2007年07月15日(日) 19時34分45秒

お悩み相談  ~スイスから~

テーマ:歯の悩み

西新宿歯科クリニック 院長の武末です。


当院では数年前からHP上で患者様からの歯に関する悩みについてメールで

お応えしてきました。おそらくその数は1000件くらいになるのでしょうか?


500件を超えたあたりから、よく周りには

「これまとめて本にすれば!」といわれるようになりました。


そして知らぬうちになぜだか海外在住の日本人の方からのお悩みに

お応えすることが多くなってきました。


今日も、スイスからの相談に2時間ほど考えて答えました。

今回は「全身麻酔」に関する相談でしたが、私にとってみると大変

興味深いテーマだったような気がしたので以下にそのお悩みと回答を

記してみたいと思います。



【スイスからのお悩み】

スイス在住の●●です。
2才半になる息子の事で相談があります。 

長期授乳により前歯4本が虫歯になってしまいました。 

こちらで小児歯科に行ったところ、息子があまりにも恐がり

大暴れした為、診察もままならなかったのですが、先生曰く
奥歯にも虫歯があるとの事です。
今のところ痛みはないようですが前歯の一部が欠けてきてます。

歯の裏側が黒くなっているのも気になります。
こちらでは幼児の歯の治療に全身麻酔を使用するのが一般的だと説明を受けました。 
 
なんとか全身麻酔を使用せずに治療が出来ないかお願いしましたが(小児歯科2件に行き)

4才以下の子供で虫歯の数が多い子には他に方法がないとの事です。

2件目にセカンドオピニオンを聞きに行った先生はすでに2000人以上の子供に全身麻酔を使用し

治療したが全く問題はないからと治療を進められました。
今まで全身麻酔は病気で手術する時に使用されるだけと思っていたので歯の治療に使われると

聞いてショックを受けました。子供が虫歯になったのはやはり母親の私の責任だと思いますし、

今は毎日食後の歯磨きおよびキシリトール入りのガムを噛ませたり、

とにかく虫歯の進行を抑えるのに必死です。

 日本では幼児の虫歯に進行止めの薬を塗る方法があると聞きましたが、

海外に住んでいるため数ヶ月おきに薬を塗りに 帰国する事が出来ません。
何か他に良い方法はないでしょうか? 

息子がもう少し大きくなって治療ができるまでなんとか待てればと思っています。

アドバイスよろしくお願い致します。



【武末の回答】


「全身麻酔」とお聞きになってびっくりされるお母様のお気持ち、よくわかります。
日本では一般的ではありませんからね。しかし、現在でも多くのインプラント治療など
では日本においても全身麻酔とは異なりますが、静脈内沈静法といって
意識はあるけど、記憶には残らないという麻酔の状態で手術をするケースが
増えてます。当院でもかなりの症例をこなしてますが、麻酔に関しては
術者(治療するドクター)とは別に麻酔の専門医が別に術前・中・後
血圧心電図脈拍血中酸素飽和度(SPO2)などが把握できる
モニターをもとに全身管理にあたります。実はこのような静脈内沈静法は
麻酔医の力量に依存する部分が大きいため、患者さんにとって簡便である反面
安全性では全身麻酔の方が有利であるとされています。
つまり、言い方を変えるときちんとした術式で行うのであれば全身麻酔は安全なのです。

現に、当院でも方向性としては全身麻酔下での安全な手術を中心とした管理プログラムの
構築を検討しているくらいです。

どうしても治療が必要との判断の場合にはやはり小さいお子様へきちんとした
治療を行うのは困難です。日本では「抑制」という方法をとる場合もありますが
個人的にはこの抑制というのはベストな方法とは思ってません。それよりは
環境が許すのであれば「全身麻酔」がベストではないかと考えます。

薬を塗ったりとの対処療法には限界があります。今置かれてるお子様のお口の
状況の現実を受け止められるのであれば、むしろそのようなスイスという
歯科医療先進国で治療をうけられるラッキーな面を最大限に利用すべきでは
ないでしょうか?

あくまでお母様が対処療法をお望みなら日本式治療法が向いてるかもしれませんが
「ほんとうのきちんとした」治療をお望みならスイス式全身麻酔下での完全な
治療をお勧めいたします。

文化の違いによる医療の違いに戸惑われている様子が手に取るようにわかります。
しかし、こと、今回のご相談に関しては日本の遅れを指摘させていただきたいと思います。

重ねて申し上げますが、全身麻酔はきちんとした麻酔医が行えばとても安全な
ものであるということをご理解ください。もちろん、きちんとした知識や技術のない
ドクターのもとでの全身管理はなんであろうがとても危険だということです。

それは普段の日常診療においても然りです。我々歯科医師は多くの有病者の方を
相手に、麻酔をしたり、抜歯をしたり、また外科処置をしない場合でも患者様は
大変はストレスを感じながら治療を受けられてるという大変な極限状態で診療に
あたってるわけです。万全を期していても、予期せぬ事態で患者様の状態が
急変してしまう場合も実際にございます。


大事なのはなるべくそのような不測の事態を 招かないような術前の診査と管理

ですが、次に大事なのはそのような緊急な状況下での的確かつ冷静な判断と

普段からの危機管理につきます。
当院でも救急蘇生の準備AEDの設置など万が一の状況への対応は常に行ってます。

しかしながら、はたしてどのくらいの歯科のクリニックで当院に匹敵する救急時の
対処が行われているかというのはいささかの疑問を感じます。

見た目の派手な方向に今の日本の歯科医療はシフトしようとしてるように思いますが、
我々歯科医師にとってもっとも大事なことというのを理事長の草間が我々スタッフに
常にこう言ってます。


「我々にとってもっとも大事なのは決して派手な成功ではない。もちろん、成功を収める
ことは大切だけど、むしろ絶対に失敗をしないということが重要なんだ。そのために
常日頃からの鍛錬と十分な危機管理を持ち続けなさい」

話が少々横道にそれたようにも思いますが、今日は日本は3連休の最終日で
私自身とてもリラックスできたために力が湧いてきて、キーボードをたたく指も軽快に
なってしまいました。

最後に、当院にも2歳前後で多くの虫歯で大変な思いをして治療をしたお子様が数名
いらっしゃいます。しかしその多くお子様方がその治療のあとは適切な予防へとシフトして
くれて現状では良好な状態をキープしてもらってます。

それはひとえに親御さんの理解と協力、そして少しの我々の助けのおかげだと思ってます。

ぜひ今の局面を乗り越えたら、あとは同じ思いをしないですむような

予防へのシフトをお願い申し上げます。(ここまで)



結構読み応えのあるとうか長い内容になってしまいましたので、ここまでたどりついて

おられる方は相当な歯に興味のある方か、小さいお子様がいらっしゃるか、マニアの方か

わかりませんが、ありがとうございました。


最近、日本では三井記念病院における歯科麻酔医による全身麻酔での死亡事故の

報道がありましたよね。これも詳細はまだわかりませんが、どこかに油断のようなもの

があったのは否めません。全身麻酔なくして正確な医療はなりたちません。

今回の報道の表面のみを見て 「全身麻酔」=危険 と誤解していただきたくないという

想いをこめて書いております。


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コメント

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1 ■新潟の地震

柏崎に身内が住んでいます。一旦避難したようですが。家がめちゃめちゃらしいです。

2 ■kanbe49さん

そうですか、今後も余震などまだまだ心配ですね。
天災に意味なんてないでしょうけど、どうしてこうも・・・・・
つい、考えてしまいます。

3 ■友人が

アメリカ人で現在日本に留学中の友達が、全身麻酔で一度に上下左右のおやしらずを抜いたって話ききました。一本抜いただけで死にそうになってた私には考えられないことでした。

4 ■ニモさんへ

きっとそれは一晩以上入院してるかもですね。

でも本人は気づいたら4本の抜くべき親知らずの抜歯が終わったわけですから普通の手術と同じことですよね。

もちろん覚醒後はそれなりに痛みが強かったでしょうが・・・・

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