舞台挨拶のため、前列のほうの席をとった関係上、この2回はじっくり映画を観るには甚だ不向きな環境だった。結局完成披露試写会を含めてまだ一度もちゃんとスクリーンが四角く見える席で鑑賞ができていない。そのうち、いきつけのシネコンで鑑賞に最適な席でゆっくり観なくては。

そんなわけで、13日午前の回は、画面を意識するのはやめ、台詞に集中することにした。午後の回は中央だったが、近すぎてスクリーン下側ばかり拡大されて落ち着かないので、横のほうのディティールあたりに目を凝らすことにした。

どうも感想を書くとなると、ネタバレになってしまうので、白文字が多く、だいぶ虫喰いの文になるが、ご了承を。

1回目に見たときから、多少疑問に思っていることがある。1995年の時点での日常語の言葉遣いである。西岡の台詞で「どんだけ真面目なんだ!」というのがあるが、「どんだけ~なんだ!」という言い回しは、95年あたりにはまだほとんど使われていなかったと思う。そして、これも西岡だが「マジ」をよく使う。これも、当時どうだったかなあ… 皆無ではなかっただろうが、社会人が使うほど浸透していたかどうか、ちょっと気になった。原作の言葉遣いがどうだったか、もう忘れてしまったが。

馬締の恋文はとても面白いエピソードだ。映画のプログラムには、馬締が書いたことになっている毛筆の手紙の写真が載っている。相当な達筆だ。自慢するわけではまったくないのだが、私は一応読める。これを香具矢が読めないのは当然だろうと思うし、こういう崩し字は若い人でなくても読める人は少ないだろう。英語なんか教えるより(は言い過ぎか?教えると同時に…くらいか)、まずは自国語の行書・草書あたりを教えるべきなんじゃないかと、常々思っている。美しい崩し字を「美しい」と思えず、「読めない文字」ととらえられてしまい、崩し字がごく一部の書道を嗜む人たちだけのものになっている現状は残念だ。脱線したが、馬締の性格なら、きちんとした楷書で書くのもアリじゃないかと思った。香具矢もあんなに怒らなくてもいいのに(^^;;

黒木華の言葉にもあったが、伊佐山ひろ子演じる佐々木は、編集部の中で良いスパイスとなっている存在だと思う。確かにちょっと馬締や西岡から目を離して、佐々木の仕事ぶりを見ていると楽しい。それに、佐々木はニコリともせずに鋭いところを突く発言をするし、お茶目な行動もする。電光石火の早業で、香具矢の勤める料理屋を予約してしまうところなど、最高に可笑しい。まったく笑顔を見せなかった彼女が、最後のパーティーの際に、本当に嬉しそうにニッコリ笑った顔が印象的だった。

年月が経つにつれて、編集部のパソコンも新しい機種になってゆくのが興味深く、編集部内部はいくら見ていても飽きないし、馬締のアパートの部屋もそうだ。ただし、あの古い木造アパートだと、馬締が持ち込んでいる本の量は、実際問題として、とても支えきれないと思う。床に補強でもしない限り、部屋がゆがむか、床が抜けるか… 馬締が辞書をたくさん買って帰ってくるシーン。あの紙袋一杯の辞書を馬締は重そうにもせず持っている。玄関ドアをあけるときに、ひょいと紙袋を持ち上げたりもする。男性だから、あれくらいの重さは大丈夫なのだろうか?好きな本だから重さを感じないのだろうか?相当重いはずだが。実際に辞書を袋に詰めて演技したのかどうか、聞いてみたい気がする。

岸辺みどりも注目していると結構面白い。当初はファッション雑誌編集のほうから異動してきたということで、お洒落だったが、段々辞書編集部に染まって、服装もラフになり髪型もシンプルになってくる。シャンパン→ビールという変遷がまさに彼女の変化を物語っているのだろう。演じている黒木華も、ゆったりと消え入りそうな声で話す普段からは想像できないようなテンションの女性をうまく表現しているなあと思う。

2度目でも3度目でもやっぱり魅力的だと思うのは三好麗美だ。キャラクターとしても、あんな恋人がいたら男性は幸せだろうと思えるし、演じている池脇千鶴も出色の出来だと思える。くるくるよく動く瞳で、笑顔が素晴らしく可愛い。西岡のくだらない嘘をサラッとかわすところなど、これじゃ西岡は敵わないな、彼女の掌の上で遊ばされているようなものだと、微笑ましくなる。

西岡の赤ちゃん言葉は傑作だった。あのシーンだけで、本当に麗美と結婚し、子供も生まれたことがわかるので、うまい脚本だと感じた。

馬締は成長してゆくに従って、姿勢も視線も変わってゆくし、もちろんコミュニケーション能力も進歩する。西岡が喋っている携帯を取り上げて、麗美からの電話に出てしまう行為など、数年前の馬締だったら想像だに出来なかっただろう。あれにはかなり驚いた。

こうして見てくると、馬締だけでなく、登場人物のひとりひとりが、年月とともにどう成長していったかが、とても丁寧に描かれているのがわかる。辞書という舟に乗って言葉の海を渡ってゆくことは、人生の航路をたどることと同義だと実感させられる。

主演のことをちっとも書かなかったが、松田龍平はまさに馬締光也だ。愛すべき挙動不審が実に堂に入っている。今となっては、馬締役をほかの役者さんが演じたら、という仮定すら出来ないほど、松田はドンピシャだと思える。

(2013.4.13 丸の内ピカデリー1にて)
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