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Kierkegaard

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彼の国は、今はない・・・

彼女が生まれ育った公国が亡びようとしている、生まれ育った国を離れる前日に、娘に託す父がいた。

「・・・よ、これをお前に託そう、儂の代でこの家は終わり、この公国も終わりを迎える。お前はジパングへ行くのだろう、彼の国ならば、これを封印できるやもしれぬ」

「これは何ですか?」

「古より伝わるもので、我が一族が、ずっと守り封印してきたものだ。封印の仕方は彼が知っている、つれて行きなさい」

父と子の別れの場に一人の設計士が呼ばれていた。

封印するための家を建てるために。

娘は渡されたものが何か知らない、だが、それは幾重にも厳重に封をされ中身がなにか知る由もなかったが、小さな宝石箱のような大きさだった。

最後の別れ、故国を離れ異国で生を終える娘を、父は優しく抱いた。

娘はその大きな胸のぬくもりを忘れないと思った。

蒼と白の国は、いまはない。

建築士は、男爵に愛する妻子のために壮麗な建物を生まれ育った土地に建てた。

男爵もとある一族の末であるその妻も知らない、それが、彼らのための家でなく、とあるものを封印するための結界であり、霊廟であることを。

男爵は、かの公国の海のような瞳をもつ美しい娘と妻に囲まれ幸せだった。

だが、その幸せは、娘の謎の失踪で終わりを告げる、娘を失った妻は哀しみのあまり、その命数が尽きたとき、男爵は狂ったのかもしれない。

愛する妻子を失った男爵は、狂死ともいえる自死し、男爵の家は絶えた。

結界を守る建築士が後に残されたが、彼の命数も尽きようとしていた、継承すべき術者がない。

かの一族は絶えた、堅固たる結界も術者なきいま、綻びは広がるのだろか?

***

闇夜、鎮守の森を一人の青年が歩く

「マリア」

「蓮」

マリアの世界と蓮の世界が重なり、マリアが実体として存在する。

少女は青年の胸に抱かれ、笑みをこぼす、青年も少女へ微笑みを返す。

少女と青年の穏やかで優しい時間が瞬く間に過ぎてゆく

「もうすぐ終わるの?」

「ああ終わる」

「良かった、私はお母様とお父様にようやく会えるのね」

「俺たちが、君に約束したとおりにね」

「ありがとう」

重なった世界が離れてゆく、少女もまた消える。

青年は夜空に浮かぶ満月をいつまでも見つめた。

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