ちょっと聞いてみよう (野口智博公式ブログ・毎週月曜更新)

日々進化するスポーツサイエンスとスポーツコーチングの現場との間を行ったり来たりしながら、現場での疑問を拾いあげてネタにするブログです。野口が学外で行う講演やイベントなどの告知も行います。


テーマ:
先般放映された、NHKの「グッとスポーツ」の入江陵介選手の回に、
解説として丸い窓の中から(笑)喋らせていただきました。
翌週は大学でも授業後に「先生、この間テレビ見ました」と言われたりして、
2008年頃に「AKB通信」に出演した時以来の大きな反響をいただきました(笑)。

収録後には、嵐の相葉さんとも記念撮影もできて、得した気分。
大人の事情でここには載せられませんので、見たい方は研究室までお越し下さい(笑)。

さて、そこでお話しした入江選手の泳ぎが「なぜ奇跡の泳ぎか?」について、
よく考えたら、放映された情報だけでは「奇跡感」に乏しいかと思いましたので、
オンエアされなかったお話しを、以下に補足しておきます。

まず、鈴木長官曰く「笹舟のような泳ぎ」については、
2キックで骨盤の傾きが大きく、リカバリー側の肩が水面上から高く上がるということで、
納得いただけたのではないかと思います。
しかし、ローリング角を大きくして水面と接する面が小さくなって、尚且つ、
リカバリーが高くなる=重力下に晒される部位が多くなるということは、
結果「沈み込む力が強くなるのではないか?」という矛盾が、この泳ぎの中にはあります。
実際に泳げる人は試していただけたら分かりますが、リカバリーの腕を高く上げると、
体幹は浮きにくくなります。

それでも笹舟のように安定して浮いていられるのはなぜか?
入江選手のプルの、エントリーからキャッチまでの初期動作をよく見ると、
一旦手のひらが下向きになって、手で水を下方向へ軽く押さえてからキャッチに入っています。
この、ほんの一瞬ですが下方向へ押さえる動きこそ、上体の浮く力と安定性を作っている動きなんですね。
私の練習会では、「トン(手の入水で水面をはねる)・トーン(手を下に向けキャッチに入る)」とプルのキャッチに入るタイミングを指導していますが、
まさにその動きによって、逆側の腕のリカバリーで沈みそうになる力を緩衝し、
上体を水面高く持ち上げているんですね。
その後キャッチからプルの動作で加速しますので、高い速度を発揮している間は、身体は沈みにくい状態にありますから、本当にこの一瞬に働く水底への抗力で「笹舟」状態を保っていると言えます。
ちなみに、プルで生み出される加速の高さの要因については、2012年くらいに、スイミングマガジンで書かせていただきましたので、そちらをご参照ください。

で、ここまでの話しだと、まだ「奇跡感」が足りないと仰る方もいるでしょう。
問題はここからです。

あの番組の実例になったアメリカの選手の泳ぎに象徴されるように、
通常は、片腕のフィニッシュ動作の際に、逆側の腕の入水となり、
両方の腕の力の発揮を別々にコントロール出来ないため、フィニッシュも逆側の入水も素早くなります。この現象は、クロールでも大概そうなります。
しかし、入江選手の泳ぎをよく見ていると、
片方の腕はぐいっと力強く押している感じがあるものの、逆側の腕(手)の入水は実にソフトです。
まるで、左右の腕で、力の使い分けをしているようです。
左右の手先が最も離れる位置で、力の出し入れをコントロールするほどの器用さは、
恐らく、彼自身がピアノ奏者でもあることが要因の一つかもしれません。
ピアノは、概ね左右の指が異なる動きをしますし、足も一定のリズムでは動きませんよね?

この手の泳ぎ、実は1982・83年のインターハイ覇者で、
本学水泳部の一個上の先輩である、本田和励さんが同型でした。
本田先輩はキックがべらぼうに強く、当時潜水ドルフィンで25を12秒で泳がれていたので、
プルにそれほど頼らなくても速く泳がれていました。
そういうこともあり、左右の腕の力のコントロールをしながら、キックメインで推進力を得ていた感じでした。
とは言っても、プルもクロールの練習では私より数段速かったので、
そんな地力もあって、長官が出現するまでの間、
本田先輩が日本のトップでいられたんだと思います。

それから28年。
入江選手の背泳ぎは、そこから更に大きく進化し、
左右の腕脚の「4本の力」の絶妙な力配分をしながら、今我々が考え得る最高の力の効率で泳いでいる…と。
どうです? 「奇跡感」が一層強くなってきたでしょ?(笑)

しかし、それだけ繊細な泳ぎだからこそ、ここからどうやって記録を伸ばして行くのか?については、
凄く難しい道のりだと思います。
例えば、単純にストレングスをつけよう…とした場合、
キャッチからプルの時間が短くなったりしますが、
1ストロークサイクルのうちの一部分の時間が短縮されるということは、
同じピッチで泳ごうとした場合、どこかの局面が長くならなければなりません。
仮に、キャッチ動作が速くなったとしたら、その分、
左右別々の力の配分をしていた動きにも、どこかの局面で僅かな狂いが生じます。
1か所改善したがために、それに応じて何か所もの動きの修正・補正を、施さなければならなくなるわけです。
凄く物理的に偏って言えば、今より速いピッチで、50ずつ2ストロークくらい増やしても、
最後まで回しきれる上肢のストレングスと疲労耐性を作れば良い…となりますが、
背泳ぎであのレベルの芸術的なプルの技術を崩さずに、ピッチの向上を現実化した実例は、
国内・海外のどこを探しても見当たりません。
まさに、前例のない世界へ挑んでいるのが、今の入江選手だろうと言えるのです。

だからこそ…ですよね。
そんな難しいところを越えようと挑んでいる…ということを我々も知った上で、
彼に声援を送り、いい結果が出て彼が喜ぶ姿を見たい…と思います。
「奇跡の泳ぎ」が世界を制す瞬間を、楽しみにしています!
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