鏡月玖璃子 パンゲアドール を読む

テーマ:
不覚にも、読み違える。
パパゲーナドール、と。

パパゲーナは、モーツアルトの
「魔笛」に登場する、変てこな、
人物である。

しかしここに、
書かれていたのは

パンゲア

であった。

Pangaea Doll/Chris Kyogetu
¥1,748
Amazon.co.jp

パンゲア?

何のことだろう。

調べてみると、
2億年とか以前、
地球の陸地が、
今のような、
それぞれの大陸に
なる前の、
ひとつのまとまり、
のこと、だと言う。

地球の大地=ガイアが
まだ未分化(=パン)だったから、
パンガイア、すなわちパンゲア
である。

では、タイトルの
「パンゲアドール」とは、

ガイアがまだ未分化だったように、
まだはっきりとした自分がつかまえられない、
そんな状態にある「人間」のこと、
だろうか。

冒頭には、こう書いてある。

「『パンゲア症候群』それが私の病名だ。
主な症状はマインドレスによる幻覚症状。
治療法は存在しない。」

「マインドレス」はふつうの意味ではなく、
独特の風味をもたせており、
巻末には、「マインドレス」について
「無自覚な状態が続く」と説明されている。

どうやら、「ドール」とは、
「マインドレス」な人間、
であるようだ。

パンゲアドールとは、
「自分」が何者であるのかに
「無自覚」な人間、
ということになる。

もしくは、「未分化」な存在、
なのかとも考えてみたが、
本書を読み進めると、
実は、このパンゲアドールが
もともとマインドレスであった
わけではない、ということに
気づかされるので、
おそらく「無自覚」ではあっても
「未分化」ではないのだろう。

ちょっと、込み入った話だ。

・・・

ガイアの場合は、
最初、未分化であった。

それが、分化して、今のような
大陸になった。

という説明になる。

一方人間の場合は、

その人は、最初、マインドがなかった。

それが、マインドのある人間になった。

というわけではない。

これでは、普通に赤子から
大人になってゆく過程を
述べているだけになってしまう。

むしろ、こうであろう。

最初は、その人は、
マインドのある人間だった。

それが、何かのきっかけで、
マインドを失った。

マインドは、なくなくなったのであり、
はじめからなかったのではない。

つまり、その人にマインドは、
何もない、のではない。

あった、のだ。

それを失った。

・・・

もう少し厳密に言おう。

パンゲア大陸が
そうであったように、
原初の、「心」が
未分化の状態。

アンクリアで、
ぼんやりとした、
もの。

パンゲアな「人間」、
という言い方が
もしできるなら、それは、
生まれてくる前の、
胎内にいる赤子の
ことに等しいように
思える。

しかし、ここでは、
パンゲアな「ドール」である。

これは、
何を指すのだろう。

パンゲアな生き物が
即ちドールのようだ、
ということであろう。

あえて図式的に言うと、

人間~パンゲア~人形

となる。そしておそらく、
ふたたび

人形~パンゲア~人間

へと、回帰する物語
という言い方ができるのかも
しれない。

このような往還運動は、
ジル・ドゥルーズの言う、
「卵」(ラン)
と近いとも言える。

卵は、未分化。

何になるか
分からない。

何者かにならない
かもしれない。

パンゲア大陸
とは、そういうもの
に近しいはずだ。

しかも、「卵」とは、
「器官なき身体」である。

それは、「人形」の
ことではないか?

ドール。

まて、

もう一度、

ドール、

とは何か

考える。

・・・

人間から魂を
抜いたもの?

マインドレス?

逆説なのか。

人形こそ、心、
がある。

その心は、
まだ、明瞭な
ものとして、分化
していない、
原初のままの、
その姿で
あること。

もしくは、そのような
状態、時代、
ありかたに
戻りたい、と思う、
主人公の気持ち、
を指し示すの
かもしれない。、

・・・

と、あれこれと
妄想してしまったが、
本書の魅力は、
淡々とした文体に
ある。

それは、マインドレス
というものを
文字で描こうという
姿勢なのかもしれないが、
どことなく、
村上春樹や吉本ばななの
文章を彷彿とさせる。

いや、ハルキほど
悪い意味で
ナイーブでないし、
バナナほど、
溺れているわけでも
ない。

もっと、何かを
つかもうとする、
強い意欲を感じる。

足元が、ない、
不安定で、浮遊して、
惑う主人公は、
それでも、何か、
強さというか、
戦う姿勢が、見られる。

そこに、私は、
希望をみる。

・・・

amazonの本書の
画像は、裏表紙
である。

表表紙が
見せられないのが
残念である。

美しい装丁の
美しい文章の
本であった。


AD