ちょっと聞いてみよう (野口智博公式ブログ・毎週月曜更新)

日々進化するスポーツサイエンスとスポーツコーチングの現場との間を行ったり来たりしながら、現場での疑問を拾いあげてネタにするブログです。野口が学外で行う講演やイベントなどの告知も行います。


テーマ:
ジャパンパラリンピックが終了しました。
木村以外の担当選手はそこそこうまく行きましたが、
木村だけが大失速という事態になりました。
でも、タイムが出ないのは練習を見ていてある程度想定はできていたのですが、
コース逸脱については、「まあ派手にやりやがったな」…という感想です(笑)。
でも本当に、誤って入ってしまったレーンの方々に怪我がなくて良かったです。
これについては、深くお詫び申し上げます。

本人がマスコミに話した通り、
直接の原因は腕の引き過ぎというか、引いた後の戻しで手が重ならなくて、
入水の姿勢制御ができなかったことですが、
それだけであんなに派手は逸脱にはなりませんし、
その後の100バタ決勝に至る、トラウマ的状況というか、歯車の狂いは起こりません(笑)。

あのスタート失敗に至ったもう一つの間接的要因は、
後ろ足の位置が後ろ過ぎて、踵が完全にフリーになってしまったことで、腱の反射が強くなってしまい、
号砲と同時に後ろ足で台を下に押す力が強くなってしまいました。
その結果、その反力で後ろ足が高く上がり、強い前回りの回転トルクが発生したため、
危険な角度で水中に突っ込んでいきました。
腕の組み損ないだけならまだダメージは少なかったのですが、
急角度で入水したため腕や胸が水底にぶつかってしまい、
一気に推進力が損なわれたのと、その恐怖感で彼の集中は一気に途切れました。
ちょっと怖い状況に陥ったら、何か足下から吸い込まれそうな感じ。
あれです。
翌日の予選後、ある記者の方から「もう吹っ切れましたかね?」と聞かれたので、
「吹っ切れるわけないじゃないですか」と言いました(笑)。
彼も人間ですから、それなりに怖さはいつも感じています。
その上そんな恐怖体験したら、当分飛込みたくないくらいの心理的ダメージはあったはずです。
なんせ、一歩間違えたら木村自身が救急車で運ばれる事態にもなり兼ねない、
極めて危険な状況だったわけですから。

木村が練習会場にしているプールの多くは、バックプレートがついています。
ロンドンの前から、ずっとバックプレート対応で練習していました。
今回は恐らくプレートはないだろうと想定していたのですが、
世界新を狙っていたので、ドイツから帰国後は、
プレートなしのシミュレーションをしていました。
それに加えて、台に上がる前に、
スタート台と足をタオルで拭いて、滑り止めするところまで準備していました。
予選の際には、そのルーティンを初めて試したので、タイムは一切気にしていませんでした。
しかし、最後の最後まで、そこ(後ろ足の位置)はチェックしていませんでした。
思い返せば、彼がプレートのない台を使っていた時代は遥か以前で、
今のように筋力がない時代でした。
ですから、少々下に蹴ってもそれほど空中姿勢には影響はありませんでしたが、
今は段違いに筋力・パワーがついているのが、逆に災いしたという感じですね。
件のコース逸脱レース後、
後ろ足の位置を少し前に出して、アキレス腱反射が使いにくい状態にしてからは、
まっすぐ入るように修正できました。
まあしかし、リオでは恐らく使わない技術なので(笑)、教養の一つ…くらいな感じですが。
指導者としては、最後までもう一歩深く確認を…という教訓ではありました。

しかし、100mバタフライは、そんな状態ながら前半は28秒8で突っ込めたにも関わらず、
後半35秒という大失速。
この要因は、高強度練習のクオリティの低下でした。

ドイツ遠征終了後に彼に「世界新宣言」をさせましたが、
それ以降、時差ぼけ状態が長期に渡り続き、
練習のタイムが伸び悩みました。
そもそも、彼は自分で勝手に自分にプレッシャーをかけてしまうクセがあるので(笑)、
そうなった時に一体どんな現象や行動が見られるのかを、見ておきたかったんです。
ああ、そうなったか…という感じですが。

タイミングが悪かったのは、ちょうどその時期に梅雨の影響で、
気温や気候、湿度が日々大きく変化してしまいました。
これは彼が苦手とする環境でして、
そうなると彼は発汗量が多くなります。
これはスイマーの特徴で、皮膚の温度センサーが水温に合わせてあるため、
気温の変化にすぐに対応できなくて、一旦暑くなったり湿度が上がると、
際限なく汗が出てくるんですね。私もそうなんです。今やスイマーじゃないんですけど(笑)。
そうなると彼の場合、如実に発汗量増加による脱水からの、消化液不足に至る状況に悩まされます。

この4週間、食事がうまく摂れない日が多く、
食べれても無理矢理突っ込んでいるか、食べた直後に嘔吐する時も度々ありました。
嘔吐後、落ち着いたらまた食べれるようになるのですが、
アスリートの鉄則である「練習後30分以内の食事」が、できなくなるわけですから、
必然的に筋グリコーゲンの補充が効かなくなります。
これが、彼の高強度運動の質の低下を招く、一要因なんです。

この状況がドイツ遠征後概ね2週間続いてしまい、
最終的にジャパンパラ前2週間で、なんとかできるところから調子を戻そうとし、
スピード系(糖質利用)の仕上げから、持久系(有酸素系)の仕上げにシフトさせてみました。
なので、持久系の調子は上がっていて、スイムのインターバルなどはベストアベレージで泳げていました。
しかし、身体の「ふっくら感(カーボが溜まっている状態)」は最後まで作れず、
最終的にこうなった…ということですね。

今回の過程では、心理的なプレッシャーがどう影響したかは分からないにしても、
睡眠時間の不安定さと、食事管理の行き詰まりという、
「金メダル宣言」をずっとしているリオ前に、
当然出てくるであろう、克服しなければならない課題が二つ表出しました。

前者は、普段から太陽光が感じられないために、
昼だか夜だかわからなくなるという、視覚障がい者特有の持病みたいなものです。
改善策としては、耳から光を感じさせ、サーカディアンリズムを操作するイヤホン様の機材を、2週間前に購入しました。
それを日中、耳に装着することで、目が見えなくても耳から太陽光レベルの光を感じて、
交感神経を活性させ眠気を抑制させます。
これは意外に効いたようで、装着後はちゃんと定時に寝て、
夜目が覚めても二度寝できるようになったとのこと。
これ、確かTwitterかどっかで拾ってきた情報で、年度末に入れ替わって行ったマルチのコンディショニングスタッフが、いろいろと調べてくれたやつでした。
睡眠時間が安定して以降は、練習もそれなりにできるようになり、
体重の乱高下減少にもある程度の歯止めがかかりました。

もう一つ克服せねばならないのは、運動後にすぐ食事が摂れるような、コンディションづくりですね。
ひょっとしたら、食事よりも糖質系のおかしのようなサプリメントの利用も、検討しています。
また、練習パターンを変えて、今の2−2−1のパターンを2−1−2−1のように、
1回練習の日を増やす…ということも検討しています。

あと、彼は合宿の時はよく寝れるのですが、
原因が、同部屋の選手と寝付くまで喋られるからなんだそうです(笑)。
なので、彼が自宅で過ごす今月一杯は、
誰か夜10時半くらいから、木村の長電話の相手になってやってもらえたら、
少しは改善できるかもしれませんね(笑)。

私はよく「ヒーローになるやつは、失敗も派手にするもんだ」…なんて言ってますが、
今回の結果が、彼をヒーローに仕立てるための、通過儀礼であった…と言える日が来るよう、
様々な課題を克服して、リオのスタート台へ送り出したいと思います。
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