5月27日、ロイヤル・フェスティバル・ホールのクリスチャン・ツィマーマンKrystian Zimermanのピアノリサイタルに行きました。

     

バルコニーから眺めるロンドン・アイとビッグベン      コーラス席最前列ど真ん中で9ポンド


直前に一緒に行く人の都合が悪くなったので、仕方なくトーチャンを連れてってあげました。


トーチャン、以前はピアノ演奏を聴くのを嫌がってましたが(子供の頃ピアノを習っていた時のトラウマだそうです)、この頃は喜んで付いて来るんです。もっと行かせてあげてもいいのですが、そうすると私は着物を着られないし(トーチャンが嫌がる&アッシーがいなくなる)ので、どうしてもという時に限られます。


行きたきゃ自分で勝手に行けば、なのですが、今日はトーチャンの知識が役に立ちました。


開演前に30分間ツィマーマンのインタビューもあり、そこで彼がしきりにovertoneという言葉を使ったのですが(日本語だと倍音とか上音とか言うようです)、私にはチンプンカンプン。物理オタクでピアノも弾けるトーチャンに説明してもらって、ちょっとわかったような気がしました(振動数がどうたらこうたら・・、それはそれで又チンプンカンプンなのですが)。


いつもただ漠然と音楽を聴いているだけの私ですが、そうか、音色や楽器って科学なんだ。


テクニカルな面といえば、とても面白い光景も見せてもらいました。


ツィマーマンがあらかじめ説明してくれてたのでびっくりはしませんでしたが、舞台の上で実際にキーボードを交換するんです。技術者がネジをゆるめてボードを引き出し、ちがうキーボードをすぽっと差し込むだけであっと間に出来上がり、もの2分も掛かりません。一曲目のときだけ他とはちがうキーボードだったのですが、overtoneのちがいによる音色の差は明らかで、バッハはまるでチェンバロのようでした。


交換場面をご覧下さい。クリックで写真は全て拡大します。


  



キーボードを抜いたらただの板

まるで入れ歯を外したおじいさん



そこにおにいさんが代わりを運んできて、


一人で大丈夫?
落とさないようにね~


ちょちょいのちょい、


ほら、すぐできた





   



ティマーマンはポーランド人ですが、とてもきれいな英語で話上手。


受け狙いのジョークは言いませんが、哲学者のようなクールな外見に似つかわしい物静かで知的な素敵なおじさまです。キザなええかっこしいというイメージがあったのですが、ちがいました。



などと、コンサート以外のところですでに得したような気持ちでしたが、


肝心の演奏はどうだったかと言うと、これが、予想に反して、素晴らしかったんです




予想に反してなんて失礼なこと言ってはいけないのですが、こないだも聴いたアンドラス・シフと比べたらきっと劣るにちがいないと思い込んでたわけです。

だって、今まで両方を何度か生で聴いて、タイプがちがう彼らを比べるのはよくないですが、少なくとも技術的にはシフの方が優れているように私には聞こえたんです。


でも、シフの2週間前のリサイタル の出来が今までで一番悪いということはあるにしても、今回の二人の勝負はツィマーマンの勝ち。


昔は同じ作曲家のものばかり弾くことが多かったそうで、私が以前聴いたのもたしかショパンばかりでしたが、最近は積極的にちがう作曲家を組み合わせているというツィマーマンの今夜のプログラムは変化に富んでました。

   

   宝石ブルー

   Johann Sebastian Bach Partita No.4 in D for keyboard, BWV.828
   Ludwig Van Beethoven Piano Sonata in C minor, Op.111

       INTERVAL
   Johannes Brahms 4 Pieces for piano, Op.119
   Karol Szymanowski Variations on a Polish folk theme in B minor, Op.10 宝石赤




  


シャープな音色のバッハは端正で、


キーボード交換後の音色は打って変わって柔らかく、


ベートーベンのソナタは途中でちょっとだらけて退屈したものの(死を意識したベートーベン最後のソナタの深さが理解できない私側の問題かも)、


ブラームスの優しい小品はまるでエリック・サティのように洒落ててロマンチック。


キラキラそして、圧巻は彼の同胞であるシマノフスキ(1882-1937)。


シマノフスキのピアノ曲を生で聴くのは初めてですが、前衛的になる一歩手前のモダンさが魅力的で、力強さと繊細さが必要な難曲です。


オーバーアクションからは程遠く(汗もかかない)、表情も変えず(私は真横から顔がよく見えた)、まるでセットしたような銀髪の御髪が微動もせず、クールな弾き方の彼がシマノフスキの時だけは必死の形相で股を開いて踏ん張らなくてはならなかった程です。


弾き終わったら嵐のような拍手とスタンディングオベーションクラッカー


謙虚な彼は何度か舞台の袖で遠慮がちに歓声に応えてくれたものの、アンコールは無し。


そりゃあ精根尽きただろうし、あの後では何を弾いてもナンでしょうから、あの興奮のまま終わるのがいいでしょう。



夜の街

早く終ったので、外に出たらまだ9時半。


日が長いのでまだほんのり明るさが残るテムズ河畔。橋の上で写真を撮ってたら夜風が冷たくて震えましたが、コンサートの感動で心はホカホカ。


バスカーがギターで「禁じられた遊び」を弾いていたのも嬉しかったし、なんだかしみじみと幸せ。



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English National Opera 

雨火曜日から金曜日まで連チャンで4夜、雨の中、コンサートやオペラに出掛けてる最中です。


会社帰りに毎晩行くのは全然平気なのですが(我が家には家事を全てやってくれるトーチャンという主夫がいるし)、ブログの更新ができないのがつらいです。


カメラちょっと写真だけ貼っときましょう。




昨夜と今夜、続けて行ったコロシアムという劇場の内部です。


トラファルガー広場に近くてロケーションも抜群だし、中も綺麗で豪華な雰囲気でしょ?ロビーに華やかさな無いし、バルコニーまで上るのもの大変なのですが、サイズも大き過ぎず小さ過ぎず、はなかなか良い劇場なんです。


こんな素晴らしい劇場でオペラをほぼ毎晩やってくれるのはありがたいことなのですが、


ここの特徴は全て英語に翻訳してしまうこと。私は大嫌いですパンチ!



すごい違和感なので(特によく知ってるオペラは)、我慢できないということがあらためてわかりましたプンプン


オペラとミュージカルの中間のようなジャンルにはそれなりの固定ファンがいるのでしょうが、なぜそんな中途半端なことをするのか理解できません。


ロイヤルオペラハウスでちゃんとオリジナルの形でオペラを観るか、翻訳するくらいなら元々英語のミュージカルに行けば?




この頃は字幕も付いてるんだし(英語オペラでも助かります、ありがとう)、ねえ、ENOさん、お願いだから一度原語で上演してみて下さいよ~~!


 「あ、オリジナルの方がいいじゃないか」、と目覚める人がたくさんいる筈です。折角あれだけの舞台と歌手なんだし、英訳という無駄な努力をしてぶち壊さないで下さい!


そうしてくれないのなら、今回は知り合いから無料で切符を譲ってもらったので行ってみましたが、やっぱりこれまで通り元が英語のオペラか、翻訳モノならご贔屓のトビー・スペンス君が出るものだけにしようと思います。


ニコニコそのトビー君は来月出るんだけど、嬉しいことに元から英語のものなんです。ミュージカルだけど。



さ、もう一日頑張りましょう。明日はロイヤルオペラハウスでイタリア語が聴けま~す! トスカです、カウフマンです。



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三連休でした

肌寒い日が続くロンドンでは、「寒いですね~、夏はもう帰ってこないのでしょうか?」、が挨拶言葉。


イギリスでは26日がバンク・ホリデーだったので、三連休だったけど、やはりお天気的に恵まれなくてミゼラブルでしたよ。


そういう時はおとなしく家であれこれ致しましょう。


24日(土) くもり


アートムスメの通っている大学のアート科卒業展に行きました。 (ムスメはまだ一年生なので出展はしてません)


ファイン・アート、彫刻、写真、ファッション、アニメーション、グラフィック・デザイン等、一通りの学科があるのですが、ロンドンのアート専門の有名美術大学に比べたらやはりレベルは低そうです。その中で、ムスメが属する造形科の作品だけが、客観的に見てなかなかの水準に達しているように見えたのは、造形を教えている大学はイングラン中で4つしかないので、希少価値ってとこでしょうか。



一番上手な人の作品をお見せしますが、(クリックで拡大します)


えーっ、すごい、プロ級じゃん!


この人ほんとに大学生?


と思ったら、


大学生なのは本当ですが、35歳ですって。 道理で・・



音譜夜はテレビで恒例のユーロヴィジョン・ソング・コンテスト


去年の優勝国セルビアで開催されたのですが、今年はロシアが優勝。東側の国が雪崩れ込んで来てからは曲の良し悪しにはほぼ関係なく国通しの政治的立場を反映するような投票ばかりになってしまい、誰も投票してくれないイギリスは、お金をたくさん出しているので決勝進出は最初から確保されているものの毎年最下位グループの常連に成り下がっています。


今年はついに、長年BBCでこの番組を担当してイギリスでは彼の風刺的コメントがユーロ・ビジョンそのものともいえるテリー・ウォーガンの堪忍袋の緒が切れて、翌日降板宣言。納得です。


でも彼が茶化してくれなかったら面白さ激減だから、もう私も来年から観ないかも。というより、「東ヨーロッパ勢に完全に乗っ取られたものに彼らより多く公営BBCが出費するなんて馬鹿げてるからもう撤退しよう」という声が起こるに決まってるので、これがイギリス最後の参加になるかも。30年近く見守ってきた私としては淋しい限りですが、これも激動のヨーロッパを反映した現象の一つでしょう。

嗚呼、音楽だけを楽しんでいられた平和な時代が懐かしい。




25日(日) くもり

仲良し父娘のトーチャンとムスメがロンドンに遊びに行ったので、普段あまり家にいないカーチャンはここぞとばかりに身辺整理に励むことにします。

まず書類。常時全ての書類がきっちりとファイルされているこつこつトーチャンとちがって、溜めといて一気に片付ける効率(大雑把とも言う)カーチャン、ブログに時間が取られてという言い訳はあるにせよ、あれやこれやたくさんごちゃごちゃ散乱してたのを、トーチャンが留守の間に集中して(見られたら恥ずかしいでしょ)てきぱきと整理。 すっきりした!


で、ついでに、古い雑誌も捨てようと、昔の着物雑誌を本棚から出したけど、捨てる前にもう一度だけざっと目を通そうとしたのがまちがいの元。つい読みふけるという当然のなりゆきに。これは又後日片付けましょう。




26日(月) 雨

おとめ座祭日なのに、ムスメはいつものようにwork experienceに出勤。珍しく一日中雨が降り続き、まるで冬のような寒さだったので、いつもは30分歩いていくのですが、あまりに可哀相なので、初めてトーチャンが車で送り迎えをしてあげました。


さる時代映画のための鎧(よろい)の製作でその小さな会社は猫の手も借りたいほど忙しいらしく、猫よりはもちろんうんとましなアート学生を即戦力として当てにしているようです。

最初は言われた通りにあれこれやっていただけのムスメですが、最近は装飾の図案デザインまでさせてもらえるようになり、一段と張り切ってますニコニコ。 マイナーな登場人物の衣装なので、もしかしたらその場面はカットされてしまうかもしれないのですが、もしちゃんと出てきたらすごいですよ。米人気ゲームに基づいたPrince of Persia(ペルシャの王子)という、なんたって一応ディズニー映画ですからね。



カチンコムスメが働いている間、トーチャンとカーチャンはなにをしてたかと言うと、「アラビアのロレンス」Lawrence of Arabiaの映画をじっくり観てました。

このブログの記事がきっかけで知り合いから随分前に借りたDVD,やっと観る時間が取れて、こちらも気分すっきり。冷たい雨のウエットで暗い日に、灼熱の砂漠シーンを見てもぴんと来ないし、こんな大スペクタクルは大きなスクリーンで観なくちゃ駄目なのはわかってますけど、そんなこと言ってたらいつになるかわからないですもんね。

映画自体とDVDの付録で5時間以上掛かりましたが、もちろんよく出来た名作だし、CGを使わない本物シーンは感動。映画を通しで見るのは久し振り(40年ぶりくらい?)ですが、当時は意味なんかわかりませんでしたもんね、初めても同然。ああ、リタイヤして映画三昧ができるのはいつかしら?


早目の夕食後は、ブログが長時間メンテでアップできなかったので、片付けモードの私は勢いに乗って洋服の整理に取り掛かり、思い切って結構たくさん捨てたので、これで軽く着物10枚~20枚くらいのスペースはできたかしら?もうこれ以上増やせなかったら、今度日本に遊びに行ってもつまんないですもんね。行けるのは秋でしょうけど、それまでに頑張ってもう少しスペースを確保しなくてはDASH!  



゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚


というわけで、あれこれ片付いて気分すっきりの充実の連休でした。




さて、家から一歩も出なかった二日間の後は一変してお出掛けの多い週になりそうです。


今日(27日)はツィマーマンのピアノリサイタルだったし、 明日はENOの「薔薇の騎士」、多分明後日はまたENOの「メリー・ウィドウ」、そして金曜日は再びROHの「トスカ」。


ENOは無料で降ってきた切符なのでお財布は痛まないけど、ちょっときついかも・・・・ 


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5月15日、Wigmore Hallにのハンガリー生まれで今は英国籍のピアニストのAndras Schiff のリサイタルに行きました。


音楽通の集まるウィグモア・ホールの人気レギュラーで、なかなか切符を買うのが難しいのですが、3、4年ぶりにフレンズに復帰したので、ここで久し振りに彼を聴くことができました。


どこかの元巨匠とちがいレパートリーは広いシフですが、今夜は全てシューベルト



4 Impromptus D. 899 (4つの即興曲)

6 Moments Musicaux D. 780 (楽興の時)
3 Klavierstücke D. 946

    (休憩)
4
Impromptus D. 935 (4つの即興曲)



シフの生演奏は以前何度か聞いた事があり、派手さはないけれど職人的な彼の腕前には感心するばかりだったので、今回も期待は高かったのですが、


結論を先に言うと、


今までで一番出来がよくなかったです。


一度も間違えなかった正確無比さは相変わらずだったし、軽やかで繊細な素晴らしいシューベルトだったのですが、なんか音が重くて、キレが悪かった・・。


名人でも調子悪いときもあるんだ・・・ダウン


とは言っても、充分上手だし、50代半ばのシフ、まだまだ一番始末に終えない「元巨匠グループ」 (ポで始るイタリア人とかブで始るオーストリア人のじいさんたちね)に入るには若いし上手過ぎるので、もうしばらくは名実共に第一線で活躍して頂きたい人です。私は暫くご無沙汰させて頂くかもしれませんが(一度も聴いたことのない若いピアニストに重点を置くつもりなんです)。


さすがだと思ったのは、休憩までほぼ弾きっ放 だったこと。

曲と曲の間に舞台から消えることもなく、ちょっとだけ立ってお辞儀するだけですぐに次に行き、こちらが聴き疲れるくらい延々と続いて、やっと休憩になったのはなんと1時間半後。それで一度も間違えないってすごい集中力だ。



カメラすみません、ろくな写真は撮れませんでした。


ウィグモア・ホールの料金は出演者によってちがうのですが、人気のシフのリサイタルは一番上のランクだし、まあ別にそんな近くで見なくてもいいかと思ってうんと後ろのU列だったので。とは言っても狭いホールなので一番後ろでもピアノを聴くには充分近いですけどね。それに 謙虚なシフはカーテンコールもすごく短かくて、すぐ引っ込んじゃうの。


でも、久し振りに見たシフ、めっきりオツムも薄くなってほとんど白髪だったのはちょっとショックだったわね目

だって彼は私と同い年で、もうすぐ55歳。

・・・・・・うーん、それだったら当たり前か、禿げでも白髪でも。


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5月14日、バービカンにコンサート形式のモーツァルトのオペラIdomeneoを聴きに行きました。



Europa Galante

Fabio Biondi conductor

Ian Bostridge Idomeneo (クレタ王)
Emma Bell Elettra (アルゴスの王女)
Jurgita Adamonyte Idamante (クレタの王子)
Kate Royal Ilia (トロイの王女)
Benjamin Hulett Arbace (イドメネオの友人)
Opera Seria Chorus

お目当てはイアン・ボストリッジ様。

前から5列目正面の5、6メートルの理想的な位置から、ぴか・はわいさんと二人で着物姿でキラキラ星の目からイアン博士に熱い視線を送りながら楽しみましたラブラブ!ラブラブ!

                                             

男の子ストーリーと登場人物女の子


オペラではお馴染のギリシャの神様に翻弄される人たちの話です。


クレタの王様であるイドメネオは、嵐を静めてくれた海神ネプチューンに感謝するために、最初に陸で会う人を生贄にすると約束。その運の悪い人が赤の他人だったら問題なかったのですが(その赤の他人にとっては大迷惑ですが)、なんと後継ぎ王子である息子が来てしまい、さあ困った。


神託に背いてこっそり逃がそうとするのだけれど、神様の目は誤魔化せる筈もなく、怒ったネプチューンが怪物を差し向けたもんだから大騒ぎ。それはなんとか息子が征伐したものの、自分が生贄だと知った息子は、「父上、私は喜んで死にます」ときっぱり。

イドメネオ自身が、「いや、それはできない。わしを代わりにしてもらおう」と懇願すると、もう一人死にたい人が現われて、それは敵国トロイの王女で囚われの身の息子の恋人イリア。


3人も生贄に立候補したことに心を動かされたネプチューン神は、「まあかん(名古屋弁で「もう駄目」)!神託変更だがね。神を裏切ったでイドメネオは罰として退位せなかんけど、息子は跡継ぎ王になってちょう。ほんでからに、イリア王女と結婚したりゃあ」、だって。


人の命や運命をおもちゃのように弄ぶ困ったギリシャの神様には、アホらしくて付いていけません。



カラオケコンサート形式


幸いオペラのよ良し悪しはストーリーとは関係ないし、モーツァルトだから悪いはずがなく、1781年初演のこ作曲したこの作品、上演回数は少ないけれど品よくまとまった素晴らしいオペラになっています。


コンサート形式と言っても舞台セットがないだけで衣装は着て少し芝居をしてくれる場合もあるのですが、今回は普通の服装で突っ立って歌うだけ。でも、歌う方も聴く方も歌だけに集中できるので、私は一向に構いません。


先日のウィグモア・ホールのディドとエネアス は一人二役どころかコーラスまでこなしたの混乱したけど、今日はちゃんと別にコーラスもいるし、一人一役なのでわかりやすいし、皆さん表情までその役になりきってました。


役柄と歌手の風貌がマッチしないのはオペラでは当たり前なので、文句は言いますまい。


老王イドメネオが40歳ちょいの美男子(好みだからハンサムに見えて何が悪い?)で、その隣に立つイリア王女役の美女ケート・ロイヤルとは長身で知的で素敵なカップルなんだけど、彼女は息子の恋人ですもんね。


でも、それくらいは序の口で、オペラにルックスを求める愚かな人がもっと我慢できないだろうと思うのは、息子イダマンテが女性歌手だってことでしょう。それも宝塚みたいに背の高い人がズボン役をやればいいけど、今回はイリア王女が異常に背の高いケート・ロイヤルなので、息子役はズボンをはいていてもそれらしくは見えません。


この役は元々はカストラータ(タマ抜き男性)で、今は残念ながら(本当に残念です)、そんな人は存在しないのでカウンターテノール(男性)が歌うこともあるのですが、今回はメゾ・ソプラノ。ビジュアル的にはカウンターテノール男性の方がしっくりくるでしょうが、でも、上手に歌っても裏声で気色悪い人たちですからね、イアン博士が嫌がったのかも。





音譜パフォーマンス音譜


ビジュアル的には年齢や背の高さが皆ちぐはぐだけど、肝心の歌は素晴らしかったです。




タイトルロールの愛しのイアン様は絶好調。独特の顔をゆがめて苦しそうに歌う姿が気になる人は嫌でしょうが、私は実は端正な顔のままで歌ってくれたらいいのになあ、と密かに思ってはいるのですが、もう慣れました。


知的なイアン様は時として役作りで頭でっかちになり過ぎるきらいがあり、ROHのドン・ジョバンニのドン・オッタヴィオなんてマジに青筋立てて浮いてたけど、今回は憂えるギリシャの王様ですからね、とことん重く暗く思い悩めばいいんですよ。


(余談ですが、イアン様は、分厚い楽譜をずっと目で追いながらも時折目を上げると、ちょうど異様ないでたちの東洋人女性が二人いてぎょっとしたかもしれません、(って、自意識過剰?) で、秋に又かぶりつきに行こうと手ぐすね引いてますよ、この二人は)。





イアン様に対する女性3人はそれぞれちがう声質でしたが、いずれ劣らぬ素晴らしさで楽しませてくれました。



王子イダマンテのズボン役、ラトヴィア人のユリギータ・アダモニテ(って読むんでしょうか?)は初めて聞く名前ですが、こんなピュアで美しい声の人は滅多にいないでしょう。清らかで細くてよく通る声に聞惚れました。


このオペラで一番有名なカウンターテノールがテクニックをひけらかす技巧的なアリアを女性で聴いたのは初めてですが、自然で優しくてとても素敵でした。カウンターテノール好きの私は、この役が今回はメゾソプラノなので実はがっかりしていたのですが、彼女があまりに素晴らしかったので、不満はすぐに吹っ飛びました。


この声でソプラノだったら清純なお姫様役がいくらでもあるだろうに、それが残念。




残念と言えば、イリア役のソプラノのケート・ロイヤルは逆にメゾ・ソプラノだったらあの背の高さを生かして魅力的な男役として引く手あまただろうに、チビが多いテノールの恋人役の娘役をやらなくちゃならない・・・うまくいかないもんですね。


でもこの夜はちびころテノールとラブシーンをしなくていいし、隣には超長身の蚊トンボ博士なので大女にもみえず、敵の王子を愛して苦しむ囚われの身の王女を気品に溢れる存在感と涼しげな声でけなげに好演。




アルゴスの王女で、オペラ界でもお馴染みのアガメムノン一家の娘エレットラは話の進展には何も寄与せず、ただ愛するイダマンテ王子がイリアに心変わりしてしまって怒り悲しむだけなので、可愛げもないし損な役だし出番も多くないのですが、赤いドレスと赤毛のカツラ(でしょう)のエマ・ベルの炎のような歌唱はすごい迫力で、特に最後のドスにきいた捨て台詞的アリアは、アリアの終わりには拍手をしないという暗黙の了解だったにも拘わらず、感嘆の拍手喝采が起こりました。

今までに聴いたのと全然ちがうエマ・ベルには私もびっくり仰天。そうか、この役はこういう風に歌うと得な役になりえるんだな。


イドメネオの友人アルバーチェ役の新人テノールのベンジャミン・ヒューレットは、緊張してたのか硬くて未熟な青二才で、他の4人と比べると明らかに格下。でも素直な声で素質はあるから、頑張ってね。


  

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