脳ドックで未破裂脳動脈瘤が見つかってしまったら | ある脳外科医のぼやき

ある脳外科医のぼやき

脳や脳外科にまつわる話や、内側から見た日本の医療の現状をぼやきます。独断と偏見に満ちているかもしれませんが、病院に通っている人、これから医療の世界に入る人、ここに書いてある知識が多少なりと参考になればと思います。
*旧題「ある脳外科医のダークなぼやき」

さて、今日は未破裂脳動脈瘤が脳ドックで見つかってしまった場合について、

書きたいと思います。


これを読んでいただく上で、知っておいていただきたい前提条件がいくつかあります。

それは主には下の7つです。


①未破裂脳動脈瘤が破裂すると、通常はくも膜下出血を起こす

②くも膜下出血となるとおおよそ1/3は死亡、1/3は後遺症を残し、社会復帰は1/3以下である

③脳ドックで見つかるような小さな未破裂脳動脈瘤は、破裂しなければ何の症状もない

④動脈瘤の破裂率は部位と大きさ、形によるが、小さな物の破裂率は普通はそう高くない(年間1%未満)

⑤治療には手術(開頭手術か血管内手術)しか方法がない

⑥治療には数パーセントの確率で寝たきりもしくは死亡となるリスクがある

⑦動脈瘤があると知ると、日常生活そのものが不安で害される


 この7つをざっと読んでいただくと、

なんとなく未破裂脳動脈瘤と、それを見つけることの意味を察することが出来るのではないでしょうか?


 つまり、

未破裂脳動脈瘤というのは一度破裂すると命を奪いうる「脳の爆弾」と形容されるのですが、


 それを治療するのにも数パーセントのリスクがある上、

実はすべての動脈瘤が必ずしも破裂するわけではないのです。


 天寿を全うするまで破裂しない動脈瘤もあれば、不運にも破裂してしまう動脈瘤もある。

それが事実です。そうすると、破裂しない動脈瘤を治療してしまっても、手術し損ということになってしまうのですが、その人の動脈瘤が本当に破裂しなかったかなんて、誰にも分からないんですね。


 とはいえ、動脈瘤があるというだけで、「もし、破裂したら」と考えてしまい、

とても不安になってしまうのは無理もありません。誰もが不安になってしまう病気です。


 しかし、治療も治療でリスクがあって怖い。


 さて、どうするべきか??となるのです。


 そこで、一つ判断の基準となるのは動脈瘤の破裂リスクにかかわるデータです。


 脳動脈瘤の破裂率というのは、いまだに良くわかっていない所が多いのですが、少なくとも日本で行われた大規模な検討によると、


・破裂しやすい部位がある(前交通動脈瘤、内頚動脈-後交通動脈瘤)

・大きいほど破裂しやすい

・動脈瘤にコブ(ブレブがあると破裂しやすい


 ということが分かっています。

 ちなみに、ひらたく全ての動脈瘤の平均破裂率を出すと、年間1%ということになるのですが、これは小さな動脈瘤からいかにも破れそうな大きな動脈瘤までごっちゃ混ぜにした確率です。


 また、実際にはドックで見つかるような動脈瘤はたいてい直径が5mm未満の小さな物が多いのですが、その場合の破裂率はおおよそ年間0.5%程度というデータがあります。


 年間0.5%だと、ちょっと計算すると分かるのですが、たとえば50年でも20%ちょっとの確率となります。

これはつまり、30歳の時に動脈瘤が見つかっても、80歳までに破裂する確率が2割ちょっと、ということです。


 つまり、5mm以下の小さな動脈瘤の場合、その動脈瘤が破裂する可能性というのは生涯で計算してもそう高くはないのですね。


 そうすると、実際には脳ドックで小さな動脈瘤が見つかったとしても、

そう心配し過ぎることはないと言えます。年に0.5%と考えれば、少しは安心できるでしょうか?


 年に0.5%という、それほど大きくもないリスクをなくすために、数パーセントのリスクがある治療を受けるのかどうか?


 こればかりは皆さん悩んでしまうのではないかと思います。悩んだ末にたいていの方は様子を見よう、となるのではないでしょうか。


 ただし、5mm以下の小さな動脈瘤と言っても、

動脈瘤が多発している人や4mmよりも大きい物、また、高血圧や若年の方の動脈瘤についてはより破裂のリスクが高いというデータがありますし、


 また、多発している人、4mmよりも大きい物、女性、喫煙者の場合は動脈瘤が増大する可能性が高いと言われています。


 もちろん、増大してしまうと、破裂のリスクも増大するので注意が必要です。


 そういったことをいろいろ考えてしまうと、

結局小さな動脈瘤でも大きくなる可能性がある以上は安心とはいかなくなってしまうんですよね。


 様子を見るという選択肢を選んだ場合、最初は不安で仕方がないと思いますが、

1,2年ほど様子を見て変わりがなければ皆さんある程度安心できるようです。


 ただ、その間の1、2年は気が気ではなかったとおっしゃる方も多いですから、小さな動脈瘤がドックで見つかってしまうというのはある意味で考え物です。


 破裂しやすい部位の7mm以上の動脈瘤であれば、年間の破裂率が2-3%となってきますので、

これはもう10年でも20%近い破裂リスクとなりますから、我々も疑うことなく治療を勧めることが多いです。


 しかしながらそれ以下の、特に5mm未満の動脈瘤については、悩みどころなんですよね。

破裂しやすい部位の動脈瘤であれば、患者さんの希望も踏まえて治療を勧めることもありますが、

必ずしも破裂のリスクが高いと自信を持って言える物ではないのです。


 脳動脈瘤の保有率は高齢者では5%近いなんてことも言われていますので、

脳ドックを受ける人が増えれば、動脈瘤が見つかる人は増えます。


 小さな動脈瘤が見つかるくらいなら、見つからない方がよかったかもしれない、

なんて思う人が多いのは今回書いてきたような現状があるからなんですね。


 そういった意味でドックを受ける人は、

「もし破裂しそうにもなさそうな小さな動脈瘤が見つかったとしても気にしない!」

と決意を固めてからドックに臨んだ方がよいかもしれません。


 治療に踏み切れないような小さな動脈瘤が見つかってしまって、

「こんな不安になるだけだったのなら、ドックなんて受けなきゃよかった!」

と思ってしまわないために。


 ちなみに、最後に日本の未破裂脳動脈瘤のガイドラインでは

・5-7mm以上の動脈瘤は治療検討

・5mm以下でも症候性の動脈瘤(脳神経症状を起こしている)、後方循環(脳底動脈など)、前交通動脈瘤や後交通動脈瘤の動脈瘤、形状が破裂しやすいものは治療検討


 となっています。

5-7mm以上ってなんだよ?と思われるかもしれませんが、5mm以上なのか7mm以上なのか、実にあいまいなのです。


 

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