楽園絵図

オリジナル中心で適当に動いてる


ようこそいらっしゃいました。


オリジナルキャラ、オリジナル小説を主に活動しています。


今書いている小説の説明はカテゴリーの『小説の説明』をごらん下さい。


百合などを主に扱っていますが、百合苦手な方は戻るを押して下さい。


それでは、暇つぶし程度に、ごゆるりと。



※無断転載、自作発言などは違法ですのでおやめ下さい。

テーマ:

 午前零時を回った診療所は薄気味悪く、静けさを纏っていた。夏の終わりだというのに冷たい空気が廊下に流れ、ナースステーションに一つの影があった。
「ほんと、田舎の病院って気味悪いわ」
 白衣を身に纏い、胸にある名札には風宮玲子と書かれていた。眼鏡を中指であげ、廊下から流れてくる冷たい空気に両腕をさする。
 看護師は普段半袖の白衣を着ている。冬にはカーディガンを着るが、基本的に病院内は一定の温度を保たれてる。しかし、ここ田舎の診療所には都会のような設備が整っておらず、法に触れるか触れないかギリギリの条件で設立されていた。
 風宮は夜勤がナースステーションにいないことを確認する。通常、ナースステーションにはナースコールを対応するために一人は必ずいなければならないが、人手も足りないため夜勤看護師二人ほどで回している。その為、夜勤ではナースステーションに看護師がいないこともしばしばあった。
 かなりの重労働を夜勤では制限された人数で行わなければならない、本当に苦労する職業だ、と風宮はため息を漏らす。しかし、今日風宮は勤務をしに診療所へ来たわけではない。
「あった」
「何があったのかね、風宮くん」
 その声に風宮はバッと後ろを振り向く。
「林道先生……」
「君、今日って夜勤だったっけ」
 髭をたくわえ、随分とお年を召した老人だ。この林道診療所の医師である林道十三郎であった。丸眼鏡の奥の瞳は普段柔らかいのだが、風宮の行動に些か疑問の色を示していた。
 分かりやすいジジイだな。風宮はにっこりと笑いながら手に持っているカルテをすり替え、他人のカルテを取り出す。
「戸川さんって最近入院されましたよね?ほら、転倒して骨折して」
「あぁ、両腕ついちゃって開放骨折しちゃったね」
「そうです。この方、どうやら認知症も入っているのかなぁって思って、既往歴を調べてたんですけど」
「ふぅん。でもそういうのって看護師さんは最初から目を通してるもんじゃない?」
 クソジジイ。風宮は心の中で舌打ちをする。
「でもほら、人の記憶って曖昧じゃないですか。だから正しかったかなぁって」
 自分でも苦しい言い訳だと思ったが、髭を触っている林道は少し考え、にっこりと笑った。
「いやぁ、勉強熱心だな風宮くんは。すまない、少し疑ってしまって」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
「ついね、ナース服着てるもんだからカモフラージュでもしているのかと思って」
「カモフラージュ、ですか?」
「よく映画であるじゃん?泥棒が人の目を避けるために警官の服を奪って逃げちゃうシーン。あれ僕好きなんだけど、実際制服着ちゃってたら誰も疑いようがないよね」
「は、はぁ」
 そう言って林道は手を振ってナースステーションから去っていく。林道の姿が見えなくなったのを見計らい、手に持っていたカルテをしまう。タ行から再び探し出し、カルテを取り出した。
「遠江実……ね」
 取り出したカルテを持っていたハンドバッグへ突っ込む。風宮は夜勤ナースが戻ってくる前にナースステーションを抜け出し、診療所を出た。
「もうここには用無しね」
 村にただ一つの診療所に振り向く。胸ポケットにあった名札を茂みに投げ捨てた。



「この村に殺人鬼……?」
 カタリナは眉をひそめてシノハラに視線をよこす。他のミノリ、レンも驚きを隠せない。
「いえ、この村にいるかどうかはまだ詳細が掴めてないの」
「でも、あったんですよね。死体が」
 レンが口を開く。シノハラの話をしばらく聞いていたサユリも、口を開く。
「そうなんだけど……それが、殺されたのは去年ね。半年以上経ってて、若干白骨化してたんだっけ、ユキナ」
「えぇ」
 話を振られたシノハラは頷き、詳しく説明した。
 発見された死体の身元はいまだ不明、白骨化がかなり進んでおり、夏にかけて腐敗化が酷くなっていった。近所の子どもたちが井戸周辺で遊んでいるところ、強い異臭がするという通報から遺体の発見となった。骨の形からして20代の女性だと思われている。
 問題は、殺され方であった。顔面がぐしゃぐしゃであったのだ。それは、花瓶や棒のようなもので何度も殴られたものではなく、たった一度の衝撃で顔面を潰していた。見るも無惨な状況であったが、その話を聞いて一番に反応したのは皐希子であった。この殺し方に見覚えがあると、彼女は言った。
「……それが今皐希子さんが探しているっていう…」
「そう、鷹司時雨という人物よ。主に彼女は重力を扱うわね、だったらこんな芸当出来やしないわ」
 皆が黙り、静かになる。
 違和感があった。彼女は以前、その危険人物である鷹司時雨を『大切な人』と言っていたではないか。
「私には、その人が危険な人とは思えない」
 ミノリの言葉に皆が一斉にミノリを見た。
「ミノリン……お人好しすぎるんだけど……」
「いや、そうじゃないぞカタリナ。人殺しは良くない。どんな理由があってもだ。しかし、皐希子さんが大切な人と言っていたのだから、悪い人では……」
「悪い人じゃなかったら人殺しはしないのかしら」
 シノハラの言葉にミノリは言葉に詰まる。彼女の言う通り、悪い人間であるから人殺しをする、良い人間であるから人殺しはしないという単純な考えではないのだ。
「私は鷹司時雨という人物を知らない。でも、皐希子さんの話を聞いただけの貴方は、もっと知らない。皐希子さんが良い人と感じても、貴方にとっては悪であるかもしれない。世間にとっては悪かもしれないのよ」
「ゆ、ユキナ。もうこの話はやめよう。今回は忠告をするために呼んだんでしょ?」
 話がややこしくなると思ったのか、サユリはシノハラを止め、本題へと入った。
「そのことで、なんだけど。ミノリちゃん、あのね、診療所にあったミノリちゃんのカルテがなくなってたの」
「私のが…?」
「うん。犯人はまだ確定できてないから……でも危ないかもしれない」
 だから、帰り道に気を付けてね、とサユリは付け足すとミノリは声を張った。
「大丈夫です!私にはカタリナとレンがついているので」
「え、なんか一緒に帰ることになってるんだけど」
「いいじゃんレンレン~たまにはミノリン家で解散っていうのも」
 言葉では拒否しているレンもまんざらではない様子であった。それを見て安心したサユリは、レンの手を取って「じゃあ、ミノリちゃんをよろしくね」と微笑む。レンはすぐに引き締まった表情となる。
「任せて、姉さん」
「うわ、レンレンのシスコンが発揮されてる……」
「シスコンじゃないわよ!!」



 夕方。あぜ道を三人で並んで歩く。
「でも、ミノリンのカルテを盗んだのって誰なんだろうね」
「うーむ……私のスリーサイズが知りたかったのか…?」
「知って誰が得するのそんな情報……ほら、住所とかは?」
「でもこの村だったら人に聞いちゃえば住所バレるのにねー」
 カタリナの言葉に二人も納得する。学生である三人に、謎を解く力もない。ただ無意味に話をしているうちに、ミノリの家まであっという間であった。
 結局、歩いている間も何もなかったため、ミノリは二人に別れを告げた後、入り口を開ける。すると、玄関には見慣れない靴が置いてあり、奥の部屋から家主の娘である斉木さんが出てきた。
「あらミノリちゃん、おかえりなさい」
「斉木さん、ただいまです。えっと、この靴は?」
「うんとねー、ミノリちゃんにお客さんだよ。風宮さん……?だっけ」
 名前を聞いて思い出す。診療所にいた看護師で、ミノリの担当看護師でもあった人だ。斉木にお礼を言うと、自分の部屋へ向かう。ただ、わざわざ家に出向いて何か用でもあるのだろうか、と思いながらも部屋の扉を開けると、窓を眺めてぼうっとしている風宮の姿がそこにあった。
「風宮さん」
「あら、ミノリちゃん。ごめんなさいね、勝手にお邪魔しちゃったの。ちょっと外はまだ暑くて……」
「えぇ、大丈夫です。今麦茶でも……」
「いえいえ、平気よ。申し訳ないわ。ミノリちゃんに渡すものがあって来ただけだから」
「渡すもの……?」
 コップ二杯に麦茶を注ぎ、お盆に乗せて持っていくと風宮の手にあったのはミノリのカルテであった。
「……何故それを、貴方が」
「あら、聞いたのかしら。カルテが盗まれたってこと」
 ミノリは警戒する。持っていたお盆をゆっくりとちゃぶ台に置く。窓枠に腰掛けている風宮はカルテをひらひらと仰がせる。
「ちょーっと、貴方に聞きたいことがあるのよ。入院してた夜の事、女性に会ったあと綺麗に骨折が治ってたじゃない?あの技術を使える人の居場所を教えて欲しいんだけど……」
 口角をあげ、不気味に笑う。だが、今の言葉にミノリは何か引っかかっていた。
「……何故、あの夜私が誰かと会っていたことを知っているんです…?貴方はあの時確か、ずっと院内にいたはずです。それに、私は一言も女性に会ったとも……」
 そこまで言うと、風宮は笑い出した。耳に刺さるような甲高い声であったが、目が笑っていない。
「いやぁねぇ……アタシ、そんなこと言ってた?」
 明らかに雰囲気が変わった様子に、ミノリは腰を上げて風宮を睨み付ける。
「……貴様は誰だ。風宮さん…ではないだろう」
「あら、よく分かったわね!」
 今度は拍手をし、ニッと笑った。
「お前まさか……鷹司時雨か…?」
「知ってるの?私の名前……あらかた、十二柱の連中から聞いてるんでしょうね。それかサキ」
 まぁいいわ。時雨は窓枠から腰を上げ、ミノリに近づく。ミノリは抵抗しようとするも、彼女のまとう異様な雰囲気にのまれてしまい体が言うことを聞かなかった。本能的に動いてはならないと、そう悟っていた。
「アタシね、貴方を誘拐しようと思うの。理由聴きたい?聴きたいでしょ?いいわ、教えてあげる。サキが大切にしてる貴方を、サキの目の前でぶっ壊してみたいの。アタシね、目の前で大事なものを壊された時の表情見たことないのよ。サキの両親殺した時も、サキ、両親を見ないでずーっとアタシの顔見てたわ。すっごい嬉しかったの。だけどね、もっと、もっと殺したほうを見てくれなきゃ。アタシ、サキのいろんな表情見たいなぁ……」
「お、お前……っ!」
 狂ってる。そう叫んでやりたかったが、叫んだところで彼女に響くわけがないし、そもそも恐怖で声が出てこない。喉の奥で言葉が突っかかり、背中には冷や汗。指先は震え、全身で彼女に対する恐怖心を表していた。
 その様子に、時雨は笑う。
「あは……あははは!あんたのその顔、すっごくいい。だけどね、興味ないわ。アタシ、サキにしか興味ないの。ごめんなさいね、アタシにはサキしかいないから……あぁ、早く会いたいなぁ、サキ」
 頬を赤らめ、顎に手を添えて腰をくねる。真っ黒な瞳は、悦の色をしていた。
「さ、皐希子さんに会いたいのなら自分から……っ!?」
 目の前にあったちゃぶ台が一瞬で潰されていた。乗っていたコップが割れて床に散る。確かにそこだけに重力がかかっていた。
「サキの名前を軽々しく口にしないで……あんたもこうなりたいの?」
 指先に纏った灰色の魔力。今まで、白や金色、水色であったりと様々な魔力を見てきたがこれは明らかに系統が違った。闇に近く、白には戻れないその色は、全ての色を混ぜたもの。色のない色であった。
 ミノリはついに言葉を出さなくなる。勝てないと体が判断しているのだ。これ以上の抵抗がないことが分かると、時雨は魔力を掻き消し、カルテを捨て、ミノリに笑いかける。
「ねぇ、イイトコがあるの。そこに行けば、サキも来るわ……きっと」
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Blank本編久々の更新です

皐希子と時雨のお話なので皐月編と今更ながら命名していますが、なかなか進まない

大きな事件とは小さい物事が多く絡んでしまうものですね


では、どうぞ






「遅れて申し訳ありません」
 皐希子は一言添えて広間へ入る。
 十二人が規則的に座り、上座には睦月である篠原大河が座っていた。
「さぁ始めよう」
 睦月の一言で十二柱の会議が始まった。
 睦月、如月、弥生の順に現在の状況を報告している。最近新しく所属された文月の七瀬文は幼いため、如月の隣に座り、話を通していた。
 如月に所属されている梅谷恵風は大柄な女性だ。けして良いとは言えない髪質を束ね、キセルをふかしていた。
「あのお兄ちゃんが言ってることはどういうこと?」
 フミが尋ねると、恵風は顎に手を当て考えた風を装う。
「んー、なんて言えばいいんかね。今は平和ですよってことかね」
「そうなんだ……」
 恵風の説明はどうも解釈が違っているらしく、フミも鵜呑みにしてはいないようだが恵風の隣に引っ付いていた。
 睦月の報告が終わり、如月である恵風の番がくる。
「状況変わりなし」
 一言だけであった。すぐに弥生に回る。
「こちらは少し伸展あり、かな」
 弥生であるサクラは手に持っている紙を持っていた。
「これは近年こちらで調べるようになってきた五摂家の図ね」
 サクラが手にしていた紙をかざす。家系図のようになっているが、それは五摂家という関係を表していた。
 そもそも、五摂家と言うのは藤原家を軸に動いている近衛家、鷹司家、一条家、二条家、九条家のことである。その内、一条家の長女であるサクラは近年五摂家の中で誰かが悪魔との交流をしてるという噂が立っていた。流石に見て見ぬ振りも出来ぬと判断したのか、サクラは睦月に了承を得て独自で調査を行っていた。
 しかし、やはりと言うべきなのか素直に「はい、悪魔と交流してます」などと名乗り出てくる者はおらず、五摂家の当主は全て首を横に振っていた。
「でもさーやっぱ一番怪しいって思ったのは鷹司家なんだよね」
 サクラの一言で十二柱である皐希子は拳を握りしめる。
「……やはり、ですか」
 皐希子の近衛家と繋がっているのは鷹司家である。何故現在鷹司家が疑われているのか、サクラは説明し始めた。
「そう。皐月には申し訳ないけど、独断で調べさせてもらったわ。鷹司家の当主である霧雨が以前から怪しい行動していたのを使いの人たちが目撃してる。入手困難な魔導書に、悪魔召喚の図が書かれている書物などを集めているって」
「それってもしかして……」
 皐希子の言葉にサクラも頷く。
「えぇ、多分、鷹司家の面汚しをした鷹司時雨の暗殺の為に悪魔との契約を企てているのかもしれないわ」
 その言葉で十二柱は騒然とする。誰も大声をあげて意見は言わないものの、皆が落ち着きない。
「まぁ、分かったってのはそういうことだけね。流石に契約している場面は誰も目撃していないし、言質も取れてないから分からないのだけど」
「魔導書を持っていたっていうのを目撃している人がいれば十分さ。ありがとう、弥生」
 大河はサクラに視線を送る。サクラも頷き、手に持ってる紙をしまった。
 皐希子は内心、ヒヤヒヤしていた。このまま時雨暗殺に手を貸すと言われてしまったらどうしようと考えていた。
 会議終了後、すぐにサクラの元へ走った。
「あ、あの、弥生さん」
「ん?なぁに」
 右目に眼帯をしているサクラは正面を向いて皐希子を見る。皐希子の表情にサクラは微笑む。
「心配なのよね、時雨さんが」
「……えぇ」
 言わなくても分かっていた。サクラは全てを承知の上でこの調査を独断で行っている。
 そもそも、この調査はサクラ以外では行えない。五摂家とは特殊なもので、五摂家以外の人たちと深く交流を持たない、ある意味孤立している者たちなのだ。そこに部外者である者が探ったとしても、拒否されるか抹殺されるだけだ。
 サクラは一条家の長女である。しかし、サクラ自身は一条家との縁を切ろうとしている立場でもあった。
「あの、ごめんなさい。こういうのは近衛家長女である私が引き受けなきゃならない調査なのに……」
「なーに言ってんのよ」
 サクラは二カっと笑う。
「貴方はパートナーを見つけなきゃならないでしょ。ましてや、鷹司家が見つけ出す前に彼女を見つけ出さないと」
「弥生さん……」
「サクラでいいわよ、もう会議終わったんだしさ」
 サクラは皐希子の肩をぽんと叩く。
「頑張ってね」
 そう言ってサクラは広間から出て行く。誰もいなくなった広間で皐希子は「絶対見つけ出します……この命に代えても……」と誓った。


 サクラは月夜に照らされている縁側を歩く。篠原家の敷地は広く、庭も手入れがされていて池に浮かぶ三日月は揺れている。
 時折、その庭を見るために縁側に出る者がいる。サクラも例外ではない。十二柱の会議がもつれたり、物事がうまくいかなく息詰まった時は縁側を歩くのだ。
「サクラ」
 声がする方を見ると、縁側に座りお茶を持っている大河がいた。
「大河」
 サクラは大河の隣に座る。持っているお茶は一つであったため、大河がお茶を淹れに立ち上がろうとする。
「いいわよ、私は」
「そう?」
 遠慮ではなく、本当に要らないんだと分かった大河は再び座る。
「皐月、焦ってたね」
 大河は湯呑に口を付ける。サクラは視線を下ろし、ため息をつく。
「えぇ。彼女には酷だと思うわ、この報告。喋ってる私の方が心臓がぎゅうって掴まれるような嫌な感覚になるもの」
 心臓に手を当て、ワイシャツを握り締める。
「でも同時に伝えなきゃって思うのよ。彼女も近衛家の長女である前に、時雨さんとのパートナーだったんだから」
「……あぁ」
 サクラのその姿を見て大河は微笑んだ。いつもの彼女になったことへの安堵感があった。
 話を終えたのか、サクラは立ち上がり月を見上げる。
「ねぇ大河……もし私がこの場から消えちゃったらどうする?」
 唐突だった。大河はゆっくりと首をサクラへ向ける。右目は眼帯で覆われ、左目は髪の毛で見えない。表情が読めなかった。大河は答えに戸惑っていると、サクラは笑いだす。
「ごめんごめん、なんでもない。今の忘れて」
「……いや、サクラ」
 大河は立ち上がる。サクラより少し目線が上になる。
「探す。俺を待ち続けてくれたんだ、俺だって会えるまで探してやるさ」
「た、たい……」
「あー、あのさ、お取込み中悪いんだけど」
 二人の後ろからひょこっと現れたツバメに、二人を驚いて飛び退く。
「そういうのは部屋でやってくんない?それと、弥生、弟さんから手紙きてたよ」
「本当?今すぐ取りに行くわ」
 サクラは少し赤い耳を隠しながら急いでその場から去ってしまう。ツバメはつまらなそうに手を後ろに回し、大河を見る。
「言っとくけど、睦月が寝てる間、弥生のことずっと見てたのあたしだから。抜け駆けはしないで欲しいなぁ」
「あ、あはは……」
 ジッと陰湿な目つきをするツバメに大河は笑って誤魔化すが、口角が引きつっていた。
「ま、冗談だけどね。流石にサクラのあんな表情をあたしに見せたことなかったしさ」
「あんな表情って?」
 その質問に再びじぃっと見つめる。
「わっかんないかなぁ……女の顔ってやつ」
「してたかな…そんな顔」
「してたしてた。鈍感なところってほんと兄妹似てるねー」
 ツバメは嫌味のつもりで言ったものの、大河は頬をかいて少し照れている。欲しかった反応ではなかったが、それでいい。
「こうなったんだから、睦月、あんたがサクラの逃げ場になってやんないとね」
「あぁ……分かってるよ」
 本当に分かっているのか、ツバメは大河を見る。嘘を吐くような人ではない、この瞳を見ると真っ直ぐすぎて目を反らしてしまうほどだ。
 誠意は伝わった。大河はにっかりと笑うと、拳を突き出す。
「何?」
「約束だよ、サクラは俺がちゃんと守るっていう」
「はーー?違うってば」
 ツバメは突きだされた拳を拳で殴る。
「逃げ場になってやれって言ってんの!守るのはあたしの役目なんだから!取らないでよね!」
 語気を強める。ツバメの言葉に大河はやっと納得がいったのか、再び拳を突き出した。
「分かったよ、葉月」
 ツバメは大河の拳と睨めっこをし、渋々拳を突き出した。
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かなり間を空けてしまい久々の更新が落書きをぶちこむだけという所業です。

もうお酒を飲む歳になってしまいましたねぇ。


今まで溜まりに溜まった落書きの放出をしていきます。描いた日とかはごっちゃです







Blank版シノハラ&チホ:忘れていようといまいとなんとなく記憶の片隅にいるんでしょうねぇ



サクラ:横顔サクラさん。アイコンにしようとしたけど没。横顔美人が大好きです


チホ:学生のチホ。ブレザー着ているので春だと思いますね。夏に入る手前ぐらいにシノハラと出会います



シノハラ:横顔3連発になってしまった……横顔描くの好きです。楽なんで



サユリ&悪魔(バフォメット):ifのお話です。本編じゃありえないですけどね~!!サユリの能力はとても特殊で便利ではありますが危険も伴います。甘い話にゃ裏があるんですね



ジズ&サユリ&悪魔:異種に好かれるサユリ。ほんわかした感じが大好きですね



ジズ&サユリ:うちの犬をジズサユで描いてみました。呼べば来るんです


ジズサユ:たまごぼーろが美味しかったんだ……


悪魔&サユリ:あんまし仲良くなかったらいいなぁって



ルシフェル&チホ:ゼクトバッハにハマってたんでアンネースの曲を抜粋しました。格好良い曲ですよねー厨二っぽいの惹かれます。いまだに



ジズサユ:帰りに雷鳴ってたんでジズが怒ってるのかなぁって。感情と天候が共鳴してたらいいですよね



ベルフェゴール:またすぐに横顔描く~めっちゃ楽なんですよ~~!!ベルは描きやすくて本当に助かります



旧・学生組:久々に描いたんです。描かない期間があってリハビリ程度に描いたの覚えてますね~ほんとこの3人は描きやすくて助かります。あれこれベルでも同じこと言ってるな……


シノハラ:シノハラってすっげぇ美人だと思うんですよね。それが自分の画力では全く届かない境地にいて困ります。美人ってどう描くんだろうなぁ


皐希子&時雨:しぐさき。今本編でのカップルです。公式公認カップルです。シノハラとチホは本編では一応親友の位置づけであるんですね


レン:Blankのヒロインなのに全く描かれていないのは何故だろう。寧ろカタリナの方が描いている気がします。これは悪魔に堕ちる手前のレンレンですね


タロット:サユリが扱うタロットのやつらです。一応、見た目が決まっている子たちだけ詰め込んだんですけど、これでもまだ一部です。全員描くのはいつになるのやら……


タロット:上の絵を完成させる前のリハビリです。この時期はテストやら実習やらが重なってて全く絵が描けなかった時期でしたねー年末年始はとても大変でした。再試には引っかかりました本当にありがとうございます




旧・学生性転換:エイプリルフールネタです。あまりこういうネタは好きではないんですけど、たまには乗っからないと面白くないよなぁと。別世界へ飛ばされてしまったチホたちは自分が男となった姿を発見し…?みたいなネタです。



男:男の方です。千明くんはバカです。雪人くんはボケです。小太郎くんはアホです。


女:幻滅してるチホちゃんに畳みかける容赦のないシノハラ。サユリのフォローは最早意味があるのか……



性転換:最近ウォーターボーイズとぼくたちと駐在さん観たんですが男子高校生っていいなー!って言いながら描きました。青春時代をだな



朧:卯月です。オールバックになりました。Blank版だと



ツバメ:Blank版のツバメさんです。こっちだと学生に近くなりましてねー似たような髪型が多くなっちゃいましたよ……



梢:まだまだ能力が開花しない梢さん。でも今やってるお話で開花する…予定です…



小春&要:神無月が小春、神有月が要です。まだまだ出る予定がないですが気に入っている二人です。鹿の神様です、鹿の神様


シノハラ:美人の描き方を模索しています。どうもバランスが難しい……


新・学生組&三湖:色がもろ一緒だということに気付き描いたポケパロ。あまりにも似合いすぎて…こいつらは生まれるべくして生まれたのかと…ポケパロは楽しくていいですね



シノハラ&ユキノオー:でっかいポケモンとチホちゃんたちを描きたいっていう思いから描きました。シノハラは氷タイプです


エレキブル&チホ:チホちゃんは炎タイプだったり格闘タイプだったり電気タイプだったりと結構バラバラです。主人公のくせに……


バンギラス&サユリ:サユリは600族の持ち主だといいですね。チート並みに強けりゃいいなぁって



シノハラ&ミロカロス&ユキワラシ:ユキメノコになる前のユキワラシですね



サユリ&ミニリュウ&チルタリス:カイリューになる前の子です


チホ&レントラー&リオル:ルカリオになる前の子です


コジョンド&凛:何気Blank版の凛です。凛は格闘タイプと分かりやすくていいですねー
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セーラームーンの決め台詞ってあるじゃないですか。

あれすごく格好良いですよね。決めセリフってすっごく格好良いですよね。

火星にかわって折檻よって

おっかないですよね。大好きです。


なんだか話が暗いものばかり。実際ギャグ路線ではなく、完全にシリアスなお話ばかりなので明るい話があるとなんだかほっとします。彼女たちにふりかかるのは不幸だけなのではないって。

不幸の中に埋もれている中の小さな日常が幸せってもんなのかな、と考えたりしています。バスの中で。
ちなみにこの間寝過ごしました。山奥まで行っちゃいました。


それでは、どうぞ。




皐希子が経験した事件は後に『近衛研究所・研究員惨殺事件』として語られた。
 顔面のない無残な死体は「まるで人間がしたとは思えない」という言葉を残す。総勢80名の研究員全員が死体となって発見されていた。
 その中で唯一の生存者、近衛研究所の設立者である近衛夫妻の一人娘である皐希子は記者たちの心無い言葉と世間からのバッシングを受けた。
 お前が犯人なのではないか、死体の顔がないのは何故か、君なら犯人を見たのではないか。あまりにも酷い仕打ちに皐希子は耐えられることなく二か月もせずに施設を抜け出した。
 皐希子が時雨を捕まえようと決心したのは事件が起こった一年後、今から二年前のことであった。
 皐希子は自分の能力を持っている人物たちが集会するというある組織に目を向けた。十二柱である。
 十二柱に理由を説明し、なんとか加入は出来た。しかし、十二柱に加入したとはいえ、時雨の手がかりは一向に見つからなかった。
 ある日、皐希子のもとに一つの情報が入る。
「鷹司時雨らしき人間を目撃した」
 情報提供をしたのは救護班である人物だった。その人物は、とある村に行く際に立ち寄った診療所で一人の看護師を見つけたというのだ。見た目は若干変わっていたものの、鷹司時雨に違いないということだ。
 その情報を元に、村へ行くことになる。【黙示録】の担当班長であるシノハラと共に行動を取るのであった。



 学生の身分であるミノリたちは既に二学期が始まっていた。近く、修学旅行や文化祭などのイベントも控えているので徐々に忙しくなってくるのは目に見えていた。
 厳しい残暑の中、夏服を纏い空を仰ぐ。
 三人は春日神社に来ていた。山の中にあり、来るときは若干長い階段を登らねばならない。本殿は春日造と言われるつくりであるが、春日大社より一回り小さい。というのは、この村自体があまり参拝者が訪れることもなく、来ても初詣やお祭りの時のみなためであった。
 しかし一回り小さいといえど社殿も綺麗に掃除されており、時折姿を現す参拝者はご丁寧にお賽銭を入れていた。いつも閑散としているわけでもなく、周りの木々は人を招き入れるかのように揺れていた。
 ミノリたちは何故この春日神社に来ているかというと、ここの神使は狛犬ではなく鹿である。神使とは所謂神の使いである鳥獣、虫魚のことを言う。狛犬などオーソドックスな神使もいれば三峯神社では狼、伏見稲荷大社では狐が神使として鎮座している。
 ここ春日神社の神使は鹿である。それも、白い鹿であるため神々しさは増すばかりである。ミノリたちはその鹿を見に来た、というよりも願い事をしにきたようなものだった。
 村にはいくつか神社がある。ここ春日神社もそのうちの一つであるが、他の神社の神使は狛犬であった。春日神社のみ、鹿を扱っているということで他の神社より効果があるのではないか?という話をしている生徒たちがいた。
 ミノリはそれを盗み聞きすると、隣に座っていたレンに目配せをした。「行こう!」と目で訴えていたのだ。レンは頷き、放課後にカタリナを拾ってこうして春日神社に来ていた。
 彼女たちの願い事はそれぞれだ。ママの容態がよくなりますように、姉と共に暮らせますように。その中でただ一人、願い事が思い浮かばない人物がいた。
「どうしたの?ミノリン」
 レンとカタリナは二人揃って拝礼をしていたものの、ミノリはぼんやりと賽銭箱を見つめているだけだった。
「いや、ちょっとな…」
 自分の願い事って何だろう。訊かれると困るものであった。
 今は順風満帆な生活をしている。周りの人物に何ら問題はないし、寧ろ離れてしまうという想像がまるでつかない。永遠に一緒にいるとも思ってしまうぐらいだ。住んでいる地域だって自然に溢れ、たまに不便と思うときはあるがそれは本当に稀だ。学校帰りに用事は済ませる。
 じゃあ医療施設や学校などは?そう考えてみても特に思い当たる節もない。
 大学や専門学校に行きたいという欲もまだないし、だからといって卒業したら働くということもない。自分のことは考えるだけ時間の無駄だった。
 ならばここは平和でありますようにと願えばいいのだろうか。結局は神頼みであるし、本気でそう祈ることはないだろう。
 ミノリは二人が少し羨ましく思った。願える願い事がある。願い事に想われる人物のことも羨ましく思った。人に想われるとはどういうことなのだろうか。
 深く考えて、やめにした。訝しげに見てくる二人の友人の視線に耐えられるほど長い時間自分の空想に耽っていられるメンタルは持っていない。
「そう?ならいいんだけど」
 願い事は口にしたらダメなんだっけ。カタリナは笑いながらレンに話しかけると、レンは小さく頷いて「まぁ人に言えないようなことだからこうして願うんでしょうね」と言った。
 自分の中で決めたことだ。人に言うまでもない、ということなのだろうか。
 ミノリはやはり二人を羨ましく思った。


 社殿は学生の遊び場じゃない、と一度高校の先生から指導を受けたことがある。それはミノリ個人に対してではなく、クラスの生徒全員に言っていた。
 どうやら他の神社のところで食べ物のごみが散らかっていたというのだ。高校はミノリが通っている生徒以外いないし、制服が目撃されればすぐにバレてしまう。その生徒たちはすぐに指導されていたが、ミノリにはあまり縁のない話しだとその時は思っていた。
 しかしこうやって神社へ来ると、何故か神聖で落ち着いた気分になる。三人は鳥居の真下で階段に座って景色を眺めていた。ここでゆっくりしてしまう人の気分が少し分かる気がする。
 元々喧騒の少ない村だが、こうして神社へ来るといっそう静かに感じる。時間がゆっくりすぎていくのを肌で感じていた。
 ふと、蜃気楼の中に人影がうつる。長い階段をのぼりきり、白い肌に汗がつたっていた。その女性にミノリは見覚えがあった。
「皐希子さん?」
 ミノリは思わず立ち上がり、皐希子の目の前に行っていた。
「あら……あの時の」
 どうやら皐希子の方も覚えていたようだ。日に照らされた白い肌を少し赤く染めていた。


「へぇ、だからここに来たのね」
 三人で珍しい神使を見に来た、という理由に皐希子は少し笑っていた。他の神社よりも効果があるかもしれない、という噂にも頷いていた。
「確かにこの階段を登り切った後の参拝ってすっごく神聖な気分に浸れるものね」
「そうなんですよね、だからわざわざここを選んだっていうか」
 ミノリは皐希子と親しく話していると、カタリナはミノリと皐希子の会話に入って来た。
「でもなんで……えっと」
「皐希子さんだ」
「そう、サキコさんはなんでここに来たの?」
 カタリナの素朴な疑問だった。ミノリも少し気になって彼女の答えを待っていると、皐希子は遠くを見つめて「探してる人をね……早く見つけられるようにって願い事をしに来たの」と言った。
「願い事でしょう?口にしていいの?」
 カタリナも恐る恐る訊くと、彼女はまた笑った。
「口にしたからって願い事が飛んで消えてしまうわけじゃないもの。ただ頭の中で自分の目的を明確にするために行っているようなものだわ。所謂暗示のようなものね」
「へぇ……」
 カタリナは心底驚く。そういう考えもあるのか、と感心していると、皐希子は腕時計で時間を確認して慌てて立ち上がった。
「あ…ごめんなさい。もう行かなきゃ」
「帰るんですか?」
「えぇ。あまり長居は出来ないから」
 そう言うと皐希子は一礼してから階段を下りていった。ミノリたちも頭を下げて、皐希子が階段を下りていくのを確認すると三人も階段を下りはじめた。
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今回からまた違うお話となるのですが、前回とは全く違う感じです。

残酷な表現などがありますので気を付けてください。
同性愛の表現もありますので、苦手な方は避けてください。


それでは、どうぞ。








「そうか、フミが…」
 ミノリ、カタリナ、レンの三人は梢と会っていた。
 梢は以前、ミノリとカタリナの二人の援護をする際にメアドを交換しており、情報をシノハラが伝えることが出来ない代わりに彼女がミノリたちに情報をあげていた。
 シノハラは十二柱の中でも古参であり、頼れる存在だ。故に、他の十二柱からどういう動きをするのか事細かに監視されている。なので彼女はこの三人に会うことは控え、監視下におかれていない梢を介して情報をあげてくれと頼まれていた。
 しかしそのことを三人には言わないでくれ、ということだ。
 水無月は既にカタリナとミノリの顔を覚えている。あの時なんの考えもなしに水無月に会わせたのが間違いだったとシノハラは自分を責めていたが、あの状況では仕方がないと梢はなんとかフォローした。
 だとしても、水無月が二人を重要人物として指定するようなことがあればあの二人は十二柱に監視下におかれ、行動を制限されてしまう。シノハラはそれだけは避けたいと言っていた。
 三年前のことから、自分は自由に行動出来なくなってしまった。その代わりに、自由に動ける人材が彼女たちだということをシノハラは語っていた。自分に出来ない、もう一つの原因を突き止める役に任命したようなものだ。
 そんなシノハラの想いを彼女たちは受け取ったのか、シノハラの指示なく動いている。あの突き放すような言葉が功を奏したのだろう。
 そして梢は今回、フミが十二柱の『文月』に所属した旨を伝えたところ、カタリナは終始苦い顔をして聴いていた。
「っていうかさーその保護観察?って何?牢獄か何か?」
「保護観察対象者…つまり、力がある者を仲間にすることにより悪魔から守るって意味じゃないかしら。確かに牢獄のようなものね」
 レンが梢の代わりに説明してくれるのは有り難いが一言余計だ。
 確かに、厳しいとは思われるがフミは本家に預けられ、今は凛と共に仲良くしているらしい。梢はあまり本家に寄れないものの、そういう情報はサクラから知らされる。
 定期的に報告をくれ、と頼んだのはシノハラ自身だった。シノハラは借家でこの村に住んでいるため、ここではフミを見守ることが出来ない代わりに信頼できるサクラに預けたのだという。ツバメも了承し、事なきを得た。
 反対しそうな師走と水無月が心配であったが、彼らも幼子には弱いのか何も言うことなく、十二柱全員の確認が取れた上での保護観察だ。力がある者が守られる時代なのだなぁ、とつくづく梢は感心してしまう。
 出る杭は打たれる。世の中、常識より逸脱している者はどうにも周りから非難を浴びやすいのだ。フミはそうなる前に周りが守ってくれた。良い環境に恵まれているのだな、と梢は少し羨ましく思う。梢にはそういう大人がいなかったからだ。十二柱に入ってからは、若干とはいえシノハラが彼女を認め、頼っている。
「そういえば、もう夏休み終わるんスよね?」
 不意に投げた言葉に、カタリナとミノリはマズイ、という顔をする。
 彼女たちは学生と言う身分だ。勉強が仕事である。
「課題は終わったんスか?」
 梢のその一言がいけなかった。ミノリとカタリナは「数学の課題が終わらない!」と叫んで梢の腕を引っ張り、一日中図書館にこもることになってしまった。
 梢の夏休みも、勉強を教えることで潰れそうだ。彼女は勘弁し、学生たちにとことん付き合った。




必要な時以外に手を添えてはならない。そう教えてくれたのは母だった。
 母は、父を慕っていた。誠実に、無頓着な父を慕っていた。
 父は研究熱心な人だった。世の中の現象の全てを科学で証明しようとしていた。そして、この世のすべてを知り尽くそうとしていた。
 そんな父は研究対象を私に向けた。父は酷い人だった。未知なる力を授かった私は研究対象にして、調べつくした。
 しかし、この力は科学で証明出来るようなものではなかった。父は混乱した。
「この世にはこんなものがあるのか」
 そして、歓喜した。やっと、科学で証明出来ないものが出て来た。父は熱心に私を調べた。熱心に、娘を調べた。
 点滴や注射の跡が絶えなかった。父はメスで娘を切り付け、娘は涙を流しながら自らの傷を癒した。父がそうしろと言うから、従った。母も父に従えというから、私は従った。
 私はこんな力はいらない、と言ったら父に殴られた。口の中を切り、血を流しながらそれでも父を睨んだ。
「お前は人間じゃないんだよ」
 父から吐き出された言葉は私の心を突き刺した。私は癒す力を持っているのに、私の心までは癒せなかった。
 点滴や注射の跡は消さなかった。誰かが気付くまで、残してやろうと思っていた。小さな復讐だ。だが、誰も気づかなかった。違う、誰も気づかないふりをしていた。
 みんな、研究熱心な父の信者であった。信者であり、恐怖対象であった。父に逆らう人は誰もいなかった。みんな、父の機嫌を伺って私を見ていた。研究対象の私をずっと、見ていたのだ。
 助ける人がいないのだと、絶望していた頃だ。『彼女』が現れた。
 『彼女』は看護師をしていた。私に点滴や注射を打つ人で、最初はためらうことなく針を刺していた。私も黙ってそれを見ていた。すると、『彼女』は呟いた。
「あんたのお父さん、異常だね」
 真っ黒い、闇のような瞳は全てを見透かしたように私を見た。私は傷だらけの心を見透かされたと思った。その場から逃げたくなった。針なんて引っこ抜いて、全部全部、管という管から逃げたかった。
 白い服を着ていた『彼女』の心の中はどうなっているのだろうか。そんな『彼女』に興味がわいた。点滴の時間の度に、訪ねた。
「貴方はどこから来たの?」「どうしてここにいるの?」「前はどこで働いていたの?」
 訊いても、彼女は全て曖昧な答えだけを返してきた。怪しくなってきたため、ちょっとだけ訝しげな顔をすると看護師免許だけ見せてくれた。そこに書いてあった名前は『鷹司 時雨』という名前だ。
「本名なの?」
「そこまで疑う?」
 時雨の素の笑い顔を見た。私は思った。時雨は私を研究対象を見ていないことが。
 長い月日だったと思う。もしかして、一か月かそこらかもしれない。研究室にずっといたため、肌は白く点滴が落ちてくる退屈な日々に彼女は色を付けた。
 その中で彼女との密かな交際は始まった。彼女は貴方は縛られてるからまだ手を出せない、と冗談めいて話していた。比較的プラトニックなお付き合いだったと思われる。
 彼女は何度も帰り際に「愛してる」と呟いてからキスをした。私は彼女が行く、同じ場所に行きたいと思っていた。だけど、無残にも彼女は私を研究室に残して行ってしまう。彼女について行きたい、色のついた世界で生きたいと、私は小さく呟いた。
 それがいけなかった。彼女の中でその言葉がどういう化学反応を起こしたのか未だに理解出来ない。
 その日、聞こえてきたのは女性の甲高い悲鳴だった。そして次々と人の悲鳴が聞こえた。私は逃げようとしたが、研究室は開かなかった。病室の個室のような作りだが、監視カメラが置いてあり監視カメラに手を振る。助けて、とジェスチャーをする。しかしカメラは私を写すだけだ。
 逃げられない。徐々に近づいてくる恐怖に、耐えられず込み上げてくる吐き気に襲われていると、扉が開く。そこには真っ白い看護服を着た『彼女』ではなく、真っ赤な血に染まった『時雨』がそこに立っていた。眼鏡の奥の瞳は、真っ黒に淀んでいる。
 彼女が手に持っているのは、私の母と父だ。なんということだろう、顔面が凹んでいる。まるでそこにだけ凄まじい重力が加わり凹んでしまったようなものだった。二人は生きてない。
「い、いやぁあああ!」
 私は泣き叫ぶ。吐き気は先ほどより込み上げ、叫び声とともに食道を通り外に出てくる。苦しい。苦しいし、近付いてくる時雨に恐怖感を覚えていた。
 血塗れの両親を私の目の前につきだす。
「ほらこれ、サキの両親でしょう?頭の中はちゃんとした脳みそだったよ。異常な奴だけど人間なんだね…」
 そういうと手から両親を離す。血塗れの手を拭うことなく、私の顔にべっとりと血を付ける。輪郭をなぞるように、目を細めて私を見た。
「ねぇ、二人きりだよ?サキ」
「い、いや………」
 そう言ってキスをされるが、私は時雨を突き放す。手元にあった果物ナイフを時雨に突き付ける。
「な、何!?貴方何をしたの!?」
 自分にナイフが突きつけられたのがそんなに驚いたのか、不思議そうに小首を傾げる。
「どうしたの?サキ。だってサキが望んだんでしょう?外に出たいって。だからそれをサキの両親に言ったら『ダメだ』って半狂乱になったから殺したの。だって、私を殺そうと銃を向けて来たんだから」
「だ、だからって……」
 自分の親かどうか確認できないぐらいに酷い有様の両親。きっと研究員の人たちも同じように殺されたのだろう。しかし、どうやってそんな殺し方が出来るのだろう。乾いた血を見て、時雨は微笑む。
「私、サキと同じ力を持ってるんだよ。サキみたいに傷をすべて癒すことは出来ないけど、ほら」
 時雨が人差し指を下におろす動作をすると、近くにあった床頭台がベキベキという音を立てて平らに潰されてしまう。上からの強力な重力によって床頭台が壊れたのだ。
「こんな感じの要領で、ね。私は人を殺す力を持っていて、サキは人を癒す力を持ってる。これってすごい運命的じゃない?」
 笑った時雨が怖かった。サキは点滴が刺さっているのも構わずに針を抜き、ベッドから出てナイフを突き立てたまま時雨から逃げるように室内の壁を伝って出口へ行こうとする。
 ベッドの前で佇み、首だけ動かしてサキの様子を伺っている。両手を上げて、降参のポーズでもしているのだろうか。
「ねぇサキ…」
「こ、こっち来ないで!」
 時雨が一歩踏み出すごとにヒステリックを起こすサキ。歩いていると、足元に何かがぶつかる。恐る恐る足元を見ると、そこには顔の潰された両親。何故だか涙は出てこないが、吐き気だけが出て来た。
 サキが蹲ると、時雨は心配そうに寄り添ってくる。しかし、サキは時雨に肩を抱かれた瞬間、彼女の脇腹に果物ナイフを突き刺した。
「っ……――!!」
 だが、時雨は痛いと叫ぶことも蹲ることもしない。
「…痛いじゃん、サキ」
 そう言って笑顔で果物ナイフを取り出す。サキは一心不乱になってそこから逃げた。
 そして、どうやって逃げ出したのか覚えていない。血のぬめりで何度も転び、研究室という名の実家から飛び出たときには救急車やパトカーがサイレンを鳴らしていたのは覚えている。
「生存者がいました!」
「よし!突撃しろ!」
「大丈夫かい?お嬢さん!」
 飛び交う声。救急車に運ばれる途中、実家を見た。あぁ、こういう家だったなぁ、と思うのと同時に、時雨は逃げ切れたかな、と何故か彼女の心配をしていた。
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