2011-11-19

自分であることの訓練/ハセツネ・ドキュメント

テーマ:ダイアローグ@job

10/22(土)、今年も自分との戦いの日がやってきた。



ダイアローグ・ドキュメント


体調や筋肉に不調はないものの(※大した練習をしていないこともあり)、レース当日になってもさほど力がみなぎってはいない。ただ、もちろん、この日が来るのがいやだったわけではない。むしろ楽しみにしていたこの日。
相変わらず全トレイル71.5㌔をイーブンで走り続けられる力はない。いや、一生そんな力は生まれないかもしれない。夏場の練習量低下は例年通りだった。山には月に1・2度のペースで行ったものの、今年はSWAC練習を中心にした20k以上の距離走をこなした回数が少ない。スピード練習の回数も落ちている。月200k程度の走行量のほとんどは、朝一番の5k前後のJOGで貯めたものだ。
序盤のアップダウンを超えるころには相当苦しくなっている自分が、スタート前から容易に想像できる。足はくたくたになり、心肺には締め付けられるような疲労がたまり、ひょっとしたら胃腸の調子も悪くなって、多分脇腹痛は断ち切れなくなっていることだろう。苦しいに決まっている。そこで、さらにちょっと頑張れば、苦しさは二乗になって身体に跳ね返ってくるだろう。やがて頑張ろうなんていう気は起きなくなり、抜かれても悔しくなくなり、現状に妥協する惨めな自分の姿が眼に浮かぶ。


それでも、このレースを走ってみたい気持ちには変りはない。
苦しいのは自分だ。苦しい中もう一歩を踏み出すのは、間違いなく自分の力だ。どうしようもない疲労感に負けて折り合いをつけるのも、その自分の姿を目撃するのも、また自分だ。頑張り⇒苦しさ⇒失速⇒挫折⇒耐久⇒復活⇒希望⇒頑張り⇒苦しさ………、このとめどない円環運動を回転させコントロールできるのは自分だけだ。
ごまかしは利かない。その結果は、正真正銘の今の自分自身でしかない。
そう、その丸裸の自分自身に出会えるという報酬が、ここにはある。
誰にも邪魔されない。何のしがらみもない。自分で自分に与えた課題に自ら立ち向かうだけの、至ってシンプルな世界。
その世界に、特段遠くに行かなくても、首都東京の西のはずれで入っていけるのは、幸せという他ない。


  わたしの 旅の時は永く
  その道のりは 遥かに遠い。

  あさの光が さしたとき 車で出かけて
  世界の荒野を 越えて
  数々の星に わだちの跡を 残してきた。


  自分自身に 近づく道は
  一番遠い 旅路なのだ。
  単純な音色を 出すためには
  いちばんめんどうな 訓練(しつけ)が要るのだ。


  旅人は 一つ一つ 他人の戸口をたたき
  一番終りに 自分の戸口を みつける。
  あらゆる 外の世界をさまよい 最後に
  一番なかの 神殿に到達する。


  わたしの眼は 遠くはるかに さまよった。

  そして 最後に 眼を閉じて 言った
  「あなたはここに居られた!」と。


  「おお どこに?」との 問いと叫びは
  涙に溶けて いく千の流れとなり
  「わたしは居る」という 確信の洪水となり
  世界へ 逆流しはじめる。
                  (タゴール、『ギダンジャリ』)



■スタートまで


到着した会場、控えスペースとなっている五日市中学の体育館は、いつもながら参加者ですでにぎっしりだ。Aさんに教えてもらった『こあしす治療院』が確保したスペースにもぐりこみ、狭い空間でスタート準備をする。



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テーピングの確認、足裏へワセリンを塗り、ハイドレーションにカーボンショッツのタブレットを放り込む。その間にも、渇きに備えてポカリスウェットをちびちび飲み続ける。
会場内は蒸し暑い。いや、ここだけではない。外も確実に気温が高いのだった。
軽く記念撮影をし、チームでいざ出陣。
グランドでは、すでに開会式が始まっている。
前夜からの強雨で、地面はぐちゃぐちゃだ。シューズをできるだけ濡らさないように気をつける。
目標タイム別に大雑把に区分けされた列に紛れ込む。実力はあまり考えず、できるだけ前の方へ。その結果、概ね前方には200名くらいしかいない位置を確保する。



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さて、体調は……。
筋肉に疲労はなく、特段問題ない。ここ数日多少胃腸の調子が気になっていたが、さきほど拝島駅でかき込んだ

蕎麦も順調に消化され、概ね問題なし。
バックパックの重さもさほど感じない。なにせ、必要最低限しか入っていないのだった。水は1.3リットル。ハイドレーションに1L+300CCのペットボトル。これで42kの補給ポイントまで持たせなければならないが、夏場の試走の経験から、多分いけるだろうと思っていた。

やがてスタートのときは、やってきた。


■序盤(第一CP・浅間峠まで)


洪水のように進んでいく先頭グループに惑わされることなく、Tさんと併走し努めてペースをセーブする。先は70k以上あるのだ。
沿道では、武蔵五日市の人々が総出で応援してくれている。多分この街での、年間最大のイベントかもしれない。
コースは桧原街道をそれて一旦下り、秋川を渡るとすぐに登りに入っていく。それでも、ロードのうちは、ゆっくりであれば、何とか走れる傾斜だ。
相変わらず沿道の声援が聞こえている。道はだんだん狭くなり、寺院の山門を過ぎたところでダートになる。そこからは一層傾斜がきつくなり、我々レベルのランナーには、すでに走る意味はない。走る格好をしても、ペースがさほど変るわけでもなく、いたずらに筋力を消耗するだけだ。
地面はたっぷりと湿っている。登りが終わると、途端に泥濘んでくる。前のランナーがびちゃびちゃと泥を跳ね上げる。自分も後ろへ跳ね上げているに違いない。


東電変電所横のロードを過ぎると、今熊神社横の登山口(約4k地点)に到達。
そこで、先行していたAさんと合流し3人揃ったのもつかの間、今熊山への登りで、すぐにばらばらになってしまった。
高低差300Mほどの今熊山を登り切ると、ゆるやかなアップダウンに入り、かなりの部分を走ることができる。ここで、まずはトレイルの状態を確認できた。状態はそれほど悪くはない。水が浮いているところは多くなく、走りにも登りにもあまり支障はなかった。


ペースを確認する最初のポイントは、7k地点の入山峠。タイムは約1:05。
さほど飛ばしているわけではないので、まずまずだと思った。
くわえて、今回は前方からスタートしたせいか、例年長い行列になるが、あまり混んでいない。10Mほどの列に並び糖分補給をしているうちに、すぐに通過した。
ここから、前を走っている女性ランナー2人組みにしばらくついていった。走り方からして、かなりトレーニングを積んでいる様子が伺える。しかも、イーブンペースを意識して、決して無理をしていない。


雨後の山稜は、ところどころ霧が残り幻想的な風景だ。
特に、市道分岐手前のV字谷を登り切ったとき、振り返って見えた背後の光景は、まるで水墨画を見るようだった。その市道分岐(約11.5k)も約2時間で通過。順調と言っていいと思った。

醍醐丸への登りを繰り返すうちに、早くも足が疲れてきた。自分の実力より大分前にいるのだから当然だ。
醍醐丸手前の最後の長い登りで、遂に女性2人組についていけなくなる。この登りでは、かなり抜かれたが、実力なので仕方ない。


醍醐丸(15k地点)は、約2:40だった。
スタッフの女性が、「500位くらいですよ」と案内している。ここでちょうど、ほぼ実力通りの位置に来たことを確認する。数分立ち止まり、呼吸を整え、VESPAのリキッドを1本補給する。その間にも20名くらいのランナーがパラパラと目前を通過していく。ちょっと立ち止まるということは、数十名に抜かれることとイコールだ。

醍醐丸を通過し、笹尾根の稜線(標高1000M前後)に入っても、相変わらず蒸し暑い。持参した水の量がちょっと心配になってきた。1.3Lしかないので、夏場のように喉が渇いてがぶがぶ飲み始めたらおしまいだ。
概ね10分間隔くらいで、少量ずつを口に含み、たっぷりと時間を掛けて流し込む。
湿気の割には雨後の空気は澄んでいて、尾根の木立の間からは遠くの山々、さらにその先に富士山までも見え始める。



ダイアローグ・ドキュメント


ペースはさほど上がらないが、脚の筋肉状態は昨年に比べて悪くない。
昨年は、この辺りから両足の大腿筋が痙攣しはじめていた。
有名な「痙攣ポイント」・軍茶裡神社手前の階段も細心の注意で登り、無事クリアー。
欲を言えば、ここで神社の祠にお参りをするくらいの精神的余裕が欲しかった。naoさんは 、ランパンポケットに予め準備した50円玉でしっかり参拝したという。このあたりの余裕度に、ゴールタイムでの1時間差があるかもしれない。

ひょっとしたら浅間峠(第1CP、22.5k地点)には4時間以内でいけるかとも思ったが、やはりなかなか着かず、結果4:06となる。
今年の開催時期は半月遅れのため、ここですでに真っ暗になる。
ライトを装着して再スタート。


■夜走(第2CP・月夜見駐車場給水ポイントまで)

案の定浅間峠ですでにかなりきつい。アップダウン激しい山道を20k以上も走ってきたのだから当然だが、この後の距離を考えると、精神的にもここがまずは踏ん張りどころと思う。
夜間走は、少し先を照らすヘッドライトに加え、ハンディライトで足元を照らす。そうすると、ほとんど昼間と変わりなく動くことができる。登りの歩きの時には、節電のためハンディライトは消す。ハンディライトの電池持続は約5時間と言われていて、9月の50k走の時には暗くなって往生した。
この先しばらく稜線のアップダウンは多少ゆるやかになるが、それでもゆっくりとしか動けない。時々速めのランナーにぽつぽつ抜かれる。一方、抜き返すのは少ない。例年と違い、コース脇に立ち止まっている選手が少ない。


依然として湿気多く、多少暑く感じた。身体全体にじっとりと脂汗がまとわりついている。いつもは寒い数馬峠(標高千M、約33k地点)まできても、今回はまったく寒さを感じない。
水の残りが気になるが、先ほどの浅間峠でハイドレの残量を見て、約半分残っているのを確認していたので、あまり不安はなかった。それまでと同じく、10分置きくらいを目安に少量ずつ口に含み、ゆっくりと飲み込む。
数馬峠から数キロの間、比較的平坦なトレイルが終わると、いよいよ三頭山(1530M)への急登が始まる。約2kで500M以上登らなければならない。

いつもながら苦しい。それでも、立ち止まっているランナーが今回は少ない。皆淡々と登り続けている。その最後の長い登り、一体どれくらい続いているのかと思い、歩数を数えてみた。不正確だが、多分千歩以上。若干の踊り場のようなゆるやかな傾斜部分をはさんで、ずっと登りが続く。とにかく長い。トレランではなく、「トレ歩き」になるのもやむを得ない。しかも、登り続けられずに、何度か立ち止まって呼吸を整えなければならない。つくづく登りに弱いと思う。ただ、ここでも太腿が痙攣しなかったのは幸いだった。登り斜面が意外に乾いていたのにも助けられた。

気がつくと、低気圧の接近を思わせる湿った強風が、いつの間にか稜線を激しく吹きぬけるようになっていた。

ただ、これも今回は、身体を冷やす効果がありむしろ気持ちいい。
三頭山到達は20:30。ちょうどスタートから7時間半だ。山頂もやはり寒くない。休憩している大勢のランナーに混じり、少しだけ立ち止まって、ペットボトルの真水の残りを全て飲み干す。ハイドレのアミノ酸飲料と違って、乾いた身体にはこの真水の感触がたまらない。


すぐに下りに入る。
何とか後1時間で第2CPまで行きたい。そうすれば、8:30で到達することになる。
北斜面に入ったせいで、風がまったく吹かなくなった。そのため下りの斜面は乾かず濡れたままだ。ただでさえ岩交じりの急な斜面、慎重に降りていくしかない。
そんなゆっくりペースもあって、練習の時も含めこの三頭山からの下りでは、他のランナーとよく出会う。2年前Aさんと意気投合したのも、本番のこのエリアだった。
真っ暗な中、いつの間にか前後で併走しているのがお互いに分かる。ペースも実力もその時の調子も、多分大体同じだ。今回一緒になったのは、少し若い(30代くらい)ランナーだった。ハセツネ出場は、7年ぶり2回目だという。ただ、富士登山競争に毎年出ていて、今年は見事4:10で完走したのだそうだ。富士登山競争は、マラソンサブスリーランナーでも4:30の制限にかかることもある。前回のハセツネは12時間台で完走したそうなので、相当タフだ。このレベルの人と一緒に走っていることが、少しうれしい。
ただ、彼は今回少し調子が悪かったようで、鞘口峠で下り終わり反転して登りになったところで離れてしまった。

残念なことに、2キロの下りには、20分以上を要した。第2CPまでの残りは登り基調の約4k。多分三頭山から1時間では着かないなと思ったが、結果やはり1:10掛かり、トータル8:39だった。
この辺りから周囲のペースも明らかに落ちてきていて、ポツポツと先行するランナーを抜くようになってきた。

後から分かったが、先行していたTさんもこの辺りで抜いていたらしい。真っ暗闇の中まったく気付かなかった。

第2CPのちょうど1k手前でハイドレの水が全てなくなり、結局持参した1.3Lは読み通りだった。

さらに何度かのアップダウンを繰り返し、やがてコースが奥多摩周遊道路と接するようになる。第2CP手前のコースは複雑で、2度周遊道路に出て再度トレイルに戻る。最後に月夜見山という低めの山に登って下ると、第2CP・月夜見駐車場の手前に出てくる。
ロードに出ると足が少し軽くなり、ランのピッチが上がる。その勢いのままに、漸く第2CP(42k地点)に到達。


■孤独(大岳山・54k地点まで)


チェックゲートを通過すると、すぐに給水所が設置されている。10人ほどのスタッフのおばさんたちが、きっちり1.5Lずつ補給してくれる。水かポカリスウェット。半分ずつ組み合わせでもいい。自分は、ポカリ1Lに水0.5Lと、最初から決めていた。まずは、ハイドレーションにポカリを満たす。空になったペットボトルには0.3Lしかはいらないので、残りを計量用の紙カップについでもらうと、「それ、返してくださいね」としっかり言われてしまった。そのカップを持って、テント付きの休憩スペースに急ぐと、シューズを脱いでそこに上がりこむ。本当は時間がもったいないが、シューズには細かい石等が混入していて、一度すっきりしたいのだった。
ここではカーボンショッツだけでなく、カップのわずかな水を利用して、カロリーメイト2片を補給する。それが終わると、泥を払ったシューズを再び履き、トイレへ。
その一連の動作をすばやくこなしたつもりだったが、貴重な15分を費やしてしまった。


第2CPからは、御前山(1400M)に向かって奥多摩湖(小河内ダムによる人口湖)沿いの稜線を走る。ただ、一旦大きくくだらなければならない。加えて、湖から吹き上がる湿気のためか、このエリアにはいつも霧が出ている。雨後の今夜も、もちろん例外ではなかった。レースも中盤を過ぎ、だんだんと周りを走るランナーもいなくなってくる。

下りきったあたりで、さっきまでの湿った強風が再び吹き始めた。汗ばんだ身体にはちょうどいい体感温度だと感じる。それにつれて、濃霧も急速に晴れてきた。ただ、コースは、御前山へのつらい登りが始まる。そのつらさに、そこまで42k走ってきた消耗感が覆いかぶさる。きつさを紛らわせるために、頭の中で歩数を数える。どんなに小幅でも、三百歩数えれば、大抵の登りは終わりが見えてくることが分かっている。眠れないとき羊を数えるのに、少し似ているかもしれない。それでもきついときは、(※これも最近思いついたのだが)激しい深呼吸を繰り返して、できるだけ酸素を体内に取り込む。しかも、できるだけ大げさに。周りに他人がいると少し恥ずかしいが、この辺りでは、もうほとんど単独行になっていた。さらにだめなら、仕方がないのでちょっとだけ立ち止まって呼吸を整える。
御前山への急な長い登りは、繰り返し現れる。そのたびに、同じことを繰り返す。


やがて道に岩が散らばりはじめると、山頂が近いしるしだ。

第2CPから1時間ちょっと、午後11時ちょうどに御前山頂到達。
休憩せず、すぐに下り始める。


V字に切れ込んだ急な下りコースがつづく嫌なエリアだが、幸い雨による濡れ方が少なかった。一昨年は何度も転んだが、今回は一度の転倒もなくクリアーできた。大ダワへの約4キロは、下り基調とはいえ、そう思って安心していると、幾度となくかなりきつめのアップダウンが立ちはだかる。ときおり平坦な走れる部分もある。そういう場所からは、空気が澄んでいるため、ほんの少し遥か遠く東京の夜景が垣間見えることもあった。孤独感がしばし和らぐ。依然として強風は吹いていた。


下りつづきで腹筋を使ったためか、先ほどから気になっていた脇腹痛が強くなってきていた。最近右側前面の肋骨と腹部の境目辺りの脇腹痛が癖のようになってる。走らないときでも、痛みの種のような感触がいつも残っている。走り始めると、それがだんだんと脇腹痛に変化してくるのだった。整骨院で聞いたところでは、そういう痛みは、肋骨が折れていることもあるかもしれないという。しかし、小出監督のノウハウ本によれば、「脇腹痛は腹筋を鍛えている方が我慢できる傾向がある」とのこと。この1年、軽い腹筋運動はほとんど毎日怠りなく取り組んできた。それもあって、多分大丈夫だろうと思って走り続けた。そうして下りつづけるうちに、腹筋自体もだんだんと凝ってきて、腹筋が痛いのか脇腹痛なのかもう分からなくなってきた。


漸く見えた大ダワでも休まず、大岳山(1250M)への最後の大きな登りに取り掛かる。
大ダワからの最初の登りが少しきついが、少し行くと熊笹に囲まれた比較的ゆるやかなコースになり、ゆっくり走ることもできる。それが終わると、前回試走でも通った馬頭刈尾根との分岐が現れる。そこまでくれば、大岳山頂までは後一息だ。
前半の水不足に比べ、第2CPで補給した後は、たっぷりと水分が摂れるようになっていた。どう最悪のことを想定しても、綾広の滝(天然の水場)までの15kの間に、前半持参した給水量よりも多い水を消費することができるのだ。この潤沢な水の安心感は、何ものにも代えがたい。
最後の登りは、本当の岩場。ここだけは決してだれも走ることができない。岩や張られた鎖にしがみついて登っていくと、真夜中・1:00少し前頃山頂到達。
9月に50k走をしたときには、夕暮れ時、ここから見えた富士山がきれいだった。が、今は何も見えない。


■前進(日の出山・60k地点まで)


最後の補給食、VESUPAのリキッドをここで摂取し、長い下りに入っていった。
しばらくごつごつした岩場を歩くと、後ろにもう一人誰かいて、一緒に進んでいく。
どういうわけか、この辺りの雨量は多かったようで、地面はびしょびしょに濡れている。
岩場が終わり、大岳神社横を過ぎると、全面に宝石のような東京の夜景が広がる。
思わず「きれいですね~」と声を掛けると、「Tokio?」という予想外の返答が英語なまりで返ってきた。てっきり日本人だとばかり思い込んでいた追走ランナーは、欧米系だったのだ。ハセツネもかなりグローバルなレースだ。しかし、この外人かなり余裕があり、下が岩場から土に変ったところで、「デハ、マタ、ドコカデ」とか言い残し、さっさと追い抜いていってしまった。その後、立て続けに3―4人に抜かれる。

いつのまにか、あれほど強く吹いていた風がやんでいる。標高も下がってきて、再び蒸し暑さを感じた。しかし、給水はたっぷりとあり、まったく不安はない。
足の疲労はとうに限界を過ぎているが、まったく動けないというほどではない。自分のペースで、じっくりと下っていった。このあたり、トレーニングで何度も通っていることも、安心感につながる。とにかくイーブンペースで動き続ける、前進することだけを意識した。


やがてコースは、綾広の滝に向けて下り傾斜が大きくなる。足へのいやな衝撃を我慢しながらペースを上げてしばらく走ると、水場に到達。予想通り、補給した後の水(ポカリ)は、まだ半分以上残っていた。思い切り顔を洗ってリフレッシュし、ハイドレーションに水を足す。すると、ポカリスウェットが薄まって、ちょうどよい塩梅の味になった。


スタッフの人達が声援をくれた第3CP(長尾平、57k地点)通過は、1:44だった。
もう、足にあまり力が残っていない。このあたりで、数名の集団にまたポツポツと抜かれた。ここまで来て抜かれるのはさすがに悔しい。
御岳神社参道を抜け一旦下った後、日の出山(900M)への本当に最後の登りにかかる。懸命に動き続けるも、階段の手前のところで、ほんの少し足が止まる。そこへ後ろから抜いていったのは、またも女性ランナーだった。
日の出山頂午前2:15。第3CPから、30分かかってしまった。


あと残るは、ゆるやかな下り基調の11キロのみ。普通にゆっくり走れば、14時間半を切ることができるポジションにいる。ここで、最後の栄養補給ジェルを摂取した(気がする)。つまり、補給食も、給水同様ちょうど使い切った。
さらに日の出山直下ののいやな階段エリアを恐る恐る下る。かなり湿っていて、最初の石段部分で、予想通りずるっと滑って、危うく大きく転倒しかけた。ぎりぎり踏みとどまるも、踏ん張ったときに身体の側面の筋がぎくっとおかしくなる感触。ただ、大事にいたらなかったのは幸いだった。地面が濡れているだけでなく、もうバランス感覚もかなり消耗しているに違いない。一層集中が必要だ。間違っても骨折はご免だ。過去2回と違って、ここまで大きな転倒なく進んできたのは、進歩と言っていい。
階段エリアを下り切って、2:25。
ついに、あと10.5㌔のゆるやかな金比羅尾根を残すのみとなった。


■異次元空間(ゴールまで)


周囲には、もうランナーはまばらにしかいない。
何と表現すればいいか…、感覚的には100Mにひとりくらいずついるような状況。それが、その時々、登りが得意な人、下りが得意な人の違いで、微妙に近づいたりはなれたりし合いながら、それぞれ懸命にゴールを目指している。
あと10kを1時間と少しで走りきれば、14時間半を切れる。
ついこの間の30k走のときは、まさにこの金比羅尾根を反対の五日市から登ってきて、1時間かからなかったのだ。それを、今は下ればいいだけ。
そう懸命に思い込み、足を動かしていった。


ただ、このゆるやかな尾根も、今はずっと走り続けられるわけではない。
少しだが、登りがきついところもある。加えて、赤土がむき出しでV字谷型になったくだりがあり、滑ってうまく走れないところもある。
時々、ゆっくりと抜いたり抜けれたりがある。
途中、一度予想通りV字谷の部分でずるっと滑って尻餅をついた。その時、すぐ後ろに一人ランナーがいて、「大丈夫ですか」と声をかけてくれた。「ええ、大丈夫です。どうぞ先に行ってください」と言うと、「いえ、自分も、足がもう限界で……」と半泣きの答が返ってきた。
皆自分なりの限界に挑んでいるのだった。


さらに、一人で走っていると、何人かが追いついてくる気配がある。
すぐ後ろを走られると、後ろのランナーのヘッドライトで影ができて、足元が見えなくなる。
そこでまた、「お先にどうぞ」と譲ろうとすると、「自分も遅いですよ」と自信なさそうな答が戻ってくることもあった。
そんな感じで、おおむね10人くらいで、前後を頻繁に入れ替わりながら、金比羅尾根を進んでいたような気がする。

下り、フラットなところ、ゆるやかな登り、もう最後なので全部走る覚悟で動いている。特にフラット部分では、懸命にピッチを上げようと試みる。ゆっくりでも動き続ける、走り続けること、それだけを意識していた。「今ここで走らなくてどうする」、「そのつらさは、仕事で成果を挙げるつらさに比べて、一体どっちなんだ?」、……、等と、ほとんどわけの分からない自問自答をつづける。


ただ、結果的にその「ランニング」は相当なスローペースだったようだ。それは、「残り5k」の標識のところで分かった。すでに、さっきの日の出山直下のところからたっぷり30分以上消費していた。
これはだめだなと思いながらも、さらに懸命に足を動かす。
時折歩いているランナーが見える。早く追いつき、追い越したいと思う。ところが、こちらは走っているのに、なかなか近づいてこない。それほど遅いランになっているのだった。
自分が走っているのは、いつもの金比羅尾根でありながら、実はそうではない。疲労によって空間はゆがみ、伸びきってしまっている。物理的には10kでも、肉体の現実にとってはそれは15kにも20kにも及ぶ異次元空間に変貌しているのだった。

いつの間にか、さきほどまで強烈に感じていた脇腹痛も、意識から遠のいていた。


予想通り、残り2キロの金比羅神社に到達したところで、すでにスタート~14時間半以上が過ぎていた。
ただ、特段絶望感はない。14時間半も、自分との闘いのひとつの目安に過ぎない。何か大きな失敗をしたわけでもなく、ここまで実力は出し切っている。
最後の急な下りに入り、慎重に下っていく。
例によって、金比羅神社参道のコンクリートで固められたエリアになる。昨年、骨折したところだ。コンクリートの参道のところどころに、細い溝が切られている。そこに足を取られないよう、ライトで確実に照らして進む。100Mくらい前方を、さきほどから抜いたり抜かれたりを繰り返してきた3・4名のランナーが下っているのがみえる。もう最後なので、それなりにペースが上がっているようで、慎重に下る自分との距離はむしろ少しずつ開いているようにも見えた。


トレイル部分の最後のカーブを回ると、右に民家が現れる。
そう、いよいよ五日市のロード部分に戻ってきたのだった。
残り約1k。下がアスファルトになり、下り傾斜がゆるやかになる。
トレイルからロードに出ると、途端に足の回転ペースが速くなる。しっかりと地面に足裏がつくので、力を全て反発力に変えることができる。
前方を行く3名のランナーがみるみる近づいてくる。ほんの少し横に並んでみたが、もはや自分の敵ではない。

あっという間に抜き去る。さらに最後の曲がり角の手前に、もう1名先行ランナーがいる。これも、かなり疲れている。100Mくらい離れているので、普通なら絶対に無理なところだが、さらにペースを上げて㌔4分くらいになるのが分かる。すると、これもみるみる近づいてきて、あっという間にかわすことができた。その勢いのままに、ゴール!
14時間52分…。それが、紛れもない、今年のチャレンジの結果だった。



■装備

 -シューズ:スポルティバ製・クロスライト ※ソックス・Xソックス
 -ウェア:上・ファイントラック製アンダー+ラフマミレージップシャツ
      下:4DM+スキンズ製ショートタイツ
 -ライト:PETZL製ヘッドライトE40200T4+ハンディライト・閃
      ※ちなみにランニングキャップは、今は亡きフランクショーター製

■補給食

 -カーボンショッツ×5個=850kcal
 -SAVASゼリータイプ×2+スティックタイプ1個=450kcal
 -カロリーメイト×2片=200kcal
 -VESPAリキッドタイプ×3=250kcal
 -パワーバーのグミ=200kcal
 -おにぎり×2個



ゴール後、サービスの豚汁、コーラ、うどん……と食べながら、アクシデントで遅れていたAさん、Tさんの到着

を待っていると、白々と夜が明けてきた。
残念ながら、チームでのチャレンジの成果は、来年以降に持ち越しとなった。



ダイアローグ・ドキュメント



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コメント

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4 ■naoさん

熱いコメント、誠にありがとうございます。
駄文を熟読いただいて恐縮です。「力作」どころか、単に体験を書きなぐっただけで…。ただ、山のキャリアと鍛錬において数倍するnaoさんに「同じような体験を…」と言っていただけると、素直にうれしいです!
次回に向けてのモチベーションになります。
やはり、あの同じ状況を共有した人でないと、多分何のことか分からないと思います。
FBにもリンクを貼ったのに、なかなか誰も読んでくれないんですよ(笑

3 ■大作・力作、感動しました

力の入ったハセツネレポートをありがとうございました。

今朝、電車の中で携帯からチラ見しましたが、かなりな力作でしたので後回しにしました。
先程、昼休みにしっかり読ませて頂きました。

いろいろなハセツネのレポートがありますが、今回のnozomipapaさんのレポートは、今大会、ナンバー1ですね。
さすがです。
自分もほぼ同じような体験をしてますので、感動させて頂きました。

浅間峠までは、同じようなペースだったのですね。なかなか気がつかないものですね。

レースから一ヶ月が立とうとしておりますが、忘れかけていた思いが再び蘇りました。
改めて、冷静に自分の力不足な点、苦手な所を補おう、と思いました。

いやいや、ためになりました。
ありがとうございました。

2 ■katouさん

ありがとうございます。
本当に皆よく頑張りますよね。毎年レベルも上がっていると感じます。また、
来年も出られるように、諸々頑張りたいと思います。

1 ■無題

15時間近くの力走 お疲れ様でした。
大勢のランナーが、しかも少なくない女性が こんな過酷な大会に出ているのにびっくりします。
すごいことだと思います

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