優しいケダモノ

2012-02-04 01:14:19 テーマ:二次創作

この記事は二次創作の文章です。苦手な方は読まないでください。








うた/ぷり (レン*トキ)




清潔感の漂うマンションの12階、深夜1時に遠慮気味な小さい足音が響く。
足音の主は明るい色の髪を緩やかに靡かせながら真っ直ぐに一室へと向かう。
扉の前で数秒迷うようにズボンのポケットに触れてから軽く息を逃がしてチャイムを鳴らした。
数秒の間のあと扉が開き、こんな時間にも関わらず部屋着と言うには綺麗すぎる格好で美しい顔立ちの男が僅かな隙間から顔を出す。


「……レ…ン…?」
「あれ~、その様子だとまだ起きてたみたいだね、イッチー。悪いんだけどちょっと部屋入れてくれない?」
「…こんな夜中にいきなり訪ねてきたと思えば何を…っ」
「はいはい。お小言なら部屋の中で聞くよ」


部屋の主、トキヤの返事を待たずに開いた扉に手をかけて中へと押し入りながら後ろ手で静かに扉を占めた。
ひんやりとした空気に触れていたせいか、レンと呼ばれた男の頬はどことなく赤い。


「貴方はいつも突然……っ…珈琲でも入れてきます」


小言を漏らしかけたトキヤだったが、レンの頬の赤みに気づけば溜息を吐きながら踵を返し歩き出す。
はずだったが、不意に腕を掴まれ強い力で引っ張られれば思わずバランスを崩しよろける。
そんなトキヤを抱きとめながらレンはにやりと意地悪く口の端を上げた。


「珈琲より、お前の方が暖かいだろ?トキヤ」









君と僕と静寂の夜

2012-01-13 23:10:46 テーマ:散文

静寂の夜に身を焦がす。
ひりひりと痛む心臓だけが、君に対する溢れんばかりの想いが此処にあるという証拠。
僕はそれを、壊れないように、壊れそうなほどに、ぎゅっと抱き締める。



建て付けの悪い窓を開ければ僅かに湿気を含んだ風が頬を打つ。
ネオンに掻き消されそうな星たちに切なさを覚え僕はそっと目線を落とす。
窓の向こうに広がる夜の世界は優しかった。
干渉的な外見とは裏腹に、決して僕の中に踏み込んでくることは無い。
どぎつい色とりどりの光たちも、自分勝手に光を放ち僕なんてお構いなし。



あぁ、君は夜の世界のようだ。
僕の心に勝手に侵入してきて真っ黒に心を焦がしていく。
優しく笑うくせに、僕に興味なんて無い。




ほら、今だって、この世界の何処かで君は優しく笑っているんだろう?






僕を嘲笑う現実が憎くて

2012-01-13 22:52:39 テーマ:散文


夢を見た。
甘い、甘い、夢だった。
脳髄が蕩ける様な錯覚を覚え、心地の良い其れに浸る。
誰かが僕の名を呼ぶが其れも段々と遠退いていく。
僕は現実を切り離してしまったのだ。
何も見たくないと強く望むほどに脳髄はドロドロと溶け出し、
何も聞きたくないと耳を塞げば僕の心音が世界を満たす。
溢れ出る体温を繋ぎとめる術など知らない。



からっぽだ。



からっぽ、だ。




ふと目を覚ました。
目の前には変わらぬ日常が僕を嘲笑っていた。
僕は自分の顔をベタベタと触って下手糞に存在を確かめる。
結局、僕の生きる世界は此処しか無いのだ。
どれだけ足掻こうとも、世界は僕を放してはくれない。



僕は絶望を見た。
そして甘い夢は、二度と僕を迎え入れてはくれなかった。




絶望を知ったからこその希望なのだと、誰も教えてはくれなかったよ。





もしも明日世界が終わるなら

2011-12-16 01:57:55 テーマ:短編

時々考えてみる。
もしも明日世界が終わるなら、私は何をするんだろう。


今みたいに退屈な授業を大人しく受けているのだろうか。
先生の声が遠くなって、ぐるぐると頭の中を回る言葉が妙に気持ち悪い。
窓際の席から見える空は、どんよりと不機嫌そうな色をしている。


「はぁ…、何処か遠くに行きたいな」
「…ぼーっとしてると思ったらいきなり何を言い出すの」
「だってさ、つまらないでしょ?皆で机並べて教科書開いて黒板移して」
「仕方ないよ、学生だもん」
「そうやって受け入れてるアンタは凄いよ。私には出来ない」


小さな声で話していれば髪がだいぶ薄くなった日本史の先生に睨まれた。
だって本当に退屈だなんだ。
歴史の授業なんて、戦争の話ばっかりで気分が悪くなる。
でもそういう私だって、誰かを、何かを踏み躙って生きているんだ。


「もしさ、明日世界が終わるなら……私は今日死ぬ事にするよ」
「え?」
「訳の分からないものに殺されたくないからね。気づかない間に死んでましたって、何かやだ」
「でも怖くない?私だったら知らない内に死んでた方がいいな」
「怖くていいんだよ」


怖くても、どれだけ絶望したとしても、私はこの世界を目に焼き付けて死にたい。
なんの代わり映えもない日常を、退屈な授業を、全部全部、焼き付けて。

そして最後に、お父さんとお母さんの顔を思い出す。
何か言わなくちゃって思うけど、上手く言えないだろうな。
ありがとう、なんてちょっと照れくさい。



もしも明日世界が終わるなら

私は今日という日を存分に生きて

明日が来る前に死んでやる!

秋桜

2011-12-10 23:44:29 テーマ:短編

少し冷たくなってきた風に髪を乱されながら、コンクリートの上に寝転ぶ。
目の前に広がるのは5限目の空。
秋の空は、なんとなく哀愁があると思った。
古い扉が軋んで開く。
微かな足音がして、俺の上に影が落ちた。



「おやおや、柚月(ゆづき)君じゃないか。
こんなところで何をしているんだい?
いや、答えなくてもいいんだよ。私には分かりきっていることだからね。
空腹が満たされこんなに心地良い風が吹いている中、教室に引き篭もって教科書とにらめっこなんて馬鹿のやることだ。
君の行動は正しい。こんなに気持ちのいい午後は屋上で寝るに限るね」
「いや、どっちかってーと俺とお前の方が間違ってるよ。サボってる俺が言うのもなんだけどさ」
「柚月君、私にはね、雨宮鈴香(あめみやすずか)というスマートかつキュートな名前があるのだよ。
それに個人的な意見を言わせて貰えばお前と呼ばれることに少なからず不快感を感じるのでね。
あぁ、だからといって謝る必要はないよ、織笠(おりかさ)柚月くん。
君が親しみを込めて呼んでくれていることは重々承知しているからね」



俺の足元に立っている雨宮のスカートが風で揺れる。
セーラー服の赤いスカーフも同じ方向にはためく。
この風変わりな女、雨宮鈴香は空を背負って俺を見下ろしている。
恐ろしく空の似合う女だ。
そして相も変わらずおかしな女だ。


話し方、笑い方、目を細める仕草、細く白い手が肩口で切りそろえられた真っ黒な髪を抑える。
そんな何気ない光景に、俺は目を奪われるのだ。


「柚月くん、私に見惚れているね」
「何馬鹿なこと言ってるんだ。そんなわけないだろ」


あっさりと見抜かれてしまった。
少し上擦った俺の声は予想以上に間抜けだった。
雨宮は繊細な人形のような顔に似合わず、にやりと口の端を上げてから俺の隣に座って、くだらない話をするように言った。


「柚月くん。私はね、こんな狭い世界は嫌いだよ。でもね、この世界が好きなんだ。矛盾というのはとても気持ち悪いものだね」
「あー、何となくわかるかも」
「どこか遠くへ行きたいとは思わないかい?」
「たまに思うこともあるけど、面倒だから俺はいいや。もし行ったら土産話でも聞かせてくれよ」
「……柚月くんは狡いことを言うね。そう言われてしまっては、帰ってくるしかないじゃないか」
「あぁ、俺は雨宮のこと、割と好きだからな」
「それは愛の告白かい?」
「飛躍しすぎだ」
「……すまないね。柄にもなく照れてしまった」
「意外と可愛いとこあるのな」
「………」
「顔赤いぞ」
「…最近寒くなってきたから、風邪かもしれない。そろそろ教室に戻るとしよう」


そう言って頬を真っ赤に染めた雨宮が立ち上がろうとした瞬間、俺は細い手首をそっと掴んだ。
振り払えるくらいの強さだったが、雨宮は振り払わなかった。
だから俺は、ブレザーのジャケットをその細い方にかけてやって、ずっと、ずっと触ってみたかった艶のある黒い髪を乱雑に撫でた。


「今度の休み、隣町の河川敷に行こうか。秋桜が咲いているらしいぞ」
「そんな言い方をしたら、デートの誘いに聞こえてしまうよ」
「聞こえてしまうもなにも、デートの誘いだからな」
「……柚月くんは狡いよ。とても狡い」



ひんやりとした秋の風が吹く屋上で、青い空に白く浮かぶ月を見ながら、俺たちはただ身を寄せ合ってチャイムが鳴るのを待った。

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