黄色くて、まるいヒヨコが、赤い鞄を持っている。



「はい、あげる。」

ぬくまちくんが、突然手渡してきたもの。
ふかふかした、手のひらに収まるぬいぐるみ。
どうしたの?って聞いたら、拾ったの。って。
もう一度、どうしたの?って聞いたら、なんだか似てるから。って。



ぬくまちくんは、道に落ちてるものをほいほい拾う。
それは犬とか猫とかの話じゃなくて、
今回みたいな小さなぬいぐるみとか、ストラップとか、
変なチラシとか、はぐれた手袋とか。
普通なら、汚くて触らないような落し物をほいほい拾っては、
使えそうなら自分のものにしてしまう。


幸いというかなんというか、
わたしは、落し物に対する嫌悪感も、正義感も無かったので、
素直に黄色いふかふかを手に収めた。


「あたしに似てるかなあ?」
黒くて小さい点々の瞳に、ぽってりした柿色の唇(というかクチバシ)。
自覚するのも悲しいけれど、こんな愛らしさが自分にあるとは思えない。
けど、巡らせた考えが、“ぬくまちくんにはこう見えているのかも”という点に到ると、
疑問はすぐに動揺に変わった。

一応は恋人同士という枠に収められてるわたしたちだけれど、
いわゆる、あまい時間、なんて体験したことが無かったから、
独りよがりとはいえ、本人無意識のあまい言葉、にしばらく顔や足がふわふわして、
自分のまわりにだけ、薄桃色の空気が見えた、気がした。



――のだが。



「この赤い鞄を持ってるあたり、すごく君っぽいよね。」


そこはさすがのぬくまちくん。
そういえば以前、唐突に「君は食べ物で喩えるとカルボナーラっぽい」と言われたことを思い出して、
何度問うても、「理由は特に無くて」とか「なんだかしっくりくる」とか
その真意が一切読めない返答だったことも同時に思い出した。
そうそう、その時、なんとかぬくまちくんに対抗してやろうとして、
ぬくまちくんも食べ物に喩えてやったんだった。
真っ先に思い浮かんだのは、ゆでたまご。
ゆでたまご切りで、スライスされたゆでたまご。
「どうして?」って聞かれても、ぷりぷりの白味と、ぱさぱさの黄味のコントラストがなんだか似合う、なんて答えてやった。

ほんとは、いじわるしてやろうと思ったんだけれど、
ぬくまちくんは「ふーん、そうか」しか言わなくて、
わたし自身も本当に、白と黄色の関係がなんだか彼にとてもよく似合うと思ったのだ、そのとき。
理由は、特に無くて。



「大事にしてください。」


わたしは、頭の中でカルボナーラとゆでたまごと黄色いヒヨコを並べてみた。
うん、なんだか似合ってる。

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