全人格労働 | 大倉宏治税理士事務所 岡山の税理士

全人格労働

ネットで記事があったので、転載します。「全人格労働」なるほどなあ・・・。

でもベースには、個人の弱さが問題なような気がします。
もっと個人一人ひとりが強くならないと、自分で幸せをつかむことができないと思いながら、読みました。


「大事な会議」のために線路歩く
今年1月。東京都足立区のJR綾瀬駅でホームから人が転落し、駅の約300メートル手前で電車が緊急停止。約15分後、停車していた車内から40代男性会社員が電車の窓を開けて線路に降り、綾瀬駅に向かって歩き出すという出来事があった。男性の行為で、別の線路を走るJR常磐線快速電車や直通運転している東京メトロ千代田線も一部区間で最大1時間運転を見合わせ、10万人以上に影響が出るトラブルになった。
男性はなぜ線路に降りたのか。駅員に保護された男性は「会社で大事な会議があり、遅れられなかった」と説明したという。「大事な会議」という会社の論理に惑わされ、社会のルールを破った男性に対し、ネット上では「まさに社畜」「この人は奴隷か?」「日本社会の狂気を凝縮したような話だ」などというコメントが寄せられた。

仕事に人間らしさを奪われる
私たちはこの男性のことを笑えるだろうか。
近年、長時間労働や行き過ぎた効率化、業績へのプレッシャー、あいまいな評価などが私たちの働き方をゆがめている。「忙しい」とは心を亡くすと書くが、文字通り、人間らしい感情を奪われ、正しい判断ができずに一線を越えてしまう人もいる。心や体が悲鳴をあげて、休職や退職に追い込まれる人も少なくない。
もちろん、高度経済成長期には、自らの身も家庭も顧みずに会社のために兵士のように働く「企業戦士」が多くいたし、バブル絶頂期の1989年には、ドリンク剤のCMのキャッチコピー「24時間タタカエマスカ」がユーキャン新語・流行語大賞流行語部門の銅賞にも選ばれるなど、長時間労働が常態化していた。
当時は、頑張れば頑張るほど賃金上昇や出世が期待でき、会社もその頑張りに報いてくれるという希望が持てたが、今は会社のためにすべてを犠牲にして働いても報酬アップは期待できないし、少子高齢化で市場は縮小気味で成果も得にくい。リストラの不安さえある。労働者はただ消費され、疲弊ばかりが増幅している。


増加する「全人格労働」
産業医の阿部眞雄さんは、著書『快適職場のつくり方』の中で、労働者の全人生や全人格を業務に投入する働き方を「全人格労働」と呼び、これが少しずつ増加していると指摘した。過重労働に追い込まれ、うつ病などに悩む人も増えているという。
「IT化やグローバリゼーションの波の中で人間らしく働くことが難しくなり、さらにネット社会が商品やサービスへの要求度を高めて、とめどもない顧客満足度を満たすために労働者は疲弊していく一方です。労働者は十分な評価は得られず、給与が増える期待も持てないでいます」
ドイツの社会学者Siegristらが提唱した職業性ストレスを評価する理論的モデルでは、努力に対してお金や会社からの評価など「報酬」が少ないと感じるときにストレスを感じるとされ、うつ病や心臓病などのリスクが増加するという。
「夢」や「やりがい」を建前に搾取される
旅行会社の添乗員をしている40代の男性は「報われていない」と感じるという。
学生たちが憧れる旅行業界の花形職業「添乗員」。だが彼らの多くは旅行会社の正社員ではなく、添乗員派遣会社に登録し、旅行会社へ派遣される派遣社員だ。日当制で、平均1万円程度。ボーナスもない。
ツアー中は24時間拘束され、常に添乗員としての振る舞いが求められるし、何かあれば夜中でも対応しなければならない。時給に換算するとわずか400円だ。
バスでの移動中は「バスガイドがいるから」という理由で勤務時間に含まれない。だからといって寝ているわけにもいかない。ツアー参加者が記入するアンケートで悪い評価が書かれれば、その後の仕事に影響するからだ。
「旅行会社に『夢』や『やりがい』といった気持ちを利用され、搾取されるばかりです」


前向きな言葉に追い詰められる
広告会社に勤める40代前半の女性会社員の部署に5年前の春、厳しい女性管理職が直属の上司として異動してきた。
その上司はてきぱきとして仕事ができ、最初は憧れの存在だった。だが、仕事の要求レベルがとにかく高く、100%では満足しない。120%の仕事を求め、部下たちの仕事にことごとくダメ出しをしてきた。女性は、数日間ほぼ徹夜で仕上げた企画書も丸ごと書き直しさせられ、営業用のプレゼンのために本格的な映像を何種類も制作させられた。
「せっかくならいい仕事をしよう」
「あなたならできる」
など、上司の言うことはもっともだ。「前向きでいい言葉」なので、断ることもできない。
婚活、妊活のラストチャンス逃す
毎晩終電まで仕事に追われ、土曜日も出勤。貴重な休日だった日曜日は布団から出られなくなった。そんな日々が半年続き、心身が悲鳴をあげた。ある日家を出られなくなり、1カ月入院した。その後も休職を繰り返す日々。女性は言う。
「当時は婚活、妊活の最後のチャンスだったのに、そんな時間も気力も持てなかった。今も独身です。仕事に人生を狂わされて悔しいし悲しい」
人生の一部分であるはずの仕事に人生すべてを捧げ、「私」が壊れてしまう人がいる。それは一部の「ブラック企業」だけの問題ではない。誰にでもおとずれる問題として、働き方について考えていきたい。