Sun, June 19, 2005

眠る少女 【天使が見た夢】 E.ゾンカ [Fr'98]

テーマ:映画 〔欧州:フランス〕

 バックパックを片手に友人宅を渡り歩き、根無し草の生活を続ける21歳の娘イザ(by エロディ・ブシェーズ)が、ひょんなことから出会ったもう一人の主人公で同い年のマリー(by ナターシャ・レニエ)の元へ転がり込む。マリーの暮らす家の持ち主は家族ぐるみで事故に遭い、植物状態に陥った少女だけが残されている。

 奔放でいつも元気な可愛らしいイザと、引っ込み思案で美人のマリー、どこまでも対照的な二人の生活を、アニエス・ゴダールのカメラが丁寧に、ときに手持ちカメラで感情のささやかなどよめきをも追いかけるかのように映し出していく。根が内向的で自分からは新しい世界に挑むことのなかったマリーがイザとの出会いにより触発され人生に対し前のめりになってゆくも、遊び人で裕福な若者クリスの毒牙にかかり身を持ち崩していく過程はよく理解できるものであるだけに痛々しい。自由に生きることが己に対しても責任を伴うものであることに自覚的なイザはマリーを諫めるが、マリーはもはや聞く耳を持とうとせず、彼女本人にとってはもうこれしかないという陰惨な結末へとひた走ってゆく。

 いまは植物状態にある少女がかつて付けていた日記帳をみつけたイザは、治療室の彼女の元へ幾度となく通いだす。物語の進行に影響を受けることなく眠り続ける少女というモチーフは、横たわる彼女の寝姿が逆に物語全体へと深い余韻を与えていくという点で、アドモルバルの“トーク・トゥ・ハー”や村上春樹の“アフター・ダーク”を想い起させる。そのいずれもが、眠り続ける少女の容態の変化によって物語のラストを象徴的に描いているという点でも通底するものがある。眠る無意識の存在を背景に置くことで覚醒した意識のゆらぎを対象化してみせる手法にはある種神話的な趣きすら感じるが、その実もっとも見開いた瞳こそがもっとも盲目的でありうる今日にあっては、それこそが事象を眼差す真に現代的な所作たりうるのかもしれない。


"La vie rêvée des anges" (The Dreamlife of Angels) by Erick Zonca / Élodie Bouchez, Natacha Régnier, Grégoire Colin / Agnes Godard [Cinematographer] / 113min / France / 1998
1998年カンヌ国際映画祭最優秀主演女優賞W受賞 ☆☆
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Thu, June 16, 2005

抗いて遠 【レセ・パセ 自由への通行許可証】 ベルトラン・タヴェルニエ [Fr'02]

テーマ:映画 〔欧州:フランス〕

 1942年、ナチス占領下のパリが舞台。ナチスのプロパガンダを担っていたドイツ資本の映画制作会社コンティナンタルに助監督として勤めるジャン=ドヴェーヴル(byジャック・ガンブラン)と、同社の誘いを拒んで放蕩生活を続ける脚本家ジャン・オーランシュ(byドゥニ・ポダリデス)の、二人のジャンが主人公となる。映画は実在のジャン=ドヴェーヴル本人の手記に基づいており、概ね全編が実話に基づいている。

 タイトルの“レセ・パセ(Laissez-Passer)”は一般名詞で「通行許可証」の意を一義とするが、主人公らが行き交う街の路上のシーンで大道芸人の若い女が歌うシャンソン“時の過ぎゆくままに(原題:Laissez Passer)”の歌詞中には、幾度も同文字同音の動詞形'laissez passer(放任する,通す)'が登場する。言うならば、‘川の流れるように’である。
 主人公の一人ジャン=ドヴェーヴルは、独資本の会社から供与された通行許可証を利用して対独レジスタンス活動を支援するのだが、半ば‘なりゆき’で対独協力者ともとられかねない境遇に身を置くことになる顛末や、ちょっと自転車で自宅を出たつもりがそのままイギリスに飛行機で連れて行かれ落下傘で帰還する羽目になるエピソードなどに、この作品タイトルのもつ重層性が効いてくる。もう一人の主人公ジャン・オーランシュは、原稿や資料の詰まったトランクを抱えて幾人もの女の部屋を‘なりゆき’で渡り歩くことになる。決して二枚目とはいえないこちらのジャンの純情さに由来する奮闘ぶりは自然と笑いを誘うが、気弱で失敗続きでいながらも己の書く姿勢を頑なに守り抜く姿もまた、よくみれば同質の純情さに貫かれている。

 ナチスの影響下にあるコンティナンタル社は、必ずしもプロパガンダ映画のみを撮ることを強制しなかった。それゆえ今日からみてもこの時期の良質なフランス映画の多くは同社により制作されており、作品中にも“悪魔の手”や“セシルは死んだ”などの実在映画の撮影シーンがとても綿密に再現されている。監督のタヴェルニエがこうした撮影シーンの演出に執着を見せた理由の一つには、ジャン=ドヴェーヴルのように戦後に名を残した映画人だけでなく、ナチスに手を貸したと非難されがちだった多くの無名の映画人たちの汚名払拭の意図があったのではないか。というのもこの作品では誰ひとり、コンティナンタル社の経営者グレフェン(byクリスチャン・ベルケル)ですらも、決してただの“悪役”としては描かれていないのだ。
 ジャン・オーランシュを取り巻く女たちを演じる女優陣の競演も見応え充分。作品後半、ジャン=ドヴェーヴルは幾度も数百キロの道のりを自転車で走り通すことになるのだが、これらのシークエンスで映し出される田園風景の美は時々刻々とその姿を変容させてほんとうに圧倒される。秀作。


"Laissez-Passer" (Safe Conduct) by Bertrand Tavernier [+scr] / Jacques Gamblin, Denis Podalydes, Marie Desgranges, Marie Gillain, Christian Berkel / Jean Cosmos [Scr] / Jean Devaivre [Book Author] / Antoine Duhamel [music] / 170min / France, Germany, Spain / 2002 2002年ベルリン国際映画祭銀熊賞(男優賞,音楽賞) ☆☆☆
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Sun, June 12, 2005

猫笑猫歩 【高みにのぼる猫】 クリス・マルケル [Fr'04]

テーマ:映画 〔欧州:フランス〕
chatp 2001年9月11日直後からパリの街角のそこかしこに現れ出した“笑う猫”の落書きを追いかけるドキュメンタリー、という“趣向”の映画。反WTOデモや極右の台頭、W杯におけるサッカー仏代表の惨敗、米英のイラク侵攻といったその後二年間に起こる様々な社会事象がこの作品では、“笑う猫”の図様を執拗に追いかけていく展開の背景とされ、分析されることで異化されていく。夢のあるシニカルとでもいう感じ。
 世事を映し出す場面が次々に流れていくシークエンスで使われる音楽に、イスラムのバグパイプやチベット仏教の声明(しょうみょう)が混じったりする点は興味深い。演出効果に幅を持たせる、コスモポリタンなムードを醸成するなどといった狙いが読み取れるが、昨今のハリウッド映画におけるオリエンタリズム的な使用法にそれはダブる。自覚的であるとすれば風刺の色味もまた変わるが、焦点がブレてくるだけにそうとも思えないところもある。

 作品の後半に入ると、“笑う猫”の図様が実は非常に古い由来を持つらしいことが次第に明らかにされていく。ファン・アイクの<アルノルフィニ夫妻の肖像>のよく知られた中央部の丸鏡にそれは映り込み、ゴッホの<画家のアトリエ>や中世の聖母子図はもとより、ラスコーの洞窟壁画においてすらはっきりと描き込まれているではないか、という具合。
 この作品でもう一つ興味深かったのは、冒頭に上げたデモや選挙、W杯やイラク戦争と同列の“ネタ”として、クルド労働者党を率いたオジャラン氏(Abdullah Ocalan)逮捕を巡る問題が挙げられていたことだ。日本のメディアでは考えられない事態だが、考えてみればたしかにこの問題は大きな国際問題として取り上げるべき要素が強い。自国と自身の、外国人の人権に対する意識の低さを見せ付けられたようで束の間ショックを覚えた。

 以下、日仏会館HPより作品説明文を転載(現在同HP上では削除済):
 パリの屋根の上で笑う猫の絵が頻繁に現れたことは何を示しているのだろうか?2001年9月11日のテロ事件直後、パリの屋根の上に猫たちが現れた。クリス・マルケルは、その「笑う猫たち」の落書きを追いながら、過去2年間の世界の事件について再発見し、分析する風変わりな日記風の作品を撮った。「この作品をMr.猫と、彼のように、新しい文化を生み出しているすべての猫たちに捧げる」(クリス・マルケル)。
 猫としては、なかなか勇気づけられる発言ではないか。


"Chats perchés" by Chris Marker [+scr] / 59min / France / 2004 東京日仏会館 エスパス・イマージュ 2005/1/23・29上映 [過去blogより移行] ☆☆
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Sat, June 04, 2005

美々爛々 【8人の女たち】 フランソワ・オゾン [Fr'02]

テーマ:映画 〔欧州:フランス〕

 8人の女による密室劇。こじんまりとした作品を、大物女優たちと気鋭の監督が楽しんで作ったという感じ。
 タイトルロールには8種の花が順繰りに大写しにされていき、それぞれの花一つ一つの映像に出演する女優の名前が一人ずつ付されていく。個々の花は個々の登場人物の性格や色合いを象徴し、そのようなタイトルロールの演出は全体としてこれから始まる本編のデコラティヴな風合いを予感させる。
 
 確信犯的に意図されたケレン味とも言えるだろう、その相当にキッチュなゴージャス感は、フーダニットっぽいミステリアス仕立てのプロットから作りもの感の甚だしいセットに小道具、過剰に差異化された衣装、パロディやオマージュに満ちた女優の仕草や踊りの振付といったあらゆる要素に貫一され、徹底されている。
 全体的にこの作品は、1950年代の仏・米映画へのオマージュを下地に置くが、それは女優個人の容貌や演技からにじみ出てくる“女の美しさ”が、使用された撮影編集技術や資本力に優先して映画の質を左右した最後の時代ともいえる。それだけに、カトリーヌ・ドヌーヴとファニー・アルダンによる対決シーンには可笑しさの向こうにほのかな哀切をも感じてしまう。個人的にはエマニュエル・ベアールがやはり一押し。ルドワイヤンのヴァイタリティーも彼女の前ではまだまだ薄い。

 いずれ劣らぬ大女優たちとはいえ、他の女優の歌うシーンでカトリーヌ・ドヌーヴにバックダンサーを演じさせる一例によっても、この映画のコミカルなゴージャス感が伝わるだろうか。気分が沈んでいるときに観たためか、そのノリを素直に楽しめなかったのが残念。大切な人と一緒に観てください。


8 Femmes”(8 Women) by Francois Ozon / Catherine Deneuve, Isabelle Huppert, Emmanuelle Beart, Fanny Ardant, Virginie Ledoyen, Danielle Darrieux, Ludivine Sagnier, Firmine Richard / 103min / France / 2002 ☆☆ 2002年ベルリン国際映画祭銀熊賞(芸術貢献賞:出演8名に対して)
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Fri, June 03, 2005

水潜心理 【オルド】 ロランス・フェレイラ=バルボサ [Fr'04]

テーマ:映画 〔欧州:フランス〕
ordo ロランス・フェレイラ=バルボサという女性監督の作品は、まったくの初見。出演者名の列のなかに、マリー・ジョゼ・クローズ(Marie-Josée Croze)の文字を見つけた点が決定打となり、足を運んだ。
 ストーリーは、主人公である30代半ばの海軍下士官オルドが、若い頃に数ヶ月間だけ結婚していたことのある年下の女が映画スターになっていることを知り会いに行くが、実際に目の前にした女とかつての結婚相手との間に感じる距離を受け入れることが出来ず、種々の葛藤を重ねたのちにいくらかの和解を経るも結局は、彼女の元を去るという展開。オルドの所属が潜水艦であることは、後半で彼女の潜在意識に迫っていくことと呼応している。

 「アメリカのミステリー作家による同名小説を脚色し、サスペンスというジャンル物への挑戦」したというパンフ解説や、「現代の都会に生きる女性たちを繊細に描いて」きたらしい監督の来歴を併せて考えれば、このストーリーで監督が表現したかったことは容易に察しがつくとも言えるが、それにしてもこの作品で軸となる“映画スター”の抱える内面世界の貧困はあまりに空想的というか、少々漫画的ですらある。ここで問題なのは、底無しの孤独を表現するために‘鉄面皮の裏に隠された熊のぬいぐるみ’のようなモチーフを臆面もなく連続的に持ち出すあたりで、どうも首を傾げざるをえない。潜水艦のメタファーにしても、少々ベタベタすぎる気がする。
 漫画的であることが即悪いことであるなどと言うつもりは毛頭ないけれど、漫画的な役柄を生の役者に演じさせるとき否みがたく備わってしまういびつさを回避しえていないことに由来するのだろうこのどこかズレた感覚は、初期の候孝賢作品にも似たところがある。新進気鋭の斬新さと未生未熟のぎこちなさが、窮屈そうに同居を強いられている感じ。

 マリー・ジョゼ・クローズは、何だかもう一つ鳴かず飛ばずのうちに老け込んでしまったという観が強い。健全そのものの太めの体は以前のままだが、重要で花のある役柄にもかかわらず、“MAELSTROM(渦)”[2000]などで見せた輝きには遠く及ばない。“みなさん、さようなら”[2003]ではジャンキー娘、“CODE46”[2002]では砂漠の浮浪者のちょい役を演じていたように思うが、見間違いかもしれない。希望的にはもう少し、脚光を浴びても良い人であるように思うのだけれど。
 冒頭で主人公オルドの職場として映される潜水艦内の澱んだ雰囲気や、再三登場するプール水面の透明感のある照り返しなどが印象に残る。“女優役”の周囲を彩る、それぞれに愉快で奇々怪々だが品もある登場人物たちの役柄も良い。なかでも召使のベトナム人を演じた役者は光っていた。


“Ordo” by Laurence Ferreira-Barbosa / Marie-Josée Croze / France / 2004 東京日仏会館 エスパス・イマージュ 2005/1/23・29上映 [過去blogより移行] ☆
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