さよなら!僕らのソニー | 大石事務所の本棚

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自分の読んだ本の感想

を書いた書評ブログです。

さよなら!僕らのソニー (文春新書)/立石 泰則
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 【 こんな人にお薦め 】

 ・ ソニーの生い立ち、現状を知りたい方

 ・ 企業の栄枯盛衰を知りたい方

 ・ 経営者の方




 第1章   僕らのソニー

 第2章  ソニー神話の崩壊

 第3章  「ソニーらしい」商品

 第4章  「技術のソニー」とテレビ凋落

 第5章  ホワッツ・ソニー

 第6章  黒船来襲

 第7章  ストリンガー独裁

 最終章 さよなら!僕らのソニー




 この本の著者は、1950年生まれ。小さな頃から、高価格・高品質のソニー製品に憧れ

た世代です。


 そして社会人となり、経済誌を発行する出版社で働き始めると、先輩社員から、


 「もし取材の時にトラブルが起きた大変だから、取材用の録音機はソニー製しておけ」


とアドバイスされます。


 「ソニー製は高いから安い他社のでも良いでしょう。ソニーでも壊れる時は壊れますよ」

 

 と、著者が異論を唱えると、その先輩は、


 「バカだな。ソニーなら諦めがつくだろうが。一番品質がいいソニーで故障したのだから、

仕方ないと。他社のなら、後悔するだろう」


 と、たたみかけてきます。


 当時、ソニー製品がどれだけ信頼されていたのかがわかるエピソードです。



 この本は、経済ジャーナリストとして活躍してきた著者が、長い時間をかけて「ソニー」

という会社の変遷を取材してきた、現時点での結論といった趣です。



 この本によれば、ソニー凋落の始まりは、大賀社長時代にあった、としています。


 大賀社長は、今後来るであろう「コンピューター化」「ネットワーク化」というものが全く

理解できず、自身の後継者に熱心にレポートを送ってくる、当時末席の役員だった出井

氏を指名します。


 出井氏は、井深・盛田氏から直接薫陶を受けていない初めての社長で、「モノづくり」

はあまりこだわりのない人で、更にアメリカ流の経営手法を好み、組織の改編を毎年

ように繰り返します。


 また、末席の役員から一気に社長に就任したため、先輩役員からの反発もあり、経営

は思うようにいきません。


 やがて出井氏は、経団連副会長、米GM社外取締役、更には「ダボス会議」共同議長

など社外に活躍の場を求めてゆきます。


 大賀氏は晩年、


 「出井を社長にするべきではなかった」


 と悔やんでいたそうです。


 そしてその出井氏が後継者として選んだのが、当時米ソニーの社長だったストリンガー

氏でした。


 この本によれば、出井氏がアメリカで要人と合うのにストリンガー氏は奔走し、その功績

が認められての就任とあります。


 しかし、このストリンガー氏、元は放送局であるCBSの出身で、出井氏以上に「モノづくり」

に関心のない人物です。


 ネットワークの先にビジネスがある、という考え方で


 「もはやパソコンやテレビは、ネットワークにつながる端末で、それはパナソニックでもいい」


 とまで発言しています。


 しかしこの本の著者が、直接ストリンガー氏に対して、


 『ネットワークに繋ぐ理由はわかりましたが、ではどこで利益を稼ぎ出すつもりなのですか。

それを教えてください』と尋ねた。ストリンガー氏は少し考えてから、こう答えた。


 『それをいま、平井(副社長)に考えさせているところだ』


 『 ......... 』


 私は絶句した。ビジネスモデルを持たないまま、すべてのソニー製品をネットワークに繋ごう

としていたのか。まさか、ネットワークに繋いでいるうちにビジネスモデルが生まれるとでも思っ

ていないだろうな - もし思っていたとしたら、これは経営とは言えない。」 ( P.245 )


 これが年収8億6千万円の報酬を取る、現在のソニーのCEOなのです。



 個人的に思うのは、「GE」「デュポン」「ノキア」などがコアの事業を変えて、生き延びてきた

ように、ソニーも音響メーカーからネットワークや映像や音楽ソフトの会社へシフトしてゆくこと

は、「あり」だと思います。


 仮にそれらが大成功すれば、ストリンガー氏は

 

 「ソニー中興の祖」


 と言われることでしょう。


 しかし思うような結果が出せず、またソニーは長期凋落傾向にあるように感じられ、世間か

らは厳しい評価を受けているように思います。


 加えて最初にも書いた通り、ソニーの製品に憧れ、ソニーという会社を特別視してきた著者


 「『ソニーらしさ』を失ってゆくことが許せない」


 という、個人的な愛憎半ばする思いが厳しい言葉・評価につながっているのでしょう。



 経営者の個性、能力により翻弄されてゆく企業、組織という視点から見れば、非常に興味深

一冊だと思います。



 評価 : ★★★★☆




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