Tue, May 31, 2005

詩と牛車 【車輪】 M.イスラム [Bangladesh'93]

テーマ:映画 〔その他海外〕
 久々に南アジア圏の映画を観た。牛車に乗った二人の男がふとしたことで見知らぬ男の遺体を運ぶはめになり、行く先々で埋葬を拒否される。この映画の話の筋は概ねこれだけだ。
 映画のパンフにはブニュエル的不条理劇との類縁性、などとも書き付けられている。もちろんこのような衒学的な言い方も悪くはないが、もう少しくだけて、ヴェンダース流ロードムーヴィの趣きに不条理劇的要素を加え、ベンガルの田園風景に載せてみました、と言ったとしても、この作品の本質を捉えた言葉からはほど遠い。何かに引き付けて語るなら、むしろ持ち出すべきはタゴールの詩であろう。不条理劇の線で観るなら、ラストシーンの慟哭で意識に上るのは、前近代性の醸す野暮ったさばかりということになってしまう。それではあまり、鑑賞法として豊かでない。

 もっともこうした非営利の会場で資料的な価値も込みで上映される作品の場合、それが芸術作品であれ娯楽作品であれ金と人数をかけてよく作り込まれた映画に馴れたこの目には、どのような見方を採ろうともいささか冗長に映ってしまうケースは少なくない。
 今回などはまさにそれで、こういうときは同行の友人がしていたように舟を漕ぎ出すのも良い手だが、こういうときだからこそ沸き起こる想念の行方に身を任せる良い機会でもあるわけで、スクリーンに映る風景や植物や、人々の衣服や道具、録音に混じった様々な音のかけらに注意を向けているうちに、気がつけばこのベンガルの土地を旅していた頃を思い起こしていた。

 インドの西ベンガル州を併せるとこの土地には都合三度滞在しているにも関わらず、映画を観ていてベンガル語の響きがずいぶんと縁遠いものに聞こえてくる。この土地の、とりわけ農村に住む人はみな、ほんとうに詩的な眼差しと身振りをその底に湛えていた。それなりにこなれていたはずのフレーズのいくつかも、すでに忘れてしまった自分を少し、寂しく感じる。


"車輪" (The Wheel) by Morshedul Islam / 65min / Bangladesh / 1993 東京国立近代美術館フィルムセンター 2004/5/15/・6/16上映 [過去blogより移行] ☆
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