we exist briefly, before vanishing again.
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2011-03-29 06:13:34

空気人形

テーマ:映画に関係ありそうな話

オレンジの選びかた-空気人形


ひとはなぜ生きるのか。この問いには、ある転倒が加えられている。

街の灯りに照らされて、長くのびた影法師がふたつ。もの静かな青年、

ジュンイチの 影はそこにあるのに、ノゾミの影は透きとおってしまう。


生きることがじぶんを象る人間と、何かのために生みだされた人形の、

生命と非生命のあいだ、はから ずもさしのばされたふたりの距離感は

おごそかにも残酷な解をほのめかし、その一方で観るものを突き放す。


業田良家 による原作「空気人形 」に着想を得た是枝は、カメラマンに

夏至 」「花様年華 」などで知られる名伯楽、リー・ピンビンを起用した。

ふいに心を宿し、この世界に生まれ出ずるラブ・ドールに扮したのは、

リンダリンダリンダ 」で日本にも知られる韓国人女優ペ・ドゥナ だ。

異邦人 のまなざしと、無垢な人形の捉えた日常はあたかも異界のようで、

見なれたはずの街並みを掘り起こし、あたらしく取り出してみせた。


たがいの空虚が響きあう現代に、ありふれた宿痾とも呼ぶべき孤独を

いまいちど手に取り、たしかめようとするのではなく、そっと見つめる。

是枝 が得手としている奇蹟の不在はこの物語においても引き継がれて

おり、人形の主人でもある中年男性には願望のないまぜになった独白を、

かつて代用教員をして いた老人には、語り部として吉野弘 の詩を託した。


「生命はそのなかに欠如を抱き、それを他者から充たしてもらうのだ」

その欠如と充足とは、うばい合い、あたえ合う、生の秘蹟 にほかならない。


孤独は、ときに甘美な嘘をつく。つながりという口吻は人々を魅了し、

卑小な連帯への囲い込みをやめようとしない。ひとはもとより平等でも

絶対でもなく、誰しもが個別の時とばあいを生きている。だが、それが

不実な慰みと知っていても、ひとは誰かを愛さずにいられない


無垢なる魂の物語は、その極点を官能のなかに迎えた。腕に傷を負い、

流れ出たものは血ではなく、空気だ。からっぽな人形は愛するものの呼気に

充たされてはじめて肉を手に入れ、愛するものを充たそうとして肉を喪う。

そのやりとりは哀しくも、滑稽だ。


ありうべきおとぎ話 を引き受けて、我々は現実へと立ち戻らねばならない。

空白を乗りこえるものは空白であり、美しいことばの孕むまぼろしではない。

人形のため息が風をわたるとき、われらもひとつ、呼吸をかぞえる。




2011-03-21 19:51:04

近況報告

テーマ:日常のあれこれ

まず、東日本大震災の被災者の皆様へ衷心よりお見舞い申し上げます。

わたくしは関東に住んでおりますが、なんとか難を逃れました。
なんとかと言うより、くつろいでまんじゅうを食べていたところに
幽かな揺れが起きて、まもなく地震が収まったというわけです。

身元引受先の慶應義塾では学部・学院の卒業&修了式が中止となって、
各セレモニーの予算は緊急義捐金として被災地へ送られるとのことです。
ぼくも、なけなしの懐から、日本赤十字社を通して募金させて頂きました。

困難なときがやってきました。

こういうときだからこそ、大人は嘘をつかなければなりません。
できるだけ明るい嘘を、もっとたくさん。

こどもたちの空想に力をあたえる、そういう人でありたいものです。


2011.03.21.


2011-03-21 19:41:17

隣人に光が差すとき

テーマ:音楽っぽかったりする

オレンジの選びかた


 おそらく、安藤裕子 のくぐった門はそう狭いものではなかった。
俳優としてデビューを飾るもののお世辞にも役柄には恵まれず、
戯れに披露した歌唱が注目を集めた後に歌手として脚光を浴びる。
誰しもに開かれた道が狭隘な出口しか持たない例に照らす限り、
その蹉跌は必ずしも大きいと言えない。だが、この不毛の季節が
彼女の内的音楽をあたため、開花させた事実に疑いの余地はない。

  「隣人に光が差すとき」は2004年に発表された1stアルバム

『Middle Tempo Magic』の第11曲目に収録されている。そして、

この布置には確かな理由がある。最終曲「聖者の行進 」は文字通り

ミドルテンポの曲が続くなか、スネア ドラムの躍動的な一打一打を

足音に見立てることで、それまでの音に鮮やかな決別を告げている。

言うなれば、この動的な瞬間に先立つ最後の静けさこそ「隣人」に

課せられた使命であり、曲そのものの呼吸する気配と呼べるだろう。


 アルバム発表の前年、堤幸彦2LDK 』のエンディングテーマ として

この曲が抜擢されたとき、安藤は既に26歳の秋を迎えている。


 やわすぎた私は人混みのなか埋もれ 光の差すあなたを見てた
 輝けるあなたの斜め後ろを辿り こぼれる光に手をのばす


 友人たちが脚光を浴び、やがて人気の凋落とともに消え行く姿を

卑屈や憐れみに堕すことなく、ただ見届けるかのように歌い上げた。
自らの行く末を見つめること、その内圧を詩の温度へ逃したことで、
抑制された叫びとしての歌声も、ようやく音楽的な調和 に導かれる。
長い韜晦 の日々と、その後に訪れたつかの間の安息を慈しむように、
彼女は全体重をあずけながら、この上ない叙情を歌へと託してゆく。
そこに特別な唱法や技巧はない。ただ、生にのみ宿る情意がある。

 安藤がようやくその名を知られるきっかけとなった曲の登場には、

さらに三年の歳月を待たねばならない。彼女にとって最大の到達は、

祖父母の愛を描いた「のうぜんかつら」によってもたらされた。




『隣人に光が差すとき』 http://youtu.be/7ZKhC8AqYG4

アーティスト名:安藤裕子

収録アルバム:『Middle Tempo Magic(CCCD) 』(2004)

レーベルCutting Edge

2009-09-14 00:05:13

淮南子

テーマ:日常のあれこれ

僕は週に3~4回、平均2時間程度を書店で過ごします。

北九州には大型書店と呼べる、専門書の豊富な店が僅かで、
専ら訪れるのは小倉駅前にある『喜久屋書店』が中心です。
最近は漢籍の棚で「淮南子」を手に取り確かめるのですが、
一冊で一万円近くの高価な書であり、やや逡巡しています。

僕の尊敬する人物に、南方熊楠という在野の碩学がいます。
彼はその昔、現在ほど書籍が安価に入手できなかった時代、
隣町の素封家の宅を訪れ、当時は貴重な書籍を読み耽って、
帰路、数里の道程を音読と共に歩んだと伝えられています。

そして、自宅に戻るや否や寝食を忘れるほどの集中を伴い、
諳んじるほど繰り返した書の一節を紙に書き写したのです。
こうして積み重ねられたものの全体を、僕は目にしました。
独りの仕事が、ここまでの異彩を放つ例は極めて稀でした。

翻って、淮南子の話に戻って日記を閉じようかと思います。

塞翁が馬、の故事に有名な淮南子ではありますが、他方で、
僕らが日頃用いる「宇宙」なる語の由来の場でもあります。
現在、過去、未来。時の流れのすべてを「宙」と呼ぶ一方、
東西南北上下左右、空間の広がりを「宇」と名付けました。

僕はこの「宇宙」という言葉の持つ夢の力を信じています。

空想に力を与えるものは、ひとりひとりの持つ想像の力で、
置かれた状況に呼応して、自ら役割を創出する生命の意思、
果たしてそのようなものではないか、と信じてさえいます。
そして、人と人とを結び得るあえかで強かな力を信じます。

「愛」

かつて、誰かがその弱い拘束力を、こう呼びはじめました。


2009-01-15 03:14:07

変わること

テーマ:ゲロ袋

折にふれて、ジョブズの講演を確かめている。

If today were the last day of my life,
would I want to do what I am about to do today?
And whenever the answer has been "No"
for too many days in a row,
I know I need to change something.


今日が人生最後の一日だとしたら、
これからやろうとしていることは、
僕の人生で本当にやりたいことなのだろうか?

No.という答えが続くのならば、
何かを変える必要があることに気付くのです


誰しもが変わろうとしない。
変わる必要を感じているのに、変えようとしない。

僕は、そんな人間の弱さを美しいとは思えない。


 
2008-01-27 14:34:58

ノーザンライツ

テーマ:本棚から適当に
本郷で美学を修める予定が、なぜか湘南で実装に取り組んでいる。

これもひとつの機会として、僕は案外この暮らしを楽しんでおり、
晴れた日に見渡す丹沢山の美しさを今朝もまた確かめたばかりだ。
そして、自然と生命とが紡ぐ、情意を帯びた関係をまなざすとき、
僕は一冊の本を手に取り、時折、温めなおしたい感覚に促される。

     
          『ノーザンライツ』 

     ノーザンライツ

星野道夫は12年前の夏、生涯愛したアラスカの地で人生を終えた。

彼の瞳が宿した光がどのようなものであったのか、僕は知らない。
多くの優れたクライマーたちが、不可避として山に還ったように、
或いはまた、彼にしか見えぬ約束の地へと還ったのかも知れない。
後に遺されたものは、短い言葉を綴ったわずかな物語に過ぎない。

生命とは、どうしていつも、こんなにも、儚いものなのだろうか。
愛という言葉を僕は軽々しくも口にしてきたけれど、生命こそが、
僕らに与えられた、すべての愛を包み込む、強かな優しさを放つ。
いつか、その旅を終えるまで、生命は、何かを、愛し続けている。

つながる、はなれる、くりかえす。

僕らの存在もまた、anseilen として不確かな瞬間を刻むのだろう。


2008-01-10 18:56:22

存在と世界

テーマ:ゲロ袋
僕は運命を信じていない。ただ、偶然を愛している。

人生とはなにか、という問いに対しては少々冷淡だが、
人間とはなにか、という不思議には、誠実でありたい。
あらゆるモノやコトに意味や理由を求めないからこそ、
あらゆるモノやコトがここにあることの不思議を想う。

宇宙はかつて、存在し得ない灼熱の温度の中にあった。
1.41679×10の32乗°F(華氏)=Planck Tempとは、
原子さえも存在できない、世界が帯びた最初の温度だ。
そして、はじまりの時を迎えたあと、宇宙は拡大する。

宇宙発生から10の10乗プランク秒※後、宇宙の力は
強い核力と電弱力に分かれ、10の30乗プランク秒後、
弱い核力と電磁力とに分かれる。世界の最初の温度は、
この時までに10の16乗°Fまで冷却されているという。

宇宙は冷え続け、およそ10000000000000℃の時、
ようやく、陽子と中性子の存在が許されるようになる。
1秒後、物質とニュートリノとが分離、さらに3分後、
重水素とヘリウムの存在とが、宇宙空間に確認される。

さらに380000年を経た後、宇宙は10000℃になり、
原子(原子核+電子)という“はじまり”が生まれた。
やがて2億という歳月を数えた後には最初の星が誕生、
137億年後(10の61乗プランク秒)が、現在である。

これが、駆け足でたどる宇宙の始まりと地球の歴史だ。

僕は量子論という観点から、存在することの偶然性を、
そして偶然に伴う物語の生成を、とても愛おしく思う。
誰かと出会い、恋をして、いつか死がふたりを分かち、
現れた量子はいずこへ向かうのか、どこで終わるのか。

人生とは何かではなく、人間とはいかなる存在なのか。
僕は偶然という海原のなかでたゆたう不確かなものを、
移ろいゆくものの儚さにのみ宿る、あの一瞬の永遠を、
運命ではない何かに導かれた、この存在を、確かめる。

どうあるべきかではなく、どうありたいかを選び取れ。


※ Planck Time = 5.39121×10-44sec (※-は数字の右肩に置く)
2008-01-10 05:51:46

蒔かれた種について

テーマ:ゲロ袋
愛は、蒔かれた種のようであればいい。

芽を出し、若葉を育て、花が咲き実をつけるのを見守る。
そうであれば幸せだけれど、時にそうでない種も、ある。

蒔かれた種のように、愛が残ればいい。
2007-08-18 05:25:25

phantom pain

テーマ:ゲロ袋

払暁が訪うまでの短いあいだ、夜と昼との交代を眺めている。

 

あえかな時の気配を、或いは、誰かが朝と名付けてそう呼んだ。

しかしながら僕には、やはり、この時間はそうでないものに映る。

闇のなか待ち望んだはずの光を見て、闇の豊かさへと回帰する。

そして同時に、そこで見た冥さを光のなかにふたたび、捉える。

 

あたかも幻痛のように、そこにあるものが存在しないことを知る。

 

僕はこの身体と、その外延にあるものとの距離を推し量っている。

境界と呼ぶことさえできない、互いに融け合うものの不確かさを、

或いは不確かであるが故の、確かさというものを探し求めている。

だからこそ痛みが、かつて痛みであった頃の記憶を遡るのだろう。

 

cybernetic organism ethics

 

これが僕の居場所であり、どこにもない痛みを探すための旅だ。

2007-08-11 16:19:51

make your influence positive

テーマ:日常のあれこれ

ときどき、愛のない言葉を吐く。愛のない振舞いを見せる。


決まって後悔するのに、どうしても間違いを犯してしまうことがある。

だから、そんなとき、僕は短い言葉で自分の居場所を確かめるのだ。


make your influence positive


人間が最も弁別的な意味での動物とのあいだに持ち得た差異とは、

或いは、互いに影響を与えて、享受し合う関係性の構築ではないか。


愛なんて大げさなものでなくても、僕は何か、明るいものを伝えたい。


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