ミスターレディ (1) (講談社漫画文庫)/里中 満智子
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うちには懐かしの少女漫画がたくさんあるんだけど※どうしても処分できない(^^;)

それをたまにお風呂で読んだりするのね。

で、この間はずっと「志摩ようこ」読んでたんだけど。

知ってる?「志摩ようこ」。

可愛いんだよねー♪

その「志摩ようこ」が活躍していた「なかよし」。

「なかよし」は当時「りぼん」と人気を二分していた少女漫画雑誌。

看板漫画家はご存知!「里中満知子」!


彼女、16歳でデビューしてから延々TOP漫画家の地位をキープしてきた並々ならぬ才女!

女の子なら絶対に読んだことがある!!と思わず月読断言しちゃうくらい息の長い漫画家であるのよね。

彼女の代表作はなんだろ?

TVドラマ化された「アリエスの乙女たち」とかかな?

※これも当時は問題作。ビアンものでもあるもんね。

まあ、長いキャリアの中、発表雑誌を変えながらどこでもヒット作品をだしているしね。

で。

この「ミスターレディ」。

今では「ミスターレディ」という言葉は、特別な言葉じゃないけど、昭和51年連載開始当時では、ひょつとして「里中女史」が初めて使った言葉かも知れん。

ワタシも子供の頃楽しく読んでいたのだが。

あらためて読みかえしてみたらなんとも興味深い話だったので懐かしさも込めてちょっと書いてみることにした。


「ミスターレディ」 里中満知子

「太郎」と「花子」は13歳。二卵性双生児。

「園岡食品」を一代で富を築いたやり手のおばあちゃん、亭主関白(にみえる)パパ。貞淑な(フリをしている)ママ。

の5人家族。

おばあちゃんは今は会長として趣味の薔薇作りに没頭。

青い薔薇を夢見て湯水のようにお金を使う。

それがケンカのもとなのか、嫁姑の仲は最悪。

「太郎」と「花子」は毎日ふたりの間に入って大変!

そんな「太郎」と「花子」には実は秘密があった。

それは、男の子である「太郎」は、可愛いくて美しい女に憧れていて、女の子である「花子」はさっぱりしてどんな困難にも立ち向かう男に憧れているということ!!

もしこの秘密がばれてしまったら、いがみあっているおばあちゃんとママの仲はますます悪くなってしまう!

家族の幸せのためにも、この秘密は絶対に知られちゃいけない!

ちょっと意地悪なライバル「りり子」や、パリからやってきた素敵な転校生「ブルー」、貧乏な同級生「みのる」も巻き込んで、「太郎」と「花子」の毎日はドキドキの連続!!


さて。

これ少女雑誌では、ひょっとして初めてのジェンダーパニックものかも。

男の子っぽい女の子がヒロインてのはたくさんあったけども、それを秘密にしなくちゃいけないというのも、女の子になりたいという男の子が登場するのもワタシにはこれが初めてだった気がするな。

まあ「おしゃれなタッチのホームコメディ」とあるので、そんなふたりを中心としたドタバタな話なわけであるけれどー。


大人になった今読むとなかなか興味深いんだな。これが。

まず、この「園岡家」。

女傑のおばあちゃんが実権を握るコノ家では、息子であるパパはぺちゃんこなんである。

けれど、「社長」という対面と、権威ある父親という世間的常識のため、子供たちの教育上もあり、パパは必要以上に亭主関白を装っているんだね。

でも、それってもうバレバレで。

おばあちゃんは「息子」を尻に敷く「嫁」がすごく気に入らないし、ママはママで、マザコンで優柔不断な亭主が気に入らない。

それゆえに息子の「太郎」に過剰な男らしさを要求するし、おばあちゃんは「花子」に昔風の大和撫子な女らしさを要求するんだよね。

つまりこの双子は、家庭内で性別に関する過剰な抑圧を感じているわけよね。

しかも、おばあちゃんとママの押しつけてくる「男らしさ」と「女らしさ」はまあなんちゅうか一般的「らしさの雛型」なんだよね。

「こうあるべき」という世間的な考えでしかない。

おばあちゃんなんか、自分が一代で富を築いた女傑のくせにさ、「花子」に押し付けるのは三歩さがって亭主の影を踏まずという嫁に対するそのままの女らしさの要求だもん。

すごい矛盾してる。(^^;)

ママだって「太郎」に押し付けるのは、パパへの不満から来る「パパみたいなマザコン優柔不断にならないでー!」ていう反発だしね。

読んでてこの双子ちゃん大変よねー♪と妙な同情を感じてしまう(^^;)


この話の中で、「里中女史」は、本当の「らしさ」とは「人間らしく」「自分らしく」という個の問題で、周囲から押し付けられる「らしさ」に惑わされない。本当の女らしさと男らしさってどういうものなんだろう!とか、そんなようなメッセージを送りたかったのかもしれない。

ライバル「りり子」や、素敵な転校生「ブルー」に双子が恋心を抱いたりして、その中で土壇場ではなよなよしていた「太郎」がきり!としたり、本当はガサツな「花子」がうっとりしたりと、異性への意識を感じて少しずつ変わっていく様子もきっと描きたかったんだよなー♪とも思うんだよね。


大変に興味深いエピソードとして、転校生「ブルー」は、パンツ姿の「花子」に初めて会って恋に落ちるんだけど。

ライバル「りり子」に、おしとやかな「花子」がパンツ姿で男のように振舞っているのを不審に思われ、男に憧れているのがバレそうになった瞬間「花子」は、自分は「太郎」で、長い髪はかつら※円形脱毛症があると嘘をつく(^^;)んだよね。

だから、「ブルー」は自分が一目ぼれしたのは「太郎」である。と信じ込んで恋心を燃やすんだよね。

でも、本当は一目ぼれしたのは「花子」だから、「花子」の行動をみてドキドキしてんの。

このへんがラブコメとしてのミソで、実は「ブルー」が恋してるのは最初から「花子」でしたー!

というのがラストのオチになるはずだったんだと思うのよ!


でもね。

この恋の行方はいきなりの方向転換で全部パー。

連載は一部完。

と一度〆、第二部が始まるんだな。

で、その二部は、もう全然話の肝が変わってしまっている。

単なる男の子っぽい女の子と、女の子っぽい男の子の双子とその同級生が宇宙人に出会ったり、漫画家を目指したりと、ぜんぜんふつーの話になっちゃって、複雑になりえたであろう「ブルー」と「花子」の恋の行方、「太郎」の芯の強さ、とかそういうの全部ナシ!

まね、「なかよし」で連載するには時期尚早な話だったかもしれない。※「りぼん」でも早かったでありましょう(^^;)

きつと方向転換を編集の方から要求されたんだよなー。

なんてね。

「里中女史」の作品は色々な意味で革新的だったんだけど、初期作品には「双子」の話が多かった気がする。

とくに同性の双子の場合対比させやすいし、読者から見て、感情移入できるヒロインをふたり用意すればそれだけ幅が広がるしね。

「アップルマーチ」とか「mimi」で連載していた「季節風」とかねー。

ダブルヒロインの手法は少女漫画の王道だけど、早いうちから「里中女史」はこれをドラマティックにしかも非常にわかりやすく仕上げる名手でありましたねー♪

それは「なかよし」という比較的年齢層の低い少女雑誌がホームだったってこともあっただろうなあ。

「少コミ」や「週マ」はもうちょっとエゴイスティックだったもん。

わかるひとだけついてきてー♪的な(^^;)


ところで全然関係ないが、あの映画「Mrレディ・Mrマダム」は1978年公開。

この作品の2年後。

「里中女史」は一体この「MrLady」という造語をなんで思いついたのか。

実に革新的!



そして、帰ってきた。-hanko