2009-11-05 02:41:20
WESTERN DEVELOPMENT 初期稿 第一
テーマ:WESTERN DEVELOPMENT
…………ブウウ———————ンンン———————ンンンン…………。
丸い電球ひとつだけの暗い部屋に一組の男女がいる。若い男女で、背もたれの大きな木の椅子に座って向かい合っている。冷たい部屋で、男も女も厚めのコートを着たまま見つめ合っている。窓の外は夜の景色で、近くを流れる川の向こう遠くに都心部のビルの光の群れが見える。静かな夜・静かな部屋、時計の針の音が聞こえて来る程、その静けさに魂ごと吸い込まれていきそうな程。
私が言えることは以上で、あとはもうさよならだ。皆様に会うことはもう無いだろう。最後にひとつ付け加えるのは、私はピストルを構えて引き金を引くことである。
「お兄様、地の文が自殺しましたわ。」
「そのようだね。ところでどうしよう。カメラはあちらだ。一応礼でもしておいた方がいいのかな。」
「お兄様、わたしたちはそういう儀礼的なことをする為にここにこうしている訳ではなかったはず。夜が開けるまでの時間も無限ではありませんので、すぐにでも始めなければなりません。」
「ああ、そうだったね。……しかし、何から始めようか。どうもこのような部屋では重っ苦しく感じられてしまって仕方が無いよ。若干息苦しい気さえする。しかも部屋の寒さのせいもあって、先程から身体の震えが止まらないんだ。ああ、お前だって震えているじゃあないか。いやはや、ここは寒過ぎるだろう。」
「そう言いましても、わたしたちは今夜、他に行くところがありますかしら?わたしも自分の身体の様子は自分で分かっています。わたしたちに出来ることは、このような状態も気にしないで済むようなことを、夜が開けるまでし続けることだけです。」
「だろうね。……そうだ、ぼくたちは始めなければならないな。何がいいだろうな。ここにはぼくとお前しかいない。部屋があって、窓があって、カーテンがあって、僕とお前が座っている椅子があって、この電灯があって、その他には何も無い。このままだと幾らお前がぼくの傍にいたとしても、ジリジリと凍えて死ぬのとどことなく心細くて死ぬのを同時に得なければならなくなる。きっと夜明けまで持たないだろう。何かいい考えはあるか?」
「お兄様、こういうのはどうかしら。トランプのゲームは幾つもありますけれど、ダウトというのはご存知?数字を正しい順番に重ねて、もしくはでたらめな数字をこっそりと重ねて、もし相手がでたらめなカードを出していたら「ダウト」と唱えて、相手の出した伏せたカードを開き、それがちゃんと順番通りならダウトを唱えた者が、でたらめならそのでたらめなカードを出した者がペナルティを受ける、大体そんなゲームですわ。」
「モヨコ、幾らぼくだってそれくらいは知っているさ。しかし、ダウトをするならそれもいいが、ここにはトランプなどありはしないだろう。勿論ぼくも持ち合わせていないよ。まさかお前は持っているのか?」
「いいえ、何も持っていませんわ。だって今夜はそういう決まりでしょう?わたしだってそれくらいのことはちゃんと分かっているつもりです。……要するに、カードの代わりがあったら良い訳ですから、お兄様、こういうのはどうでしょうか。つまり、カードの代わりに、わたしとお兄様の妄想を重ねていくというのは。」
「妄想……か。つまり、ぼくとお前で順番に妄想のエピソードを重ねていき、それに関してダウトを掛ける訳だな。成る程な、それならばカードは要らないだろうし、今ここにおいて自分の身くらいしか持たないぼくたちでも可能だろうな。」
「しかし、これを始めるにしても、何も無いところから始めるのは気が進みませんわ。適当でとりとめのない妄想ほどつまらないものはありません。わたしたちはこれからダウトをちらつかせて妄想を重ねていくのですから、その重ね方には整合性が、妄想なりの構築が必要です。そのためにも、まず根本的なテーマといいますか、わたしたちの妄想の始まり、すなわちトランプのダウトで言いますところのエースが何か欲しいところですわ。」
「そうか。それだったらぼくが出そう。そうだな、ぼくの記憶から考えて……こんなのはどうだろう。ぼくたちのこの街のとある一角に存在する、いや、かつて存在していたある小さなレコード会社についての話だ。」
「成る程。テーマは決まりましたが、それがどこから、そしてどちらの方向に向かっていくのでしょうか。」
「そのレコード会社は小さいながらも素敵な会社で、その周りにいた人達の輝かしい時期というのも存在した。しかしその栄光が次第に陰り、衰え、そして遂には無くなってしまう。……その終局的な破綻へ向かう際の最重要な転換点は、ある男の死なんだ。ぼくはそこから話を進めていきたいと思う。これでいいかい?」
「素敵ですわ。……しかし、こんなに静かな部屋で、そんな音楽的なことについて思いを巡らせていくのも不思議な感じがします。」
「それについては大丈夫だろう。ぼくたちのこのゲームがその集中の度合いを高めていくならば、次第にそこには音楽も、他のここに一切存在していないものや人なども、ぼくたちの中に育つだろう。……それだけに、ダウトのタイミングが幾らか難しくはなるだろうが。」
「それは仕方がありません。何しろ、今からわたしたちがするのは、今わたしたちがこうしていることや、そしてその集中に足るだけの価値を持ったものでなければならないのですから。」
「ああ、そうなんだろうな。……テーマを出したのがぼくだから、先にぼくから始めさせてもらおう。準備ができたら始めようと思うんだが。」
「準備も何も、ここには何もありませんわ、わたしとお兄様以外。そしてわたしは準備すべきものを何一つ持っていませんので。どうぞ……。」
「そうか……。なら、早速だけど、始めよう……。」
丸い電球ひとつだけの暗い部屋に一組の男女がいる。若い男女で、背もたれの大きな木の椅子に座って向かい合っている。冷たい部屋で、男も女も厚めのコートを着たまま見つめ合っている。窓の外は夜の景色で、近くを流れる川の向こう遠くに都心部のビルの光の群れが見える。静かな夜・静かな部屋、時計の針の音が聞こえて来る程、その静けさに魂ごと吸い込まれていきそうな程。
私が言えることは以上で、あとはもうさよならだ。皆様に会うことはもう無いだろう。最後にひとつ付け加えるのは、私はピストルを構えて引き金を引くことである。
「お兄様、地の文が自殺しましたわ。」
「そのようだね。ところでどうしよう。カメラはあちらだ。一応礼でもしておいた方がいいのかな。」
「お兄様、わたしたちはそういう儀礼的なことをする為にここにこうしている訳ではなかったはず。夜が開けるまでの時間も無限ではありませんので、すぐにでも始めなければなりません。」
「ああ、そうだったね。……しかし、何から始めようか。どうもこのような部屋では重っ苦しく感じられてしまって仕方が無いよ。若干息苦しい気さえする。しかも部屋の寒さのせいもあって、先程から身体の震えが止まらないんだ。ああ、お前だって震えているじゃあないか。いやはや、ここは寒過ぎるだろう。」
「そう言いましても、わたしたちは今夜、他に行くところがありますかしら?わたしも自分の身体の様子は自分で分かっています。わたしたちに出来ることは、このような状態も気にしないで済むようなことを、夜が開けるまでし続けることだけです。」
「だろうね。……そうだ、ぼくたちは始めなければならないな。何がいいだろうな。ここにはぼくとお前しかいない。部屋があって、窓があって、カーテンがあって、僕とお前が座っている椅子があって、この電灯があって、その他には何も無い。このままだと幾らお前がぼくの傍にいたとしても、ジリジリと凍えて死ぬのとどことなく心細くて死ぬのを同時に得なければならなくなる。きっと夜明けまで持たないだろう。何かいい考えはあるか?」
「お兄様、こういうのはどうかしら。トランプのゲームは幾つもありますけれど、ダウトというのはご存知?数字を正しい順番に重ねて、もしくはでたらめな数字をこっそりと重ねて、もし相手がでたらめなカードを出していたら「ダウト」と唱えて、相手の出した伏せたカードを開き、それがちゃんと順番通りならダウトを唱えた者が、でたらめならそのでたらめなカードを出した者がペナルティを受ける、大体そんなゲームですわ。」
「モヨコ、幾らぼくだってそれくらいは知っているさ。しかし、ダウトをするならそれもいいが、ここにはトランプなどありはしないだろう。勿論ぼくも持ち合わせていないよ。まさかお前は持っているのか?」
「いいえ、何も持っていませんわ。だって今夜はそういう決まりでしょう?わたしだってそれくらいのことはちゃんと分かっているつもりです。……要するに、カードの代わりがあったら良い訳ですから、お兄様、こういうのはどうでしょうか。つまり、カードの代わりに、わたしとお兄様の妄想を重ねていくというのは。」
「妄想……か。つまり、ぼくとお前で順番に妄想のエピソードを重ねていき、それに関してダウトを掛ける訳だな。成る程な、それならばカードは要らないだろうし、今ここにおいて自分の身くらいしか持たないぼくたちでも可能だろうな。」
「しかし、これを始めるにしても、何も無いところから始めるのは気が進みませんわ。適当でとりとめのない妄想ほどつまらないものはありません。わたしたちはこれからダウトをちらつかせて妄想を重ねていくのですから、その重ね方には整合性が、妄想なりの構築が必要です。そのためにも、まず根本的なテーマといいますか、わたしたちの妄想の始まり、すなわちトランプのダウトで言いますところのエースが何か欲しいところですわ。」
「そうか。それだったらぼくが出そう。そうだな、ぼくの記憶から考えて……こんなのはどうだろう。ぼくたちのこの街のとある一角に存在する、いや、かつて存在していたある小さなレコード会社についての話だ。」
「成る程。テーマは決まりましたが、それがどこから、そしてどちらの方向に向かっていくのでしょうか。」
「そのレコード会社は小さいながらも素敵な会社で、その周りにいた人達の輝かしい時期というのも存在した。しかしその栄光が次第に陰り、衰え、そして遂には無くなってしまう。……その終局的な破綻へ向かう際の最重要な転換点は、ある男の死なんだ。ぼくはそこから話を進めていきたいと思う。これでいいかい?」
「素敵ですわ。……しかし、こんなに静かな部屋で、そんな音楽的なことについて思いを巡らせていくのも不思議な感じがします。」
「それについては大丈夫だろう。ぼくたちのこのゲームがその集中の度合いを高めていくならば、次第にそこには音楽も、他のここに一切存在していないものや人なども、ぼくたちの中に育つだろう。……それだけに、ダウトのタイミングが幾らか難しくはなるだろうが。」
「それは仕方がありません。何しろ、今からわたしたちがするのは、今わたしたちがこうしていることや、そしてその集中に足るだけの価値を持ったものでなければならないのですから。」
「ああ、そうなんだろうな。……テーマを出したのがぼくだから、先にぼくから始めさせてもらおう。準備ができたら始めようと思うんだが。」
「準備も何も、ここには何もありませんわ、わたしとお兄様以外。そしてわたしは準備すべきものを何一つ持っていませんので。どうぞ……。」
「そうか……。なら、早速だけど、始めよう……。」




