太田伸之氏のブログから②
ご存知のようにデザイナーは年に2回、(或いはメンズ、レディース両方なら年4回)先ずショー形式で新シーズンの作品をプレスとバイヤーに発表し、そして翌日或いは翌々日からバイヤーの為の展示会を行います。
予め全てのバイヤーのアポイントを取り付け、それぞれのスタッフが担当するバイヤーの来訪を待つのです。
Josephは必ず、私が何をしていようとショールーム会場へ着くと私を呼んでオーダーを付けるためにコレクションの紹介と説明をさせました。
それは他のアメリカやイタリアのバイヤーも同じでした。私、或いはセールス担当者と先ずコレクションを一渡り説明を聞きながら見渡し、それからラックをオーダーテーブルの所へ用意し、自ら、或いは自分のスタッフや我々セリングチームに手伝わせて荒選びをします。
あるシーズンのサブテーマが10ヶあったとしても必ずしも全ては選びません。自分の店の顧客に合ったチョイスをしていきます。
その折に顧客の顔が見えているオーダーと、自分が売りたい商品を分けて行きます。
顧客の顔が見えているオーダーは余り数が入りませんが、自らが来シーズンはこれを売りたいと惚れ込んだ商品はかなりの数量をオーダーしていきます。
とは言ってもクリエーターの商品故に何百枚、何千枚というオーダーではなく、多くても50枚程度です。
彼等を見ていていつも感心させられたことは、自分の必要なもの、欲しい物がハッキリと分かって選択していることです。
こちらサイドがどんなに薦めても、それが自分の店にとって必要でなければ振り向きもしません。
例えどんなにそのブランドが気に入っていても、欲しくない物はハッキリと「いらない」と言う、そこには自分のお店に対するプライドと顧客に対する頑固までなプロとしての意識があります。
日本に限らず海外からパリにセリングを志しに来るデザイナー達は申し合わせたように、例えばパリのエクレルール(L'Eclaireur)やコレット(Colette)が買っていくように、或いはオーダーを付けて貰えるようにして欲しいとの注文が入りますが、彼等は自分達が何を買うべきか、自分達のお店に合う商品とは何なのかを良く知っているので、幾らデザイナーが売りたがっても彼等の琴線に触れない商品は振り向きもしません。
他のバイヤー達の右へならえバイイングではなく、自分達のお店の為に頑固なまでにオーダー内容を見極めるのが本当のプロフェッショナルなバイヤーなのです。
彼等はお店を沢山増やすことを余り好まないし、海外に進出することも積極的には行おうとしません。
Josephに関して言えば、ロンドンに始めは1店、それから少しづつ増やしてロンドンにもう1店、パリにも1店、ニューヨークに1店、次にロンドンにも何店舗か増やし、パリにも2店目のショップを増やしましたが、基本的にはJoseph本人が自分の目の届く範囲に店があることが条件でした。
彼の1日はショップで始まりショップで終わると言っても過言ではありませんでした。
彼に言わせれば、ショップが自分のセレクトした商品を世間様に見せられる唯一の舞台であり、その舞台が何時も自分の気に入った素敵なお店でなければならない、誰が何時見ても直ぐにJosephの手が入っている(ウィンドウが完璧であること)と思って貰えることが大切なのだと言っていました。
もしお店がグチャグチャになっていようものならスタッフに雷が落ちて、彼はジャケットを脱ぎ捨てて直ぐにお店の整理とウィンドウ作りを始めたものです。
アポがあって約束の時間に遅れると横で私は焦っていても、先ず俺の店が完璧でなければならないと言う信念を持っていました。
フランチャイズ化の話もありましたが、やはり最後には自分の目が届かない、或いは自分の意志が通じない人との仕事を好まず、駄目になったケースがありました。
自分がバイイングした商品を自ら各店舗を走り回ってセリングをしていたJosephには頭が下がることが幾度となくありました。
私が1997年にJoseph Japanを作り、その責任者になれたのは、Josephの頑固さに惚れ込んだ私の気持ちが通じたからでしょう。
そして、その辺りの経緯については後日に譲ることにしましょう。