昨年11月ごろに、「帰ってきたウルトラマン」の第31話~第34話の
リアルタイム時に「11月放送」だったために「11月の傑作群」と呼ばれた作品群の
話をさせていただきました。
その中で、「宇宙人と言う理由で迫害を加える」人々の物語であった
第33話「怪獣使いと少年」のことを連想させる事件が本日発覚しました。
それは、いずれも「福島県」というだけで起きたいわれのない「差別」が招いた
事件であることと、
それが、「同胞」である日本人が仕出かしたことだと。
まず、一つ目。
福島から被災したため、千葉の親戚宅に避難してきた小学生が、
避難先の小学校の同級生から「放射能が移る」と言われたと。
次は、
「福島県出身」の神奈川県川崎市市長が、「郷土」である福島県のごみを受け入れようと
したら、婦人層を中心に「子供を放射能汚染させる気か」と抗議したとのこと。
実際は、「放射性物質が付着したものは、他地域に持ち出すことができない」のにも関わらず。
後者は、特に「2ちゃんねる」で物議を醸していたらしく、福島第一原発を巡る無責任な発言と
同じく「匿名性のある」ネット社会を利用した悪質なものと言っていいでしょう。
「怪獣使いと少年」の脚本を担当したのは、当時「差別対象」になっていた沖縄出身で、
「帰ってきたウルトラマン」のメインライターであった上原正三氏です。
上原氏がこのことをどのように思われているのかと考えてしまいます。
「怪獣使いと少年」とあまりにもやっていることが似ているだけに、
情けなく思えてしまいます。
「フィクション」でやっていたことが、実は「起こりえることを描いていた」ということになりますので。
「怪獣使いと少年」は、北海道から出稼ぎに出たまま、帰ってこない父を捜しに来た少年・佐久間良が、
「地球の気象調査」に来た(侵略ではない)メイツ星人に助けられるというところから始まります。
しかし、メイツ星人は「地球の汚れた大気のため」、体が蝕まれてしまい、良少年は彼を匿うことにします。
その結果、町の人々から「宇宙人ではないか」と不振がられて、差別と迫害を受けるのです。
その理由が「宇宙人だから、人間を襲う」という短絡的な発想のために。
実際、メイツ星人は「何のゆかりもない」地球人の少年を命を助けたのです。しかも、怪獣ムルチを封印しているのです。
「侵略するためだったら」、そんなことをするのかという感じになりますが。
無論、登場人物たちは、帰ってきたウルトラマンこと主人公・郷秀樹以外はその経緯を知らないのですが。
とは言え、「自分たちの思い込み」で良少年とメイツ星人を追い詰めた結果が、
「メイツ星人の死」を引き金とする「怪獣・ムルチの復活」でした。
「やるきれなさ」を抱えながら、郷はウルトラマンに変身し、ムルチと戦います。
ムルチは倒されるものの、死んだ者が生き返ることはありません……。
地球人は、自分たちが見放した同胞の少年の命を助け、怪獣を封印してくれた
「恩人」を殺したのです。
自分の一方的な差別によって。
上原氏が「差別は無理解によって起きる」という考え方があったらしく、
それに基づいて脚本を書かれたと思います。
わざわざこのエピソードを再び話題にしたのは、
実は、ロケ地が円谷プロのおひざ元である東京世田谷・祖師谷大蔵と今回問題になった「川崎市」だからです。
当時、高度経済成長期の「負の遺産」である「公害」が社会的問題になっており、
京浜工業地帯をわざわざ舞台に選んだのも、その辺りの伏線のように思えます。
実際、良少年のセリフとして、「(公害で汚染されて)地球はそのうち住めなくなる」から、「メイツ星に行くんだ」というセリフが出てきます。
「(沖縄問題を主とした)差別」と「公害問題」を取り込んだために、
「テーマが分裂している」という指摘もありますが、しかしながら「勝利のカタルシス」が感じられない
エピソードと言うことには、異論はないでしょう。
まさか、第33話のロケ地になった川崎市で「メイツ星人を迫害した」市民が
「現実に出てくる」とは……。
「同胞を差別する」という非常に最低な行為を、億劫なくできるとは。
震災発生時には、日本人の連帯感と忍耐力が諸外国に評価されていましたが、
そのうち、「島国根性」による「醜さ」が露呈して、世界からあきれられてしまうのではないかと
危惧してしまいます。
上原氏の「怨念」はまだまだ消えていないのかと。
「帰ってきたウルトラマン」放送開始40年の年に、「日本人の醜さ」を改めて痛感するとは。
帰ってきたウルトラマンが、怪獣だけでなく、「人間の醜さ」とも戦ってきたのですが、
まだまだその戦いは終わっていないようです……。
被災者が日本を見捨てた時、
それが「日本の終わり」を意味すると知るべきでしょう。
第33話のラスト、良少年はメイツ星人が河原に隠した宇宙船を掘り出すことを続けていました。
「地球に『さよなら』を言うために」
現実でも、そうなったしまったら、
本当に「日本は最後」です。
無用な差別はやめるべきです。
現実の世界には、ウルトラマンはいないのですから……。