- 黒野 耐
- 「戦争学」概論
日本人の脳裏には、戦前、旧軍部の暴走が、戦争の惨禍を招いたという苦い経験が刷り込まれている。
だから、軍隊に対して、極度のアレルギー反応を示す人が多いのではないだろうか。
が、著者によれば、旧軍部による暴走は、世界史でも極めて特殊な例であるという。
そして、ほとんどの場合、愚かな戦争が起きるのは、愚昧な政治家によるものであると強調している。
まさに、『戦争論』の著者、クラウゼヴィッツが云うところの、「戦争とは、政治におけるとは異なる手段をもってする政治の継続に他ならない」というわけだ。
逆説的であるが、将来にわたって、これまで同様、平和を享受したいのであれば、そして、戦争になる危険性を未然に抑止したいのであれば、戦争や軍事の性質について知ることが肝要なのかもしれない。
欧米の大学には、戦争学や軍事学の講座があるので、国防に対する理解が、かなり一般に浸透しているらしい。
まあ、著者が、戦争や軍事について、もっと知るべきであると強調するのは、元自衛官出身というキャリアを考えれば、当たり前ともいえるが。
本書は、その戦争学、軍事学の入門書になっております。
国民の一人一人が、戦争について知ることが、本当に戦争の抑止効果をもたらすのかどうかは、何ともいえないが、国家がとるべき外交や安全保障についての基本的理解や、昨今の不穏な世界情勢の背景にあるものを知るうえで、読んで損はないと思う。
著者は、本書全体を通して、近現代の戦争を、三つの視点から俯瞰している。
本書から文章を引用すると――
第一の視点としては、欧米では平戦両時を通して大戦略の基礎として普遍的な考え方となっている地政学の視座から見ていきたい。地政学によって、地球という舞台の上で、同時進行する国際関係を、地理的概念を基礎に全体的に掴むことが大切である。
第二の視点として、「政治」と戦争、戦争における「政治」と「軍事」の関係を取り上げる。戦争を政戦略的レベルの問題に焦点をあてて見ていくことで、シビリアン・コントロールとは、「政治」が「軍事」に優先することであり、政治指導者が、その時々の戦争を正しく理解し、正しい判断を下すことが、基本であることを理解できるようになる。
第三の視点としては、これまでの時代を画した戦争の中心的思想を見出し、時代の変化とともにそうした思想が、どう変化していったかを見ていく。絶対王制時代の代表的な戦争として、プロシャのフリードリヒ大王の制限戦争からはじめ、その戦争を大きく変えたナポレオン戦争、その教訓から『戦争論』を書き上げたクラウゼヴィッツの思想、その思想にもとづいて戦われた第一次世界大戦、この戦争の悲観から生まれたリデルハートの思想、……大国間の戦争を抑止した核戦略と、その間隙を縫って戦われたゲリラ戦と局地制限戦争、……9.11テロ事件によってはじまった新しいテロ戦争、その延長線上に生起したアフガニスタン戦争とイラク戦争を考える。
というこで、全体的にバランスよくまとまっており、新書ということもあって、入門書としては、最適かもしれません。
切れ味: 可
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