「お姉ちゃん?」
―ここよ。
「どこにいるの…?」
永遠と続く暗闇の中、レナはひたすら声のあるほうに向かっていた。
暗闇の中、周囲には点々と輝く星たちが煌いていた。しかし、まるで時間が止まっているかのように星たちはそれ以上の動きを見せようとはしなかった。
「ミナお姉ちゃんの声がする…。この先から…。」
レナの進んでいる方向は光がなく道しるべも無いただの闇。ただ分かっているのは回りの星たちがレナの行く先々を追っている、それだけだった。
いくら歩いても辿りつかない道にレナの不安感が高まっていた。
すると目の前から小さな光が見えてきた。レナはその光へと誘われるかのように真っ直ぐ歩いていく。やがて光は近づくにつれて大きくなっていく。
(あそこにお姉ちゃんがいるの…?)
もうすぐで手が届きそうなぐらい光へと近づいたとき、光は放たれるかのように眩しく輝きだす。
レナはその輝きに目が眩みまぶたを閉じた。
再び目を開けたとき、目の前に草原が広がっていた。草花が風に揺れ、遠くのほうでは山々が連なって見える。その草原の真ん中に見覚えのある後ろ姿が見えた。
「お姉ちゃん…?お姉ちゃん!」
レナは姉らしき者へと向かっていく。走り出した足は止まることはなかった。
息を切らせ5メートルわずかまで近づいたとき、レナの足はゆっくりととまる。
レナはその者の肩に手を伸ばそうとした。
しかし―
その者はゆっくりと倒れ目の前には見えなかった崖へと落ちていく。
「お姉ちゃん!ダメぇ!」
無情にもレナの手は届くことが無かった―
守れなかった…
大切な宝物…
ベッドの上で眠いっているレナの目じりから涙が一筋零れ落ちた。
そんな様子を隣の椅子に座っている赤く長い髪の少女が見つめている。
あたりにはパチパチと暖炉で焚き火が炊かれる音、飾り物から小さな音色が聞こえている。
少女はレナの額にあるタオルを用意していた氷水の入った桶に再び浸し、絞りなおし、またレナの額へとかぶせる。その様子は病人を看病しているさまだった。
そんな時、扉からガチャッと音がする。
「ユウリ姉さん、様子はどう…?」
現れたのは赤く短い髪の少し背丈が高い女性だった。
「リオ、おかえり。まだ目覚めていないよ。でもさっきより熱は下がった感じ。」
ユウリはリオに大丈夫と言わんばかりに微笑んだ。
そんな表情に安心したのかリオも微笑み返した。
リオはそうだと思いついた顔をし、台所へと向かう。
カゴに入った複数のミ・カンと呼ばれる果物を一つ取り、まな板の上で皮をむいていく。そうして現れた中身をデザートナイフで小さく切り、皿へ盛り付ける。
「どうぞ姉さん。」
リオはユウリの隣においてある棚の上に皿を置いた。
「ありがとうリオ。いただくね。」
ユウリは手にとったミ・カンを見つめ、昨日の事を思い出していた。
まだ夜が明けない頃、ユウリはデザート用のミ・カンを摘みにニューデイズのミズラキ保護区にきていた。
食用の木が生い茂るこの地区、特にデザートにかかせないミ・カンを採るにはうってつけの場所であった。
「今日はこれぐらいで良し…と。」
ユウリの手持ちのカゴにはミ・カンがいっぱい入っていた。もうすぐ夜が明ける、モンスターが出ないうちに帰ろうとユウリはその場を立ち去ろうとした。
すると空が一瞬明るく光る、暗き空を一筋の流星が流れた。流星は近くの区間へと堕ちるのを肉眼で捉えられるほど勢いよく降り注いだ。
「何…!?」
ユウリは慌てて堕ちていった区間へと足を踏み入れる。
すると、そこには1人女性が倒れていた。
ユウリは持っていたカゴを落とし、急いで女性の元へと駆けつける。
「大丈夫!?しっかりして!」
ユウリは女性に声をかけ少し体を揺らしてみた。しかし、女性から反応はきこえない。
「急いで手当てしないと…。でもよく見るとこの人、この世界の人間じゃない…。ううん、そんな事言ってられない!」
ユウリは連絡用の端末を起動し、救護班へと連絡を取った。
少ししたのち、救護班が現場へと駆けつける。
「連絡をいただいた救護班です。負傷者はこちらでよろしいでしょうか?」
3名の救護班がユウリにお辞儀をし、敬礼をした。
「ええ、お願い。」
救護班たちは互いに頷き準備に取り掛かった。
「いいか、ゆっくり本部へと運ぶぞ。せーの。」
救護班は用意した担架に、レナを乗せ、運ぼうとした。
「あ、まって。」
立ち去ろうとする救護班にユウリは止めた。
「お願い、本部へは連れて行かないで、私のルームに運んでほしいの。」
救護班はユウリの言葉に驚いた。
「な、何を言っているんですか!?要救助者ですよ!?ユウリさん、あなたほどのガーディアンズがこの状況が分からないわけではないでしょう!?」
本来ならば救助者は本部へ運ばれ医療チームによる治療が施される手はずだった。しかし、ユウリには考えがあった。
「今、本部はリュクロスへの侵攻作戦で忙しいわ。それに、気がかりなこともあるの。この人、空から落ちてきたわ。見たところガーディアンズでもない。本部へ運んで現場を混乱させたくないわ。お願いこの事は私とあなたたちの秘密にしておいて。」
ユウリの答えに救護班たちはしばらく沈黙が続いた。その沈黙を破るかのように救護班の1人が口を動かした。
「し、しかし…いずれ疑いがかけられるのはユウリさん、アナタですよ…?勝手な行動はあなたの立場が危うくなります。」
ユウリはその言葉に目を閉じ、ゆっくりと答えた。
「大丈夫、私のほうから”医療チームのスペシャリスト”に話をつけておくわ。あなたたちもその言葉の意味がわかるでしょ?」
ユウリの言葉に救護班たちは反応ができなかった。
「わかりました…。しかし、くれぐれも怪しまれる行動は避けてください。では。」
救護班たちは担架に乗せたレナを慎重に運んだ。ユウリもその後を着いていった。
どんな人であろうと命をもっていることには変わりはない―
ユウリは手にもったミ・カンを口にほおばった。
「姉さん、少し休んだほうがいいんじゃない?もう寝ずに看病してるじゃない。それじゃ体がもたないよ。あとは私がみておくからさ。」
心配そうな顔でリオはユウリの肩に手をやった。
「ありがとう、リオ。そうだね、少し休もうかな。」
ユウリが椅子から立ち上がろうとした時だった。
「う…うぅ…。」
レナから声がきこえた。
慌てて2人はレナに目をやった。レナはゆっくりと目を開ける。
「ここ…は…?」
ユウリとリオは互いに目を合わせお互いに安堵した表情をうかべた。
「よかった…。」
目を覚ましたレナはユウリへと顔を向ける。
「あなたたちは…?」
うつろうつろな表情をするレナはユウリたちに質問した。
「ここは、私のマイルームよ。あなたはミズラキ保護区で倒れていたのよ。私はユウリ、こっちはリオ、意識が戻って良かったわ。」
レナは人に助けられたのだと理解しゆっくり深呼吸した。
「良かった…。グラールについたんだ。」
レナの言葉にリオは少し疑問を抱いた。しかしその考えをユウリに話そうとしたが、ユウリは全て分かっていたかのようにリオにゆっくり顔を横に振った。
(ユウリ姉さんの言ってた予想は当たっていたんだ…。)
リオはさすが姉さんだと関心していた。
ユウリはレナに問いただしてみた。
「アナタは誰?名前教えてくれるかしら―」
しかし、レナは再び眠りについてしまった。よほど疲れたことがあったのかスヤスヤとした表情をしていた。
その表情にユウリとリオは顔を合わせ、お互い苦笑していた。
質問は目を覚ましたときにゆっくり聞くとしよう。