「オレ、ノブユキ」は2005年8月29日から2006年6月26日まで「日刊新周南」に39回にわたって掲載された和田奈津紀さんの投稿です。毎回ではありませんが山本奈実さんの挿絵もあります。随時掲載してまいりますのでお楽しみください。

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2008-04-09 18:47:54

ほんとうによかったぁ。 [最終回]

テーマ:猫の気持ち
nobu39



 そのうち、捨てられたんだってわかったんだ。ひもじくて、さみしくて泣いていたオレの鼻にどこからか、おいしそうないいにおいが入ってきた。
 その風をたよりにトボトボ歩いてみた。そしたら、スーパーのうら口にたどりついたんだ。
 「まぁ…こんな小さいのに…どうしたの?」スーパーのおばさんが「ないしょだけどね、これおあがり」って食べ物をわけてくれるようになった。
 だけど、捨てられたっていうことでスネたというか、ヒガんだというか、ナメられてはいけない…変に背伸びして、ぶってしまったんだ。
 ママにしてもらいたかったことをこの子たちにしてやっているうちに、心の底の小さな氷のかたまりがとけてきたようなんだ。おまけに家の人から「信幸は、ほんとうにやさしい子だね」ってほめられると、顔までやさしくなって…それにね、それにね、うれしいこともあったんだよ。
 あの七奈ちゃんが、七奈ちゃんがワンと大きな声を出してオレを守ってくれたんだ。
 いつものようになわばりを歩いてまわっていると、ほかの猫が入っていてウギャー、フギャーといい争いになり始めたんだ。その時、七奈ちゃんがほえてくれたんだ。
 その声に驚いて、猫がさーっと走って逃げてくれたぁ。ほっとしたし、うれしかった。オレを守ってくれる…犬がいる。
 もう、強がらなくても…いいんだ、とわかった。それにオレは、この子たちの保護者なんだし、そろそろまっとうな生き方をしないと。
 この子たちには幸せな人生を送らせてやりたいんだ。
 まだ、ピーちゃんとは距離がある。だけど、お互いになめ合い、心かよわす日も…そう遠くないと、今、予感している。この子たちが来てくれて…ほんとうによかったぁ。
(おわり)


2008-04-02 20:48:15

オレ“オレ”って言うのやめる

テーマ:猫の気持ち
nobu38



 女の子はホント…小さいうちから口が達者で…と思っていると、オレのそばにくっついてスヤスヤ寝込んでいる。いつの間にかオレもうとうとまどろみ、穏やかな気持ちになっていくのに気づく。
 そんなことをくり返しているうちにオレたち四匹は信行一家と呼ばれるほど仲良しになり、いがみ合いをしても、いつの間にか、だき合って寝たり、お互いになめ合いを始めるんだ。オレは…ママ…だから、あの子たちの耳の中やしりの穴までなめてきれいにしてやるんだ。
 そんなオレたちをみてピーちゃんはびっくりして「ノブくん!何してるの、だいじょうぶ?」と目をまんまるにして言ってたけど、こもっていた二階からおりてきては遠くでオレたちをながめるようになった。
 フーッと言われようと、逃げられようと、タキはピーちゃんにまとわり続けて、そしてついにある日、ピーちゃんのほおをなめた。
 びくっとおののき、あとずさりしたピーちゃんだけど、しばらくなすがままにさせていた。
 首のまわりや背中をマッサージするようになめてもらって温泉にでも入ったかのようにうっとりして、ぶぉーっと気持ちよさそうだった。
 そんなことがあってから、チータンもミーシャンも時折りピーちゃんをペロッペロッとなめ始めた。ミーシャンなんかは「遊ぼう!」とピーちゃんにとびかかったりもするのだ。
 小さな子は魔法使いだ。あんなに、ガンコに逃げまわっていたピーちゃんが今、こうしてボクのそばでもスヤスヤ寝ている。
 もう…オレって言うのをやめることにしたんだ。
 気がついたらオレ、電気店のウラにいた。どうしてこんなところにいるのか、やさしいママはどこに行ったのか、何もかもわからない。
 心ぼそくなって泣いていたけど、待っても待ってもだぁーれもさがしに来てはくれなかった。


2008-03-26 20:43:33

うれしい…予感

テーマ:猫の気持ち
nobu37



 犬のそばを堂々と歩いて庭に出て行くピーちゃんに三つ子は一目置いている。「ウルサイヨ!」とピーちゃんにしかられると、一匹だけだと「ハイ、先生。すみません」と神妙になるんだけど、三匹がいっしょになると「先生がまた、なーんかうるさいこと言ってるね」と聞き流すだけで好き勝手にさわぎ、レスリングに夢中になっている。
 ピーちゃんもめんどうくさくなったのかピーちゃん専用のトイレにこもってしまうんだ。そうすると、いつの間にか三つ子はトイレの隣の洗面所あたりに集合して先生が出てこられるのを待つんだ。先生はしばーらくそこにこもっておられるのだけど、苦笑いをかみころしながらおもむろに出てこられる。
 兄弟っていいなぁ。子供っていじらしいなぁ。オレもピーちゃんもうらやましくなる。
 三つ子が元気になって家の中で遊ぶようになってからは、オレたちお互いによそ行きの顔をしていたからものごとは起こらなかった…。
 その日、朝から何も食べずに外のエアコンの上で一日過ごしていたピーちゃんは機げんが悪かったようなのだ。それと知らず近づいていったオレにひどいけんまくでウンギャーと言い放ち、二階へかけ上がっていった。
 オレは「おかえり」って言おうとしただけなんだ。だけど体の大きいオレをピーちゃんは今でもやっぱしこわいと思っている。オレもまだ一歳で子供なんだけど…。
 その大きな声に三匹がさっとオレのそばにかけよってきた。
 「ノブくん、だいじょうぶぅ?けがは?どっか、かまれたん?」とオレのまわりにまとわりつき、クンクンとニオイをかいだり次から次へとしつこいほどオレに聞いてくる。
 いつものオレならウンゴォーと言いかえすところなんだけど、この子たちをみていると「うん、だいじょうぶ。心配いらない、だいじょうぶだからね」という言葉が口をついて出た。
 「ひどいよ!ピーちゃんは。なーんにもしてないノブくんに!」「かわいそうなノブくん」「僕たちが守ってあげるね」「ノブくんはやさしいママなのにね!」
 そんなことがあった数日後、何かのはずみでフーと言ったピーちゃんにミーシャンがくってかかった。
 「なんでだよぉ!なんでお前、そうやってイバリちらすんだぁ?」さすがのピーちゃんもこの言葉にグサッときたのか、顔色がさっとかわり、そそくさと二階に上がっていった。
 そんな三つ子はオレにも堂々と文句を言ってくるし、オレには感情むきだしにしてつっかかってくる。
 「ノブくん、ひどいじゃん、大きいんだから手かげんしてよね。ピーちゃんはフーフーって言うけど、言って逃げるだけじゃんかよぉ」「ただ、すもうがはずんでレスリングというか、プロレスごっこになっただけなのにぃ!なんだよぉ!えらそうに!フン!もうママしてやらない」
 オレはすねてふて寝することにした。
 トコトコッとタキがやってきた。
 「はぶてないで、ノブくん。ミーシャンはおこってるけど、ノブくんが好きだから安心して甘えられるお兄ちゃんだから、つい言いたい放題言っちゃうし、やってしまうの。ごめんね。わかってあげてね」って言いながらオレをなめ始めた。

2008-03-19 20:43:25

不要ねこの話(下)

テーマ:猫の気持ち
nobu36



 あなたの子供だとわかっていたら、私、あなたを探していたのに…。ごめんね、返してあげられなくて…ごめん…。
 私、三つ子、責任持って育てる。おチビをあなたの名前をとってミーシャンS' sonでミーシャンにするね。うつろな目をして沈んでいる時もあるの。だけどね、長男として弟たちの面倒をよく見るたのもしい子なのよ。
 茶色の子猫はやさしそうなおじさんが連れて帰ったそうよ。
 みんな…なんとか生きているからね。
 不要ねこや不要犬はガス室に送り込まれる前に、こうして人の手や車で処分されていく。
 オレもピーちゃんも不要ねこだった。
 だけどオレはこの家でゴキブリやハエをつかまえる仕事をしているし、ピーちゃんは、この家が平和で穏やかになるよう目配りをしている。
 この子たちも不要ねこなんだろう…。
 だけど今じゃあ元気になって駆けずりまわり、取っくみあいのレスリングをしたり、あっちこっちによじ登り、その揚げ句におっこちたりと、にぎやかだ。
 一匹がピン球に夢中になればいつの間にか三匹になっていて、トコトコとボールの奪い合いを始めている。楽しそうなその遊びにオレも仲間入りしてしまう。
 タキちゃんが苦しそうにしているとオレは背中を貸してやる。そうしているといつの間にかミーシャンはオレに抱きついて、チータンはオレのシッポを枕にして、みんなで昼寝をしていた…ということもよくある。
 いとおしくなって…オレはほおずりをし、毛並みを整えてやる。
この子たちはオレを頼りにしている。頭も弱くイジメられていたオレを。
 オレに思いをはせるまなざし、オレを気づかう仕草…そしてオレたちはお互いに気づかい合って、心寄せ合って、遊んでもケンカをしてもオレは…ありのままのオレでいられる。
 オレには…かけがえのない仲間ができた。こういうのを…幸せっていうのかな…と、まどろみながらオレ…思う。



2008-03-12 19:57:34

不要ねこの話(上)

テーマ:猫の気持ち
nobu35


 止めてあった車にべっとり血のりをつけて一匹の猫が道に倒れていた。それは二匹の子猫がウチに来てから一日か二日たったころだった。
 道にたたきつけられても体をひきずり、よろけ、倒れながらもはいつくばるようにして歩こうとした…そんな血のあとを道に残して…。
 たいていはねむるようにうずくまって死んでいるのに…こんなふうにもがいた跡を残した猫は見たことがない。近づいてよく見るとそれはミーシャだった。
 ミーシャとは広い畑の梅の木あたりに住みついていた、ノラにしては整った顔立ちに毛のきれいな三毛猫だ。
 もしか…して、あの子たちのお母さんなの?
 そういえば七奈ちゃんと散歩していた時、大きなお屋敷の広い庭のすみっこで小さな茶色い子猫がこわごわこっちを見ていたことがあったけど…。そうなのね、探してたんだ、子供を…。
 皮肉にも土管に捨てられた子猫の鳴き声を聞きつけてここまで出てきたんだ。そしてはやる気持ちのまま道に飛び出して…。
 そこはまた、あの土管から道を一本へだてたところだった。あと少しで…あと少しのところでまた親子がめぐり会えたというのに…。
 ひと目でも会いたかっただろうに、あのか細い不安げな声が耳について…つらかったねぇ、苦しかったねぇ…。体をひきずりながらもそばに行こうとしたのね…。
 だれが…いったい…何であなたから子供を取り上げて、あの家の玄関近くの道端に捨てたのか…。
 わけのわからないあなたは、耳や鼻をたよりにひたすら探して…やっとのことで居場所をかぎつけたというのに…。
 「ごめんね、知らなかったの。私があなたの子供を預かっていたの」
 私たちの、なにげない思いつきの行為が結果的にこんな悲惨なことを生みだしてしまって…ただ、ただ…涙がほおを伝わり流れていく。

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