Sat, June 11, 2005

美術が良 【アドルフの画集】 M.メイエス [Hungary+Canada+UK'02]

テーマ:映画 〔欧州:その他〕

 架空の画商マックス・ロスマン(Max Rothman)と画学生時代のアドルフ・ヒトラーを主人公とした作品。去年の暮れに Robert Carlyle 主演のテレビドラマ"Hitler: The Rise of Evil"を観ていて、「なぜにいまヒトラー?」との思いが重なり借りてみる。

 この作品、何より光っていたのは美術の手際で、舞台となる1910・20年代のミュンヘンの街角や、当時の人々の生活様式、風俗の再現に異様なほどの執着を感じた。単に画面に古色を添えるだけでなく、窓ガラスや家具類、各種の生活用具などといった室内インテリアにバウハウスなどの先進的なモードを大いに取り入れており、カメラが丹念にそれらを映し出していく。制作にハンガリーがからんでいるのはロケ地として重用したからだろう。これは意外な掘り出し物だったなと満足して美術スタッフを確認した所、“コックと泥棒、その妻と愛人”などグリナウェイ作品を複数手がけている Ben van Os だった。撮影は Pierre Gill。

 話を戻せば“Max(アドルフの画集)”はハンガリー・カナダ・イギリスの共同制作、"The Rise of Evil"はアメリカCBSの制作で、どちらも2002年に撮られている。2001年9月11日のテロをどう克服するかというところで、“他者”への理解を深めたい、あるいは促したいという心理的機制に、提出された構想案がうまく載ったというところだろう。たとえば同じアメリカの制作会社HBOが2001年秋に発表した“Band of Brothers”などと比べると、ナチに駆動される‘普通の人々’に対する視線の変化が明確に読み取れる。
 また“Max”が架空の画商という媒介者を準備することで、ヒトラーの“そうはならなかったかもしれない”可能性を仄めかすのに対して、"The Rise of Evil"はドキュメンタルな趣きを添えることで“こうにしかなれなかった必然”を納得付けようとする、その方向性の対照はそのままイスラム原理主義勢力に対する欧米の態度の差に通じているようで興味深い。(後者に備わるこの偏狭さはカーライルの好演によってかなり掬われてはいるものの)

 公園の茂みにランプを吊るす小鳥売りや、第一大戦に敗戦した名残で鉄くずの山と化している廃工場の描写など、ディティールまでよく作り込み、撮り切っていた。セリフの端々に、「エルンストは俺よりハンサムか」とか「今度のオープニングにはデュシャンも呼んでるぞ」、「ではクレーなどはいかがでしょう」などと当時の前衛芸術家たちの名がぽんぽん出てくるのが面白い。
 監督はメノ・メイエス、主演はジョン・キューザックとノア・テイラー。メイエスはスピルバーグ作品などの脚本を長く書いてきた人らしい。画商の妻役で翳のある知的な女性を演じたモリー・パーカーなど、脇役のキャスティングも巧い秀作。


"Max" by Menno Meyjes / John Cusack, Noah Taylor, Molly Parker / 109min / Hungary, Canada, UK / 2002 [過去blogより移行] ☆☆
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Sun, June 05, 2005

頑に驀進 【鉄の男】 アンジェイ・ワイダ [Poland'81]

テーマ:映画 〔欧州:その他〕
ironman グダニスクの造船所で起こったストライキを主舞台とする社会派映画。1980年のポーランドで起きた社会運動“連帯”を、造船所で働く一人の青年と、彼の動向を追う一人のベテラン報道記者の視線を通して生々しく描く。青年は68年の学生運動で挫折し、同じく造船所で働き運動家として労働者を束ねた父親を70年の紛争で亡くしている。68年には父の理解を得られず、70年には父を支持しなかった。そのことが彼を一層の激しさへと駆り立ててゆく。他方、本作品においては語り部の役割を担う中年のベテラン報道記者は、スパイ行為を要求する当局と自らの報道者としての責務、生活者としての使命感との間で葛藤し、苦悩する。

 アンジェイ・ワイダの映画というと硬派の政治性ばかりがイメージされがちだけれど、実際に観ると矛盾の権化ともいえる人間という生き物に対してとても甘い視線を持っていることがよく伝わってくる。“鉄の男”でいえば、葛藤の場に置かれてアル中の症状やしたたる脂汗といった醜態を晒しながらも己を通そうとする中年記者や、主人公の青年と行動を共にし、やがて妻となる女性のシークエンスなどにそれがよく出ている。この女性の描かれ方、潔く芯の強い、だが脆い部分も抱えつつ青年への愛を貫こうとする姿もまた政治的に企図されたものと考えるのは邪推だろう。抜きんでて情操豊かたればこそ映画制作の道を選んだが、政治状況の中で己の姿勢を厳しく問われたゆえに政治的であらざるをえず、そのことが叙情に逃げこまず、ドキュメンタリーでは物足りないという彼の制作意識を育んだのだと考えて初めて了解できるほどにこのバランスは類稀な水準で達成されている。

 余談。この作品において何よりも度肝を抜かれたのは、本物のワレサ元大統領がとても気さくな風で登場し、主人公と抱擁を交わしていたことだ。事前に知らなかったのではじめはそっくりさんかと思ったが、壇上で大衆の注目を浴びるシーンでそうではないとわかった。あの鷹揚で深みのある風格は本人にしか出しようがない。また1981年のカンヌ国際映画祭でこの作品はパルムドールを獲得したが、これは映画としての質本位での受賞とは思われない。近年では2004年の“華氏911”、2002年の“戦場のピアニスト”などがそうであったように、ここではカンヌ特有の汎ヨーロッパ主義的とでもいうべき政治性が働いたと見るのが妥当だろう。


"Czlowiek Z Zelaza" (Man of Iron) by Andrzej Wajda / Jerzy Radziwilowicz, Krystyna Janda, Marian Opania / 152min / Poland / 1981  1981年カンヌ国際映画祭パルムドール ☆☆
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Thu, June 02, 2005

貧娘砕心 【ロゼッタ】 ダルデンヌ兄弟 [Belgium+Fr'99]

テーマ:映画 〔欧州:その他〕

 貧しく暗澹たるトレーラーハウス生活を余儀なくされている少女を主人公とした、失意と再生の物語。彼女は仕事探しもはかどらず、母親はアル中ですぐに男を引き込む廃人生活を送っている。けれども他人の施しはどうしても受けたくないとの気丈さから、ふとしたことからできた友人を裏切ってまで路上でのワッフル売りの仕事にありつくのだが……。

 作品は全編 Dogme95 を彷彿とさせる制作手法で撮られている([条文日本語訳はこちら])。ハンディ・カムによるカメリングも抑制が利いており、フォントリアー作品や“ブレア・ウィッチ”のような手法自体に対するあざとさよりは、冒険的な誠実さを強く感じた。とりわけ映画中盤の、遊びをまったく知らずに生きてきた主人公が誘われて仕方なく始めるぎこちないダンスのシーンは良い。10分近い長回しもずばらしく効いている。
 他人の施しを受けないことを気丈さと冒頭に表現したが、実はここで発揮される頑なさは男と寝ることで施しを受けようとする母親への忌避感を根においており、果ては公的な生活保護をもはね除けてしまう強迫神経症的な身振りへとつながってゆく。主人公は作品中で幾度も下腹部を痛がるのだが、この自らの体をも御しきれないやるせなさが、他者との関わりにおけるフラストレーションをことさらにいや増していく。こうしたあたりに生活水準を問わない現代社会全般の精神病理をも潜ませた監督の手腕はなかなかだとおもう。

 主演のエミリー・デュケンヌもやたらにいい。主人公の抱えるありとあらゆる焦燥、葛藤、苦悩、孤独を全身に充たし、張りつめ、表現へと押し出していく。とくに最後のさいご幕切れの一瞬に見せる‘融解’の表情は、もうこれだけでカンヌの主演女優賞を決めたのだろうと思わせるほどに素晴らしい。疲弊と失意のどん底にあって自らの過ちにより損なった友人からの赦しの視線に触れ、心の内で抱えてきたものすべてがわれ知らず変容していくさまを、一瞬戸惑うかのような、そして次の瞬間には解放の予感に満たされていくかのようなとても微細な表情の変化を以て表現しえていた。演技力の問題というより、そのような演技を導きだす、映画制作の手法全面における達成とも言えるラストの一幕。
 あどけない女の子の顔をピンボケぎみに大写りさせたパッケージと作品タイトルから、この映画を癒し系かわいい系ヒューマンドラマだと誤解してレンタルする人はきっと多いはず。ぜんぜんちがう、そうじゃない。


Rosetta” by Jean-Pierre Dardenne, Luc Dardenne [+scr] / Emilie Dequenne (Rosetta), Fabrizio Rongione (Riquet), Anne Yernaux (Mother), Olivier Gourmet (Boss) / 95min / Belgium + France / 1999
1999年カンヌ国際映画祭パルムドール + 主演女優賞 ☆☆☆
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