産婦人科医の本音

一般的には我々の間では、会陰部の傷の縫合は、自然に出来た裂傷よりも切開の縫合の方が容易と思われている。

吸引分娩の場合は、児の娩出を急ぐため、かなり裂傷が広がることが予想され、あらかじめ、会陰切開を大きく入れることが多いのだが、それも会陰切開の場合の方が自然裂傷よりも正確に修復出来きるを考えているからである。

会陰切開を行う理由は、

第一に会陰部の裂傷が高度になるのを防ぐ事、第二に出口を広げ難産を防ぐため、第三に胎児心音が安心できないパターンの場合、分娩を急ぐ時

会陰切開の実際的な利点

会陰切開を行うと肛門や肛門周囲の高度の傷が減少する。

骨盤底を支える筋肉や靭帯を保護できる縫合がより容易なので傷の回復が早い。

早産や肩甲難産(胎児の肩の通過が困難な分娩)の場合には新生児の外傷をより少なく出来る可能性がある。

外陰部の上の方(クリトリスや陰唇、尿道)の損傷が減る。

会陰切開の欠点

肛門や肛門周囲の高度の傷の原因となる裂傷が逆効果に大きくなるもしれない、皮膚の引きつれや膣の入り口が狭くなるかもしれない。、傷の痛みが強くなるかもしれない。

しかし、性的機能回復は自然裂傷の場合の方が性交再開時期はより早いのだが、長期的な性交痛には差はないという研究結果が一般的である。

今後の検討課題

経膣分娩は、便失禁、尿失禁と重大な関係がある。これに悩む女性は、信じられないくらい多いのであるが、女性のQOLに影響を及ぼす便の失禁、尿の失禁の率は、会陰切開群と自然裂傷群で差があるのだろうか?


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最近、これに関する論文が多い。

この分野は未だに、科学、医学というよりアート的な領域である。

つまり、担当する医師、助産師の経験、考えによって、随分差が出るといえる。

でも。データを重視するべきなので、比較的信頼できる論文、発表(無作為抽出試験による研究)を取り上げると、


Dannecker  et al. Acta Obstet Gynecol Scand. 2004;83(4)’364-368

初産の会陰切開率は、児がこれ以上は胎児心拍数モニタリング上、もう待てないとか、早く娩出しなければいけないと判断した場合のみに施行した時、41%であった。それに対し、このまま自然に分娩したら大きく裂けそうであるからと判断した時にも会陰切開を入れると、なんと会陰切開率は77%に跳ね上がる。

では、会陰切開を入れなかった時に、何%の人は無傷なのであろうか?そう、切開を入れなくも、ある程度は裂けてしまうのは仕方ない。前者で29%は無傷、後者で約10%の人は無傷で済んでいる。

何を言いたいかというと、分娩担当者が、会陰切開を少し制限するつもりで分娩に望めば切開率を77%から41%に減少させることができる。また、無傷で済む率も10%から29%に上昇させることができたということである。

 ちなみに会陰切開を入れないと、分娩時間は約15分程度は延長してしまうことも事実であるので、胎児がこれ以上、陣痛に耐えられない場合、モニタリング上、低酸素状態の悪化を判断した時は、無理せずに会陰切開し速やかに分娩を終了させる必要があることも付け加えなければならない。


別の米国での発表では、会陰切開率は1979年に65.3%だったのに対し、2001年には29.2%にまで減少している。Weber et al. Obstet Gynecol 2002;100:1177-82

こういうトレンドがあることも我々産婦人科医は知っておくべきであろう。

 

 

 

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