弁理士会研修 「侵害訴訟に強い明細書等」 その10


 用語の意義等に関する例(所定、実質的、近傍等の用語との関係)として小松先生が挙げた事件の一つである、カードシステム管理装置事件(東京地裁 平成14年(ワ)第5092号 裁判長裁判官 三村量一)である。



 本事件は、クレーム中の用語「所定」について争われた事件である。



 小松先生、本事件の教訓 「用語の選択は慎重に」とのこと。


 特許実務家として何気なくクレーム中で用語「所定」を使用していないだろうか?

 ちなみに、特許庁電子図書館で、「請求の範囲」欄に「所定」を入れて検索したところヒット件数 2,367,130件 であった。
 公開特許公報 (公開、公表、再公表) 特許公報 (公告、特許) 公開実用新案公報 (公開、公表、登録実用) 実用新案公報 (公告、実用登録) のクレームで「所定」の用語が使用された総数である。

 
 カードシステム管理装置事件では、被告製品が,負荷電流ないし負荷電圧が判定基準値以下であるか否かの「判別動作を所定時間間隔で繰り返して」(構成要件E)いるものと認められるか否か(争点1)で争われた。


 争点1についての裁判所の判断
 本件特許発明の構成要件Eの内容
 「前記1以上の機器の電源ラインにおける負荷電流もしくは負荷電圧が判定基準値以下であるか否かを判別し,この判別動作を所定時間間隔で繰り返して,少なくとも負荷電流もしくは負荷電圧が所定回数以上続けて判定基準値以下である場合に,当該機器が動作停止中であると判断する機器動作検出手段」


 文理に従って解釈すれば,上記「所定時間間隔」とは,予め定められた一定の時間間隔のことをいい,また,上記「所定回数」とは,予め定められた一定の回数のことをいうものと考えられるが,特許請求の範囲の記載からは,かかる文言の技術的意義は必ずしも一義的に明確ではない。


 本件明細書における発明の詳細な説明の記載や、実施例の欄における上記判別動作を説明した部分の記載をみると、予め定められた判別動作を一定の時間間隔(上記実施例においては1秒間)で繰り返し,1回のみの判別動作で接続機器の動作の有無を判断することなく,判別動作によって検出された値が所定回数(上記実施例においては2回)続けて判定基準値以下である場合に,動作停止中と判断する構成を採用したものと解される。


 これに対し、被告製品は,負荷電流値が判定基準値以上の状態から判定基準値より小さい状態に変化した後に,CPUに内蔵されたタイマーを用いて,約817~826ミリ秒間,第1の不規則時間間隔(t1)により不規則回数判別動作を繰り返し,負荷電流値が上記約817~826ミリ秒間続けて判定基準値より小さい場合に,接続機器が動作停止中であると判断するものである(別紙被告製品説明目録参照。この点については,当事者間に争いがない。)。


 すなわち,被告製品は,所定の判別動作を,予め定められた一定の時間間隔で繰り返すものではないし,予め定められた一定の回数以上判定基準値以下の数値が検出された場合に,接続機器が動作停止中であると判断しているものでもない。


 そうすると,被告製品は,「判別動作を所定時間間隔で繰り返して,‥‥‥負荷電流が‥‥‥所定回数以上続けて判定基準値である場合に,当該機器が動作停止中であると判断する機器動作検出手段」を備えておらず,構成要件Eを充足しないというべきである。


  本件特許発明の構成要件Eは、誤判断を回避するために、予め定められた判別動作を一定の時間間隔(上記実施例においては1秒間)で繰り返し,1回のみの判別動作で接続機器の動作の有無を判断することなく,判別動作によって検出された値が所定回数(上記実施例においては2回)続けて判定基準値以下である場合に,動作停止中と判断する構成を採用したものである。

 そうならば、後智恵的ではあるが、

 本件特許発明の構成要件E
 「前記1以上の機器の電源ラインにおける負荷電流もしくは負荷電圧が判定基準値以下であるか否かを判別し,この判別動作を所定時間間隔で繰り返して,少なくとも負荷電流もしくは負荷電圧が所定回数以上続けて判定基準値以下である場合に,当該機器が動作停止中であると判断する機器動作検出手段」を
                     ↓
 「前記1以上の機器の電源ラインにおける負荷電流もしくは負荷電圧が判定基準値以下であるか否かを判別し,この判別動作を複数回繰り返して,少なくとも負荷電流もしくは負荷電圧が複数回以上続けて判定基準値以下である場合に,当該機器が動作停止中であると判断する機器動作検出手段」と、「所定」を使用せずに表現したら(「所定」の代わりに「複数回」を使用して表現したら)、


 被告製品は,構成要件Eを充足するか否か、どうだろう。


 でも、クレーム中に「複数回」を使用したら、侵害訴訟の場面でどのように判断されるのか、すなわち不明瞭な記載と判断されるのか否かの、新たな問題が生じないだろうか。 どうだろう。