Wed, June 22, 2005

静謐と情 【チョコレート】 M.フォースター [US'01]

テーマ:映画 〔北米:インディーズ〕
monstersball0.jpg 静かで良い映画。同じ‘静けさ’でも、何も起きずに終わる平穏な作品よりも、この映画のように周囲に親しい人の死を孕み傷つきながらもタガを外すことなくラストに至る作品の方が、その静謐の度合いに凄みが出る。だから良い、という単純な話にはならないけれど、どちらかといえばこういう作品があたしは好きだ、とは言える。
 人種差別志向の強いある白人の元看守(by ビリー・ボブ・ソーントン)が息子の悲劇に打ちのめされ、やがて死刑囚人の妻だった若い黒人女性(by ハル・ベリー)に惹かれていく。二人は荒々しく体を重ねるようになるが、女は相手が夫の死刑を執行した人間だと知らない、というストーリー展開。

 ハル・ベリーという女優はおそらく初見。かなりいい。こういうオーラを発するような新人は久々だなと思ってネットで少し検索してみたら、アクションやキッズ物を中心に、メジャー系のハリウッド映画にもけっこう出ていた。これだけの表現力があるのだから白人でさえあれば、とも考えてしまうがなかなかどうして、有色人種の溌剌美人系がのし上がるにはこれしかないというキャリアを重ねてきたようで、この作品でアカデミー主演女優賞、めでたいかぎり。むろん白人以外の女優としては初めてだろう。アカデミーで誰がどんな賞を獲ったかなんてこと映画の質本位にみればまず無意味だけれども、彼女が獲ったことは2001年末の米社会的には多分意味があったはず。

 また“チョコレート”という邦題もとても良い。英語がかなりの普及している今日でも、原題をそのままカタカナにすると別のニュアンスを持ってしまう場合にはやはり、こういうところで配給会社のセンスが問われてくる。語自体の文字通り甘い印象もさることながら、原題の"Monster's Ball"(怪物の舞踏会)が作品の文脈的に持っている不気味さも、本編中で女の連れ子が見せるチョコレートへの異様な執着によりうまく引き継ぎえていると思う。もちろん肌の色への艶やかな見立ての意図もあるだろう。ただこの作品の日本公開時には、ほぼ同時期に公開されたジュリエット・ビノッシュ&ジョニー・デップ主演作“ショコラ”とのあいだに若干の混乱を生んだのではないかとも思うけど、それはそれであとのお祭り。
 スイス出身の新鋭マーク・フォースター監督は、ピーター・パンを劇中劇におく次作“ネバーランド”[2004]で、何の因果かそのジョニー・デップと組んでいる。今年3月にアテネの劇場で観たが、こちらも‘静かな’良作だった。


"Monster's Ball" by Marc Forster / Billy Bob Thornton, Halle Berry, Heath Ledger / 111min / USA / 2001
2002年ベルリン国際映画祭銀熊賞(女優賞) ☆☆
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Tue, June 21, 2005

銃の貧困 【ボーリング・フォー・コロンバイン】 マイケル・ムーア [US'02]

テーマ:映画 〔北米:インディーズ〕

 米大統領選などでのこの人のメディアへの過剰な露出ぶりはよく目にしていたし、こういう人がこういう文脈で活躍できるのはアメリカ文化の美点の一つでもあるのだろうが、こうした形で社会問題が消費されてしまう危うさもそこにはきっとある、というような見方をしていたからこそなのだろう。昨年のマイケル・ムーアのカンヌ最高賞受賞には驚いた。
 それで遅ればせながら実際に観て考えた。作品に力はある。コロンバインでの銃乱射事件、近隣地区での幼児による射殺事件といった個別の事象から、銃器製造会社から軍需産業へと話を集約、展開させていき、その背景にある人種差別、貧困、福祉といった社会問題に切り込んでいくプロット構成は見事だし、編集も巧み、社会的弱者の立場に視点を定めた非常に訴求力のある作品に仕上がっている。

 この時代のこの国だからこそ、こうした作品がしっかりと撮られ評価されることの意義は大きい。だが、作品の質本位でよりつぶさに観てゆくならどうだろう。少なくとも、表現ジャンルとして成立している‘ドキュメンタリーフィルム’として考えたとき、“ボーリング・フォー・コロンバイン”が達成している水準は相対的にみて決して抜群とは言えない、とあたしは思う。
 前にドキュメンタリー映像作家の森達也が全国紙に載せていたマイケル・ムーア批判はこれだったのかと、いまDVDを観終えて初めて納得できたものがある。たとえば個人的にこれまで幾度か足を向けてきたドキュメンタリー映画祭の東京での上映会に、仮にこの作品が出品されていたらどうかと想像してみる。決してベストの評価を集めるもののようには思えない。構成、演出、メッセージの迫真性、いずれの要素においても他から際立って見事だとも巧いとも感じないだろうと思う。衝撃度はむしろ小さい。

 とはいえ兵器工場への取材やマリリン・マンソンへのインタヴューなど絵になる箇所を多く散りばめ、銃乱射事件の社会的背景を探っていくサスペンス調の筋立てや個別の事象から一気に問題の核心へと突き抜けていくエンターテイメント的な手際の良さには感心した。とりわけ全米ライフル協会会長チャールトン・ヘストンの豪邸に押しかけるシークエンスは、取材の時間帯が及ぼす背景効果や交わす言葉の間合いなどの選択などがとてもよく計算されており、この作品のクライマックスに相応しい仕上がりとなっている。
 ちなみに彼がカンヌでパルムドール(カンヌ映画祭における最高賞)を獲得したのは2004年公開の次作“華氏911”においてだが、実はこの作品“ボーリング・~”もパルムドールこそ逃したものの2002年のカンヌにきちんとノミネートされており、とってつけたような55周年記念特別賞なるものに輝いている。2004年の受賞時は審査委員長を務めたタランティーノの嗜好がやたらに喧伝されもしたが、予兆はすでにこのとき、あったのだ。


"Bowling For Columbine" by Michael Moore [+scr] / Michael Moore, Charlton Heston, Matt Stone, Marilyn Manson [participant] / George W. Bush [archival appearance] / 123min / USA / 2002 [過去blogより移行]
2002年カンヌ国際映画祭55周年記念特別賞 ☆☆
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Tue, June 07, 2005

異苦同温 【ロスト・イン・トランスレーション】 S.コッポラ [US+日本'03] 

テーマ:映画 〔北米:インディーズ〕
lostintrans ソフィア・コッポラの映画はどこか捉えどころに欠けてみえる。その捉えどころのなさはときに、ガーリッシュとか癒し系などという、いかにも無粋な言葉たちにより彼女の作品が掬い上げられてしまう原因になっているようにも思うのだけど、あたしが彼女の映画を好む理由もまたしかとそこにある。

 この作品はタイトルの示す通り、周囲の人や環境と主人公たちとの文化の差異や距離の開きが引き起こす内面の葛藤に焦点が当てられているのだけれど、そこで扱われているのが飽くまで“communication gap”であって、“disscommunication”ではないところはこの映画のミソになっている。
 沢木耕太郎が劇場での公開時前後に朝日新聞で、この映画を「日本人への視線にいやな感じを持った」としてどちらかといえば酷評していて、それはこの映画への一般的な評価においておそらく一方の側を代表するものではないかと思うのだけど、おそらくこのミソの部分を彼(と彼ら)は取り違えて観てしまったんじゃなかろうか。

 孤独感にまみれた主人公の視点を通して映し出される新宿や銀座の夜景のもつ温度はたとえばウィンターボトムのそれを想起させる巧さがあるし、ここで描かれる日本人たちの醸す可笑しさに感じるものはハリウッド映画一般にありがちな無意識的蔑視のそれではなく、むしろピーター・チャンによる傑作映画“甜蜜蜜”(邦題『ラヴソング』, 香港, 1996)に描き出される、ニューヨークの‘オラが天下’的な白人たちを映しだす眼差しの優しさに近い。
 そこにしっかりと温度や優しさが感じられるのはたぶん、それらギャップの存在などほんとうはどうでもよいことで、表現の質を決める要素になどなりえないという制作者の思惟が作品の基底に流れているからで、この映画ではラストのワンシーンがそれまでのストーリー展開すべてに確とした輪郭を与える鍵として仕掛けられているのだけれど、捉えどころもないままに、その仕掛けのみがすんなりと功を奏してしまうように全体を配するソフィア・コッポラの技量はやはり、しばらく目が話離せない。


Lost in Translation” by Sofia Coppola / Bill Murray, Scarlett Johansson / USA+日本 / 2003 シネマライズ 2004年セザール賞外国語映画賞 [過去blogより移行] ☆☆
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Wed, June 01, 2005

滴る情熱 【ポロック 2人だけのアトリエ】 エド・ハリス [US'00]

テーマ:映画 〔北米:インディーズ〕

 ニューヨーク抽象表現主義をリードした画家ジャクソン・ポロックの生涯を描いた伝記映画。監督・主演・脚本を務めたエド・ハリスのこの映画にかけた執念の濃度が凄まじい。
 ドリッピング技法を完璧ともいえる水準で自らマスターしていることや、各種の時代考証、作品考証の徹底ぶりといった表層的なことから、ふとした折に見せる表情・演技に現れる確かな役作りの根拠、配役やプロットの細部にひそむ透徹した一貫性といった作品全編におよぶ構成のあらゆる要素の一つ一つに、映画制作に関わった人たちの矜持が感じられる。

 1940-60年代の抽象表現主義黄金期のニューヨークの大手ギャラリーの様子なども楽しめる。背景に映り込む作品群は基本的にすべて模作だが、カルダーなど本物を借り出している部分もあるようだ。映画美術に携わる風景画家たちの手になるという大量のポロックのドリッピング作品のレプリカ(作品数で200はあった)は、見慣れた人間にはポロック本人のものではないとすぐに判断できるものがほとんどだが、それぞれに味があり興味深い。なかでも1950年11月28日のBetty Parsons Galleryでの個展のシーンで大写しになる“ラベンダー・ミスト”の模作は抜群の水準を行っていた。

 この時期の欧米現代美術の大パトロンとしてつとに著名なペギー・グッケンハイム役に実生活ではエド・ハリスの妻であるエミー・マディガン、ポロックの最期の現場に居合わせた若い愛人役にショーン・コネリーの娘ジェニファー・コネリー、ポロックの友人で良きライバルでもあったデ・クーニング役に“トップガン”,“ヒート”などのヴァル・キルマーなど、脇役もそれぞれに特徴があり良かった。作品中には他に、ポロックをスターダムに押し上げたのみならず抽象表現主義の潮流自体の大立役者でもある批評家クレメント・グリンバーグや、一つ下の世代の気鋭の批評家ハロルド・ローゼンバーグなども登場する。彼らのセリフは概ね実際の発言/記述に即しており、その意味でもとても楽しめた。
 死に赴かんとするキワの心情を仰向する一瞬に表現したエド・ハリスのラストは、彼の足跡を越えて想起され続けるべき壮絶さを孕んでいる。


"Pollock" by Ed Harris [+scr] / Ed Harris, Marcia Gay Harden, Amy Madigan, Jennifer Connelly, Jeffrey Tambor, Val Kilmer / 122min / USA / 2000 ☆☆☆
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