前回のブログ(2012-08-10)「弁理士会研修 「侵害訴訟に強い明細書等」 その16 プラバスタチンナトリウム事件」の続きである。
 原審 東京地裁
平成19年(ワ)第35324号
 控訴審 知財高裁
平成22年(ネ)第10043号
 
 東京地裁の判断のうち、 「他方で,一定の化学物質等のように,物の構成を特定して具体的に記載することが困難であり,当該物の製造方法によって,特許請求の範囲に記載した物を特定せざるを得ない場合があり得ることは,技術上否定できず,そのような場合には,当該特許発明の技術的範囲を当該製造方法により製造された物に限定して解釈すべき必然性はないと解される。」 「物の構成を記載して当該物を特定することが困難であり,当該物の製造方法によって,特許請求の範囲に記載した物を特定せざるを得ないなどの特段の事情がある場合に限り,当該製造方法とは異なる製造方法により製造されたが物としては同一であると認められる物も,当該特許発明の技術的範囲に含まれると解するのが相当である。」 の箇所について、知財高裁ではどのように判断したのかについてまとめてみた。


 知財高裁での判断

 特許権侵害訴訟における特許発明の技術的範囲の確定について,法70条は,その第1項で「特許発明の技術的範囲は,願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない」とし,その第2項で「前項の場合においては,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮して,特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする」などと定めている。

 したがって,特許権侵害を理由とする差止請求又は損害賠償請求が提起された場合にその基礎となる特許発明の技術的範囲を確定するに当たっては,「特許請求の範囲」記載の文言を基準とすべきである。特許請求の範囲に記載される文言は,特許発明の技術的範囲を具体的に画しているものと解すべきであり,仮に,これを否定し,特許請求の範囲として記載されている特定の「文言」が発明の技術的範囲を限定する意味を有しないなどと解釈することになると,特許公報に記載された「特許請求の範囲」の記載に従って行動した第三者の信頼を損ねかねないこととなり,法的安定性を害する結果となる。

 そうすると,本件のように「物の発明」に係る特許請求の範囲にその物の「製造方法」が記載されている場合,当該発明の技術的範囲は,当該製造方法により製造された物に限定されるものとして解釈・確定されるべきであって,特許請求の範囲に記載された当該製造方法を超えて,他の製造方法を含むものとして解釈・確定されることは許されないのが原則である。

 もっとも,本件のような「物の発明」の場合,特許請求の範囲は,物の構造又は特性により記載され特定されることが望ましいが,物の構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するときには,発明を奨励し産業の発達に寄与することを目的とした法1条等の趣旨に照らして,その物の製造方法によって物を特定することも許され,法36条6項2号にも反しないと解される。

 そして,そのような事情が存在する場合には,その技術的範囲は,特許請求の範囲に特定の製造方法が記載されていたとしても,製造方法は物を特定する目的で記載されたものとして,特許請求の範囲に記載された製造方法に限定されることなく,「物」一般に及ぶと解釈され,確定されることとなる。

 ところで,物の発明において,特許請求の範囲に製造方法が記載されている場合,このような形式のクレームは,広く「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」と称されることもある。上記プロダクト・バイ・プロセス・クレームには,「物の特定を直接的にその構造又は特性によることが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するため,製造方法によりこれを行っているとき」(本件では,このようなクレームを,便宜上 「真正プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」 ということとする。)と,「物の製造方法が付加して記載されている場合において,当該発明の対象となる物を,その構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するとはいえないとき」(本件では,このようなクレームを,便宜上 「不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」 ということとする。)の2種類があることになるから,これを区別する。

 真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームにおいては,当該発明の技術的範囲は,「特許請求の範囲に記載された製造方法に限定されることなく,同方法により製造される物と同一の物」と解釈されるのに対し,

 不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームにおいては,当該発明の技術的範囲は,「特許請求の範囲に記載された製造方法により製造される物」に限定されると解釈されることになる。

 真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームに該当すると主張する者において「物の特定を直接的にその構造又は特性によることが出願時において不可能又は困難である」ことについての立証を負担すべきであり,もしその立証を尽くすことができないときは,不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームであるものとして,発明の技術的範囲を特許請求の範囲の文言に記載されたとおりに解釈・確定するのが相当である。


 本件発明1において,上記「物の特定を直接的にその構造又は特性によることが出願時において不可能又は困難であるとの事情」が存在するか否かについて検討する。


 本件製法要件による物の特定の必要性があったのか否か?


 本件特許の優先日(平成12年〔2000年〕10月5日)当時,本件発明1に記載されたプラバスタチンナトリウムは,
 ① 当業者にとって公知の物質であること,また,
 ② プラバスタチンラクトン及びエピプラバは,プラバスタチンナトリウムに含まれる不純物であることが認められる。

 したがって,特許請求の範囲請求項1の記載における「プラバスタチンラクトンの混入量が0.5重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.2重量%未満であるプラバスタチンナトリウム」の構成は,不純物であるプラバスタチンラクトン及びエピプラバが公知の物質であるプラバスタチンナトリウムに含まれる量を数値限定したものであるから,その構造によって,客観的かつ明確に記載されていると解される。


 すなわち,特許請求の範囲請求項1に記載された「プラバスタチンラクトンの混入量が0.5重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.2重量%未満であるプラバスタチンナトリウム」には,その製造方法によらない限り,物を特定することが不可能又は困難な事情は存在しないと認められる。なお,当該物の特定のために,その製造方法までを記載する必要がなかったことについては,控訴人も認めるところである。


 本件発明1は,上記不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームであると理解すべきであるから,その技術的範囲は,本件製法要件によって製造された物に限定され,その技術的範囲は,次のとおりとなる。
 「次の段階:
 a)プラバスタチンの濃縮有機溶液を形成し,
 b)そのアンモニウム塩としてプラバスタチンを沈殿し,
 c)再結晶化によって当該アンモニウム塩を精製し,
 d)当該アンモニウム塩をプラバスタチンナトリウムに置き換え,そして
 e)プラバスタチンナトリウム単離すること,
を含んで成る方法によって製造される,プラバスタチンラクトンの混入量が0.5重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.2重量%未満であるプラバスタチンナトリウム。


 東京地裁では
 ①a 本件特許の優先日当時,本件各発明に開示されているプラバスタチンナトリウム自体は,当業者にとって公知の物質であったと認められる。
 ②a 本件特許の請求項1に記載された「物」である「プラバスタチンラクトンの混入量が0.5重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.2重量%未満であるプラバスタチンナトリウム」の構成は,その記載自体によって物質的に特定されており,物としての特定をするために,その製造方法を記載せざるを得ないとは認められない。


 知財高裁は、東京地裁と同じ内容の判断をしているが、出願経過については取り上げなかった。
 出願経過は、製法要件による物の特定の必要性を判断する判断材料として本質的なものではないからなのか?


 プロダクト・バイ・プロセス・クレームについて、上記大合議判決があるものの、正直言って未だよく分からないことがある。


 それは、東京地裁、知財高裁での 「物の特定を直接的にその構造又は特性によることが出願時において不可能又は困難であるとの事情」 における 「出願時において不可能又は困難であるとの事情(特段の事情)」 の有無の判断基準についてである。


 今後プロダクト・バイ・プロセス・クレームについての判決が続出すると思うので、この「特段の事情」についてどのような判断がなされるのかを中心に判決文を読んで、少しでも「特段の事情」の内容を自分なりに明らかにしたいと思う。

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