ある脳外科医のぼやき

脳や脳外科にまつわる話や、内側から見た日本の医療の現状をぼやきます。独断と偏見に満ちているかもしれませんが、病院に通っている人、これから医療の世界に入る人、ここに書いてある知識が多少なりと参考になればと思います。
*旧題「ある脳外科医のダークなぼやき」


テーマ:

首都圏はすごい雪ですね!

交通に影響が出たり怪我人が増えるのは問題ですが、

雪自体は新鮮に感じてしまいます。


さて、


今回は血液脳関門について書きます。


血液脳関門は英語ではblood brain barrierと書くので、

BBBと略されます。


19世紀にエールリッヒというドイツ人がマウスの血管に色素を注入したときに、

全身の組織は色素で染まるのにかかわらず、脳だけは染まらなかったことから、


脳と血管の間になにかバリアーがあるだろうと考えたことが発見の由来です。


この血液脳関門は脳の中にある血管の内側を覆う血管内皮細胞によって構成されていて、

全長600キロメートルもある脳内の血管の壁を覆いつくしているのです。


血液脳関門は脳にとって有害な物質をブロックするなど、

いわば血管から脳へと入る物質の関所のような役目を持っています。


この血液脳関門を通過することが出来るのは、

分子量500以下のものや、この関門に備わっているゲートをもともと通過できる物質、

脂溶性で細胞膜を通過できる物質に限られます。


それ以外の物質は血管から脳へと移ることが出来ないのです。


逆に言えば、

脳に作用するような化学物質、薬などはどれもこの血液脳関門を通ることのできる物質です。


たとえば、睡眠薬や向精神薬などはどれも分子量が小さいものですし、

パーキンソン病の薬のようにゲートを通過するものもあります。


お酒に含まれるアルコールや麻薬の類はどれも脂溶性なので、

脳に染み込むことができます。


この血液脳関門はその仕組みから、

正常でないと病気の原因にもなってしまう一方、血液脳関門のせいで治療が困難にもなります。


血液脳関門の故障が一つの原因と考えられている病気がいくつかあります。


それは、

アルツハイマー病や多発性硬化症、パーキンソン病など、

現代の医療でも治すことのできない難病です。


特にアルツハイマーについては、

アルツハイマー病の原因と考えられているアミロイドβという物質を血流から脳に誘導するRAGEと呼ばれているタンパク質が血液脳関門にあることが知られています。


このRAGEの邪魔をすればアルツハイマーの治療薬になるのではないか?


と言われています。


てんかんなどもそもそも血液脳関門の異常が原因ではないかと言われているので驚きです。


逆に血液脳関門が障害となってしまうのは、

薬物治療においてです。


血液脳関門を通過して脳に届くのは条件のそろった一部の薬剤だけなので、

たとえば腫瘍など体の他の部分であれば抗がん剤で治療できるものも、脳の場合は薬が届かないことがあるのです。


脳にできた腫瘍に対して化学療法がしにくいのは血液脳関門があるからなのです。


たとえば悪性リンパ腫という病気があります。

リンパ腫や白血病など、血液系の腫瘍は一般的には化学療法が良く効く腫瘍ですので、

体にできた場合には化学療法で腫瘍を殺すことが出来ます。


しかし脳に出来る中枢原発の悪性リンパ腫の場合は血液脳関門のせいで治療が難しくなります。


メソトレキサートという薬が治療に使う抗がん剤ですが、

脳の悪性リンパ腫を治療する場合にはこれを大量投与してなんとか脳の病変にまで届けようという治療法が行われるのです。


浸透圧の高い溶液を注入すると一時的に血液脳関門のバリアを弱めることの出来るので、

マンニトールなどの薬剤を脳の血管に打ち込むことで抗がん剤がバリアを通過できるようにする治療法も一部では行われているのですが、


一般的に普及してはいません。


治療のために脳までカテーテルを通す必要があるのと、

そもそも日本ではこの治療法が保険適応とされていないからです。


他にも、

様々な方法で薬剤を通過させようとする研究が進んでいます。


今後、血液脳関門をコントロールできるようになれば、

現時点で治療困難と考えられてきた脳の様々な病気が治療可能となるでしょう。





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今回は手術中の病理検査に関するご質問にお答えいたします。


「術中の病理検査を出してから結果が出るまでの間、

外科医は何をしているのですか?」


というご質問でした。


このご質問に答える前にまずは術中迅速病理とはなにかを書かねばなりません。


おそらく、あまり馴染みのない言葉なのではないでしょうか。


この術中の迅速病理検査は主に腫瘍の手術を受ける方にとっては非常に重要な物です。


というのも、

腫瘍の手術が行われる時点ではっきり診断がついているっことはむしろ稀だからです。


術前にあらかじめ生検が行われていて腫瘍が採取されている場合をのぞき、

ほとんどのケースは画像や腫瘍マーカーなど他の検査結果から腫瘍の種類を類推しているに過ぎません。


つまり、

おおよそこの腫瘍だろうという予測はついていますが、


はっきりとした診断がつくのは手術で腫瘍の実物を採取した後なのです。


そのため、

手術の作戦についても診断がつくまでは決めきれません。


たとえば腫瘍が良性で周囲に浸潤しないものであれば腫瘍を取ればOKですが、

腫瘍が悪性の場合はたとえば周囲のリンパ節などの組織も摘出しなければいけません。


悪性度が強く、手術よりもむしろ化学療法がメインとなるような腫瘍では、

そういった診断がついた時点で摘出を中止することもあります。


その術中迅速診断では手術中に採取された腫瘍の一部を凍らせてプレパラートを作り、

病理医が検鏡を行います。


そして手術中に腫瘍を診断することで、その後の手術の方針を決めるのです。


手術中に検体を処理することになるので、

当然十分な時間はありません。なるべく早く結果を出すことが求められます。


凍らせて即席でプレパラートを作らざるを得ないので、

どうしても診断の精度は下がるという問題はあります。


その中である程度診断の方向をつけ、手術方針を決めるために行われるのが術中迅速病理なのです。


迅速病理のプレパラートで判断できないような詳細については、

その後により丁寧に作られた永久標本の検体で様々な染色を追加するなどして検討することになります。


手術室ではこの迅速病理の結果が出るまで何をしているかというと、

だいたい腫瘍のアテがついていて、診断によって手術方針がそれほど変わらない場合や、

腫瘍自体が摘出途中の場合は手術を続けます。


腫瘍自体はほぼ取りきってしまっていて、その周りまで取るかどうかを病理の結果次第としている時は、

手を止めて待機していることもあります。


止血などその時点でできることをしながら病理の結果を待っているということもあるのです。


ご質問の答えはだいたいこんな所になります。


また、


多くの場合はまず術前の予想通りの診断が術中迅速病理で下されることが多いのですが、

時には想定外の結果が返ってくることもあります。


たとえば脳外科でいえば、

ある程度画像上良性の脳腫瘍だと思っていたものがとても悪性度の強いものであったり、


体の思わぬ所から転移していた腫瘍であることもあります。


いずれにしても迅速病理は極めて重要で、

それによって手術の方針がガラッとその時点で変わってしまうようなこともあるのです。


しかし、

この迅速病理も絶対ではありません。


病理学的に分かり易い特徴的な腫瘍の場合にはまず間違うことはないのですが、

判断の難しいような腫瘍では術中迅速からその後の永久標本の検討で診断が覆ることもあります。


やはり術中迅速は即席で作っているプレパラートなので、

難しい症例を正確に診断するのはいかに熟練の病理医でも無理があるのです。


よって、

外科医が最終的な腫瘍の診断を患者に告げるのは永久標本の結果が出てからになります。


これが出るのはだいたいの施設で術後1-2週間後です。


難しい症例の場合、手術が終わった時点で迅速病理の結果から、

「おそらく○○という腫瘍ですが、」ということは言えるのですが、


最終的な診断は永久標本の結果を見ないと断定できないのです。



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年末から少しずつ、いただいたご質問のお答えしています。


今回は

「手術時間っていつからいつまでのことですか? 実際に手術室に向かってから帰ってくるまでの時間とずいぶん差があったのですが」


というご質問にお答えいたします。


手術時間とはずばり、

皮膚切開を開始してから、手術の最後に皮膚を縫い終わるまでの時間です。


メスが入る瞬間から、最後の縫合が終わるまでの時間と考えてください。


そのため、

手術時間は実際に手術室に向かってから帰ってくるまでの時間とは大きく異なります。


たとえば、こんなことがよくあります。


「予定手術時間は3時間です」と説明し、


実際に手術の日は朝9時に手術室に向かった患者さんが、

病棟に帰ってきたのは午後2時頃だったとしましょう。


そうすると、


「3時間という説明でしたけど、こんなに5時間もかかったということは何か問題があったのでしょうか?」


というようにご家族に心配そうに聞かれることがあります。


しかし、

実際に手術時間は予定通り3時間で、特になんの問題もなく順調に手術は終了しているのです。


2時間のブランクは主には手術には不可欠な麻酔と、

後は手術準備にかかる時間です。


手術室に患者さんが入室するとまずは手術台に移動し、麻酔をかける所から始まります。

そして麻酔がかかり終わってから、消毒やその他の手術準備にかかります。


そして清潔な術衣に身を包んだ術者が患者さんの体に清潔布をかけ、

吸引管や電気メスなどの準備をしてようやく手術が始まるのです。


全身麻酔の場合では入室してから手術が始まるまでに30分から1時間程度かかります。


手術ナビゲーションやモニタリングなど、その他の特殊な機器のセッティングが必要な場合、

もしくは特殊な体位での手術の場合はさらに長く1時間半以上かかる場合もあります。


そして手術が終わってからも麻酔を醒ます時間が必要です。


局所麻酔の場合にはこの時間はかかりませんが、

全身麻酔の場合は平均して麻酔が醒めて安全が確認されるまでに30分以上がかかります。


麻酔薬が多かった場合や、醒めが悪い患者さんではもっと長く時間がかかることもあります。


実際に、

手術が終わってから患者さんが退室するまでに2時間近く待った経験もあります。


これらに加えて手術室からの移動時間なども含めると、

むしろ行き帰りにかかる時間が予定手術時間+2時間程度というのは全身麻酔としては極めてスムーズな場合なのです。


手術が問題なく終わっていたとしても、

下手をすると手術時間に加えて4時間近く余分に時間がかかることもあるのです。


なので、

予定手術時間よりも数時間長く行き帰りにかかったとしても心配することはありません。


出発から帰室まで

予定手術時間プラス2時間くらいは当たり前、

プラス3,4時間ということもあります。


もし術中に何か大きなトラブルがあった場合は、

手術の途中でもご家族を呼んでお話するのが普通でので、そういったことがなければ概ね予定通りに進んでいると考えて良いのです。



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