2011-09-04

風の中のマリア

テーマ:ダイアローグ@story


9/4(日)、近畿地方を通過した台風の影響は東京にもあり、朝から怪しげな台風風が吹いていたかと思えば、夕方には激しいにわか雨になった。


そのにわか雨後の気温低下を期待して、ひざびさに6000Mペース走を行う。
本当は5000Mのつもりだった。
ところが、6・7周目(※1周は440M)で向きになって後ろについてくるランナーがいて、最初から呼吸が上がっていたので早々に潰れるだろうと思った。それがなかなか離れない。ペースも㌔4:20くらいで走っていたのが、いつのまにか㌔4:00近くまで上がってしまう。そうするうちに何周走っているのか分からなくなった。(※最近、時計のバックライトが壊れ、暗くなると周回表示が見えないのだった) その結果、1000Mも多く走っていた。

まあ、特段脚が痛いわけでもなく、不幸中の幸いというべきか。



さて、『永遠のゼロ』 でノックアウトされた百田尚樹作の新しい文庫版が出たので、早速読んでみた。
『風の中のマリア』(講談社文庫)。



ダイアローグ・ドキュメント


例によって、東京駅新幹線改札横の松栄堂書店で見つけたのだった。最近松栄堂儲かっているようで、店のスペースが一気に倍以上に拡大した。この業容拡大には、自分もかなり貢献していると思う。


スズメバチの話だということは、買う前から分かっていた。
だから、いくら百田尚樹作とはいえ、最初は「所詮、ハチの物語だろう」、「いくらなんでも『永遠のゼロ』を上回るインパクトまでは期待できないよなあ」、「ハチの話だし…」という程度に軽く考えていた。

ところが、読み進むうちに、みるみる小説世界に引き込まれ、面白くて仕方がない。さらに後半は感動の嵐…、というような次第で、見事に期待を裏切られたのだった。


※以下、若干のネタばれあり。


主人公のマリアは、スズメバチの種族でも最も大型で獰猛と言われる大スズメバチの“戦士”という設定だ。
マリアなので「女性」(メス)だ。
前半では、そのマリアの毎日の狩りの様子を中心にして、大スズメバチの生態と種としての特性が、科学的な最

新研究成果に基づいて詳細に描かれている。

そう、この物語は、漫画や映画等の物語設定でよくある、「虫や動物の姿に託して、人間や人間社会を描いた物

語」ではない! そうではなく、スズメバチそのものを忠実に描く中から、そこに人生や人間社会の喜びや悲哀までもアナロジーとして映し出してしまうという、独創的な作りになっている。


大スズメバチの寿命(いわゆるワーカーの場合)は、わずか30日なのだという。
しかも、それは平均寿命ではなく、30日までにはほとんどのワーカーが死に絶えるらしい。戦士の場合は、獲物

との戦闘で命を落とすか、狩りに出かけて巣を見失って「未帰還」となったり、エネルギーを使い果たして戻れなくなったりするらしい。戦闘能力に長けた歴戦の戦士も、概ね30日までには寿命を迎える。

本作で「帝国」と呼ばれる大スズメバチの巣には、1頭の女王蜂と500位のワーカーがいるらしい。加えて、幼虫として養われているのがほぼ同数いるという。ワーカーには役割分担があり、餌を捕獲してくる「戦士」が3分の1くらい。後は、巣作りをしたり、巣の清掃や幼虫の世話、さらには女王の親衛隊のようなチームも存在するらしい。まさに、「帝国」なのだ。


驚くべきことに、「帝国国民」は全てメス。
ここが最新の研究成果に属する部分で、何とスズメバチの女王は、一度だけ行ったオスとの交尾で獲得した精子を体内に貯めておき、それを少しずつ受精させて1年以上にわたって何百何千という卵を産むことができるという。
さらに、驚くべきことには、こうしてメスだけで「帝国」を構成する根拠も、遺伝学的に解明されている。
 ※このあたりの事情は極めて複雑なので、本作で参照されたい。


戦士の狩りの様子は実に見事で、上空からそれらしき場所を丹念に探索し、標的を探知すると急降下して格闘戦に入り仕留める。ほとんどの標的昆虫に対しては通常は1頭で狩りをするが、時に部隊行動をする。
この狩りの様子を、作者百田氏は、見事な筆致で繰り返し描写している。


 マリアはキリン草の間を飛びながら、葉の裏を丹念に探索した。一本のキリン草を上から下まで調べると、
 次のキリン草に移る。狩りとは、この愚直なまでの繰り返しだということを、マリアはこの三日間で
 学びつつあった。


そう、主人公・マリアの一生とは、来る日も来る日も獲物との戦いに明け暮れる日々なのだ。作者は、それを忠実に描きつづける。
ある時はどんどん獲物が捕獲できるが、天候や季節の変遷で、狩場の様子は日々移り行く。弱い虫は簡単に仕留められるが、時には自分の体長の倍以上もあるオオカマキリとの死闘が待ち受けていたりもする。上空からの探索中に、背後からオニヤンマに襲われることもある。


マリアは夏の終わりに生まれたので、だんだんと獲物が少なくなる季節を生きることになる。
しかも、その時期は、餌の量に反比例するように、沢山の幼虫が巣に生みつけられる。
なぜかと言うと、それまでは単にワーカーにするために幼虫だったのが、この時期には、次の女王候補の幼虫が育てられるのだった。しかも、1匹ではなく、生存競争を考慮し何百という幼虫を育てなければならない。
ワーカーと女王候補の幼虫の遺伝的構造はまったく同じ。何が違うかと言うと、幼虫のときにより多くの栄養を与えるかどうかという問題なのだそうだ。だから、ワーカー、とりわけ戦士たちは、猛烈に餌を捕獲しなければならなくなる。やがて、単独で狩りをしていたのでは追いつかなくなり、「帝国」の存亡を掛けた大戦闘に突入していく。
本作のクライマックスである。


彼女達は類似種のキイロスズメバチの巣を襲ってその占領を試みる。キイロスズメバチは、大スズメバチより若干小さいとはいえ、同様の戦闘能力を持ったスズメバチである。しかも、オオスズメバチの10倍以上の戦力を擁している。したがって、その戦いは、文字通り互いの存亡を掛けた最終戦争となるのだった。
その中の最後の一場面、下記の描写のところ、何度読んでも涙が出てきてしまう。


  絶対に退却することはできない、とマリアは思った。先に生まれて死んでいった姉たち、そして
  「偉大なる母」アストリッドの死を無駄にしないためにも、何が何でも勝たねばならない。おそ
  らく今戦っている全部の戦士が同じ思いのはずだ。だから、たとえどれほどの戦力を失おうと、
  この巣を占領するつもりだ。
  マリアの横で戦っていたエルザが急にクヌギの枝にとまった。肢を引きずるように動いている。
  どこかやられたんだ、とマリアは思った。
  枝に止まったエルザの背後からキイロスズメバチが二頭襲い掛かった。マリアは急いで駆けつける
  とその二頭を噛み殺した。
  「ありがとう、マリア姉さん」
  「大丈夫?」
  「首を二ヶ所やられた。毒がまわって……多分もうだめよ」
  「しっかりするのよ」
  マリアは口移しでエルザに栄養補給した。(←これは科学的裏づけのある行動 ※筆者注)エルザ
  は少しだけ飲んだ。
  「戦いはこれからよ」
  「姉さん、ごめんね、私、もう戦えない―――」
  エルザはそう言うと、体をぐらりとさせ、枝から落ちていった。
  「エルザ!」
  地面に落ちたエルザの体はもう動かなかった。
  マリアは再び空中に浮き上がって、戦いに備えた。
  ――エルザが死んだ。私が手塩にかけて育てた妹が、私よりも先に死んだ。
  マリアの翅が唸りを上げて怒りの音を轟かせた。
  「みんな!」とマリアは叫んだ。「私たちはここで死ぬのよ!」
  ワーカーたちはそれに呼応するかのように翅音を大きく響かせた。
  空中にオオスズメバチ特有の大きな翅音が響き渡り、牙を噛み鳴らすガチガチッという音が鳴り響いた。


「みんな! 私たちはここで死ぬのよ!」というマリアの渾身の叫び、何という言葉だろうか。死を前提にした行動を、1匹の虫が決意し、それを仲間に呼びかける。そして、その死の先に「帝国」(=要するに種族)の繁栄を願う。この一言に、本作の主題は集約されているように思える。


そう、この作品は、ゼロ戦パイロットの戦いを描いた『永遠のゼロ』の、実質的な続編だったのだ。

もっとも、日本軍とは異なり、マリア達の帝国は結果的に勝利し、獲物の巣を占領する。
そして、そこで得た大量の幼虫によって、何日にも渡って自分達の女王候補の幼虫への補給を確保したのだった。


ただ、それは多くの戦いの中でのいわば「たまたま」の勝利でもある。別の「帝国」では、武運拙く戦闘に破れて滅亡するケースもあるからだ。
そうした戦闘の勝利と敗北を繰り返して、結局オオスズメバチという種は、今もこの日本で存続している。


その「存続」を、「個人」とは無縁のことと思うか、それともその受け継がれ繰り返される「帝国」存亡を掛けた戦いの中に、自らの生の充実を、主人公のマリアのようにはっきりと感じ取るのか……、作者は、そのように、強く問いかけていると思った。

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コメント

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8 ■katouさん

大阪マラソン、いいですね。まだ時間があるので、ぜひ頑張ってください。

7 ■無題

こっちにブックオフはないですが、日本で ですね。
来月は大阪マラソンに行こうと思ってます

6 ■naoさん

お楽しみを奪ってしまったでしょうか、すみません(笑)
ただ、このblog記事なんか、本作のインパクトに比べれば何ほどのこともないですけどね。
「未読」は、自分も溜まってます(笑)

5 ■katouさん

そちらにも、ブックオフあるんですね。ぜひ読んでみてください。
自分もまだ『ボックス』は読んでいません。理由は同じで、「まさか『永遠のゼロ』を越えるインパクトはないだろう」という先入観ですが、きっと読んだら違う印象ではとも思います。
百田氏は、「エンターテイメント作家」であることは割り切っているようで、売れるように書いていることは否めませんね。

4 ■無題

8月に札幌で買いましたが、まだ読んでませんでした。
今回はnozomipapaさんのブログ読んでしまって失敗です。(笑)
未読の本が貯まってますが、来週には追いつけそうです。

3 ■無題

百田作品、また大当たりでしたか。今度 ブックオフで探してみます
彼のボクシングの作品を読みましたが、感動しながら ちょっと読者を意識したような、エナターテイメントぶりも感じました

2 ■マギー大島さん

「続編」というのは、あくまで私の解釈ですが、読んでみてください。

1 ■私も買っていました。

『永遠のゼロ』の、実質的な続編だったのですね。ぜひ早めに読んでみるようにします。(^^)

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