにおけるアウトサイドやクラシックにも結構ギリギリなのが
結構ありますが、
どちらにしろ近現代に入ってからであり、
1905年作曲のこの曲では結構斬新に思えます。


十二音技法みたいな無調性を狙うならともかく、
ポピュラー理論では100%アウトな音使いですが、
ラヴェルの作品を見ているとほかにも似たような音使いが出てきます。


ラヴェル 弦楽四重奏18小節目

弦楽四重奏の18小節目ではⅤ7であるC7で下でミが鳴っているのに
上でアボイドであるファにジャンプして入り、
ジャンプしてドに去っていきます。


2度音程の旋律ではないので非和声音の原理は適応されず、
アボイドにジャンプして入り、ジャンプして出て行くという
これもポピュラー理論や和声学だと「え~?」という感じですが、
蛾で使われている手法と似ています。


ここだけ切り取って見ると「うーん」という感じですが、
音楽は前後の流れで感じるものですので
この弦楽四重奏は明確な調構造を持っていないこと、
旋法的であること、
ホールトーンやコンビネーデョンオブディミニッシュなどが出てくること、
全曲通してテンション満載のフレーズだらけなことなどが
この不協和を和らげる一因になっていると思います。


そういった観点から考えると綺麗な曲であり、
私個人としてはそんなに気にはならなかったりするのですが、
どうでしょうか。

難しい部分であり、水際ギリギリ、いやむしろアウトかも?
でも流れで見ればセーフなのか…?どうなのこれ…?という迷う部分です。



同じ考えに基づくフレーズ


同じ考えに基づくフレーズを作ったのが上の画像です。


G7の時にドはアボイドですが、
左手のシと右手のドが短9度でアボイドになっています。


ジャンプしてアボイドに入り、ジャンプして出て行くので
経過音や刺繍音などの非和声音として処理も出来ず、
無調楽曲という感じでもなければ
あまり褒められた動きではありません。


速いテンポで淡々と流れていき、
音の強弱や弾き方によって目立たなくのはよくあることですが、
純粋に楽譜だけを見たときには、
少なくとも積極的にやろうとという音使いではないように思えます。


特殊な意図が無い限り
これを積極的に使う作曲家はいないと思いますし、
普通のポップスやロックのボーカル曲ならまず避けるべき音使いです。


ほかにも似たような部分はありますが、
これが中学生や高校生が作った素人の曲ならともかく、
あの大作曲家ラヴェルがやっていることなので、
ミストーンであるはずもありません。


何か明確な意図があるに決まっていると思いますし、
事実、蛾は曲の雰囲気に合っていますし、
弦楽四重奏は主題を維持するために仕方なくという風に解釈することも出来ますが、
当時と今で不協和に関する認識のズレがあることを鑑みても、
ラヴェルの和声に対する柔軟な考えは参考になります。



何処まで上手に外せるか?がまさに音楽の美しさの真骨頂なわけですが、
その点においてギリギリのギリギリまで行っているラヴェルのセンスは
面白いというか、現代人も大いに参考にしてもいいかもしれません。


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