2006年05月08日

新野 剛志  『八月のマルクス』

テーマ:ミステリー&ハードボイルド
新野 剛志
八月のマルクス

江戸川乱歩賞受賞作のハードボイルドミステリー。

苦い過去を持った主人公の一人称ハードボイルド小説は、それこそ、手垢がつくほどに書き尽くされている。

しかも、このジャンルの読み手は、熱狂的ともいえる愛好者が多い。

だから、よほど、物語に意外性があるか、文体が新鮮でなければ、支持されるのは難しい。

特に、新人作家にとっては、相当に高い壁だ。

乱歩賞受賞作ではあるものの、この作品も、そのハードルは越えられなかったというのが実感だ。

原寮は例外中の例外なのだろう。


切れ味: 不可


お勧めの関連書籍

桐野 夏生

顔に降りかかる雨

真保 裕一

連鎖

池井戸 潤

果つる底なき

原 りょう

そして夜は甦る

AD
いいね!した人  |  リブログ(0)
2005年12月02日

稲見一良 『ダブルオー・バック』 

テーマ:ミステリー&ハードボイルド
稲見 一良
ダブルオー・バック

そのウインチェスター・M12を手にした者は、必ず何かの事件に巻き込まれる。

そんな魔性の銃と、奇しき巡りあわせで、それを手にした男たちの生き様を描いたオムニバス形式の連作短編集。


四つの短編が収められているが、共通しているのは、そこに登場する男たちの生き方に拘るスタイルの堅持である。

人生の何に対して、頑ななまでに拘るかは、人によって異なるだろう。

他人から見れば、何でそんなことに拘るのか、分からなかったりする。

が、この静かで、誇り高い自己主張のスタイルなくして、ハードボイルド小説は、成立しない。

そして、そのスタイルを貫くうえで、重要なアイテムになっているのか゜、この小説では、銃なのである。


どの短編も秀逸であるが、特に「斧」は、絶品です。

俗世間との関係を絶って、一人、山に籠り、猟犬と銃を相棒にして、猟生活を営む男のもとに、喘息持ちでひ弱な息子が訪ねてくる。

久しぶりの父子の邂逅の後、息子は、山小屋で、父と寝起きを共にしながら、都会で生活していたのでは、身に付けることのできない、サバイバルの術を学んでいく。

そして、息子の下山の日、思わぬ災難が二人に襲い掛かる。


ということで、未読の人で、関心を持った方は、是非とも本を読んでみてくださいな。

なんだか、アメリカの文豪ヘミングウェイの初期の頃の短編を思わせるような男の世界であります。


切れ味: 良


お勧めの関連書籍

稲見 一良

ダック・コール

稲見 一良

セント・メリーのリボン

レイモンド・チャンドラー, 清水 俊二

長いお別れ

AD
いいね!した人  |  リブログ(0)
2005年09月11日

雫井脩介 『犯人に告ぐ』

テーマ:ミステリー&ハードボイルド
雫井 脩介
犯人に告ぐ

世間を賑わせるセンセーショナルな事件の発生を渇望しているのが、マスメディアの、いわば宿命。
猟奇殺人事件などは、その飢餓感を満たす恰好の餌食となる。


この作品では、事件を巡って、他社を出し抜こうとする大手テレビ局の、報道の自由を建前にした、しかし実際には、事件の被害者たちのことなど、なんら顧慮することのない醜悪な報道合戦も見所になっている。


幼児を誘拐して後、殺害する事件が相次いで発生。
事件の捜査を指揮する巻島は、全国放送を流すテレビ局の報道番組に毎回出演し、犯人に呼びかける。


前例のない公開捜査による警察と、顔の見えない犯人との緊迫したやりとり。
他社を少しでも出し抜いて、視聴率を獲ようと狂奔する報道機関。
そして、世間は、お茶の間のテレビを通じて、繰り広げられる犯罪劇を観て、総評論家と化す。
それぞれの勝手な思惑が交錯する。
更に、主導権を巡る警察組織内の軋轢。
情報を、特定の報道機関に流している警察内部者の存在など――錯綜とした事情が絡んでくる。


そうした警察組織内部の派閥抗争の渦中にあって、現場の指揮をとりながらも、一人超然としている巻島の翳りのあるキャラクター像が、作品に厚味を加えている。


劇場型犯罪を扱っている点では、宮部みゆき『模倣犯 』に、やや構図が似ているが、面白さでは、断然、この小説の方が上ではないかと思う。

また、警察内部の抗争を扱っている小説としても、大沢在昌『新宿鮫』、高村薫『マークスの山』、横山秀夫『陰の季節』などが、有名であるが、それらの諸作と較べても、遜色はない。


雫井脩介は、作品数が少ないが、一作ごとに、出来がよくなってきている。

前作の『火の粉 』で、ようやく一皮剥け、本作で、一気にブレイクしたが、初期の『栄光一途 』などの、コミカルな作品も捨てたものではない。


切れ味: 良


お勧めの関連書籍

宮部 みゆき

模倣犯〈上〉

雫井 脩介

栄光一途

雫井 脩介

火の粉

AD
いいね!した人  |  リブログ(0)
2005年09月01日

 福井晴敏 『亡国のイージス』

テーマ:ミステリー&ハードボイルド
福井 晴敏
亡国のイージス

海上自衛隊護衛艦いそかぜの叛乱を巡る、こってりと熱い人間ドラマ。


北朝鮮の破壊工作員と、それに呼応する艦内の乗組員らによって占拠されたミサイル護衛艦いそかぜ。
護衛艦に搭載された弾道ミサイルは、首都圏に標準が設定される。


艦内に閉じ込められた形になった先任伍長の仙石は、同乗しているスリーパー(が誰であるかも見所である)と共に、護衛艦の指揮権を奪還すべく、テロリストたちに立ち向かう。


定評のある戦闘描写の冴えは、たしかに迫力がある。
敵役の女性テロリストの超人ぶりもなかなかだ。
首謀者の一人、ヨンファが、ラスト近くで、知らずに演じてしまうピエロ的な役回りも、悲劇的かつ喜劇的でいい。
また、護衛艦のクーデターに、右往左往する日本政府の対応は、実際にさもありなんと思わせる臨場感がある。


こんなスケールの大きい活劇小説を書ける日本人作家は、いままで見当たらなかったことを考えれば、日本の冒険小説の記念碑的作品であることは間違いないだろう。


しかしである。
長い。
あまりにも長すぎる。
その分、読み応えがあるとも言えるかもしれないが、少々うんざりモード。
福井晴敏が、小説を書くうえで影響を受けたという高村薫ほどではないけれど。
まあ、乱歩賞受賞作の『Twelve Y.O』よりは、大分読みやすくはなっているが。


それと、『川の深さは』『Twelve Y.O』『亡国のイージス』と、いずれも似たような舞台背景はともかくとして、キャラクターまで、どれも似たような人物たちが登場してくると、さすがに、「またか」と思ってしまうのは致し方ないだろう。


ついでに、上映中の映画も気になる。

仙石伍長役が、真田というのが、いまいちピンとこないのだが。

切れ味: 良


お勧めの関連書籍

福井 晴敏

川の深さは

福井 晴敏

Twelve Y.O.

別冊宝島編集部

裸の自衛隊

いいね!した人  |  リブログ(0)
2005年08月04日

大沢在昌 『毒猿――新宿鮫Ⅱ』

テーマ:ミステリー&ハードボイルド
大沢 在昌
毒猿―新宿鮫〈2〉

新宿鮫 』の一作目に続いて、第二弾『毒猿』を再読。


ド派手度およびに面白度は、シリーズ中で随一。
その最大の要因は、鮫島警部が追う台湾人の殺し屋、通称「毒猿」の圧倒的な存在感だ。


台湾の特殊部隊の元精鋭隊員にして、暗殺を請け負う一匹狼の殺し屋。
殺人現場に、木彫りの猿面を置いていくことから、「毒猿」と名づけられている。
その「毒猿」が、ある目的をもって、密かに新宿の街に潜伏――。


感情を見せず、ほとんど喋らない寡黙にして、ストイックな殺し屋「毒猿」のキャラクターは、とても魅力的だ。
敵役であるにも関わらず、完全に主人公の鮫島を喰ってしまっている。
まあ、そういう風に、著者が意図したのでもあろうが、それが見事に効を奏している。


この作品を頂点にして、それ以後のシリーズ作品は、一定の質を保っているとはいえ、次第にテンションが低下している。
これも、シリーズ化につきもののマンネリズムの宿業であるから仕方がないともいえるのだが。


切れ味: 良 


お勧めの関連書籍

吾妻 博勝

新宿歌舞伎町 マフィアの棲む街

大沢 在昌

北の狩人

いいね!した人  |  リブログ(0)
2005年07月29日

 大沢在昌 『新宿鮫』

テーマ:ミステリー&ハードボイルド
大沢 在昌
新宿鮫

この作品が、出版されてから、すでに十五年が経過している。
が、今読んでも、古臭さは、さほど感じられず、かつ再読にも関わらず、愉しめた。


この作品が、大ヒットした理由はいろいろ挙げられるだろう。
タイトルのインパクト、活き活きとした街の風俗描写、映画を観ているようなスピーディな場面転換、リアルな会話の妙などなど。


が、最大の要因は、やはり主人公の鮫島警部をはじめとする登場人物たちの造型にあると思う。


警察組織の中枢を担うキャリア組の幹部候補生からドロップアウトし、現在は、組織の末端にある所轄署の一捜査員である鮫島頚部。
鮫島は、過去に起きたある事件をきっかけに、キャリア組から外され、組織内で孤立し、常に単独捜査をせざるを得ない。
その境遇設定は、いまでも新鮮味を失ってはいない。
また、恋人の晶は、ハードロックのシンガーという設定も意外性がある。
他にも、「マンジュウ」と陰口を叩かれている上司の桃井や、鮫島が追っている改造銃の製造職人の木津、いい歳をして、刑事のコスプレにはまっているオタクなど、どれ一人をとっても、作り物めいてはない、確かな存在感のあるキャラクターたちばかりだ


この作品のストーリーは、直線的で、別に凝ってはいない。
ストーリー自体よりも、こうした個性派俳優ともいうべき登場人物たちの存在感こそが、この作品の醍醐味だと思う。


切れ味: 可


お勧めの関連書籍

馳 星周

不夜城

梁 石日

夜の河を渡れ

柴田 よしき

RIKO―女神(ヴィーナス)の永遠

いいね!した人  |  リブログ(0)
2005年07月13日

大藪春彦  『野獣死すべし』

テーマ:ミステリー&ハードボイルド
大薮 春彦
野獣死すべし

大藪春彦の作品には、『蘇る金狼』『汚れた英雄』『傭兵たちの挽歌』など、著名な作品が多々ある。
しかし、デビュー作の『野獣死すべし』を越える作品は、遂に出なかった。
それほどに、『野獣死すべし』のインパクトは強い。


それは、ひとえに著者自身のバックポーンが、全て、この作品と、主人公の伊達邦彦の中に、投影されているからだと思う。
『野獣死すべし』は、著者の自伝的要素も含んだフィクションなのだ。


この小説の主人公、伊達邦彦を始め、大藪作品のヒーローたちは、いずれも、単独で行動する一匹狼である。


彼らは、自由の手足を縛ろうとする社会の秩序や法律を嘲笑う。

管理された社会に飼い慣らされることを、徹底的に拒否する。
そのために、常に、社会の支配層と戦い続けねばならない。


どの作品の主人公にも、頼りになるのは、己自身以外にはないという深い自覚がある。
外見の優雅で繊細なポーズと、内面のふてぶてしいまでの図太さ。
闘争時はもちろん、享楽に耽っている時でさえ、己自身に課したスタイルからは外れることのないストイシズム。


どの作品もワンパターンだと酷評する向きもあるけれど、大藪春彦は、一度はまってしまうと、中毒になってしまう劇薬である。

未読の方は、一度お召しになってはいかが?


それにしても伊達邦彦は、カッコよすぎるぞ。

その十分の一でも、お裾分けしてくれたらな~と思ってしまう。


切れ味: 良


お勧めの関連書籍

ダシール・ハメット, 田中 西二郎

血の収穫

船戸 与一

山猫の夏

馳 星周

不夜城

大薮 春彦

血の来訪者



いいね!した人  |  リブログ(0)
2005年06月08日

森村誠一 『人間の証明』

テーマ:ミステリー&ハードボイルド
著者: 森村 誠一
タイトル: 人間の証明

昨年、時代背景のシチュエーションを変えて、テレビでドラマ化されていた。


松本清張の『ゼロの焦点』、『砂の器』の系譜に属するミステリーである。
つまり、過去に置き捨ててきた筈の因縁が、現在に跳ね返ってくるという設定が、犯罪の引き金になっている事だ。


この推理小説においては、謎解き自体は、大して重要ではない。
殺人事件の犯人は、物語の早い段階で、すぐに特定できてしまう。
ところが、状況証拠は、限りなく黒なのだが、物的証拠となる決め手がない。
己の保身のためには、肉親の殺害さえ辞さない冷血な犯人を、任意同行の取調べで、いかに自供させるか。
刑事と犯人の緊迫感あふれる取調室での攻防が、この物語の最大の見所である。
本書のタイトルも、これと関係している。


この作品は、推理小説でありながら、同時に、骨太な人間ドラマに仕上がっている。
麦わら帽子、西条八十の詩集など、謎解きのヒントとなる小道具の使い方も上手い。
そして、ラストシーンの余韻は忘れ難い。
森村誠一の代表作であることは間違いない。


残念なのは、この作品をピークにして、以後、発表される作品の質が、下降線の一途を辿っていったことである。


切れ味: 良


お勧めの関連書籍

松本 清張

砂の器

森村 誠一

白の十字架

いいね!した人  |  リブログ(0)
2005年06月02日

 宮部みゆき 『模倣犯』

テーマ:ミステリー&ハードボイルド
著者: 宮部 みゆき
タイトル: 模倣犯〈上

この小説は、絶対悪の化身のごとき犯罪者が引き起こす連続殺人事件を軸にして展開されます。


他人を、恐怖と絶望のどん底に突き落とし、最後には死の苦痛を与えること、そして、世間を欺くことに酔い痴れる狂気の犯罪者「ピース」。
冷酷無情の性向と、狡猾極まる頭脳を持った「ピース」の犠牲者となった遺族や、関係者たちは、いかにして、この犯罪者に立ち向かうのか。


ということで、救いのない物語が、上下二巻にわたって、延々と続きます。


ラスト近く、テレビの報道番組の特番での、フリーランス・ライターと、「ピース」の論戦は、この小説の最大の見せ場のはずでした。
ところが、あれほど怜悧な犯人が、相手の挑発に乗せられて、我を失い、呆気なく自滅。
これには、正直いって拍子抜けしてしまいました。
それまで、長々と物語を書き進めていたのに、なぜか肝心の箇所の書き込みが足りなかったように思われます。
名作『火車 』と較べて、ラストの詰めの甘さが、惜しまれます。


なお、この小説は、映画化もされました。
原作を冒涜しているかのごとき、最悪の映画でした。
原作者である宮部氏の心中は、察するに余りあるものがあります。


切れ味: 可


お勧めの関連書籍

雫井 脩介

犯人に告ぐ

いいね!した人  |  リブログ(0)
2005年05月22日

雫井脩介 『火の粉』

テーマ:ミステリー&ハードボイルド
著者: 雫井 脩介
タイトル: 火の粉

ごく平凡な家庭を営む一家の隣に引っ越してきた住人は、一見、「底抜けの」という形容詞がつきそうなほどの善人。
ところが、その本性は、狂気そのものの異常人格者。
表向きの善意とは裏腹に、隠微な悪意が、次第に一家の日常生活を蝕んでいく。


この隣人、はっきりいって怖いです。
こんなサイコ野郎が、隣りに引っ越してきたら、とんだ災難というもんです。
まさに、触れれば火傷をする「火の粉」そのもの。


栄光一途 』のような手軽なミステリーとは異なる、クライムノベルに仕上がっている。



ただ、物語の進行が、なかば予定調和的なので、意外性に欠けるのが欠点。
しかしながら、映像的な描写と、場面展開が早いので、飽きることはない。
まるで、ハリウッドのサスペンス映画を観ている気分に浸れる。


それから、物語のテーマ、雰囲気などに、奥田英郎の『邪魔』と共通するものが感じられた。
すなわち、幸せで平凡な日常生活など、砂上の楼閣に過ぎず、ちょっとしたきっかけ一つで、もろくも崩壊してしまうという怖さである。


それにしても、雪見の亭主は、いまだ定職のない身のくせに、やたら態度がでかくて、雪見への思いやりにも欠けている。
その無神経さに、読んでいて腹が立つほどだ。
――と、思った時点で、著者の掌中にのせられているのであった。


切れ味: 可


お勧めの関連書籍

貴志 祐介

黒い家

奥田 英朗

邪魔〈上〉

いいね!した人  |  リブログ(0)

AD

ブログをはじめる

たくさんの芸能人・有名人が
書いているAmebaブログを
無料で簡単にはじめることができます。

公式トップブロガーへ応募

多くの方にご紹介したいブログを
執筆する方を「公式トップブロガー」
として認定しております。

芸能人・有名人ブログを開設

Amebaブログでは、芸能人・有名人ブログを
ご希望される著名人の方/事務所様を
随時募集しております。