2008-07-13 06:02:56

消された天皇

テーマ:万葉の世界

       

       (黄泉の花・山吹)


 神武天皇から始まる万世一系の天皇の系譜なるものは、実は、八世紀の頃、天武天皇の命で日本書紀が編纂された時、時の権力者・藤原不比等などによって偽装されたものであるという認識は、今や歴史家の常識である。日本書紀では、第一代から、整然と歴代天皇の名を連ねているが、実際は架空の人物だったり、実在の人物でも、権力者の都合で、即位を消されたりした。今回は、日本書紀で「消された天皇」の例として、小林恵子の「高市皇子物語」を紹介する。


 672年に勃発した壬申の乱で、父・大海人皇子(おおあまのみこ 後の40代天武天皇)のため夫・大友皇子(39代弘文天皇)を殺された十市皇女(とおちのみこ)は、24歳の若さで未亡人となった。その6年後の天武七年(678年)、十市皇女は宮中で急死した。死因は判然としない(自害、他殺、急病など諸説あり)が、この時高市が作った三首の挽歌が万葉集巻二-156,157,158に収録されている。


「三諸(みもろ)の神の神杉(かむすぎ)は 夢にだに見んとすれども いねぬ夜ぞ多き」(亡くなった十市を夢にでも見ようとするが眠れぬ夜が多い)

「三輪山の山辺真麻木綿(まそゆう) 短木綿(みじかゆう) かくのみ故に長しと思いき」(短い契りであった 長かれと思っていたのに)

「山吹の立ち装いたる山清水 汲みに行かめど道の知らなくに」(山吹の立ち装いたる山清水=黄泉のこと。黄泉の国まで十市に逢いに行きたいが行く道を知らない)


 十市の皇女は、大海人皇子が恋人・額田王に生ませた子で、母に似て美貌であった。高市皇子は、その後、大海人皇子が、身分の卑しい采女に産ませた子、つまり十市皇女の異母弟という訳だが、小林恵子説では、高市皇子は大海人皇子の兄・中大兄皇子が百済の内紛を逃れて済州島に亡命していた時、その国の高氏という氏族の娘に生ませた子で、天智天皇の直系の男子ということになり、このことが後で重要な意味を持つことになる。


 万葉集巻二の前掲三首の挽歌を読めば、高市皇子と十市皇女とは既に相思相愛の仲であったと直感される。日本書紀では、高市皇子と十市皇女は、姉弟の恋愛だが、本当は、父も母も違うから不自然ではない。しかし二人の恋愛は、まるで生木が引き裂かれるように、運命に弄ばれてしまうのであった。十市皇女が天智天皇の長子・大友皇子に嫁すこととなり、壬申の乱という悲劇へと発展して行く。


 高市皇子と十市皇女との関係は、十市が大友皇子の妃となってからも続いていたようで、壬申の乱で夫を失って未亡人になってからはより一曽燃え上ったらしく、その証拠に、天武四年、十市皇女が伊勢神宮に参詣した時、同行した采女から暗に高市皇子との関係を窘められたことがあった。そして天武七年四月、十市皇女が伊勢神宮の斎宮に就くことになり、その出立の日に急死したのは、高市皇子に逢えなくなるのを悲観しての自害としか考えられない、とは「万葉とその世紀」の著者・北山茂夫の説(上巻209頁)である。伊勢神宮の斎宮に就くとは、一切の男性を近づけないことであり、女性にとっては配流と同じことであった。


 壬申の乱は、天智帝の弟・大海人皇子と天智帝の長子・大友皇子の皇位争いとされているが、本当は、高市皇子と大友皇子の皇位争いだった。高市皇子は大海人側に加担し、英雄的な働きで大海人側を勝利に導いたが、鳶に油揚げ。大海人(天武帝)に皇位を横取りされてガックリ。然し天武十五年九月、天武帝が病没すると高市皇子にも漸くチャンスがやってきた。やっと高市皇子が即位し天皇の位についた。ところが日本書紀の何処を見てもこのことは記述されていない。代わりに天武帝の皇后・鵜野讃良皇女が持統天皇として即位し、高市皇子は太政大臣として死ぬまで持統天皇に仕えたことになっている。これが「消された天皇」なのだ。


 日本書紀に高市皇子の即位が記録されなかった訳は、高市皇子が本当は天智帝の直系であり、天武ー持統ー文部と続く天武系の天皇を担ぎ、その外戚となって政治の実権を握ろうとする藤原氏としては、天智ー高市皇子ー長屋王と皇位が続かれては困る。然し高市皇子は壬申の乱の最大の功労者だから抹殺する訳にもゆかず、天皇としては消したが、長屋王は罪も無いのに謀反を企てたことにして謀殺してしまったというのが真相のようだ。


AD
いいね!した人  |  コメント(1)  |  リブログ(0)

oldhakkaiさんの読者になろう

ブログの更新情報が受け取れて、アクセスが簡単になります

コメント

[コメントをする]

1 ■山吹の花

七重八重の山吹の花が黄泉の花だとは全く存じませんでした。
高市皇子は持統天皇の補佐役だけだったのですか??。

コメント投稿

AD

ブログをはじめる

たくさんの芸能人・有名人が
書いているAmebaブログを
無料で簡単にはじめることができます。

公式トップブロガーへ応募

多くの方にご紹介したいブログを
執筆する方を「公式トップブロガー」
として認定しております。

芸能人・有名人ブログを開設

Amebaブログでは、芸能人・有名人ブログを
ご希望される著名人の方/事務所様を
随時募集しております。