2006年01月02日

池宮彰一郎 『四十七人の刺客』

テーマ:時代小説&伝奇ロマン
池宮 彰一郎
四十七人の刺客〈上

赤穂浪士たちによる吉良邸討ち入りの義挙を描いた「忠臣蔵」は、これまで無数の作家の手によって作品化されており、大筋のストーリーは、大抵の人も知っている。

その意味では、手垢がついた題材であり、後発になるほど、作品化するのが難しくなってくる。


そこで、池宮版忠臣蔵は、これまでの忠臣烈士の美談としてではなく、これを太平を享受する元禄期に起きた大謀略戦と見なし、その視点から、忠臣蔵を描き直している点に特徴がある。


吉良邸への襲撃を画する大石内蔵助率いる赤穂浪人たちと、それを阻止せんとする相手方の上杉陣営との虚々実々の駆け引きに緊迫感があり、そのテンションを保ったまま、クライマックスの討ち入りへとなだれ込んでいく。

吉良邸での戦闘シーンも、リアリティが感じられて良い。


現代風にいえば、赤穂浪士たちの討ち入り決行は、いわば、ビジネスでの事業プロジェクトの遂行に見立てることができる。

禄を失い、何の後ろ盾も持たない浪人集団が、この壮大な事業計画を如何にして成功させることができたのか?

そんな観点から読んでみれば、我々とは別世界の江戸時代の出来事である忠臣蔵も、何やら身近に感じられてくるから不思議である。

「忠臣蔵」のような使い古されたテーマも、それを料理する作者の腕次第で、装いも新たに蘇ることができるという見本のような作品であります。



切れ味: 可


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2005年07月15日

山田風太郎  『伊賀忍法帖』

テーマ:時代小説&伝奇ロマン
山田 風太郎
伊賀忍法帖

かつて一世を風靡した山田風太郎の忍法帖シリーズ。
度々、版元を変えて出版されたり、映画化されていることからも、このシリーズの人気が、いまだ根強いことがわかる。


この山風・忍法帖の世界にはまった人は、ほぼ全作を読まなければ気がすまなくなるだろう。
逆に、この忍法帖特有のアクの強さ、荒唐無稽さは、性の合わない人には、拒絶反応を起こさせるだろう。
読者の選別をはっきりするという点では、作風は全く違うが、『野獣死すべし 』でデビューした大藪春彦と共通しているように思う。


で、本作『伊賀忍法帖』である。
物語の舞台は戦国時代。
超人的な忍法を駆使する根来僧たちに、新妻を奪われた若き伊賀忍者、笛吹城太郎が、仇を討つために復讐に立ち上がる。
いたって単純なストーリーである。
が、その攻防戦が、とてつもなく面白いのだ。
特に、奈良の大仏殿炎上や、法隆寺での空中戦は、見物である。


脇を固める人物たちも、曲者揃いだ。
日本史上でも、トップクラスに入る悪人といえる戦国大名、松永久秀。
不気味な幻術師、果心居士。なお、この人物は、芥川龍之介や、司馬遼太郎も、短編小説のかたちで取り上げている。
新陰流剣術の開祖で、いまも剣聖と仰がれる上泉伊勢守。
その流儀の後継者で、無刀取りで知られる柳生石舟斎(漫画のバガボンドにも出てくる爺さん)。
時代劇で有名な伊賀忍者の惣領、服部半蔵。
茶の宗匠、千利休。
いずれも、歴史小説の主役を張れる個性派の面々ばかりで、こののキャラクターたちが絡んでくることで、物語のスケールをより一層大きくしている。

虚実ないまぜの、まさしくエンタテインメントの王道をゆく作品である。


この作品が発表されてから、40年強が経っているが、古色蒼然としたところが少しもないのは驚きである。
その映像的な描写は、かえって現在の方が、受け入れられやすいのではないだろうか。


だから、本作をはじめ、忍法帖シリーズは、幾度となく映画化されている。
映画監督の食指が動くのだろう。
しかし、映像化された作品は、原作を冒涜するがごとき、稚拙な出来栄えのものばかり。
成功したといえるものは、残念ながら見当たらない。



切れ味: 良





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2005年06月03日

夢枕獏 『陰陽師』

テーマ:時代小説&伝奇ロマン
著者: 夢枕 獏
タイトル: 陰陽師(おんみょうじ)

『陰陽師』シリーズの魅力は、心地のよいマンネリズムだろう。
この連作短編は、ほぼ例外なく、安倍晴明の屋敷で、二人の男が酒を酌み交わしているシーンから始まる。
一人は、いうまでもなく陰陽師の安倍晴明。
いま一人は、晴明の盟友ともいうべき源博雅。
屋敷の濡れ縁に座った、二人の膝元には、酒器が置かれている。
目の前に広がる庭には、季節の草花が、ところ狭しと吹き乱れている。
で、著者の言葉を借りると、二人は――。


ほろほろと酒を飲んでいる。


こっちまで、ほろ酔い気分になる描写である。


酒を含みつつ交わされる二人の会話は、とりとめがない。
平安の都に流布する噂話の類から、ちょっとした人生哲学まで。
が、最終的には、妖しの話へとゆきつく。
そして、事態解決に乗り出す為、どちらからともなく声をかけあうのだ。
ここも、毎度おなじみのセリフになっている。


「ゆこう」
「ゆこう」
そういうことになった。


こうして、話が転がっていくのだが、このワンパターン的な展開を、むろん著者は、確信犯的にやっている。
そして、読者も、いつも通りの物語の展開を愉しんでいるのだ。
シリーズ物のマンネリ化は、本来、もっとも危惧すべきことなのだが、著者は、それを逆手にとっている。
そこが、この『陰陽師』シリーズの類稀なところだ。


ところで、このシリーズには、闇に巣食うさまざまな魔物が登場する。
古代から中世の頃に編まれた説話集などを材料にしているらしい。
それに、著者独自の味付けを存分に施して、なかなかの料理に仕上げている。


かつて芥川龍之介も、こうした説話集をもとに、芸術性の高い短編を多数残した。
夢枕獏は、エンタメ作家なので、芸術性ではなく、娯楽性を十二分に注ぎ込んでいる。


四六時中、光と音が絶えることのない現代と違い、千年も昔の平安時代では、夜ともなれば、静寂の闇が、あたりを支配していた。
そこには、魔物の群れが跳梁跋扈しているように、当時の人には見えたに違いない。


闇に対する根源的な恐怖が、人の想像力を掻き立てたことを思えば、現代人の方が、もしかしたら、想像力が貧困になっているのかもしれない。



切れ味: 可






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2005年05月21日

司馬遼太郎 『風神の門』

テーマ:時代小説&伝奇ロマン
著者: 司馬 遼太郎
タイトル: 風神の門 (上巻)

談で有名な真田十勇士の一人、霧隠才蔵を主人公にした伝奇時代小説。


組織に忠誠を誓い、組織の中に埋没することをよしとしない伊賀忍者、霧隠才蔵。
才蔵は、己の磨き上げた忍びの術のみを信じ、その技術をもって、世間を渡っていく忍者である。
奇しき縁から、徳川家と一触即発にある大阪方の浪人、真田幸村に雇われた才蔵は、甲賀の猿飛佐助とともに、徳川家康の暗殺行に向かう。


見所は、徳川家康の護衛役、風魔獅子王院との対決。
この敵役のキャラが際立っている。
風魔獅子王院は、彼一人で、城一つを攻め落とすという伝説の忍者。
そして、獅子王院配下の風魔一族は、闇夜での火攻めを得意とする忍者集団。
この風魔一族との火遁の術合戦、獅子王院との一騎討ちの攻防戦は、映像的で、見応え十分。


司馬遼太郎は、『梟の城』もそうだったけれど、伝奇的色彩を帯びた初期の頃の作品のほうが面白かったように思う。



切れ味: 可



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2005年05月12日

藤沢周平 『決闘の辻』

テーマ:時代小説&伝奇ロマン
著者: 藤沢 周平
タイトル: 決闘の辻―藤沢版新剣客伝

藤沢周平には、『隠し剣孤影抄』の隠し剣シリーズ、『用心棒日月抄』シリーズなど、剣客小説と呼べる作品群がある。
しかし、実在した剣客を登場させた作品は、本書だけである。
五つの異なる短編を集めた『決闘の辻』には、宮本武蔵、小野忠明、柳生宗矩など、日本の武術史を代表する剣客たちが登場する。


冒頭の『ニ天の窟』は、武蔵の晩年を描いた短編。
老境を迎え、生涯の総決算に、己の到達した境地を『五輪書』と名づけて、執筆しようとしていた武蔵。
そんな彼の前に、まるで、若い時分の己を彷彿とさせる剽悍な兵法者が現われる。
立ち合いに応じた武蔵は、思わぬ不覚をとってしまう。
生涯不敗の神話を保持するために武蔵は、姦計を用いて、その兵法者を討ち果たす。
剣聖・武蔵とは対極にある、老醜の極みといっていい武蔵が描かれている。


武蔵と同時代の人で、将軍兵法指南役の柳生宗矩を描いた『夜明けの月影』も面白い。
将軍指南役といっても、それだけでは、単なる剣術のお師匠さんにすぎない。
宗矩の父、柳生石舟斎は、天下に知られた名人であったが、太閤検地で、隠し田を密告されて、柳生の領地から追放されるという憂き目に遭った。
身近で、それを、まざまざと垣間見た宗矩は、諸国流浪の末、やっと、徳川家に、小身旗本として抱えてもらったものの、不安であった。
己の立場が、いかに浮き草にすぎないかを知悉していたから。
戦乱の収まった徳川治世下で、武士たちの殺伐とした鋭気を静め、統治しやすくするためにも、剣術を普及させることが有効であること、すなわち治世の剣たりえることを、将軍家はじめ、幕閣の要人、ひいては満天下に知らしめたい。
それが、宗矩の野心であった。


大阪の陣が終結した後、宗矩に好機が訪れる。
幕臣の旗本、坂崎出羽守の謀反を、大騒擾になる前に取り鎮めることに手腕を発揮した宗矩は、以後、剣術指南役としてだけではなく、幕政にも参加する政治家としての立場も強めていくことになった。
しかし、出世街道に乗った宗矩の前に、取り潰された坂崎家の家臣、小関八十郎が現われる。


騒動を静めるのが目的で、坂崎家の取り潰し自体は、宗矩の意図するところではなかった。
しかし、結果として、それに加担する役を担ったように、よそ目には映った。
浪人者となった小関の襲撃は、坂崎家の取り潰しから二十近く経つ現在までに、二度あった。
逆恨みなのだが、事情が込み入っているたげに、宗矩も対処に苦慮する。
しかも、小関は尋常の遣い手ではなかった。
襲撃の度に、宗矩は、なんとか危難を回避したきた。
だが、子息の友矩が、小関に斬られて、重傷を負わされるに及んで、二十年来の確執にピリオドを打つべく、真剣で立ち合うことに応ずる。
この殺陣の描写は、当事者の息遣いが、直に伝わってくるような臨場感がある。

柳生宗矩の人生を、小関八十郎との因縁を絡めて描いた本作は、政治家であることと、兵法者であることとの狭間で生きた一人の人間の苦悩を描いて秀逸である。



切れ味: 可











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2005年04月27日

柴田錬三郎 『決闘者宮本武蔵』

テーマ:時代小説&伝奇ロマン

柴田 錬三郎

宮本武蔵―決闘者〈1〉

戦後の時代小説における最大のヒーロー、眠狂四郎を生み出した柴田錬三郎の”柴錬版武蔵”は、一般に流布している宮本武蔵のイメージを創り上げた、吉川栄治の武蔵像とは、全く異なる。

人気漫画『バガポンド』の原作にもなっている吉川版武蔵は悩める人だ。野獣のごとき猛々しさを、剣の修行によって克服し、精神の浄化を求めて、ひたすら彷徨を続ける。社会的な地位も名誉も女も、修行の妨げになると退けるミスターストイックである。

柴錬版武蔵は、そんな剣の精神がどうとか、眠くなることは一切いわない。

目的はただ一つ。強敵を求めて、決闘を挑み、ひたすら勝ち続けることのみ。うだうだと説教を垂れない分、むしろ小気味よい。

とにかく物語の最初から最後まで斬り合いのオンパレードだ。夜盗、吉岡一門、海賊、鎖鎌、槍、棒術、忍者に柳生一門、そして佐々木小次郎と、一体何人殺したんだというぐらいに、斬って斬って斬りまくる。これだけ殺陣の描写の多い小説も、あまりないと思うよ。

柴錬版武蔵は、勝つためには、手段は選ばず、卑怯なだまし討ちも、兵法であるとして躊躇しない非情に徹した武芸者であったが、宿敵である佐々木小次郎に勝った後、養子の伊織と立ち合い、生涯ただ一度の老婆心を起こしたために、伊織の木剣を頭部に受ける破目になる。そして命はとりとめたものの以前とは別人のような廃人になってしまうという皮肉な結末で終わっている。

皮肉屋の柴錬のことだから、吉川栄治の美化された武蔵像に飽き足らなかったに違いない。きっと、唇をへの字に歪めながら、人と人が斬りあう極限状況を数限りなく切り抜けてきた武蔵が、吉川栄治の描くような悩めるインテリのわけがない。俺ならこう書くと毒づきながら、執筆したんじゃないかと思う。

切れ味: 良


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