菅直人首相の8日の就任記者会見は、自らの不用意な発言で足をすくわれた鳩山由紀夫前首相の轍(てつ)を踏みたくないためか、責任を分散・回避するようなあいまいな発言に終始した。市民運動をきっかけに政治家を志し、30年前に衆院に初当選した時から上昇志向を隠そうとしなかった首相だが、その目的を遂げるや否や、野党時代の攻撃性と鋭い舌鋒(ぜつぽう)を封印。就任初日から「守り」の姿勢を強く印象づけた。

 「官僚こそが政策や課題に取り組んできたプロフェッショナルだ」

 長年にわたり政治主導を訴えてきた首相は、記者会見で官僚をこう持ち上げた。昨年10月の講演では「霞が関(の官僚)なんて成績が良かっただけで大バカだ」と断じていたが、百八十度転じてしまった。

 鳩山前首相が退陣に追い込まれた大きな要因である米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)移設問題に関しても、野党時代に海兵隊の沖縄撤退論を繰り返し主張していたことなどおくびにも出さなかった。

 さらに首相は「まずは官房長官のところでどういうチーム、枠組みで取り組むか検討していく」と述べ、内閣の最重要課題の責任をさっそく仙谷由人官房長官に押しつけた。

 首相は、維新の志士、高杉晋作にちなんで自らの内閣を「奇兵隊内閣」と名付けた上で、「高杉晋作は逃げるときも速いし、攻めるときも速い。果断な行動をとった」とまず「逃げる」ことに言及した。 

 もっとも慎重発言を心がけても言葉の端々から本音は垣間見える。首相は4日の民主党代表就任の記者会見では「数日前から『琉球処分』という一冊の本を読んでいる。まだ、あまり進んでいませんが…」と述べ、今になって泥縄式に沖縄の歴史を学んでいることを明かした。

 首相は2年前に出版された本「菅直人 市民運動から政治闘争へ」のインタビューで「市民派は自分たちが好きなことはやるけれども嫌いなことはやらない」と自己分析している。批判していればよかった野党議員ならばそれも通用しただろうが、果たしてそれで一国の首相が務まるのか。

 この日の記者会見も政権を維持したいという意欲は伝わったが、具体的に何をどう進めるかはほとんど見えてこなかった。

 そんな首相が少し能弁になったのは、小泉純一郎元首相による平成17年の郵政選挙を批判した時だった。

 「小泉さん流のひどいというか、まさに小泉劇場に踊らされた選挙だった」

 郵政選挙をめぐり、首相は18年1月の民放番組でこう言い切った。

 「一億総白痴化になっていますよ! だから(衆院選で)自民党が勝ったんじゃないですか!」

 この理屈で言うならば、昨夏の衆院選で民主党が勝利したことも、その結果、自らがいま宰相の座にあることも、国民が白痴だからだということになりはしないか。(阿比留瑠比)

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