2006-07-05 22:04:59

終章/『Street Toward Snow Night』 1

テーマ:連載小説 『カクテルワルツ』

  笹目刑事から、連絡が入ったのは、年の瀬も押し迫ってきた二十七日の昼ごろだった。
『高内諒が、自首してきたわ』
 用件を要約すれば、たったそれだけのことだった。仕事場で今年最後の追い込みにかかっていた私は廊下に出て携帯電話越しに彼女の声を聞いていた。
『昨日の昼ごろ、市内の警察署にやってきたの。お金がなくなったから、逃げ切れないと思ったんだそうよ』
 ずっと市内にいたのか。私は意外に思う。国外逃亡というのは言い過ぎでも、なんとなく、とっくに県外に逃げてしまっているものとばかり考えていたからだ。
「そう、ですか」
『今も高内を取り調べている途中なんだけれど、実は、あれから貴女のマンションにも一度戻ってきたみたいね。イブの前日だったというから、二十三日のことね。貴女は不在だったらしいけれど』
 ……何を考えているんだ、あの男。驚きというより諒のしょうもなさに呆れてしまった。私を頼って、次こそ通報されるとは思いもしなかったのだろうか。
「例の伝言は、伝えていただきましたか」
『もちろん伝えたわよ』
「諒は、なにか言っていましたか?」
『そうですか、だって。最後の命綱無くしたみたいにうなだれていたわ』
「……ありがとうございます」
『お安い御用よ。ああ、そうそう。高内に突き飛ばされて意識不明だった女性、二、三日前に意識を回復したそうなの。お陰で高内の罪も、そう大したものにはならないと思う。私も今からお見舞いに行こうと思うんだけど、特に後遺症も無いそうだし、近々退院できるって話よ』
 私は胸を撫で下ろす。良かった。いまさら諒がどんな罪を償うことになろうと私には関係が無い。最後に諒にされたことを考えれば、訴え出ないだけ感謝して欲しいというものだ。だがそれでも、やっぱり短くない時間を過ごした元恋人だから、というも思いはどこかにあったのだ。
 そして。
それじゃ良いお年を、と言って電話を切ろうとする笹目さんに、私は待ったをかけた。
「もしできれば、その方が入院している病院、教えていただけますか」
 無事に目が覚めたという、名前も知らない女性。初めて彼女に、会ってみたいと思った。


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