昨年は、921人の妊婦さんの分娩があったが、先程、分娩台帳を見たら4人の方に分娩後輸血を施行し、4人とも輸血をしながら、大学病院に母体の救急搬送を行ったことを思い出した。その前年は2人であったが、搬送までの出血量は、3000ccから5000ccといったところで、6人のうち、原因は弛緩出血が多く、原因不明の子宮内腔からのも3例あった。
いずれも、輸血をすぐに開始したからこそ、ショック状態ではあったが、意識消失まで至らず、もちろん心肺停止は起こさなかった。分娩後は、数分単位の対処と判断が必要な時も少なくない。

どの妊婦がこのような悲劇的な状況に遭遇するかは正直、全く予想できないのである
ハイリスクの方を、すでに外来診療中に見つけて総合病院や大学病院に紹介してあるので、出産した方は本来ローリスク妊婦だったはずである。それが、分娩時に急変するのだ。

いつまで個人産院(医院、有床診療所)で分娩を行うべきか、は、最近厚生省もある方向性を示した。将来的に、健診は開業医で、そして分娩は総合病院で!は最も正しいオプションになるに違いない。
しかし、ローリスクお産だった人にとっては、結果的に個人医院の方が、親切、親身、快適、食事が旨い等、満足度は高いのは仕方がない。

数少ない、とんでもない合併症が起こった女性にとっては、また、それを取り扱ったことのある町医者にとっては、分娩はとんでもなく恐ろしく怖いものであると身をもって認識している。分娩は、多くは感激の瞬間で楽しいものだが、日本中の産婦人科医は、時代と共にその責任から、もう腰を引き気味になってしまった。

私自身も今の環境が天職と思いながらも、厚生省の将来の分娩のあり方にかんする方向性に、もはや賛成なのである。

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GBS、これはB群連鎖球菌といって、妊婦さんの約20%程度は膣内や肛門付近に保菌している常在菌である。

これを分娩時に保菌していると、約1%ぐらいの確率で、産道で児に感染して敗血症や髄膜炎を起こすので、2003年よりCDC(米国疾病管理センター)が世界に向けて、分娩中の母体への抗生物質(ペニシリン系)の点滴投与の指針を発表した。
つまり、1000人中200人ぐらいはこの菌を持っていて分娩でその200人中2人の子が出生後、数時間で調子が悪化するのである。

戦略としては、35-36週で外来でGBS培養をとる。膣壁外側と肛門付近である。ココで大事なことは、あなたは妊娠何週の時に、この検査をしているのか、一度確かめるといい。そして、陽性なら、いつ治療するのか、聞くのもよい

GBSは、妊娠中、出たり消えたりするので、初期中期に検査して陰性だからといって、分娩時に膣内にいないとは言えないのである。
つまり、分娩時にいるかいないかは、研究で、妊娠35-36週付近の検査での有無が相関性が高く、信頼できるのである

そして、外来検査でGBSがいるからといって、外来で抗生物質を処方する事は間違っている。なぜなら、1週間後に内服薬で消失しても、2週間後には復活してる可能性があるからである。常在菌とはそういうものだ。

あなたの産婦人科医が、35-36週で、GBSの検査をして、陽性でも、そこで
治療はせず、陣痛や破水で入院した時に、初めて、点滴で治療をする方針であれば、EBMを実践している最新知識の優れた産科医であると言っていいかもしれない



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唐沢寿明、黒木瞳らが主演した「白い巨塔」のリメイク板がヒットしたせいで、私が患者さんからとんでもない誤解を受けるようになってしまった。

私は、小説でしか読んだことが無いので知らないのだが、聞く所によると、西田敏行扮する財前の義父が産婦人科クリニックを経営していて、身なりも振る舞いもバブル紳士のようで、娘夫婦(若村真由美、唐沢)に与えた家がカスタムメイドの5-6億円規模の豪邸なのだそうである。

半径10kmの範囲で、私のところが最も盛業中なので、心無い暇な患者さんの一部が、私と同姓の名札をかかげている市内の超豪邸を、私の家と勘違いして決めつけ、ネット掲示板で宣伝してしまったのだ。なんと、この超豪邸は某上場企業のオーナー一族の新築で、真偽はともかくも、近所の不動産屋などのうわさでは7-8億円ぐらいだそうである。

これ以来、院内のご意見箱には時々とても嫌味なご意見が散見するようになった。儲けてるなら、患者に還元し安くしろとか、信じられないようなものもある。

私の実情はというと、吉野家の牛丼の復活を心から願うような本当につつましい生活なのである。家だって、築25年の中古物件を6年前に購入し、ローンも残っているのに、、、、。私以上の盛業産婦人科でも、テレビの財前又一のようなタニマチは時代から見て、もう出現しないだろう。美容外科は別として。

というわけで、テレビの人々に与える影響の凄さに、驚き、怖ささえ身をもって感じた1年であった。皆さんも誤解ないよう、通院してください。
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世界で最も権威あり信頼されている一流の医学雑誌New England Journal of Medicineで興味深い新しい研究論文が出た。2004年11月4日号である。
巷では、保存した凍結受精卵を戻して50代でも妊娠出産例が報告されているが、妊娠出産って、いくつまでが安全なんだろう


自然流産は35歳未満で10-17%
     35-39歳で22-26%
     40-45歳で50%
     45-50歳で95%
ダウン症を含む染色体異常 25歳 476人に1人
             30歳 385人に1人
             35歳 192人に1人
             40歳 66人に1人
             45歳 21人に1人
死産率        20-29歳 1000人中4人
           40歳以上 1000人中10人以上

年齢と共に母体の高血圧、妊娠中毒症の合併が増え、その結果、児は早産児や低出生体重児の率が上昇する


結論:さまざまな理由で、女性が適齢期の出産を望まなかった場合、現代の
産科では、高年齢妊娠が禁忌とはいい難い。35-45歳までは、まだ安全な
妊娠出産が望める10年間としてよい


とのことである。うれしいではないですか?20代30代に出産を望まずにやりたいことのある女性には朗報である。けど、流産率の高さを良く見て欲しい。
院長の専門領域に関して、院内の掲示板やパンフ、ホームページに掲示されていれば見たほうが良いと思う。

同業者から見て、その医者の経歴が癌センター勤務や婦人科手術数などが強調されているようであれば、産院として最も大切な産科領域、周産期領域に関しては専門領域としてはトレーニングを受けていないか、あまり重要視しして来なかった産婦人科医である可能性が高い。はっきり言ってお産をなめているか、あまり得意でない可能性がある。

一方、母子センターやNICUなどの経歴があれば、周産期領域を専門としてやってきた医者であることが予想できる。

普通のお産は、並みの産婦人科医でもこなせるが、100人中2-3人に起こりえる異常をいち早く発見、対処できるかは、トレーニングや経験によって培われた
スキルが物をいうのであろう。
臨床研究で全員に会陰切開をするメリットは否定されている。また、自然の会陰裂傷の方が良いということも否定されている。必要に応じて会陰切開を入れるというのが妥当である。

産後の性交痛、便失禁や尿失禁の頻度は、すべてのグループで有意差はないようである

よく、経験だけが頼りの助産師が、自分の経験だけを上げて
「会陰切開をして縫合するのと、自然裂傷後に縫合するのは、自然の方が楽だわよ!」とおっしゃるのをよく耳にするが、でっち上げである

縫合した後の疼痛で、きちんと証明されているのは、合成吸収糸を使用して連続縫合をすれば、一番楽ということだ。

ただ、いきみをうまくコントロールして無理にイキませないよう、じっくり時間を掛ければ、会陰部が進展し、切開不要で出産ができる可能性があるので伸びれば自然に!伸びそうもなければ会陰切開を!自然に切れたら縫合を!という方針でいいと思われる。

つまり、妊婦さんがよく私に

「なるべく会陰切開しないでください」というリクエストをされるのであるが、

私の返事は?と言えば

初産で裂傷もなく済む方はあまりいませんが、うまくいけば、裂傷もなく楽ですよ。でも、ズタズタに切れることもよくあるが、それは覚悟してください。本当に無理そうなら、切開がいいですよ。」ということである
アトピー性皮膚炎の家族歴のある妊婦さんから、「妊娠中からこの子のためには、卵や牛乳を控えた方がいいですよね?」と聞かれるが、90年代から多くの研究でほぼ効果は否定されている。つまり。妊娠中の努力は報われていないのである
またまた、つまり、その辺で売っている乳業会社の母親用の低アレルギー性食材や牛乳は非常に怪しげな商品ということである。これ以上言うと、血祭りにあげられる可能性があるので止めることにする。

一方、効果が証明されているのは、出産後の授乳期に、お母さんが卵を食べないで、別の食材で卵に代わる栄養をとって母乳栄養とすることで、生後12-18ヶ月の児のアトピー発症が減少する事が証明された。


ご自分や上のお子さんがアトピーで悩んでいるのであれば、今回は母乳栄養を心がけ、出産後に卵を摂取しなければ、その発症が次の子に関しては減らせる可能性が高いようである。
一般に認められた出産後の女性の適した入院日数は時代とともに短縮傾向に変わってきている。昔は入院期間は日本だけでなく世界的にも今より長かったようだ。

だいたい少し昔まで自宅出産が当たり前だったのだが、私の世代は、いわゆる床上げという”出産後は布団は3週間は敷きっぱなしで、実母や家の人がなんでもやってくれるチヤホヤ状態が当たり前”としていた時代をもう知らない。これは明らかに古い慣習で、今の時代にしたら、血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)や産後回復の遅れを及ぼすかもしれない。

最近は、産後4泊5日、5泊6日付近が多いのではないかと思う。昔の医者ほど長い設定にしているかもしれない。米国などはたった1-2日(48時間以内)であるが、これは医療費が異常に高い国なのでそうせざるを得ない状況らしい。早期退院プログラムの充実もあり米国では成功しているが、日本ではまだ真似はできないと思う。

いずれにしても、産後に母乳の分泌がかなりしっかりしてくるのに3-5日はかかる。産後の体を休めるという必要性よりもむしろ、母親へのさまざまな指導のための入院期間という意味合いが強いのであろう。

私のところは、産後順調なら独自に産婦さんの希望にあわせて3泊4日から5泊6日の3種類から選んで頂いている。料金もそれに合わせて安くなったり高くなったりである。一部の経産婦さんや節約派の方たちは3泊4日を選ぶ場合がよくある。
これは、患者さんから見れば、とてもうれしいシステムだそうだ。いいシステムなのに、未だ周辺の産院はどこも取り入れていないのが寂しい。
そう、私達産婦人科は、患者さんが病人という訳でもないのでもっとサービス業の意識をしっかり持って接していかなければ21世紀に生き残れないのではないかと思うのである。