AFTER THE GOLD RUSH

とおくまでゆくんだ ぼくらの好きな音楽よ――


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七尾旅人ワンマンツアー 雨男なのだろうか。近頃は、雨の日とライブ観戦が重なることが多い。あらためて書くまでもないが、雨の日のライブは辛い。それが寒い冬の夜となると尚更だ。冷たい雨に打たれながら開場を待つ時間のやるせなさ。この歳になると、もうそれだけで挫けそうな気分になる。先週(1月8日)の七尾旅人のライブは、まさにそういうシチュエーションでの開催となった。会場は、鶯谷駅近くの東京キネマ倶楽部。グランドキャバレーを改修して劇場にリニューアルしたこのハコのことは、かねてより存在は知っていたが、足を運ぶのは今回が初めてだ。そして、この淫靡でレトロ趣味なハコが、新年早々、ライブとハコのあるべき姿を考えさせるきっかけとなった。


まず、現状報告をしよう。ぼくが会場に到着したのは、開場20分前の午後4時40分。既にこの時点で、ビルの軒下は雨宿りをするファンで溢れ、そこに入れない多くの人たち――少なく見積もっても百人以上――は、路上で傘を差しながら、開場を待っていた。やがて5時になり、スタッフの指示に従い整理番号順に入場することとなったが、ここからが大変な時間を要した。というのも、5百名を超える観客を、定員10名弱の狭隘なエレベーター2基で6階の会場までピストン輸送していくため、整理番号が後ろの者は延々と待たされることになるのだ。結局、ぼくがエレベーターに乗ることができたのは、開演20分前の午後5時40分、つまり、ここまでで約1時間、冷雨の中立ち続けていたことになる。それでもさほど疲労を感じなかったのは、肉体的な苦痛より、最高の音楽を聴くことができるという高揚感の方が勝っていたからだろう。そして、もう一つ、会場に入れば、座席に腰を下ろせるという安堵感もあった。しかし、その楽観的観測は、フロアに足を踏み入れた瞬間、打ち砕かれることとなった。ステージ前方に設けられた自由席は既に満席であり、半数以上の観客は、その後方に何層にも連なって「立ち見」をしている状態であったのだ。これはまずいことになった、と思った。何故なら、この日、ぼくは妻を連れてきていたからである。一人であれば、何時間の「立ち見」でも耐えられる覚悟はできている。しかし、同伴者にそれを強い ることはできない。迷いと後悔が交錯する中、旅人の演奏は始まった。七尾旅人 それは期待に違わぬ素晴らしいパフォーマンスであった。ガットギターの爪弾きに乗せて呟くように歌われるシンプルなリリックは、ノイジーな電子音とアフリカの精霊に導かれるかのように、情熱的でソウルフルな咆哮へとメタモルフォーゼしていった。文字通り引き込まれるように旅人の演奏に聴きいった。2時間近く経った頃だろうか。突然、異変は起こった。隣にいた女性がドタッという音を立てて、床に倒れ込んだのだ。正確に言うと床に座り込んだのだが、その唐突さは、まるで倒れ込んだかのように見えた。「大丈夫ですか」「えぇ(大丈夫)、少し立ちくらみが――」。会場が暗くて、顔の表情は分からないが、床にべったりと座りこんだその様子は、明らかに具合が悪そうだ。係員を呼ぼうと、上階につながる螺旋階段の方に行くと、驚いたことに、階段の上から下まで、若い女性や年配の男性が憔悴しきった表情で座り込んでいるのだ。螺旋状の階段のため、上方では、ステージの様子はおろか音も満足に聴こえないにも関わらず。ぼくは、係員に体調を崩した女性がいることを説明し、その後、程なくして、妻と会場を後にした。ライブは、この後も2時間以上続いたらしいが、ぼくにはもう残って聴き続けるという選択肢はなかった。


繰り返し書くが、旅人は最高のパフォーマンスで迎えてくれた。では、何が問題だったのか。今後の改善を期して大きく次の2点を指摘しておきたい。
まず、チケット購入時の案内の不親切さだ。今回、入場者の約半数、ざっと見たところ2百人以上が席に座れず、立ち見での観戦となった。主催者側は、当然、そのことを知りながらチケットを売り捌いている。ならば、事前に、整理番号○番台以降は立見になること、もしくは、もっとシンプルに、座席+立見の公演であることを周知しておくべきではなかったのか。公演場所が劇場であること、さらに、「全自由」という紛らわしい表記に惑わされ、てっきり人数分の「自由席」があるものと思い込んだオッチョコチョイは、ぼくひとりではないはずだ。


2点目、これが最も重要な点なのだが、音楽はその内容に合った環境で演奏されなければ、聴衆は決して満足しないということだ。パンクやヘヴィメタルなら、スタンディングのモッシュ状態で汗まみれになって盛り上がるのも良かろう。しかし、旅人のそれは、静謐で、室内楽的な趣を備え、一方で、凡百のパンクスの比ではない暴力性と狂気を孕んでいることは理解しつつも、決して、踊ったり、騒いだり、ダイブしながら聴く類の音楽ではない。4時間のライブを敢行したサービス精神は大いに称賛されるべきだが、満員電車さながらのすし詰めの立見状態では、有難味も半減ではないか。先日のヘロンの高円寺公演でも感じたのだが、フォーク・ミュージックをオールスタンディングのハコで鑑賞させる興行主のセンスには、首を傾げるばかりである。そこには、詰め込めるだけ詰め込んでとにかく稼ぎまっせという守銭奴の腐臭が漂うのみで、音楽への愛なぞ微塵も感じられない。


この夜のライブは、子連れの若いファミリーが多く、あちこちから幼子の泣き声が聞こえた。それは、旅人のハートウォームな歌声と共鳴し、ぼくにはとても素敵な音楽に聴こえた。「6歳未満お断りとか言っている奴はミュージシャン辞めればいいのに。むしろ大人は来なくていい」と冗談まじりに発した旅人のMCに強く共感しつつも、ならば、高齢層やハンディキャップを抱えた客のことも考えなければ、片手落ちであろうと思う。世代や障害を超えて、誰もがユニバーサルに楽しむことのできるライブ環境を整備しなければ、日本のライブ文化は早晩廃れるであろう。いや、むしろ、そのようなものは、不味いドリンクを強制的に飲まされるライブハウスと共に絶滅してしまってよいとさえ思ってしまうのだ。

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