是々非々也

日々の出来事と出演情報など、雑然とお伝え致します。


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ついに怪し会 白、全公演、全日程終了致しました。

足をお運びいただきましたお客様、来訪出来なくとも気に留めていただいておられました皆様、ありがとうございました。

キャスト、スタッフの皆様、密蔵院の皆様、至らぬ私でしたが、共に走らせて頂き本当にありがとうございます。

今回、初日「鳥取の布団の話」宿屋の主人、「雪女」では茂作を演じさせて下さった事を心より感謝しております。


アンケートでも「鳥取の布団の話」を「良かった」と仰られておられましたお客様の声もあり、嬉しく思う次第です。

おかみさん役の藤東知夏さん、語りの石川ひとみさんの素敵な表現、お客、兄弟、出演者の皆様が生き生きとした躍動感や切なさ……皆様のおかげなのだとしみじみ感じます。

藤東さんの生活感と可愛げが絶妙にブレンドされたおかみさんは、特に素敵でした。

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(写真は藤東さんの許可済み掲載です。)


一つ一つが、もう一回演りたい!と願っても叶わぬ最初で最後のステージ、幾つになっても未成熟な自分に歯痒く思い、また様々な想いを胸に抱いて最終日まで走りました。

千秋楽は「鳥取の布団の話」でお客、「雪女」では引き続き茂作を演じました。

改めてご認識下さったお客様、応援や好意的なお声をかけて下さったお客様方のお気持ちを受け取るたびに、深い感謝と、これからまだまだ磨いていかないといけない自身の状態へ奮起するエネルギーを頂けました!


心からの感謝を全ての方々へ。
ありがとうございます。
これからもよろしくお願い致します。
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皆さま、明けましておめでとうございます。
旧年は大変お世話になりました。

昨年は脚本の執筆を幾つかと、YOMINOMI!第1回の出演、その他は裏方に回る年でした。

今年はまず2月に行われる、怪し会 白へ出演する予定です。
あくまで予定と言うのは、怪し会はプロとしての会。
相応しくない演技しか出来なければ、降板もありえる。
その事を胸に、真摯に向かいながら稽古を続けたいと考えております。

もう一つのお知らせとして、2年半お世話になりましたProduction Dayzeを12月にて退所致しました。

理由は僕の私的事情でございます。
色々と頂いた情、頼りにして下さった事に心から感謝をしております。
幻桃奇譚を執筆してからの長き時、ワクワクした時間、本当にありがとうございました。

今後の活動につきましてはまだ未定の所が大きいのですが、まずは怪し会 白の成功を心身引き締め精進する次第です。

今年もよろしくお願い致します。

岩田仁徳
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「しっかりしろよ! よく見ろ! あれはお前のお母さんか? 違うだろ! 」
我を失ったかぐやの表情に気付いた日生はかぐやの肩を握りしめた。

少なくとも観覧車で語っていたかぐやの表情は母親におびえる子供のそれでは無かった。
虚像が溢れる中、かぐやを求めるように現われたロアは人の五倍もあろう姿となっていた。緑はその巨体から日生とかぐやを庇うように位置した。
「あの記憶は母親がロアに壊された後のものだ。あるべき姿じゃない! 」
肩ごしに緑が日生を見た。日生は目線を合わせて頷く。
「その頃にロアは母親から浅上さんへ転移している。潜伏期間は長いが間違いない」
緑の言葉を聞きながら、日生はこの世界でかぐやが話した言葉の一つ一つを思い出した。
彼女の家族を壊した元凶がロアならば、絶対に許す事は出来ない。少しでもかぐやの力にならなければならない。
「思い出せ! お前の好きな花……そうだ、花の名前を教えてくれたのは誰だ? 」
「……おかあさん」
「つらい思い出ばかりじゃねぇだろ? 怒ったりしても、きっとお前を大切にしてた! こんな所でお前を傷つける訳がねぇ! 」
更なる語気に熱がこもった。言葉だけでは無く、日生の体から熱気が立ちのぼり始める。
かぐやを奪うようにロアが手を伸ばす。

壁となった緑が銃を連射した。それをものともしないように巨大な手は緑を弾き飛ばした。鈍い音をたてて緑が壁面に激突する。

緑の端正な顔に苦痛の跡が刻まれた。長い腕はかぐやを奪おうとすくいあげてきたが、日生がかぐやを抱きしめるように庇い、飛びずさる。

視線の端で緑を確認したが、ダメージの状況は読み取れなかった。だが、今やるべき事は一つだ。
「おかあさん…… 」
「思い出せよ、お前なら覚えてるはずだ! 」
日生の熱気が赤く染まり始める。その手はかぐやの肩をしっかりと支え、ロアから視線を離さなかった。宙を泳いでいたかぐやの瞳に僅かずつだが正気が戻り始めている。
「おかあさん……おはなのなまえ……すのう…どろっぷ 」
「かぐや、お母さんの言う事聞きなさい! 」
「おかあさん、あのおはなだいすきだって……かぐやもだいすきだって」
幾度かの瞬きの後、身震いをしたかぐやはゆっくりと正面を見た。

そして脈打つ日生の熱気に合わせるかのように大きく息を吸い込んだ。
「かぐや……一緒に死のう……かぐや! 」
「ちがう! 」
日生から伝わる熱は、ついにかぐやの奥底にある思いを呼び覚ました。
「おかあさんはおこったりもしたけど、かぐやのことだいすきだったもん ! くまさんをくれたのもおかあさん! あたしもおかあさんのこと、だいすきだったもん! 」
かぐやの言葉が響き渡った。拙く、決して大きな声ではなかったが、この空間の支配権を勝ち取るに相応しい意志の力がこもっていた。辺り一面のロアの表情が悲嘆の色に染まる。
「おかあさんじゃない! 」
ダメージが残りつつも、このタイミングを待ったように緑が体勢を整え、日生に合図を送る。
「日生! 」
「おう! いくぜェ! 」
日生はかぐやから僅かに離れると、長剣の切っ先を地面に向けて、強くすり合わせた。金属の悲鳴と共に火花が飛び散る。そのまま日生が切っ先で円を描き上段に剣を振り上げた。火花から生まれた竜の様に、炎が輝く刀身へと絡みつく。激しく燃える炎の揺らめきは、日生そのものであるように脈動する。
炎に飾られた刀身を日生は思いきり真っ向に振り下げた。灼熱の劫火が解き放たれ、空を走る。
「緑! 」
燃えさかる緋色の渦に、すかさず緑が弾丸を撃ち込む。目を細めて引き金を引くその姿は、あたかも念を込めるようにも見えた。
放たれた弾丸を芯に球状の空間が構成され、炎がそこへ吸い込まれてゆく……劫火の星と化したそれは、一面に散らばった鏡の破片も巻き上げ、塵と変えながらロアに迫って行く。
過大に負担がかかるため不用意に使えないが、限定的に物理法則を支配し、特性として日生は炎、緑は重力を操る……その力の複合、これこそが彼らの奥の手だった。
「食らいやがれ! 」
日生が叫ぶ。緑の弾丸が変質したのは超極小かつ超高圧の重力場であり、日生の放った炎を加速させて熱核エネルギーとした、言わば太陽の一撃だった。

灰色の影が震え、蒸発するように焦される。
「ぐわぁあ……アアアアアアア……AAAAAAA……HIAAAA! 」
かぐやの否定により、かぐや自身から完全に隔離されたロアは絶叫と共に、浄化の太陽の力で消滅した。影の残滓すらそこには無かった。
突如、深い振動が辺りを揺らした。衝撃と眩い閃光に耐える為、三人は地面へと伏せた。轟音と共に、空間が弾けた。

彼方まで飛ばされたように思える程遠い感覚の後、何処までも続く青空が優しく彼らを迎えていた。埋め尽くすように広がった小さく白い花々が優しく揺れている。肌を撫でる冬の風が、冷たくも生きている心地を思い出させてくれるようだ。
「……終わったか? 」
日生がそう呟く。緑は一面の花を無言で見ていた。
「そうだ、浅上!? 」
日生は幼いかぐやの姿を探した。少し先でかぐやがぽつんと下を向いている事を見つけた。かぐやに近付きその足下を見る。

白く美しい花々の生み出した天然のベッドのように象られたその場所には眠り続ける今の浅上かぐやが横たわっていた。
「浅上!? 」
その声に幼いかぐやが日生を見上げた。
「ありがとう」
そう一言、眩しい程の笑顔で言い、日生にぎゅうっと抱きついた。満面の笑みが少しずつ透明になってゆく。やがてその幼い姿は夢幻の如く、すべてが消えた。
「スノードロップか…… 」
後ろからゆっくりと現れ、緑が呟いた。
「希望……確かに彼女を救うには似合いの花かも知れないな」
柔らかい香りに包まれた花のゆりかごで眠るかぐやはいつ目覚めてもおかしく無い様子だった。もう夢の中の眠り姫を待つ必要を日生は感じなかった。
「緑、行こうぜ」
「確認しなくてもいいのか? 」
「ああ、約束したからな」
日生の確信に満ちた表情を見て、緑は頷いた。

 

 

 

黎明がかぐやの顔を照らす。
生きとし生けるものが光から生命を育まれるように、その肌に血の気が回復してゆく。
月に照らされた彼女はその名の通りに美しかったが、息吹く姿は更に輝きを放ち始めた。
瞼の端から涙が流れる……長い夢を見ていた。だが、もう悪夢を見る事は無いだろう……重荷となっていた翳り……その存在は覚えているが、それにより心を苦しめる事は無かった。
きっと今なら、全てを受け入れる事が出来る……。
しばらくの時を経て、僅かに瞼が震えその瞳が開かれた。
視界には彼女を一心に見つめる少年の瞳があった。なんと眩しい瞳だろうか。夢の中で何度も励ましてくれた、強い……とても力強い支えだった。この少年と話したい事がたくさんある……
そしてかぐやは微笑みながら、少し照れくさそうに言った。
「おはよう、相沢」
青空を隠す雲は過ぎ去り、澄んだ光が降り注いでいる。冬が終わりを告げるのも、もう間近だった。

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「ビンゴ! 」
一面鏡張りとなった部屋にたたずむロアの姿があった。二人を……いや、かぐやの姿を待ち構えたようにその無機質な顔を上げた。
「来な、こいつが欲しけりゃ俺を倒してみろよ」
悪党のような台詞で日生は挑発する。
それに応じるようにヒステリックな空気を放ち、ロアが日生に襲いかかった。
日生から攻めた場合、かぐやを守るという点で圧倒的不利に立たされる。
そうした意味で日生にターゲットをしぼってくれた方が遥かに都合がいい。
日生の台詞は彼にしては計画的であり、功を奏していた。
無尽に迫るナイフを日生は剣で受け流す。
距離は相手のものだが、防戦に集中する日生は神経をそれだけに定め戦う。
上下、左右と繰り返し繰り出される白刃はコンパクトに構えた日生を傷つける事が出来ない。
らちのあかない攻撃にロアが大振りの構えに切り替えた瞬間、日生の右前蹴りが放たれ、左下から長剣の斬り上げがコンビネーションとして続いた。
切っ先が体勢を崩したロアの左肩をとらえる。
ダメージを受けたロアが左肩を押さえて後ずさった。
日生は剣の柄を握り直し、ロアの次なるアクションを待った。
まだ一気呵成に攻める時ではないと考えているようだ。
後方でかぐやも拳に力を入れて食い入るように二人を見ている。
自分が邪魔になってはいけない、そう思ったかぐやはふと首を傾げた。
「まえにもこんなふうに…… 」
既視感が彼女の中に満ちた。何だろう……あの時にも自分よりも大きく感じた背中が懸命に守ってくれていた……かぐやは不思議な気分でならなかった。
日生は切っ先をロアに向けて揺らした。
無言だが、かかって来いといわんばかりのアピールだ。
ロアはナイフを増やし両手から放った。曲線を描き、六つの刃が同時に日生を襲う。
日生は避ける気配がなかった。否、避けるのでは無く跳躍し、自らナイフに飛び込んだ。長剣で進路上の二本を叩き落とし、前転受け身から立ち上がり様にダッシュすると、ロアのコートに刃を突き入れた。背後で日生を捉えきれなかったナイフが鏡の壁にぶつかり、甲高く冷たい音を奏でた。
日生は手応えが無い事に違和感は持たなかった。
もう同じ手は食わない。速やかにかぐやを守るため移動する。
「! 」
「わっ! 」
地震と錯覚する程に部屋が大きく揺れ始めた。
かぐやは日生に駆け寄り日生はかぐやをかばいながらロアの姿を探した。室内の構造が大きく変わり始めている。
せり上がった無数の壁で鏡合わせの部屋となり、距離感を奪った。
映るロアの姿もどれが本体なのか判別がつかない。
「ヤな感じだよな」
お馴染みのゆらゆらとした動きで日生たちを幻惑しようとしているようだ。
浮き出るように日生の右からロアが飛び出した。
即座に反応した日生は剣を返すように斬りつけた。
耳に響く透明な音と共にガラスの破片が日生の頬を傷つけた。
「! 」
かぐやを傷つけないように日生は覆いかぶさる。
これでは不用意に動けない。しかし、このまま伏せている訳にもいかない。
「危ねぇからしっかり伏せてろよ」
かぐやはそのままに日生が立ち上がった。カーブを描くナイフが連続で飛び出してくる。その軌道の出所は一定でなく、どこから放たれているのか見当も付かない。
その悪条件の中、日生は飛びかう刃を剣の腹側に当てて落としてゆく。ナイフは音をたてて転がるが、瞬時に形を消した。さっきの鏡の破損で、幸い剣を振り回すスペースだけは確保出来ている。休む間もなく次々と日生をナイフが襲った。
飛んできては叩き落とし、時にのけぞりながらかわす。
かぐやだけは傷つけないように細心の注意を払う。だが、叩き落としたナイフがかぐやの髪の毛の一片を切ったその時、一瞬だけ日生の集中が切れた。
「ぐっ! 」
日生の左肩に凶刃が突き刺さった。続く刃が日生の手足を傷つけてゆく。
声無き笑いが日生の目に映った。
獲物を仕留めようと狙いを定めるロアの姿は、勝利を確信していた。



「伏せろ、日生! 」
その声と共に日生は倒れるように前屈みになった。
胸の下でかぐやが息をのむ様子が分かった。
厚いガラスを叩き割ったような高く重い音がこの場を支配した。
永久凍土の氷を砕く音であればこれ程の厚みを持つかも知れなかった。
その後には連続した炸裂音と共に冷たく乾いた音が響く。ガラスを踏み砕く音がゆっくりと近付いた時に日生は顔を上げた。
「おせェ! 」
「済まない。少し手間どってね」
安堵まじりの悪態に緑はいつもの笑みで答え、日生に手を差し伸べた。
「さぁ日生、今度こそ終わらせよう」
「ったりめーだろ」
傷つけど、立ち上がった日生の気力はフルチャージされていた。
相棒の登場は想像以上に心強かったようだ。
日生は傷つけないようにかぐやに付いた破片を叩き落とした。
膝をつき姿勢を低くすると、かぐやと目線を合わせた。
「おい、もう少しだけ頑張れるか? 」
「うん!  おにいちゃん!  あれ、こっちのおにいちゃんは? 」
かぐやは驚いたように長身の緑を見上げた。緑がにこりと微笑む。
「ああ? 緑か? 俺のダチだよ」
「だち?  おともだちのこと?  いいなぁ、おにいちゃん。おともだちがいて」
かぐやは小さなため息まじりに言った。
「何言ってんだ」
「あたしね、おともだちいないの」
「バカ、何言ってやがる! 俺たちはお前のダチなんだよ! 」
日生は半ば怒鳴るように言った。
「ほんと! おともだち? 」
真ん丸とした目に、奥底から喜びが溢れた。日生の手を握る手に力がこめられる。
「嘘ついたってしょうがねぇだろ」
「やったー! 」
その姿を見た緑は日生に耳打ちするように言った。
「日生、彼女の記憶は見た目そのままか? 」
「ああ、多分な」
「成る程。これで確定だな」
合点したように緑は呟いた。
かぐやの記憶ではこの頃には友人はほとんどおらず、母の後輩である女性だけが遊び相手だった。そして、その頃に起こった悲劇……そしてその年頃のかぐやに固執するとしたら……。
「何だよ」
「彼女の……! 」
緑が言いかけた瞬間、日生と緑の顔すれすれをナイフが通過した。
二人は背中合わせに構えた。
「あっぶねぇ! 」
辺り一面にまき散らされた鏡の破片全てにロアの顔が映し出される。
それらは皆、かぐやを凝視していた。
「……Kaaaーグゥーやぁー」
嗚咽まじりに割れた声が響き渡る。かぐやはその声に身震いした。
日生がかぐやの両肩に手を置いた。その力強さにかぐやはしっかりと背筋を伸ばす。
「かぐや…… 」
頼りない女性の声が響いた。
声はかぐやの心の中にフラッシュバックの映像を呼び起こす。
同調する日生たちにもその映像は投射された。
「戻ってきて、かぐや。お母さん、もうおこらないから」
放心したように、うつろな目でかぐやを招く母……
「かぐや……どこにいるの? 」
ヒステリックな衝動から一時的に視力を失った母……。
「逸美の所? あの女、自分が子供を産めないものだから、かぐやを盗ろうっていうのね! 」
ありもしない妄想に取り憑かれて狂ったように叫ぶ母……。
「ああ、逸美、あんたが悪いのよ、かぐやを返さないから…… 」
血を流し倒れる逸美の影から現れ、血塗られたナイフを手にした母……。
「おかえり、かぐや。かぐやをさらおうとした悪い人はおかあさんがやっつけたからね……心配しないで…… 」
壊れた笑顔で、ナイフを握りしまたまま、かぐやを抱きしめようとする母……。
「かぐや……どうして逃げるの? 待ちなさい! 」
裏切られた絶望の表情で、鬼気迫るよう追って来る母……。
どれも全て恐ろしい母の幻……。
「おかあさん」
かぐやは震えながら声に出した。
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トロッコが古城を走り抜け、出口へ辿り着いた。
日生はかぐやに手を伸ばしてトロッコから抱え降ろした。
背負ったリュックから顔を出したぬいぐるみが礼をおじぎをするように動いた。
「くまちゃんもおにいちゃんにありがとうっていってるみたい! 」
それに気付いたかぐやが嬉しそうに言った。
日生がそれに答えようとした瞬間、ゲートが崩れ落ちてきた。
かぐやに覆いかぶさるように日生が庇う。出口は形を残さず崩壊した。
幸い、日生もかぐやも怪我をした様子は無かったが、微生物が増殖するような勢いで頭上の青空を濃い灰色の雲が侵食してゆく。二人の顔に雨粒が当たり始めた。
日生はかぐやの手を引き、手近にあった迷路屋敷の軒先に避難した。
瞬く間に雨足は早くなり、先も見えない豪雨となった。
軒先にいても濡れそぼってしまいそうだ。
風はないが進めそうも無い豪雨、このままではかぐやも疲労しかねない。
だが、背後にあるのは迷路屋敷……いくら日生とはいえ、罠の匂いに気付かない筈が無い。だがおそらくこの雨がやむ事は無いだろう……ロアを倒さない限り。
「なぁ」
「なぁに」
「多分、あの灰色のヤツが中にいる、ヤツをどうにかしないと、この雨も、さっきみたいな嫌な事も全部終わらないかも知れない…… 」
「いくよ」
日生がすべてを言い終える前にかぐやは即答した。
大きな瞳が日生をまっすぐに見つめている。
日生の言わんとした事をしっかりと理解している眼差しだった。
「おにいちゃんがさっきいってた。やらなきゃって。こわくなんかないよ、おにいちゃんがいるもん! 」
日生は改めてその信頼を真っ向から受け止める責任と対峙した。
今までロアとの遭遇や駆逐において、一人でここまでの責任を背負った事は無かった。いつも緑がサポートし、むしろ責任の部分は彼が負担してくれていたのだ。今も夢中でかぐやを守り続けていたが、むしろ自分の勢いで守った事に過ぎない。
かぐや自身が危険に向かい、それを伴い助ける……即ち彼女自身を失わせない事。その責任の重荷が双肩にのしかかる。
緑は必ず現れると信じている。だが、この瞬間ここにいるのは己のみ。日生はかぐやが言った今の言葉と、自分自身が言った言葉を反すうした。
「そうだ。やらなきゃな」
拳に力がみなぎる。何故だろうか。いつも面倒な事は緑頼み、そう思っていた。今ここでかぐやを本当に守り抜く……それは誰でもない、自分自身が果たすべき事だと自覚していた。
「行くぞ。一緒にあいつをぶっ飛ばそうぜ」
「うん! 」
若き騎士と幼い姫君は勇ましく戦地へと向かった。





迷路屋敷の中を、柔らかな光のランプと所々に配置された蝋燭が薄暗く照らしていた。ホールには古めかしい肖像画が置かれ、二人を見下ろしている。
外国の貴婦人の姿だったが、どことなく面差しがかぐやと似通っていた。
日生はかぐやの前に立ち、盾になるよう歩く。一方、かぐやは日生が差し出した左手を掴んでいた。
正面には二階に向かう階段と奥に通じる通路がある。
左右にも通路が設けられ、道の選択肢は四通りだ。既に入り込んだ時点でロアの気配が充満し、どこで待ち構えていてもおかしくない様子だった。
まずは真っすぐに歩いてみよう。そう決めた日生は歩き出した。
屋敷の中を二人の歩く音と、雨が窓を叩く音、そして遠雷が響いている。
それらは無理な雰囲気づくりのBGMが流れるより、嫌が応にも緊張感を高めた。
「おにいちゃん」
かぐやがひそひそ話のように小さな声でたずねた。
「何だよ」
「あのひと、どうしてかぐやをさらったの? 」
日生は面食らった。
正直、「それは俺が聞きたいって。ホントはお前が知ってる筈なんだけどな」と考えたが、かぐや自身が本気で分からない様子では、さすが返答に困った。
日生なりにかぐやの記憶を覚ますように促してみる。
「何でだろうな。お前をさらいたいくらいに大事に思ってるとか……逆にもの凄く恨んでるとか……多分いろいろあるんだろ? 」
「わかんない」
「じゃあ、他なら……お前、恐いものって何がある? 」
そう言われたかぐやはしっかりと考えた。思い出す途中に顔をしかめたりしながら、真剣に回答を探した。
「うーん……おばけ!  それとね、ごきぶり、それとね、おかあさん。ないしょだよ」
「ああ」
当てが外れたように日生は生返事をした。
「やくそくだよ。ばれたらおかあさんにおこられちゃうから」
かぐやは念を押す。よほど母に怒られるのが恐いらしい。
母親?と日生の中で疑問符が浮かんだ。母親は離婚してもういない……何か関係があるような気がしてならない。それにあのロアの体はやけに華奢だった。
かなり細身の男か女……。
「おにいちゃん、どうしたの? 」
「あ?  何でもねぇ。どうしてそんなにお母さんが恐いんだ? 」
「すごーいこわいかおしておこるの。かぐやだめでしょ!って」
かぐやは母親の形相の真似をしながら言った。だが、それだけが理由と日生は思わなかった。日生の中で仮説だがロアの正体が組み上がり始めた。
だが結論付けるには決定打が足りない。あくまでも仮説として自身の中に留める事とした。
十字路が現れ次は右、次の分岐では左、直進とパターンを変えてみたがどうも同じ場所を回り続けているようにも感じる。日生は僅かに唇を噛む。
やがてT字路で、向かいの壁側に扉が幾つも並んでいる廊下に出た。日生は一つの賭けにでた。ロアがこの場所を指定したのは選択肢を多様にする事で消耗させようとしているのでは無いだろうか。ならば、相手が欲しているかぐやに選択をさせたら……。
「おい、どの部屋がいい? 」
「えーとね、あっちのおくからにばんめ」
と左側を指した。日生はかぐやとその部屋の前にゆき、かぐやへたずねた。
「この部屋、選んだ理由は? 」
「かぐやのおうちみたいだったから」
その答えを聞いて、日生は迷わずにドアに手をかけた。力強く開け放ち部屋へと飛び込み剣を構える。かぐやも続いて部屋へ入った。
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