終わりました。「グリークス」。
今は虚脱感でいっぱいです。
最初はあんなに自分から遠く感じたイピゲネイアの人生をもう生きられないのが寂しくてたまりません。
もはやイピゲネイアの体験した人生はわたし自身が体験した事のようにさえ。人の人生を演じるって本当に不思議な体験です・・。

思えばしんどい公演でした。
初日前に風邪をもらってしまった事で、今回はいけると思っていた喉を傷めてしまい、結局完治する事はなく、毎日尋常ではない量の薬を飲み続けました。この薬、体への負担が半端なく、楽屋ではいつもぐったりしていて周りにも気を使わせたと思います。
思うように声が出ず涙が出たこともありましたし、先の事を考えセーブして安全運転せざるをえない日もありました。
芝居中はマスクはできないし、狭い楽屋では移るときは移ってしまう。普段から免疫あげておかないとだめですね。
ただ「ずっと声の調子悪かったですね」と打ち上げでも言われたのですが、途中からはもうそこは気にしないでやるしかないし、できるはずだと開き直ってもいました。まあお薬のおかげで、声質はともかく最低限の声は出たから言える事ではありますが。


今回は若手が多数出演していました。
やはり真摯に取り組んだ子は伸びていたと思います。前向きさと素直さに感動させられた後輩もいました。
が、驚いたり呆れたりする事も多く、志の低さには何度も怒りガックリもきました・・。
努力している人を尊重しなかったり、自分に時間を費やしてくれる人へのデリカシーがない人、やるべき事に対して呑気すぎる人。
これは若手だけではありません。

時には、こんなに大変な公演で負担をかけているのに、手伝ってくれる非出演者にさえも。

本番前の舞台は基本的にスタッフと役者のもの。緩んだ空気を持ち込んではいけない聖域だと思います。
なんとなく雑談をしに来るような場所ではなく、ましてや、セリフや動きの確認をしようとしている役者の邪魔をするような声高なお喋りや、アクティングエリアへの入り込みは許せませんでした。

私自身はそこそこ年齢もいっていますし腹を立てている状態で、気も弱くないので(笑)直接言えますが、できれば本番前にそんな話をして気分が悪くなりたくはない。
そして、これが出演者側が後輩だけだったら、みんな絶対に言えないに違いない。
お手伝いを集める係だった私が「今回は本当に皆さんに負担をかけてお願いしているので、くれぐれも感謝と礼儀を忘れないようにして下さい」と念をおした事もあったのか、
我が物顔でお喋りしにきている先輩に遠慮して、舞台の裏に行ってセリフの稽古をしたり、小声で遠慮しながらやっている若手を見ていたら・・、カーッとなりました。
もちろん私自身も集中していろんな事探りたい時間でしたしね。
ここは仕事場。なぜせめて袖に行けないのか、外に行けないのか。
私はスタッフとして参加するときも、出演者に対して尊重し遠慮しているつもりだったので、なんだかとてもガックリきました。
でも多分そういうスタンスの人というのは、自分が演じる時に同じ事をされても気にならないくらいの熱量や愛情でやってるんでしょうから、こちらが配慮してもあんまり伝わらないんでしょうね。
・・・だからといって「よし、今度あいつが芝居やる時は開演直前まで大声で喋ってやる」とは自分の心が許せずできないんですけどね(笑)


芝居づくりの場への畏れや敬意、何かを掴もうとして努力している人への尊重がない劇団というのはどんどん貧しくなっていくと思います。

でも普段から芝居に愛情を持ち真摯な人たちは、客席に来ても、舞台の上の役者が気にならない後ろの方の端にそっと座り静かにされてました。金子さんや平林くんの姿が印象に残ります。
ロビーチーフを何日もやってくれた矢島さんや磯辺万沙子さんは、極力気配を消して淡々と動いて下さっていました。そのデリカシーが本当にありがたく感じました。私はそういう人たちを信じます。

芝居してる時って、やはり色んなものがむき出しの状態になっているんだなあと思いました。
言ってよかった、という人もいれば、
芝居に対するスタンスが違うからもう別の世界の人、無理だな、と思った人もあり。

でもそういう事にまだ憤れる自分でよかったとも思っています。
自分の芝居への愛が薄れてきてしまっているのかと、続けていけるのかと危ぶみながらのオーディションを受ける決断でした。
ショックな経緯もあり、一回モチベーションがダダ下がりしましたが、自分の下手さに絶望しながらも必死で全身全霊で取り組みました。
何かを掴みたくて、不安な気持ちで、自分は出ない稽古場に何度となく足を運んでいた頃を思い出すと、ちょっと涙が・・

最初はうまく通じ合わない気がした上村さんの言葉が、どんどん理解できる(ような気に)になり、上村さんを信用して演じていくうちに、イピゲネイアの人生の中で自分の心がどんどん動いて、自分がイピゲネイアになっていくと感じられる過程は本当に幸せでした。
そして、最後に救われる役というのは役者を浄化してくれるものだなあと実感しました。
最初は言葉が全く届いてこないと感じ、まるで弟と思えなかったオレステス矢崎くんが、公演終盤では、大事な弟で、なんとか苦しみから救いたいと思えたのも幸せでした。

ただ、反省点は・・特に「タウリケのイピゲネイア」が公演初期は安定していなかった事。
最初の三部作通しくらいからなんとか安定してきたかな?それではダメですね。もっと早く芝居を間に合わせられるようにならなくては。


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しばらくは、この虚脱状態が続くと思います。
しかし、なんだか熱い話ばかり書いてしまい恥ずかしいので、ここでカミングアウトを・・
きついダイエット指令が出て「8キロ痩せた」「4キロ痩せた」とみんなが話していたのに、一切ダイエットをせず、そればかりか、ここを越えたら最後という最高体重を2.5キロオーバーしておりました・・
だってね、12時半くらいに「アウリスのイピゲネイア」の出番が終わったら、次の「タウリケのイピゲネイア」は20時半過ぎなんですよ。・・・食べちゃいますよね・・

さあ、次は最後の一場面だけの出演ですが「チャリングクロス街84番地」です。
なんとかヤクを抜いて臨みます。
ああ、でも、今はまだイピゲネイアが愛おしくてなりません。