10年越しの約束 | 大塚角満オフィシャルブログ「大塚角満のブログ」Powered by Ameba

10年越しの約束

 昨日いきなり発表した大塚角満の新刊『折れてたまるか! ~『DARK SOULS』プレイ日記~』の、ちょっとした裏話をひとつ。

 今回の単行本、計画自体は『ダークソウル』が発売される前から立てていたと言える。そのへんの詳しいことは本書のプロローグやエピローグにも書いたのでそちらを読んでいただきたいが、なによりも問題となるのは発売する“時期”でありました。

『ダークソウル』はゲーム性からして、かなり息長く売れ続けるのは間違いない。とは言え、ユーザーの熱量がもっとも高いのは発売から2、3ヵ月くらいだろうから、できれば2011年中に書籍にまとめたいなと思った。

 となると、製作期間を1ヵ月と考えれば、作業スタートのギリギリのラインは11月アタマくらい。それまでに1冊にまとめられるだけの文章を書き、同時にいっしょに作ってくれるスタッフを探す必要があった。文章を書くのは自分が無理をすればいいだけなので「問題ナシ」だったけど、制作スタッフとなるとそうはいかない。なんたって11月から雑誌・書籍業界は恐怖の“年末進行”に襲われるので、関係者は誰もがてんてこ舞いになってしまうのである。

 とくにこの時期、忙しくなるのはデザイナーだ。雑誌は年末特大号などの影響で厚くなりがちだし、付録なんかが付くとスケジュールが前倒しになってしまうので、何号分ものデザインやレイアウトがまとめて押し寄せてくることになる。なので当然、部署内のデザイナーは手一杯。そうなると、外部のフリーデザイナーを頼らざるを得ない。しかしこの時期は、そのフリーデザイナーさんもいっぱいいっぱいになるのだ。

「やばい……。デザさんが見つからなかったら、本が作れないぞ……」

 単行本に盛り込む書き下ろし原稿を書きながら、俺は内心ビクビクしまくっていた。

 しかしそんなとき、外部デザイナーを探してくれていたウチの部署のアートディレクター、Yさんが、「大塚さん、デザイナー、見つかりましたよ!!」と笑顔で報告してくれたではないか! 地獄に仏、闇鍋にフォアグラとはこのことだ(意味不明)。俺はYさんに言った。

「だ、誰ですか!? その奇特なデザさんは!!」

 Yさん、さらににっこりと笑って答える。

「水川さんですよ♪」

 おおおおお!! み、水川さんとな!!!

 ほとんどの方がご存じないと思うが(当たり前だが)、水川さんはファミ通グループ各誌でさまざまなページのデザインをしてくれているフリーのデザイナーさんで、俺とは10年くらいまえから顔見知り。クールなデザインを、超絶スピードで仕上げてくれることから編集者のあいだで取り合いになるほどのお人である。そんな水川さんが、いっしょに単行本を作ってくれるなんて……。俺は「やった!! もらった!!」と喜ぶとともに、水川さんと初めて話をした10年前のことを思い出していた。

 水川さんとは、中目黒目黒の紹介で会った。「知り合いのデザイナーとメシを食うんですけど、大塚さんも来ませんか?」と誘われて、のこのこと付いていった先にいたのが水川さんだったのである。このとき、初対面ながらいろいろな話をする中で、俺はこんなことを水川さんに尋ねた。

「水川さんて、雑誌だけじゃなく、単行本のデザインとかもやったりします?」

 すると水川さんは、コクンと頷いてつぎのように言った。

「ええ、もちろん。ぜんぜんやりますよ。……でも、どうして?」

 そこで俺は、当時胸に秘めていた野望を、初対面のデザイナーさんに打ち明けたのだ。

いつか、自分の単行本を作りたいと思っているんです。もしもそのときが来たら、デザインを担当してくれませんか?

 俺の言葉を受けて、水川さんは口元をほころばせた。

喜んで! そのときはぜひ、声を掛けてくださいね!!」

 それから10年以上の月日が流れ、俺は何冊もの単行本を出す幸運に恵まれた。しかし、フリーのデザイナーさんということもあり、なかなか水川さんと絡む機会はなかった。

 ……という話を、『折れてたまるか!』の最初の打ち合わせの席で俺は水川さんに話した。「初めて会ったときに、俺がお願いしたこと覚えてます?」と。しかし水川さんは「うーん、そんな話しましたっけね?w」と笑うばかりで要領を得ない。ま、こんな些細な話、覚えていなくて当たり前なんだけどなw

 でも、その夜--。

 水川さんと何度かメールでやり取りしていると、彼の文章の終わりにこんな一文が書かれているのが目に入った。

「今回はご指名ありがとうございます! 10年越しの約束を果たすために、がんばらせていただきますよ!!」

 それを見て俺は「よっしゃ」とつぶやき、改めて書き下ろし原稿に没頭していったのだった--。

 そうして出来上がったのが、公開したカバーを始めとする『折れてたまるか!』のデザインである。

「ゲームはダークなイメージだけど、僕の文章は正反対にポップな感じなので、それを組み合わせたデザインをお願いしますww」

 という俺のムチャな要求に「わかりました!ww」と応え、試行錯誤ののちに作り上げてくれたのだ。

『折れてたまるか!』は、10年の時を経て実現したコラボの結晶だ。ぜひ文章だけでなく、デザイン部分も意識して見ていただけるとうれしいなあ。


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▲カバーはもちろん、オビも水川さんのデザイン。