とりあえず、タイトルだけはカッコよく決めた。
わかると思うけど、これ世界一かっこいい哲学者だった九鬼周造の『「いき」の構造』のパロディね。

で、僕は不可能性の形而上学者で自称「魔術師」、いちおう独立系思想家なので、お見知りおきを。

前は「アンチポップス」という標題で、僕の死ぬほどキライなJ-POPなるものと音楽文化を破壊している国内外の音楽産業を撲滅するためのラディカルなサイトにしたかったんだけど、邪道な権力からの不当な攻撃でデリられても困るんでこれはやめ。それよりもっと根源的に日本文化(僕は「甘え=生き=恥」の構造と呼んでいる)を徹底的に批判することをトップテーマとすることにした。。。。なあんてね。

それから、他に形而上学的思索としては九鬼の『偶然性の問題』の向こうを張った「不可能性の問題」とか心を鬼にして尊敬する師匠レヴィナスに反逆する「アポスターズ論」とかその他もろもろ、文学的お遊びとして「形而上学魔法小説ノリメタンゲレ」なんてのも連載してます。

また、たまに書評みたいなの(文芸珍評とか感想文)も書くが、奇人であるので絶対にトンデモなことしか書きません。常に敢えて通説を暴力的に破壊するようなことしか書かないことを美学としているので、常識的な書評読みたい方は他を当たってください。

で、そんなわけでここ、バラエティー番組状態なので、THEME LISTから選んで読んでいただくことをぜひともキボンヌ

さもないと頭混乱するかもしれないぞ。

また、たまには痴呆化して下らぬギャグを書くこともありますので、ご容赦くださいね。

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消える花

テーマ:
 美は花々から飛び立とうとしている。
 不安なのか? それは喜悦のもつあの羽ばたきなのか?

 花々よりも、もっと軽やかな花々が、
 花々から羽ばたき立つ。
 繰り返し絶えず抜け出してゆく、
 この同じ花、幾つもの一つの花。
 花々から花々が繰り返し立ち去ってゆく。

 花の現れのなかに消えてゆく、
 繰り返し新しく消えてゆく花であって、
 花ならぬもの、美。

 それは花の純粋観念の立ち昇りや屹立ではなく、
 より卓越した花なのでもない。

 むしろ、汲み尽くし難き消尽であり、
 焼かれてゆく花の美の、本質の不在の消滅なのだ。

 美というこの見ることのできない消滅は、
 意味ではなく、また、了解される現前でもない。
 美は恒常的なものではなく、本質とは異なったものなのだ。

 一輪の花の後ろで、絶えず、
 その咲き誇りの現前に立ち戻り、うち返りつつ、
 たしかに燃え尽き、
 散り敷いていった幾つもの花々、
 無数の花々の死。

 花の中にも花の外にもなく、
 その花が美しいのは、美のイデアのためなのではない。
 (美は存在であろうか――いや、美はむしろ存在の無なのだ。)

 美は花の色ではない。
 ゼラニウムの赤ではなく、美なのだ。
 美は花のフォルムなのでもない。
 また、それは花の本質でも言葉でもない。

 いわば、この静止した花にあって炸裂する無
 ――それは連続的でも非連続的でも
   継起的でもないのだが――
 花の不在への消滅=爆発なのだ。

 わたしはそれを目の当たりにしており、
 そう感受しているが、
 それをまだ見てはおらず、そして
 それをもはや見てはいない。

 それは現在とは別のものの、しかし、
 現前とは同じものとしての非‐出現であり、
 花のあらわさ、隠れなさという
 最も隠され覆われたものなのである。

 花は美のexpressionなのではなく、
 美も花のexpressionなのではない。
 そしてそれは印象――impressionなのでもない。

 花は美に開き、美は花を無に開く。
 この美は表象不可能なもの、そして、
 感性に見出されるものではなく、
 判断力に属するものでもありえない。
 この美は全く外にある、外で起きる。

 花のデザストル、それが
 美のエクリチュールの融和に変ずる。

 炸裂する虚無の閃光がわたしの顔の間近に迫っていた。
 畏れ、そして、それとすれ違うような恍惚へと
 わたしが引き裂かれるとき。

 花が散る、そして、わたしは何を視る?

 美とはまさに《恐ろしきものの始め》、
 そして、恐らく永遠に、わたしには見慣れぬものに留まる。

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 クリスマスというのはいつでもみにくい。
 かがやきに覆われ人々が馬鹿になるそのとき、
 美しい祭が捏造される。

 クリスマスソングは嘘つきどもの歌。
 惑わされてうかれた人々が
 その誕生をお祝いする
 〈聖なる王〉などどこにも生まれていないのに、
 やけにきらきらしい歌声へと人々が強制される。

 サンタクロースがやってくるのは金持ちの家だけで、
 その陰では世にもみにくい商人どもが
 金儲けの絶好のチャンスに両目を残忍に光り輝かせ、
 まぼろしの麗しい子供を人質にとって、
 あさましく金を出せと脅しているだけだ。

 クリスマスのなかに神はいない。
 それは最も神が留守になるとき。
 痛ましい悲しみのとき。

 返して下さい、わたしたちに、神様を。
 そのためならわたしたちは何でも差し出すでしょう。
 人々がどうしても買い戻したいのはそれなのに、
 それだけはどの店にも売っていない唯一の、
 ほんとうのクリスマスプレゼント。
 永遠に永遠に手の届かない最高級のクリスマスプレゼント。

 誰があなたに高値をつけた? 
 どんな金持ちが目の眩むような巨額を支払い、
 すばらしい子供であるあなたを攫っていった? 

 裏切られたかぎりもなく醜悪ないつわりの祭、クリスマス。

 しかしそれは長くは続かない。
 コインの輝きはすぐにうすぐらく曇りはじめる。
 クリスマスの魔法が解けると、
 プレゼントは季節外れの薄汚いガラクタに戻る。
 陰鬱な重苦しい色に変わる。
 それを見ている人の目もうすぐらく曇ってゆく。
 白けたメタファーについてのよく知られた話だ。

(『〈知〉という白痴の悪霊たち 』より)
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「アダルトチルドレン」という便利な言葉が世に膾炙して久しい。


 この便利な言葉が使われ出した当初から、僕は小さな疑問の棘のようなものが心に引っ掛かるのを覚えていた。


 しかし、この便利な言葉が、幼児虐待や子供の人権という非常に重大な問題に多くの人の目を向けさせる啓蒙的効果があったことを僕は否定するものではない。そのこと自体はそれなりに評価されて良い。


 だが、この「アダルトチルドレン」という言葉は、幼児期の虐待のトラウマや病んだ親子関係が災いして、いつまでたっても一人前の立派な「大人」になれない未熟な人間、ダメ人間としての「子供っぽい大人」を意味している。


 その裏面には、自分の中でいつまでも昔のトラウマに拘って、「大人である自分」が自由に「大人らしい」行動をすることの足を引っ張り、恐ろしい駄々を捏ねて邪魔をしてくる「内なる厄介物の子供」を何とかなだめすかしてコントロールできないものかという、「大人中心主義」の価値観が厳然と、不可疑のものとして存在している。


 僕はそんなことではこの思想はついにはどんな人の心も救えず、どんな子供の涙も贖えない単に嫌味で苦い「子供騙し」に終わってしまうだろうと思っている。結局、この思想の根幹には、それが闘っている児童虐待者(加害者)と同じ、「子供」というものへのとても浅はかな、そして非常にみにくい、抜きがたい「侮蔑」が共有されてしまっているに過ぎないからだ。


 何故、人間は「子供」のままであってはいけないのか?
 どうして、全ての「子供」は「大人」にならなければならないのか? 
 何故、常に「大人」が「子供」に対し「優越」するものであると信念されているのか?


 そこには、まさにこうした問いが絶望的に抜けているのである。


 それは、一見、「子供」を救うかに見えて、実は果てしなく絶望的に「子供」の端的にそこにあるがままの人格の尊厳や生命の優美を見損ない、見失っている自己欺瞞的な思想であると僕には思われてならないのである。


 そして、敢えて心を鬼にして、僕はこの「アダルトチルドレン」というお優しい思想の内に隠れた陰湿な毒やとても卑怯な冷たさを、厳格に批判し糾弾していかねばならない時期がそろそろきたのではないかと思うのだ。


 「アダルトチルドレン」という思想は、何も救わない。それは実は単なる意匠を変えた「幼児虐待」であり、そして、もっともみにくく、もっとも倒錯した、病的なモラルハラスメント、全ての人間、すなわち全ての子供に対する実に陰湿で根深いモラルハラスメントの究極の形であるのではないだろうか?

回る珈琲の渦

テーマ:

金魚鉢のなかに疑問符が泳ぎ
縞模様に轢かれた人体が馬跳びにはげむ

鈴鳴らす楽の音の転落のあと
耳しいた白い個室にものいわぬ音符が
聞こえない音楽を落書きしている

回る珈琲の渦
白い陶器に白い指をからめ
見つめよ 見つめよ
回る珈琲の渦

コトープ
コトープと
点滴する文字に
茶色い音素の顆粒を
明るい毒素の血球を
意味しない言語の蒸留を
読め 知るな 読め

目にみえる物音を
骨組の下の心音を
聞くな 数えろ 触れ

時が物みなのうわべにじりじりと燃え
いらだつ点滅を見せてくるレンズの下で
焦げ穴をあけるさまざまな照準

回る珈琲の渦
見つめろ 見つめろ
回る珈琲の渦


 いくせんの光の毛鉤〔けばり〕を詰め
 焚火をうちがわに秘め
 洋燈〔ランプ〕のようにあかるくなる濡れた爬虫類の卵の膚
 銀色につめたく汗を掻き 孵化のよかんに空白を身震い
 この黄光に明〔あか〕る粒子に電熱をつたえ

 細胞よ 細胞よ わななきメザメヨ

 夜露のビーズをぱちぱち鳴らし
 踊るレダ
 みどりのむすめ むすびめ
 ミシンの動きにつれて
 創世のうたを
 水のおもてに機織り綴るもの
 ほとばしる静電気
 まとわれる篝り星
 踊る悦楽のむすめ エウリュノメ

 肌もあらわに潤〔そぼ〕ちあらわれ
 時の夜のひとり舞台に笑い
 みどりの火花を咲き巡らせる海神のむすめ
 濡れ尖る岩の黒ぐろにピンクのすあし踝〔くるぶし〕を置き
 鳴らすものタンバリンの無音にあわせて
 聖エルモの岬に蒼白く鬼火の歌を織りながら
 迷う船路を渦へとまねく灯台守のむすめ

 青磁のデミタスのなかに轆轤する珈琲色の混沌の
 創造渦巻き〔ラシット・ハ・ギルグリム〕
 〈時〉の右回りの眩暈の咽喉元を過ぎ
 海嵐龍巻〔メールシュトレーム〕の漏斗を抜ければ
 夢幻〔まぼろ〕される わたし/おまえの体内に
 仮睡〔まどろみ〕の 白く空虚な宇宙がひろがる

 細胞よ 細胞よ メザメヨ
 脳をつくり 海を組織し 星と瞬く
 水の細胞よ ゲルの泡よ 煮えよ
 膨満する宇宙卵を弾け
 嵐神〔オフィオン〕の晩に
 目覚めようとするもの

 紫電洋燈〔プラズマランプ〕に胚珠を結び
 楕円球形の 真珠の〈容器〔クラテール〕〉に受胎される白夜の脈動
 すためき/吐きこぼれる ゼロの 呼気
 音もなく掠める熱 微々にふるえ
 冷える潮〔うしお〕へと青く辿られる血脈を
 溢れ よりとおくから盈ちよせる空虚なもの

 水の 砕ける微塵へと濤瀾する白紙〔タブラ・ラサ〕
 消えるかたちへと絶えず迫りあがり繰り返す崩れ波
 首の長い季節鳥の機影が
 空気の裾をめくって擦過するとき
 答えぬ 黙しゆく海の退却が潮騒う彼方
 とおく 意味の孤島を巡り
 海流山脈の 津波を険しくし
 聳えたつ水の青らみの峨々たる牙
 尖り尖り触れるものをみじんに砕く水の磨崖に囲まれ
 わたしの孤隻は
 すりぬけた魄の橋桁を白鳥座のように偽造の異界へと航る

 船の迷路を鬱へとまねく渡し守のむすめケタタマシク仕組み
 夜のなかで熱くなるあの場処が
 火屋〔ほや〕めいて点る
 しろい幽魂をゆらゆらひらひら
 赫〔あか〕い燭の花のありもせぬ蜜へと誘蛾しながら
 蝋涙がしろく濁りつつかたまる封鎖のうちがわで
 黄光が硝子のフロストを上気させる
 火/むしろ松明のように
 細胞核に点される星を掲げる曙のむすめ

 夜の肌寒い底にひとり起きていたわたしは
 赤い火影に濡れて遼かな窓に姿をあらわし
 書き物机の上でわたしを待っていた青磁のまるみを
 左右から両掌がやさしく抱擁〔つつ〕むとき
 冷めていた珈琲が手のなかで燠〔あたた〕まる
 光る 明やかに〈容器〔クラテール〕〉を燈し
 流れ星のように
 レダの銀の卵球に消えてゆくのは
 水銀〔メルクリウス〕のひとつぶの涙
 ちいさな わたしを身籠った真珠の時の素粒子が
 ゼロと虚数の精留の尽き果てるとき
 石〔ラピス〕のなかで甦るもの

 孵化のよかんに空白を身震い
 この黄光に明〔あか〕る粒子に電熱をつたえ
 燃える血のなかで 揺れているのは 火の
 ランプのように明るくなる濡れたやわらかなみずとりの卵の膚
 つめたく汗を掻く

 細胞よ 細胞よ メザメヨ 細胞よ。
 明るみに黙す陽溜まりを暮れやかに薄れゆき、
 向日葵の透き影にしんと澄み透る
 ペールブルーのセロファンを濾過して、
 褪めながら、冷夏を立つ着帽の人影を重ね、
 次第に厚やかに積層してゆくあなたの幻姿へと翳し、
 わたしは目眩さへと薄目する

 静やかに交わされる合図
 黙契のように輝やかに零れおちる歯列を煌〔きら〕めて
 あなたは後退を舞踏する。

 浅黒に陽炎う日に灼けた真夏のマスクのうしろに
 冷ややぎ底やかに遠まる奥深さへと
 泥む夕陽のようにまどろみを昏め
 ひとときに夜となる顔を退きながら
 あなたは去り
 きざはしの螺旋の階下
 ひっそりする白の踊り場に
 取り残されるわたし。

 わたしのdownstairs
 否、むしろ空虚なわたしのunderstandingに
 あなたはわたしを閉じ込める。

   * * *

 ひそめく夜の齢いを数え、
 わたしは欠けゆく月を冷たい痛みのように孕みもつ。

 《いないのね、あなたはいないの》

 歌うように繰り返すわたしのからだのなかに
 次第に引いてゆくあなたの青い血潮。
 何故、わたしは泣くのか、わたしにはわからない。

 わたしの閉じ籠もった矩形の抽斗めいた
 闇く静かな白夜の部屋。
 冷たい床には月光の円弧燈〔サークルライト〕が
 いつまでも欠けてゆかない。
 わたしは氷った時のうなじに触り、
 聞こえない脈を手繰ろうとする。

 迷うわたしの指が弱弱しく掻きむしる、
 恐らくはわたしの空っぽの胎のうわべから
 あなたのありもせぬからだを掻爬しようとして。

 《いないのね、あなたはいないの》

 言い聞かせるようにして繰り返すわたしの呟きが
 それなのに何処までもあなたへと追いすがる。
 あなたに届こうと伸びてゆく
 うわごとの猿臀〔えんび〕が空を掻く。

 あなたのアイコール/青い血潮。

 わたしが欲するのは、あなたを月足らずに殺すこと
 あなたが喪失われねばならない出血の痛み。
 わたしの体温はあなたの熱病に燃え魘されている。 
 火照る血液を空っぽにして、
 わたしは白蝋の冷たさに死に絶える時を求める。

 《いないのね、あなたはいないの》

 わたしは泣く、
 あなたへの殺意に頬を濡らしているのに、
 わたしは何故わたしが泣くのかがわからない。
 わからない。わたしが幸せなのか
 不幸なのかもわたしには定まらない。
 歌うようにわたしは繰り返す。
 わたしの胎のうえに手を置いて言い聞かせるように。

 《いないのね、あなたはいないの》

 あなたが生まれてくるはずはないのに、
 あなたがまるでそこにいるかのように歌い聞かせるわたし。
 身籠もり得ないあなたへの無力な怨みに満ち足りて、
 いつのまにか聖母へと似通ってゆくわたしの仕草を
 少し気味悪くはすかいに見下ろしながら、
 わたしは空虚で一杯になったわたしの受胎を愛撫し続ける。

 いないのに、あなたはいはしないのに、
 生まれてこないあなたがいなくなりもしない。

 わたしは窓辺から顔を上げ、
 わたしを照らす満月のおもてに
 あなたの笑顔を重ね見る。

 わたしは、
 あなたからのunderstandingの隔たりに遺棄されて
 初めからあなたを失いながら、けれど、
 あなたが黒く欠け落ちながら
 わたしのなかに増大するのを感じている。
 わたしの息を詰め、わたしの部屋/胎が
 蒼白い冷光〔ルミニセンス〕に盈ちてゆく。

 《あなたはいないのね、いないの》

 わたしはあなたを仰ぎ、
 喘ぎながらもう笑み始めている。
 あなたは遠くしらしらとひとり燃えながら
 微かなほほえみでわたしを肯〔うべな〕っている。
ねむりびと  

 夜な夜なの筆/舌を揺らし、
 みずからの開け/艶めきを冴え渡る冬気へと
 うっすり突き出しながら、
 肉質の赤い頽〔くず〕れのなかへと
 呑み込まれてゆく上下の脣

 手弱女の退〔さじ〕りまた吸着のアリメントを味わい
 わたしは食べる/無限を/忘却の土の無味を食む

 齧る蚕のように/葉切虫〔オトシブミ〕のように
 緑紙の寝具折り曲げ閉ざされる書物のように
 合歓木〔ねむのき〕のように左右を合わせ、
 密着/分離を通じて触れ止まる
 そのからだのうえで固く
 はりつめるわたしの肌合いが
 斜視のようにずれ/崩れ滑ってゆく。

   *  *  *

 あなたのシュプスタンス
 ねむりびとよ、
 わたしはあなたの大理石裸体の
 微かな呼吸〔いき〕の振盪に白い瘧りをうつされ、
 帯びる微熱のかたちとなるわたしを窺う

 わたしのアプストリュクシオン
 不可能な脱自〔エクスターズ〕の恍惚
 中空に一瞬むすぶかにみえる想像物の放心
 離れ・発たれたかにみえるわたしの抽象
 まだあなたを抱こうとするわたしの残像を
 あなたの空虚な陰部のまうえに翳そうとして。

 わたしのエンデュミオン
 わたしはあなたを(永遠の夜?)昏睡に溺れさせる
 黒い月光を惑う閨〔ねや〕の窓
 あなたを纏う蒼い繃帯のようにあなたを濡らす、
 あなたを触る/蝕むように、溢れるあなたを。

   *  *  *

 わたしは凝視める/消えるわたしを。
 あなたは在る、拡がるように
 白い浜のようにあなたを広げる

 わたしは青く引潮する
 この撤退、後ろ向きの贈与
 でも、わたしは何も与えない、残らない。

 あなたは現れる
 氷河のように底翳〔そこひ〕のように
 わたしを遮り、わたしから裸けられる
 耀く象牙色の肉体を横たえる眠りのうえにねむる
 まぶたのように顔を隠して。

 あなたを凝視めながら
 わたしは消える。

 あなたの白い盲いを広げながら、
 あなたに屈むわたしの姿は
 皮膚の鏡に射さないまま、
 その手前を空けてわたしは間遠になる

 癒える傷のように翳〔かす〕まなければならない。

 その痕〔あと〕の文字を炙り出すいつかには、
 あなたがわたしという愛撫の蒸発を
 あなたじしんのからだのかたちのように触れ、
 繰り返すだろう、あなたじしんの手で。

 手が空しさを摑むように
 わたしはあなたのうわべから消える
 消される。
 あなたの美肌〔びき〕に届くために。
 眼下いちめんをシリコンの花盛り
 薄らめく
 青闇の底を埋めて 制動する
 肋膜のスタビライズ
 静やかに息を平〔ひら〕め
 乗せる 
 淡紫色の庭球毬〔テニスボール〕の
 ぼやけ点く蛍火をころめかし
 迷宮の坂をrolligするもの

 隆起する岩丘の裾に光る水
 広がる 忘却の海づらの篝火
 スライディングする獣の眼
 条〔すじ〕を引き
 曲がりながら逃げ すりぬけよ
 走狗せよ 疾駆/病う赤い風
 煽り上げ 傾くバイクの尾灯に
 血液が燃えている。

   * * *

 みずうみは底翳〔そこひ〕をまんまんに湛え
 溢れる黒眩光を揺らがせて
 浸りくる暗渠にずぶり
 鈍めき沈下する夜景
 蒼白く充血し
 ひりり沸き立つ水の網膜/
  さざなみを手繰るサルベージの
 重い手ごたえのなかへと
 疲労のようにもういちど沈む夕陽
  /落星/眼球は鉛をぎっしり詰め沈殿を意志するとき
 黒い不知火が水下の都市を燃し消す
 煮凝〔にこごり〕のように
 水のうわべの無数のつぶれ目から
 朱血がにじみ出す
 虹霓〔こうげい〕
 見出すとき天に向かって白く
 みずちのすべらかな肌が鞘走り
 輝きいで 橋掛けするといつのまにか
 正午の白い虹彩が天頂に 刮 と見開く

 そびえたつ真昼の塔に灯り出る聖火
  /精液の潤び汚れた光に
   痛みの斑のように
 なお見えぬ同体のオブジェが
 白けたスクリーンの象牙の肌下に鬱血を疼かせて
 その埋没/みうしないのしるしを炙りだしている。

  * * *

 白濁する空がまどかに渦巻き
 取り戻そうとするわたしの
 見失われた眼の時刻を
 あなたは荒々しく把持しようと螺旋する。

 死んだ子供をもういちど分娩しようと
 醜くよじれる大気の軋み
 よぎる歪みのような母の顔をレリーフし、
 しりり角膜を裂いて亀裂が走る。

 のろまな今をもだえ、
 軟体動物のように透明に藻掻きながら、
 時間の腹部を劈〔さ〕き、
 見えぬ腸〔わた〕を引きずり出そうとして
 愚かなあなたの暴力が
 あなたの肩の筋肉ケーブルをプツンプツン切ってゆく。

 あなたは壊れる、
 醜悪な玩具類の狂いにまみれて、
 あなたはあなたの足許にガラガラと斃れる。
 わたしはあなたのまうえに荼毘を燃える。
 燃え上がる、
 コバルト炎の蓮華を咲き出で、
 熾〔さか〕る。

 蘇らない、あなたは、蘇ってはいけない。

 それでも、あなたは執拗な姦夫の摩擦熱に猛って、
 わたしの閉ざされた瞼を抉じ開けようとする
 鄙〔いや〕しい妖気のぶんばかりは
 生き残り/いきどおって、
 次の今の間に受けられている、
 生暖かい溜め息のように。
 詩が、その始まりのサーフボードに乗って、危うい均衡をとりながら滑り出すとき、砕け、泡沫となり、蒼い海となる語の、この引き裂かれるような崩壊感覚。始まろうとする出発――けれどもスターティング・ポイントじたいが駆け出しの一撃とともに踏み崩されるように、後方へと出発者を引きずり込もうとして、出発の不可能と化す出発のなかで喪われてしまう始点のこうした曖昧さ。この毀損。そこにもあの空虚な充溢がある。

 語の核の崩壊、放射能の詩。白夜の放射線の幻視のなかに、焦瘢〔こげあと〕めいて、廃墟のように立ちすくみ、停まる語の瓦礫。光に晒される、曝露〔さら〕された、消える光熱に。

 残留。その間で、白紙に充溢する空虚の、視えぬ痕跡がふるえ、《いつ》の問いとなり、詩の今を問う、奇妙な宙吊りのなかで。奇妙さへと蒸発した、或る別の時間のなかで。詩が復〔ふたた〕び形〔かた〕つ。読むことに熔ける表面のなかで。

 詩を読む、というより、詩へと瞬視〔アウゲンブリック〕する一瞥は、詩を始まりの熱さのなかに差し戻し、始まりへと復び始まる詩の運動を始まりのなかに定めようとする。この熱さのなかで、再び詩が見失われる。急速に冷えてゆくように。

 瘡〔かさ〕となって張りつめ、その喪失の傷を癒着させ隠すかのような語が、裏切りのように塞ぐ、始源への注視の底翳〔そこひ〕のように。目に視えぬもののあの次元が、現れることの後ろで復び黙す。わたしの盲いを越えて、彼方からわたしを見据える視線が瘡と痂〔かさぶた〕のマジックミラーを透かして、わたしに届いている。

 わたしの受動的となった消極のまなざし。

 他動へと委ねられた最も受身の注視のなかで、わたしもまた宙吊りとなる、何処からともない問いの空虚な谺のさなかで。

 詩がわたしを把握する、わたしが把握するのではなく。わたしを石化させる、詩からの、あの空ろな熱からの一瞥に停められて。わたしのなかに受胎される運動がある。狂おしくすためく、身をよじる語のポップコーンがわたしのなかで膨れる。

  *  *  *

 この空虚な充溢、存在と非在のあわいに疑問符の曖昧さとして裂けてゆく始源の陰唇に、おそらく、最初の異和、最初の齟齬〔ズレ〕を引き寄せつつ、存在とも非在ともいえないもの、どっちつかずの奇妙なもの、創造の意図せざる創造物、否、決して創造しえぬものが、何かの踏み外しのように現れ、その手前で、創造が畏怖し怯えるとき、この始まりの奇妙さのなかに侵入してくる外部、姿なき影の響きの気味悪い触れ来り、目に視えぬものへの闇黒の対面、そこにいる、そこに誰かがいる、もはや「ある」というのではなく、「いる」というほんの幽かな誤差のなかで、「ある」がそちらへと引き寄せられる、「ある」が蒼褪め、血の気が干上がるようにわたしから奪われつつある、希薄になってゆく、胸を騒がせる呼吸困難、この不安な気配のなかで、おそらくわたしも「居る」へと居始める、この居心地悪い無気味さのなかで。

 そしてわたしは在らしめられつつある。何故? わたしが総てを始めたはずなのに。わたしが「光あれ」と命じたはずなのに。この創造の動きのなかで、わたしを闇のなかからうべなうものがいる。

 わたしはそれを予測していなかった。或る重々しさとしてわたしへと纏わりつくそれ、この鈍重な手応えで創造に摩擦してくる、この、予測し得なかったのしかかりで、わたしの業〔わざ〕を重苦しく喘がせながら。

  *  *  *

 夭禍〔わざわい〕。目に視えぬ、何処にあるともつかぬ創痍、わたしの基底に穿ち開けられた、この起源の場処へと摩り切れた底翳/そこない。疼く、眼底に脈動する強迫。この起源への裂開から、傷のまなざしが視線を超えて届こうとする異様な遡及が、たちまち不可能の白夜を非-想起しつつ、呑み込まれて、わたしのいま・ここから、何処でもない非-場処へと流出してゆく。非現非在の、非宇宙へと血友病のように止まず流れ落ちてゆくわたしの白く透明な血。存在の宇宙が排除した非宇宙、夢魔と亡霊がすだくこの非根源。排除、すなわち存在が贈り与えられることの後ろで、存在が奪い取られること。

 掻爬。わたしは「これ」と呟く。けれども、この発語を毀損〔そこな〕いながら、この語の内部を抉り、掻き毟る掻爬が、この意識、この感覚的信憑を既に深く創〔きず〕つけている。この指示語が、誰にも何かを教えることのできないこの不能。この「これ」をひとつの愚かさとして抱え込むわたし。「これ」のなかに既に〈盲い〉が始まっていること。〈盲い〉――それは既に無限を指示すること、つまり指示の不可能性に突き当たることだ。

 「これ」はつるつるに滑って、場処を定めぬ。忽ち、「どれ」と問い返す闇黒の谺の鈍い響き声に曝され、この問いの展げる混沌のなかで、「これ」は、自分自身を見失い、自分自身の現前を干上がらせてしまっている。