“回り回りて広がりゆく渦輪
“鷹は鷹匠を聞くことあたわず。
“物みな四散す。中心は保ちえず。
“全きアナーキーが世界に解き放たれ、
“血に曇る潮が解き放たれ、至るところ
“無垢の祭典の溺れゆく。”


写真は遭難死した米国の公募登山隊《マウンテン・マッドネス隊》の隊長スコット・フィッシャーが最後に撮影した写真のうちの1枚。登攀中にさまざまなアクシデントから予定時刻が大幅に遅れ、登頂した顧客を連れてヒラリー・ステップを下り始めたのは午後4時頃。予定から2時間ほど遅れていました。


アドベンチャー・コンサルタンツ遠征隊(ロブ・ホール隊長)

マウンテン・マッドネス遠征隊(スコット・フィッシャー隊)

IMAX/IWERKS遠征隊

台湾隊


当時この他に単独遠征を含めて12隊がエヴェレストにおり、うち2隊はチベット側から入山。5月10日から始まった大量遭難に居合わせたのは、だいたい上の4隊でした。


2枚目は「地球上で最も荒涼としたキャンプ場」のサウス・コル。標高7925m地点の南側の台地で、「石くれが散らばり、鋼鉄のような氷が辺り一面を覆い、ほとんど絶え間なく強風が吹きつける」陰鬱な場所だそう。下山中に嵐に襲われた公募登山隊のメンバーや顧客は、このサウス・コルでギリシャ悲劇のような光景を繰り広げました。


2つの公募登山隊の隊長はここからずっと上で凍死しており、顧客にガイドやシェルパをつけて先に下らせた後に下山できなくなったよう。しかし猛吹雪のために顧客や他のガイド達も下りられず、「生還か衰弱死か」の狭間で右往左往することになりました。


頂上直下の南峰で動けなくなっていたロブ・ホールは、顧客の1人と一緒にいたはずだった。IMAX隊のブレッシャーズ隊長は無線で彼と話すことができましたが、彼は「ダグはいない」と答えた。はぐれてしまったのか、滑落したのか……


p( ̄□ ̄;) 1人でも下りてこい。体を動かせ。立ち上がれ。


まだ誰がどこで遭難死したのか、誰が生きているのか分からない状態の中、ずっと下の第2キャンプから「多分もう駄目だ」と理解しながら呼びかけを続けるブレッシャーズ隊長が3枚目。


ロブ・ホールは衛星電話でニュージーランドにいる奥さんと話すこともできましたが、彼は標高8750m、体感温度氷点下70℃の猛吹雪の超高所で一晩生きながらえた後に亡くなります。


( ̄∀ ̄) アイ・ラヴ・ユー。しっかり寝るんだよ、マイ・スイートハート。そんなに心配することはない。


それが最後の言葉でした。もうひとつの公募登山隊のスコット・フィッシャー隊長はもう少し下、標高8300mの岩棚で亡くなります。


すみやかに自分たちの登山計画を延期して他隊の救援に奔走したのはIMAX隊を含めて3隊。別の公募登山隊からも、まずは自分たちの顧客の安全確保をしてからサウス・コルに向かった登山家がいました。こうした無私の救援は


( ゜□ ゜) 会ったことはなくても、たいてい名前は知ってるからね。


という「こら行かなアカンやろ」な感覚から成され、IMAX隊も惜しげもなく50本の酸素ボンベと食料と水を提供。そのおかげで生還者の人数が増えたかも。
(我関せずだった隊もあり、ケチョンケチョンに非難されとります)


4枚目は「もう助からない」と判断され、サウス・コルに置き去りにされた後に自力で生還者溜まりの第4キャンプまで下りてきたベック・ウェザーズ。そこでも「もう駄目だ」と思われたのに、奇跡的に生還。凍傷で鼻と両手を失いましたが、本業の病理学者に復帰しました。


( ̄ー ̄)v- 奥さんが離婚を決めていたほどの「山に取り憑かれていた男」で、最初に死亡が伝えられてから生還が明らかに。ネパールまで駆けつけた弟さんは「いい加減にしろ!!」と出ギレ。分かるわ、私も兄が3回目に車大破(なのに軽傷)させた時、救命病棟で同じ台詞でぶっちギレ。夜勤の医師とナースはドン引きでした。


( ̄ー ̄)v- ついでに父もドン引きしてた。もうすぐお盆だね、亡きお父ん。


回り回りて広がりゆく渦輪、無垢の祭典。ひとりひとりの苦痛や嘆き、「死にたくない!」という叫びは巨大な最高峰の中では蟻にも等しく、人間の視点を離れたはるか高みからはあまりに小さい。エヴェレストに吹き荒れた猛吹雪は意志を持たない自然現象で、それ故に「無垢の祭典」と呼べるのかも。


( ̄ー ̄)v- あるいは、自然を擬人化したサガルマータ(ネパール語でエヴェレスト:天空の女神)の裳裾のひと振りか。それは小さな人間など、ひと振りで薙ぎ払う……


1960年代にエヴェレスト西稜から登頂した登山家のトム・ホーンバインは「何だかんだ言っても、今シーズンのエヴェレストで起きたことは、必ずまた起こる」と述べ、本書の執筆を担当したブロートン・コバーンも「2~3年経てば忘れられ、そしてまた起こる」と書いています。


( ̄ー ̄)v- このエヴェレストでの遭難が始まった時、そこにいた人々は「1986年のK2の二の舞になる」と感じたそう。そこでは7人の登山家が標高8001m地点で嵐に捕まり、生還できたのは2人だけ。その悲劇からまだ10年しか経っていないのに、その教訓を生かせなかった……


( ̄○ ̄;) 組織(登山隊)の欠陥が全ての原因ではない。エヴェレストでは、それに準じる高峰では組織は解体され、存在しなくなるんだ。


山は社会の縮図、みたいな考察もあったと思いますが、人生とか社会とかのあらゆるものが凝縮されてるように見えるのは確かですね。単独登山における遭難は個人的な破綻であり、極地法による登山隊の遭難は集団(組織・人間社会)の破綻なんだろう。そこからなかなか学べないというのも、人間らしいと言えばらしい……


IMAX隊は救援や遺体収容を終えた後、5月23日にサウス・コルを経て頂上を目指します。映画で主役を演じるエド・ヴェイスチャーズやブレッシャーズ隊長、ジャムリン・ノルゲイ・シェルパが登頂します。


ヴェイスチャーズは登っていく途中にスコット・フィッシャーとロブ・ホールの遺体の傍らを通り過ぎました。


( ̄ー ̄;) どちらも友人で、どちらの奥さんからも「身につけてる物を何か持って来てほしい」と頼まれてた。


( ̄○ ̄;) スコットが首に結婚指輪を掛けてたのは知ってたけど、体力がなくて、遺体が埋まった雪を掘れなかった。だから持ち帰れなかった。


代わりにヴェイスチャーズは下る時、凍りついたスコット・フィッシャーの隣に並んで座り、数分間過ごします。


ヾ( ̄○ ̄) おーいスコット、具合はどうだ?


( ̄ー ̄;) ……どうしちゃったんだよ、お前?


仲の良かったツレでも、これが精一杯の場所だった。そんな場所が、この世にあるのか……



( ̄ー ̄)v- 行ってみたいと思うのも人間で、打ちのめされるのも人間だ、って場所ですね。


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